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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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53話 アトラタスの謎

「みんな! 猪を捕まえてきたよ!」


火の加護を持つ華之団団長のイリスは、夕暮の樹海の中へクマソ夫妻4人と食料調達に出ていた。それ以外の者は木々を切り開いて広場を作り、今晩体を休める所を作っていた。切り株がまるで椅子や机のように並び、切り倒された木は周辺へ壁のように積み上げてあった。


襲撃があっても見張りやすいように崖の淵に野営所を作る。1方向は注意をしなくて良くなるような、お誂え向きの場所を見つけたのだ。崖の上の方には小高い三角形のような山があったが、加護の障壁で野営所を屋根の様に覆ってしまえば、上空から落石があったとしても防げる状態だった。


昼飯は果物だけで済ませてしまったので、塩分が欲しかったところだ。イリスとクマソがそれぞれ1匹ずつ背中に猪を抱えている。血抜きはもう済ませてあるようで、猪たちは動かなくなっている。


「助かるよイリス! 寝床はもうできるところさ。あとは風呂場を作って周りを障壁で囲えば終わりさ」


「じゃあ私たちが」 「頑丈な障壁作っておくから」 「調理は頼むわよ~」


マスタがこちらの作業進捗を説明すると、最後の障壁作りを3人娘が引き受けた。彼女達は手に山菜や果物を多く持っていたので、ミューとアルがそれを受け取ると大きな切り株の上に並べていた。


「猪の調理はアタシに任せな。運ぶのだけ手伝ってくれればいいさ」


「ああ頼むべ。おいらじゃあ火加減が分からなくて黒こげにしちまうべ」


エイルキニスは加護による調理が得意のようだ。手に神術で加護を通した木剣を持っているので、それで肉を捌くのだろう。


「地の加護で土鍋を3つほど作っておいたぞ。クマソ、一応火で焼きを入れてくれ。それで土鍋は完成だ。中に入れる水は誰か頼むぞ」


ゼルイドも一緒に野営の準備をしていた。俺よりも加護の使い方が細かいようで、土鍋はその厚さを火が通りやすいように薄く、しかし精巧に作られていた。






エスタたちは今日一日、ぴったり600メートルから800メートルほど後ろをつけてきているようで、監視者を探索する加護はずっと一方向への線を同じ細さで指し続けていた。


「この辺だとまだ隣の組とは10キロも離れてないべ。エスタがひと騒動起こすつもりならもう少し先、明日の夕方ぐらいだべ」


「そうだな、それぐらいになりそうだな」


クマソは襲撃予想時期を再び気にしている。10方位へ散らばった各組は、それぞれが出発地から22.5度の角度を保って進み続ける。俺たちは今日20キロ以上は歩いたが、隣の組とはそれでも8~9キロしか離れていない計算だ。


だがそれも明日の夕方には17~18キロとなるだろう。これなら少々のことがあっても隣の組が気づかない距離だ。計算学は苦手だが、このぐらいはなんとか頭の中だけで計算できる。


「それじゃあ私、ちょっと偵察に行ってくるよ」


「え? ユリカ、危ないぞ」


「うん、分かったよカケル。注意して少し遠めのところに扉を開くよ。それから、向こうから見えないところから行くからね」


「念のため俺も行く。すまないがみんな、食事の準備をしていてくれ。すぐ戻る」


俺とユリカは、3人娘が張った巨大な障壁の中でもみんながいる所から少し離れた大岩の影に入って、地の加護で周りを覆ってからそこで次元扉を開いた。偵察がもし近くに来ていても、俺たちが何をしているかは分からないだろう。一応、すぐ近くに加護流は見えなかったが、念には念を入れてのことだ。


「ユリカ、これ・・・」


俺は声を小さくしていた。ユリカがほんの小さく開いた次元扉の先が見えているが、面白いことに彼らを上空から見ているのだ。


「しー。上から、ね」


ユリカが設置したのは大木の上層部で、向こうからはこちらは黒い点にしか見えないはずだ。俺たちは地の障壁で囲われた狭い空間から移動せずに、彼らを監視できる状態になっていた。


エスタ配下の3人ほどが俺たちがいる方向を伺っている。もう2人の生徒、さらに詠唱学講師の3人は、そのまま野営の準備に取り掛かっているようだ。彼らの組は6人だったはずだ。それにエスバンと講師で8人の組のはずだった。今姿が見えないのはエスバンとエスタだ。


しばらく見ていると、エスタと、エスタによく似た40代に見える男が、2人で布に包まれた大きな荷物を抱えながら姿を現した。あれがエスバンなのだろう。髪の色は2人とも燃えるような赤だ。しかし、やはりあの講師は彼らの組織の一員だったのか。残念だ。本当に残念な話だ・・・





「明日・・の組との距離が・・・・れるはず・・・掛けるのにちょうど・・・・物を見つけ・・・・」


「・・・・よ、父さ・・エルメスのため・・・たちはやらなき・・・・・んだ」


声がよく聞こえないが、やはり隣の組との距離を気にしているようだ。エスタは聞きなれない「エルメス」という単語を口にしていたるが、陰謀との関係性は謎だ。だが確かにエルメスのため、と聞こえた。それがもしかすると、(はかりごとを巡らす組織の名なのかもしれない。


そう考えていると、突然ユリカは小さく開いていた次元扉を閉じてしまった。何か、怒りに震えているようだったが、それを押さえ込もうと必死なのだ。しかし、すぐにまた次元扉を開く。しかしそこは・・・


「なっ、何ぃ!?」


「あっ! カケルではないか! ユリカも! アトラタスにいるのではなかったのか!?」


「トレノちゃーん! 会いたくなっちゃって扉開いちゃったよー! すぐにまた戻らなきゃいけないけど、ちょっとだけー!」


まさか、地球の反対側にまでこんなに簡単に次元扉を開けるのか? ユリカ家の食卓に次元扉をつなげたユリカは、トレノに駆け寄るとがっしりと抱きついていた。食事を取っていたトレノは箸をぽろりと落として驚きながらも、ユリカの背を撫でていた。


「おじいちゃまに伝えて欲しいんだけど、明日エスバンの襲撃がありそうなの。んで、彼らは<エルメス>という単語を口にしてたよ。それが何を指すのか、おじいちゃまに調べてもらいたいのよ」


「分かったのだ、襲撃のこととエルメスという単語のことはお爺様に伝えておくから、我に任せるのだ。でも危なくなったらすぐに逃げるのだ」


「うん、大丈夫! トレノちゃんに抱きついたら落ち着いたー!」


「そ、それにしてもこの次元扉の向こうがアトラタスなのだな・・・すぐには信じられないぐらい便利な加護なのだ」


「アハハ・・・次元扉っていうのは本当にすごいな。トレノも驚いているだろうが、俺もユリカが家につなぐとは思わなかったから驚いてるよ。これならいつでも帰れるじゃないか」


「じゃ、そろそろ行かないと。食べてる途中にごめんね!」


「ううん!? いいのだ、我もユリカの顔が見れて嬉しいのだ。気をつけて!」


課外授業なのに一旦地球の裏の家に帰るという、これ以上は考えられない反則技を当たり前のように使いこなしたユリカは、名残惜しそうにトレノから離れた後、ぶんぶんと手を振りながら次元扉を閉じていった。


「ハハハ・・・これはすごい反則技だ。これじゃあ課外授業にならないな」


「ごめんね。エスタのことで、ちょっと頭にきちゃって。でももう大丈夫。さあ、戻ろうか」


「ああ、戻ろ・・・・な、なんだあれは!?」


「え? 何!? あっち? 何がどうしたの!? 何もないよ!?」


地の障壁を解いて野営所へ戻ろうと目を動かしたその時、俺はそこにありえないものを見つけてしまった。


野営所が背にしている崖がある、三角形の山の中に、そう山体の中に、渦巻く加護流を見つけたのだ。ユリカには見えていないのか。山体の奥、500メートルほど先に見えるのだから、ユリカには少し遠すぎるのか。


あれは何だろう、虹色水晶の結晶か? いや、虹色水晶はこんな風に見えることはなかったはずだ。あれは生き物のようなのだ。だが、大地の中に生き物が生きていられるはずもない。あれは調べなければならないだろう。





「ただいまみんな。偵察はうまくいったよ。それともう一つ気になることがあったが、それは2つめの報告として、先にエスタたちのことについて」


「おかえり~」 「食事はもうできてるよ」 「食べながら聞かせてね」


鍋は切り株の上に置かれ、ゼルイドが作ったのであろう各人用の取り皿へ、肉や山菜の煮汁を3人娘たちが取り分けていた。


「エスタの組は8人構成。元々の<赤い火星強騎士団>の6人と、詠唱学講師と、エスタによく似た40代の男、おそらくエスバンの8人だ」


「そうか、ミグスは敵になったか・・・残念だ」


ゼルイドは詠唱学講師の名を口にして肩を落とした。


「彼らもやはり隣の組との距離が気になっていたようだったが、<明日>という単語が聞こえたのでやはり明日になってから仕掛けてくるだろう。それから<エルメスのために>とも言っていた。このエルメスについてはトレノに先ほど報告して、シルベスタ爺様に調べてもらうことにした」


「まあだいたい予想通りだべ。でも先ほど? どういうことだべ? 俺たちが持ってきた風伝板は飛空船の中で取り上げられちまったから、授業用以外は誰も私物で持ってきてないべ? エスタは隠し持ってたみたいだけどな」


「あ、えとね、ごめん。ちょっとエスタの顔見てたら私は怒りが止まらなくて、それで次元扉で家とつないで・・・」


「「「なるほど!」」」


地球の裏側から自宅へ帰るというのは、誰も想像していなかったのだがユリカの言葉を途中まで聴いて全員理解したようだ。


「彼らのことはだいたい分かったよ。もう一つ、気になることというのは何だい?」


マスタが真剣な顔で聞いてくる。


「この裏の山。この山の地下に何かいるんだ。加護流が見える」


「な、何それ・・・それは生物なの? 虹色水晶は加護流で見えるようなことは、アタシは聞いたことが無いよ・・・」


エイルキニスがマスタに身を寄せて、体を震えさせている。得体の知れない存在の報告に、顔を強張らせて絶句している者がほとんどだ。数人は鳥肌を立てている。


「分からない。調査してみないと・・・」


「なあ、晩飯食べ終わったらちょっとやってみるべか? その加護流が何か分からんが、おいらワクワクしてるべ」


「ああ、俺もだ」


俺はこの発見にかなり高揚していたが、クマソも同じ意見だった。


「カケル、それは危険な感じでは無いの?」


「いやアイカル、あれは陰鬱な加護流じゃない。むしろ温かい加護流に見える。少し動いているな」


「こ、こわっ・・・」


動いている、という言葉にミューがぶるりと震え、その腕に鳥肌をぶつぶつと立てながらも、なんとかアルにしがみついた。


空の色は群青から濃紺、そして漆黒に変わり始め、高い木々の隙間からはいくつかの星が顔を出し、周辺には夜行性の動物達の気配が満ちていた。

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