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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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58話 12人の円卓の騎士

「王妃様、先ほどはすみません」


「妾たちはお主たちの緊急事態にはいくらでも対応するのだから、こき使ってもらって構わないのだよ? さて賢者殿、この者たちをどうするかえ?」


再度王城に次元扉を開き、史上初、歩きながら地球の裏との会議を開始した。ユリカは次元扉を手の少し先に開いて保持しているが、歩いていても一緒に移動するので動きを止めずにいられるのだ。この7人は太陽王を狙う暗殺者のはずだから、俺が太陽王であることは伏せたままだ。捕縛された7人は近衛兵長のアザゼルによって全員とも縄がかけられていた。まずは起きた状況を報告していく必要がある。緊急事態に駆けつけてきたシルベスタ先王とシスカ王も、魔龍の正体が人間だったと聞いて顔を(しか)めている。あまりにも醜い事実に、俺たちも辟易していた。


「エスタはもう人間には戻れないように思えました。自我は崩壊していて意思の疎通ができません。強力な詠唱で攻撃すると、適わないと感じたのか痛手を負いながらも成層圏へ逃亡しました。ここから先は彼が出没すると大変な災害となります」


「申し訳ありません・・・11年前のことについても懺悔します」


俺の説明にエスバンは反省の色を隠さず、以前に発生した魔龍事件についての事実を語り始めた。


「最初の魔龍は、私の弟エインズです。エスタと同じように誤って邪な心を持ちながら虹色水晶を持ったために、取り込みが始まってしまいましたが自我はなんとか保っていました。私たち2人は当時、妻を人質に取られていて命令どおりにしなければ妻を殺すと脅されていました」


エスバンは床を見つめながら、小さな、しかしはっきりした声で呟いていく。


「だけれども、あんなことになるなんて知らされていなかったんです。私たちは虹色水晶を動物に仕込むだけで作業は終わるはずだったのに、誤って魔龍となってしまったことを報告すると、敵が現れるから倒せという命令が私にもたらされました。もう私たちは死んだことになっているのなら話してもいいですね。命令の主はコーエン=ユウチ、現在は宰相をやっているコーエンです。その後ろには風王家の長男がいます」


宰相と風王家の話は予想通りだ。だがここまでエルメスという単語が何なのかが分からないままだ。


「戦いが始まるとエインズの自我は崩壊し始めました。しかし彼の中では崩壊する自我と戦い続ける彼の心があったようです。最後の瞬間、彼は時空加護を使って6人の騎士たちを異次元へ弾き飛ばしてそれ以上傷つけないようにし、直後に自分の核を自分でもぎ取ったのです。後に残されたのは砂のように体が崩壊しはじめていたエインズと、あの30キロの虹色水晶です。エインズは私に、彼の妻と娘の面倒を見るように頼み、絶命しました」


そこまで話して、エスバンは足が痛くなったのかあぐらに座りなおす。もう涙も枯れているという疲れきった顔で相変わらず俯いている。エスバン以外の者も初めて耳にする話なのか、口を挟まずにエスバンの背中を見つめながら聞いていた。


「エインズの妻は精神的に弱く、夫が死んだことを聞いて病気にかかり、追いかけるように亡くなりました。その時預かった娘がエルメスと言う名前で、エスタが口にしていたのはその子の名前です。私たちの娘として育てたのですがエスタが一番可愛がっていました。今回はそのエルメスが人質に取られたのです。エスタは憤慨しましたが、人質に取られていては何もできず、結局命令を聞くしかなかったのです。エスタは義理の妹、エルメスを愛してしまったのです。だからあんな無謀なことを・・・」


悲しいことに、エスタは義妹(いもうと)への愛のために戦っていたのだ。だからこそ適正試験で加護を得られたのだろう。俺たちは彼を見くびりすぎていたかもしれない。憎むべきはその人質を取った者で、エスタではない。彼らも悲しい現実と戦い続けており、双方に悲劇が訪れ、双方が何かと戦っていたのだ。勝者と思っている者も失ったものは返ってこない。争いというのは常に、本当の勝者のいない虚しいものなのだ。


「なるほど、その辺の状況は分かった。ではいくつか質問させていただこう」


シルベスタ先王は髭をなぞりながら、完全に観念しているエスバンに、今の話の中だけでは分からなかったことを聞いていく。


「引退寸前の風王ウインタ=ダブスは、このことを知らないのだな?」


「はい。風王家長男、ウイングとヤマタイ国主、それからコーエン=ユウチの3人の共謀です。ウインタ風王は関与していませんし、もう健康が優れないのでずっと病床に臥せっているはずです」


「その3人は共謀して何をしようとしている?」


「私には分かりません。火星で何かしていることだけは知っていますが、それ以上のことは分からないのです。私は末端の実行者でしかなく、太陽王を暗殺することなど考えられないと言ったら人質を取られてしまったぐらいですから。ただ時々、人類の為になどとコーエンが言っていました」


「ふむ。エルメスという娘はどこに人質に取られている?」


「エスタは何度かそれを探ろうとしましたが、一向に分かりませんでした。おそらく火星にある組織の、どこかの建物の中なのではないかと私は考えています。分かっていればおそらく、エスタはそこへ突っ込んでいったでしょう」


「お前達の組織はどのような構成なのか?」


「私が知る限りでは、隠密が大量にいるということだけで、ほとんどの面子は会ったことがありませんから、何人いるのかも分かりません。火星の上層部はもしかしたら全員かもしれないですが、市長と副市長は組織の一員だということは分かっています」


「組織名はあるのか?」


「赤い火星、という名前です」


おいおい、エスタは騎士団の名前を陰謀組織の名前から取っていたのか? いやもしかしたらそれは、エスタの悲鳴だったのかもしれない。誰か気づいてくれという悲鳴だ。


「赤い火星では人間に対して遺伝子操作をしているのか?」


「はい、その通りです。選ばれた者は強靭な体を得る、という思想のもとに、火星では極秘に20年前から遺伝子操作が上層部に対して行われています。私にも、エインズにも、エスタにも施されたことです」


「そこの6人はお前が雇ったのか?」


「はいそうです。私が給与を支払っていました」


「今でも太陽王を殺したいと思うかね?」


「いやです。もうそんなことに手を染めたくはありません。ただ、エルメスのことが心配で・・・」


エスバンの言葉に、他の6人も頷いている。彼らも嫌々やっていたのだ。


「エルメスという娘はこちらでなんとかしよう。あとでもう少し詳しく教えてくれ」


「は、本当ですか! ありがとうございます!」


「ふむ、だいたい分かった。では司法取引をしよう。太陽王のために身分を隠して一生監獄の中で働くならば罪が軽くなる、と言ったらどうするか? それでも死刑が無期懲役に変わるだけだがの。ただし苦しいぞ? 死刑なら苦しいのは一瞬じゃが、無期なら一生を獄中で暮らすのじゃ。それにお主らはもう戸籍が無い。死んだことになっているから家族にも二度と会うことはできん」


爺様の言葉に、7人が一斉に顔を上げる。そんな取引が許されるというのか、という驚きの顔だ。


「もし、お許しいただけるのなら、私は太陽王のために」


「そんなことが可能なら、俺も是非、監獄の中からでもいいから太陽王に仕えたい!」


「自分もだ!」


7人とも死刑を覚悟していたのだろう。口々にその提案に乗る。むしろその方が死刑より苦しいというのに、7人とも太陽王への忠誠だけは消えていなかったようだ。


「ということなのじゃが、どうじゃろう。第3代太陽王、カケル=ラー=ヤマト様?」


「あっ、ここでばらすんですか!?」


ニヤリと笑う爺様に俺は苦笑を返す。7人が爺様から俺の方へ顔を移すと、目が点のようになっている。あれだけ探した太陽王がこんなところにいたのだから、彼らは情報戦の負けを素直に認めるしかなかっただろう。


「・・・心意気は見事。爺様、しばらく監獄で反省してもらった後、隠密団でしごくのはいかがでしょうか」


「それもつらいじゃろうな。お主ら、太陽王のために命を投げ出す覚悟はあるか? 長い年月、隠密に相応しい行動が取れるようになるためには、つらい修行をしてもらうことになる。おそらく懲役刑よりきついじゃろうがやるかね? さらに隠密として働けるようになっても、死亡率はそこらの騎士以上じゃぞ。修行中に死ぬこともあるじゃろうな」


「やります!」 「やらせてください!」


そうして7人は俺に頭を下げていた。隠密たちに監獄へ連れて行かれる彼らは、これから監獄に入る囚人にはとても見えないほど顔が晴れやかだった。彼らは途中の道のりを間違えてはいたが、やっと自分自身の使命を見つけたのだ。


「ちょっと甘かったかな?」


「いや、むしろ厳しいんじゃない? いいと思うよ」


木星華之団は全員が俺の裁定に納得していた。なんだか司法もクソもなかった裁定で、俺が裁判長のようなものじゃないか。安易に死刑と宣告するより、敵だった者を味方へ引き入れるのはよほど冒険なことだ。だがこれでいいのだ。親父の仇はこれで一つ討ったと同じなのだ。残りはどうやら、あと3人、いや火星市長を入れると4人だ。





「これで敵ははっきりした。さてこれからのわしらの行動をどうするかじゃが」


「エルメスについては問題ないでしょう。人質の効果がある者は死亡してしまったことになっているのですからすぐに解放されるはず。ただ、若い娘ならば生活力の問題があるので後見人が必要ですね」


「ではエルメスは火星のエスバン家へ解放されたら、そこから連れてくることにしよう。しばらく王城で侍従として働いてもらうかね。行方が分からなくなった、という風に連れてこないと赤い火星が勘付くだろうさ」


「もしかしたらエスタを止めるための鍵になるかもしれませんよ~。エスタの自我を取り戻すための鍵です。必ず保護する必要がありますね~」


「エスタが回復してきたあと、どこかの街を襲ったりすることが出てくるかもしれないべ。したらすぐに警報を打ち出せるように風伝社には協力体制を仰ぐべきだべ」


「次にエスタが現れたら、動きを止めるための小型障壁を体のあちこちに備え付けて、カケルの百之光矢で射抜いてもらうしかないねえ。小型障壁の練習をしておこうか」


皆、活発に意見を交換している。俺はただ皆の発言を聞いているだけだ。俺が何か言わなくてもちゃんと議論は進行し、結論まで出てくるのだ。


「問題は一斉逮捕の時期ね」 「いつなら良い?」 「彼らが一度に集まる日は?」


「御前加護戦で3人とも集まらないかしらねえ?」


「む? そういえば毎年火星市長は来るはずだべ?」


「失礼ながらお言葉を挟ませていただきます。ヤマタイ国主も参ります」


「あ、そうなのね。隠密さんありがとう。じゃあその日に首謀者の3人と火星市長がウルに集まるのね。そこで一気に?」


「やりましょうか。それでいいよねカケル?」


俺は全員が議論をしきったところで、皆の顔を一人一人見ながら頷いていく。この12人の騎士たちは別に俺の部下じゃない、仲間だ。ここには議長などおらず、円卓会議と同様なのだ。その円卓の騎士たちが出した結論に異論などなかった。


親父は俺が太陽王だということに気づいていて、俺のために彼らを排除しようとしたのだ。だが卑劣な手段を使った彼らによって志半ばにして斃れた。やっとこれで、親父がやろうとしていたことを成し遂げられる。だが最後まで油断は禁物だ。


会議用の次元扉を閉じて、北北西へ向かう。襲い掛かってくる魔獣は少なかったが、海に近づくにつれて5キロ級の魔獣がやや多くなってきたせいかしばらく戦闘が続いた。それでもてこずるようなことはなく、いつの間にか俺たちがこの冒険で得た虹色水晶は、遺跡で手に入れたものも含めて、すでに合計150キロは超えていた。あ、そういえばシスカ王たちに遺跡のことを言うのをすっかり忘れていたな。


太陽王と12人の円卓の騎士に対峙することのできる敵は、もはやあの魔龍と、惑星規模の異変のみだった。



第二章もまもなくクライマックスです。

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