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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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55話 古代の光

そこには、全身が黄金に輝く大きな鳥がいた。アボリグ大陸にいる飛べない鳥エミュルスと同じくらいの大きさだが、見事な羽はこの鳥が空を飛ぶことができることを表していた。俺たちはそのまばゆさに驚き、一言も発することができずに扉を開いたあと部屋の中へ入れないでいた。


よく見ると、向こう側が透けて見える。つまりこの鳥は実体ではなく、加護流でできている。こんな現象は見たことが無いが、加護流自体が意思を持っているようなのだ。その鳥の体から加護流の小さな粒が離れては戻り、また炎のように揺らめいては元の形へと戻っている。


鳥はじっとこちらを見て、何やら俺たちのことを観察しているようだったが、こちらへ攻撃する意図はまったく感じない。鳥が(うずくま)る向こう側に気づいたユリカが叫んで俺たちもやっとそれを視界の中に把握した。


「ねえあれ、虹色水晶よ!」


「ほ、本当だべ! でかいな!」


重さにするとおそらく100キロは軽く超えているであろう虹色水晶がそこに鎮座している。もしかしたらそれ以上かもしれない。天然の虹色水晶とは違い、知識の泉のように精密な立方体のようだ。明らかに人の手によって加工された物だ。


“太陽王?”


頭の中で声がした。いや、声ではなく概念が伝わってくる感じだ。おそらく、この鳥が発しているものなのだ。風伝の上位加護だろうか? だが直接脳内に響くように伝える風の詠唱は存在しない。これは、未知の詠唱だ。


「ああ、俺は太陽王だ。あなたは?」


同じように意思の伝達ができない俺たちは、言葉を発するようにしかできないので仕方なく声で意思疎通をはかる。他のみんなは黙って俺と鳥とのやりとりを聞いている。みんなにも頭の中の声は届いているようで、鳥からの問いかけがあった瞬間に驚いて身じろぎしていたからそれが分かる。


“太陽王、力、見せて”


鳥は立ち上がって羽を広げて見せ、俺に太陽王としての力の証明を求めた。5色の光を証明しなければ、その先を言わないのだろう。


「ああ、これでどうだ?」


鳥が促すままに俺は壁画に描かれていたように右手を頭の上へ掲げ、まったく同じように5色の光球を生み出す。





“ずっと、待って、長い間、いた、私は、巫女”


俺の力を見て、鳥はやっと答えてくれた。どうやら俺をずっと待っていたようだ。


「巫女? 鳥の姿をしているようだが」


“肉体、12000年前、失った、これ、魂”


「魂だけで存在できるのか。やはり古代に何かがあったんだな? それにしても12000年前とは。何があったんだ?」


“火山、2つ、一緒に噴火、3年で氷の世界、文明、地球から、逃げた、それから、太陽王を待つ”


「火山の噴火か。12000年前と言えばアソの南のサクラノ山だな。それとは別の火山も噴火していたのか。でもどうして俺を待っていたんだ?」


“次の、災厄、また滅亡、再来年、12月、海のそば、すべて消える、私、太陽王、伝える役”


「それは大いなる災いのことを言っているんだな!? 再来年の12月か、あと2年半だな。こちらでもそれは予知できていて、なんとか準備しなければと考えている。ありがとう、時期がしっかりと分かった」


“太陽王、会えて嬉しい、私、疲れた、長い時、ずっと一人、これで行ける”


「行く? どこへ行くんだ!?」


“他の巫女、会いに行け、別の伝言、あと4人、これで、私の役、終わり、さようなら、太陽王、ありがとう、ありがとう・・・”


「ま、待ってくれ! 君たちの文明はどこへ避難したんだ!?・・・ああ、もう行ってしまうのか・・・ありがとう、古の巫女」


巫女は大きくその羽を羽ばたかせて嬉しそうに消えていく。そこにいた全員が、悲しみに暮れていた。たった一人でずっとこの山、いや遺跡の中で12000年も待ち続けた巫女がいた。


ただ、自分たちの滅亡の事実と未来の災厄を俺に伝えるためだけに。おそらく生きたままここに閉じ込められたのだろう。いつか必ず次の太陽王が自分の加護流を見つけて、ここに現れると信じて。


体が朽ち、砂のようになっても、ずっと待ち続けたのだ。そのけなげな姿に俺は感謝の涙を向けていた。俺以外の5人も彼女の過酷な運命を想い、ともに泣いていた。


「・・・たった一人で・・・私にはできないよここまでは・・・強い人ね・・・」


「ああ、強いな。おかげで助かった。これだけでも相当助かる、重要な情報だ」





部屋の中は彼女の魂が消えてからはまた暗くなっていて、クマソが照らす灯火で奥の虹色水晶がわずかに反射して光って見える。


「よし、中を調べよう。その前にアル、風伝で野営地へ」


「む、そうだな。おーい、ここには古代の巫女の魂がいた。災厄の情報を俺たちに伝えるとすぐに消えてしまったが12000年前の文明が滅んだときから待っていたみたいだ。これから部屋の中を調べたらすぐに戻る。あと、おそらく100キロ以上の虹色水晶があった」


「魂が!? 12000年!? ひゃ、100キロぉ!?」


イリスが予想外の事態に驚いているようだが、詳しいことはあとだ。それにしても、この虹色水晶は持って返っていいのだろうか? あとで決議しなければ。


さきほどまで巫女が蹲っていたところには、巫女が生きている間に身につけていたのであろう装飾品が転がっていた。金の腕輪に虹色水晶の欠片が埋め込まれている。細腕の女性だったのだろう、おそらく俺がつけたところで腕に入らない。


「ユリカ、これは彼女のためにも、もらっておいたらどうだ?」


「そうね、彼女の魂に報いるために。ずっと忘れずに、一緒にいるよ」


ユリカがその腕輪を身に着けると、うっすらと加護の風があたりに舞う。先ほどの巫女の魂を構成していた加護流が、その腕輪の中へ吸い込まれたのだ。まるで一緒にいるよ、というユリカの声に反応したかのように。


「他にも4人、別の場所に彼女と同じ運命の巫女がいるようだべ。早く見つけて魂を開放してやらなきゃならんが、何にしろどこにいるのか分からんべ」


クマソがさきほど巫女の言っていた内容から推察できることを確認のために言ったが、そういえば他の遺跡がある場所を聞いていなかった。





「それはこれじゃないか? ここに世界地図が彫り込まれているぞ」


アルが指差す虹色水晶のすぐ手元に、幅2メートル、奥行き1メートルほどの机があり、机の上面にはその全てを使って世界地図が掘り込まれていた。


「アトラタス中央に四角錐があるな。形から見てもここのことだろう。もう一つは北アズダカだ。・・・あと3つが無いぞ」


「次は北アズダカに行けということなんだろうね。大いなる災いのさらに詳細な情報が得られるかもしれないよ?」


ゼルイドは地図上に2つしか四角錐が無いことに気づいたが、その意味をアイカルが答えた。


「ねえみんな、この地図ってなんかおかしくない?」


ユリカが地図の異変に気づいた。地平線の形がだいぶ違う。


「これだけの地図を作れたということはおそらく精密な測量技術も持っていたんだろうが、地形がちょっと違うな。どういうことだろう」


「わずか12000年程度でこんなに地形が変わることはないはずだ。ヤマタイ諸島なんてヤルーシアと地続きじゃないか。さすがに地図に書き込むのだからヤマタイについても分かっていたのだろうから、こんな地続きなんぞあり得ない」


俺が感じた疑問にゼルイドが答える。誰か古代地理に詳しい者は・・・いないか。


「一度戻ってみんなともう一度ここに来て、議論してみるしかないな」


「あ、じゃあ私が野営地に次元扉を開くから、みんなをここに連れてこよう」


「「あっ、そうか」」


そういえば、次元扉でどうとでもできるんだった。その力はあまりに反則技すぎてそういう考えには至らなかった。





「うわ~、ほんとに100キロはあるわね~。地図はね、多分海水面が低い状態だよ~」


「分かるのか? ミュー」


「うん、私が覚えてる海洋地図の、海面下200メートル等高線とほとんど同じよ~」


「なるほど」


ユリカが次元扉を野営地へつないだら、イリスがびくっと飛び上がって驚いていたが「心臓に悪いよ」と言いながらも俺たちが無事に帰ってきたことを喜んでくれた。見張りから戻ってきたミューが地図を見て答えを導き出した。


「つまり、・・・えっと、どういうこと?」


「今より寒かったってことでしょ。巫女の話をまとめると、2つの火山が噴火したことで地球が寒冷化して、海面が急激に下がっちゃったんじゃない~?」


「そうか、この地図は災厄後の姿なんだな。ん? ちょっと待て、まだおかしいぞ」


「どうしたべカケル?」


「だとしたら、ダイムー大陸の海岸線が変わっていないのはおかしくないか? アトラタスもだ」


「え? 本当に・・・変わっとらんべ。何故だべ?」


「200メートルと言ったなミュー!?」


「ええ、そうよ、200メートルよ~」


「つまり、ダイムー大陸とアトラタス島は12000年の間に200メートルも隆起したことになる」


「「「「「ええええええ!?」」」」」


俺が導き出した答えに全員が疑いの目を向ける。


「そんな馬鹿な! そんな激しい造山運動はありえないべ!」


クマソの言うとおり、そんな活動があったら今でも巨大な地震が年に何回あってもおかしくない。隆起が緩やかなヤマタイですらあれだけの地震国なのだ。だがダイムーには地震がほとんどない。


「アトラタスの地下を調べてみないとはっきりしたことは分からないが、地震が無いことから考えても、浮いてるんじゃないのか?」


「え? 浮いて!?」


「つまり、おいらたちはそんな危ういところで生活してたんだべか!?」


ダイムーがしっかりとした大地だと思っていたのは間違いで、かりそめの大陸でしかなかったということが事実だとしたら、俺たちはよく何千年もそんなところで何不自由なく生活できていたものだというのが逆に驚きになる。


「だんだん読めてきたぞ。ダイムー大陸がもし浮いていたとしたら・・・そしてもしその浮いている原因が、5000年前は大丈夫だったようだがアイラ山の噴火で消えたら?」


そう、5000年前のアイラ山の噴火は緩やかなもので、決して大爆発ではなかったようなのでぎりぎりのところで助かっていたのかもしれない。それ以後噴火は止まり、長い間平穏が訪れていた。いや、地球の長い歴史からすれば、長い間ではなくほんの一瞬のことなのだろう。


「沈む・・・」 「そして津波が・・・」 「滅亡だね・・・」


「それが大いなる災いだべか・・・誰にも想像できないわけだべ」


3人娘とクマソはその行く末を想像して恐怖している。





「イーノルス神官主にすぐに伝えないとな。沈むということに関する予知夢を見た者がいないかどうかを調べ始めてもらったら、出てくる可能性がある。予知とは思わず、今まで見逃していたかもしれないだろう」


まだ仮説の段階だが、大いなる災いの姿が少しずつ見えてきた。アトラタスの古代文明もこれと似たような出来事に見舞われたのかもしれない。そうでなければ、寒冷化だけで文明が滅ぶとは考えられないからだ。


寒冷化は一時的なもので、巫女が遺跡の中へ入る前後にはもっと大きな変化があったのだろう。それは、残り4人の巫女に会えば分かるかもしれない。


「とりあえずは寝よう、明日また朝早く起きなければならないんだろう? それに明日はおそらく、エスタたちが仕掛けてくる。ちゃんと見張りを交代しながら体を休めないと」


「そうだな、それからこの虹色水晶はもらっていっていいと思うか?」


「ああ、持って帰るべ。有意義に使わせてもらおう。ユリカ、これ次元扉の中にしまって置けるべか?」


「え!? ああ、保管ならできるね! 100キロもあったら大きいし、重くて大変だしね。任しといて」


ユリカは祭壇のような柱の上に置かれた立方体の虹色水晶に黒い靄を向けると、次の瞬間には柱の上半分ごと消えていた。


「さて、入るときに作ったこの穴は戻しておかないとな。あの巫女の墓だ、誰にも荒らされたくない」


「そうだな、岩を詰め込んで、上から地の加護で塞ごう。表面は適当に磨いて、撤収時に砂利を積んでおけば分からないだろう」


俺の提案にゼルイドが乗ってくれた。この墓は、太陽王とその仲間や、太陽王の子孫以外の者が入ってはいけない、そういう雰囲気があった。ユリカの加護があればいつでも次元扉で中へ入ることができるから、外側を閉じたところで俺たちには不都合は無い。


次の見張りはクマソ、イリス、アイカルだ。その後はエアル、カルクラム、ノーレの風の加護3人娘、最後が俺とユリカとアルだ。


夜も更けてきて、あたりには梟のフーフーという鳴き声が響き渡り、近くで聞こえる音と言えば見張りの3人のぼそぼそとしゃべる声以外は聞こえなかった。あの巫女の想いに報いるためにも、必ず俺たちは人類の大移動を成し遂げなければと誓い直し、寝床へ入り込んだ。


明日は、おそらく戦いになるだろう・・・


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