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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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47話 神の術

ガラガラと音を立てて、4つの車輪がついた荷台が校庭へ姿を現した。地の加護で木材加工をしている業者が、木でできた剣や槍を第一高校へ納品しているのだ。


荷台が止まったところには、とうとう40人にまで減ってしまった俺たち3年生の騎士団たちと、今日から武器と加護術を組み合わせる実践的な戦い方を教えてくれる一級騎士が立っていた。


胸につけている騎士証には大きな星がひとつ。この騎士は3年前に、10キロ級の魔獣をエザイプト大陸で倒したのだ。生徒の誰もが彼が放つ品格というものに尊敬の目を向けていた。


「今日から戦闘術を教えるドラグセン=ダブセンだ。騎士の位は一級とさせていただいている」


姓がダブセンということは、王家の末裔だが臣籍降下した家系なのだろう。白髪交じりの口髭が丁寧に整えられた、この40代に見える男性から醸し出される騎士としての品は、そこからも窺い知れた。


「まずは業者さんに礼!」


「「「ありがとうございます!」」」


荷台から中身を出し終わって、その場から立ち去ろうとする老齢の木材業者に、礼をするように命じられた。俺たちは慌てて、その荷台の中身を作ってくれた礼を表現する。その業者は突然の礼に驚いていなかった。おそらく毎年のことなのだろう。


「あ、いやどうも! 皆さん頑張ってくださいね!」


「毎年ありがとう、助かっています」


「若者達のためならこのくらい構わないのですよ! では失礼します」


先ほどよりも荷台は軽い音を立てて、業者の男性は遠ざかっていった。


「この木材武器は、木材の切れ端を使って作られているが、木材業者さんの好意で寄付してもらっているのだ」


なるほど、それで話がつながった。彼が作った武器は実践用ではなく練習用だが、それでも雑に作ることはなく丁寧な仕事をしていることが遠目にもすぐ分かった。剣は剣、槍は槍、棍棒は棍棒で大きさや形が完全に同じなのだ。おそらく毎日仕事が終わってから1年間コツコツと作り貯めたのだろう。





「それでは得物を選べ。数は足りているはずだ。持った瞬間、自分の攻撃範囲を感じやすい武器を見つけるんだ」


皆それぞれにあたりをつけた武器に手を伸ばす。2年生の授業で多少なりとも器術をやっていたので、自分が攻撃しやすいであろう武器は既に頭の中にあったのだ。ただし、2年生の授業で使ったのは槍に見立てた長い棒と剣に見立てた短い棒の2種類だけだったが。


何本かはあまるはずだったが、全員が剣に集中してしまえば剣が足りなくなる。だが、木材業者は毎年返却される武器の種類から、だいたい選ばれる武器の比率が分かっていたのだろう、全員が自分の思う武器を手にしていた。


俺とアルは大剣、ユリカとミューは小剣、マスタとクマソは槍だ。


「得物が自分にしっくり来たと思ったら、鍛冶屋に注文して自分の武器を作っておけ。ただし職業騎士になるつもりの者だけだがな。そう、このような武器を作るのだ」


ドラグセン騎士は自分の腰に差した長剣を抜いて掲げ、俺たちに見せた。刀身中央には溝が作られ、そこに水晶が埋め込まれていた。加護のための水晶だ。


「練習用の木材武器には水晶は埋め込まれていない。だがこれも練習だ。水晶の援助が無い状態の武器にもきちんと加護を行き渡すことができれば、騎士用の武器はもっと楽になる」


木材を加護で覆うとなると、多少そこに意識を持ち続けなければならないだろう。武器に加護を纏うことを意識し続けながら戦うのだ。


「体だけで戦うのが拳術、武器だけで戦うのは器術。拳術と器術を組み合わせたのが巧術。そして巧術と加護術を組み合わせた戦闘術を、神術という」


なんだ、俺はこれが巧術だと思っていたのだが神術という呼び方があったのか。なるほど言い得て妙だ。太陽神の力を借りて、精神を研ぎ澄ませて戦うのだから神術なのだろう。


体術体系の説明を終えたドラグセン騎士が長剣に加護を通していく。ブウンという発動音とともに根元から次第に赤い光が先端まで延びていく。飛空船やユリカが使う闇加護のような低い音ではなく、やや軽く羽音のようだった。


そこには赤く輝く美しい長剣が、青い空を突き刺すように高く掲げられていた。






「まずは、木材武器を加護で纏うこと。剣は刃先を、槍は特に先端を厚くせよ。全体を均一に覆うように考えるな。それでは少し離れてから開始」


俺たちは一人一人校庭に散らばり、加護を木材へ通し始めた。だが、あまりうまくいかない。通したと思ったら纏っていないのだ。纏ったと思ったらすぐにはがれてしまう。


ユリカを見ると、黒い小剣、いやなんだか闇の加護が剣のだいぶ先まで伸びて細長剣になっている。


「カケル、武器も自分の体だと思えばいいのよ」


「なるほど、理解しました。ユリカ様ありがとうございます」


学校内ではまだまだ執事のフリを続けている。そうだ、手に纏うことならできるのだから、この剣も手の一部だと思えばいいのだ。


次の瞬間、黄色い地の光が俺の剣をしっかりと包み込み、そして維持されていた。


「維持できるようになった者は武器を上に掲げてそのまま維持し続けろ。武器を掲げていない者のところに私が回る」


ドラグセン騎士はそう言ってあちこちの生徒を見て回って、的確に助言していった。すでに木星団は全員武器を掲げていた。中でもアルの大剣とクマソの槍が素晴らしい出来で、光の密度が他の者とは違っていた。


ユリカの小剣はもともと光というより闇なので、どのくらいそれが強いのか分からないが、刀身がまったく見えていないので相当濃いんだろう。


「よし、全員できたな。そのまま維持! ではここから半分の者は軽く走りながら校庭を回れ。もう半分は待機。加護が切れたら入れなおしてまた走れ」


体を動かしながらも維持するわけだ。戦っている最中に武器への意識が途切れると危険だから、いかに当たり前のように加護を通し続けるかが問題なのだ。


校庭を何度か半分ずつ交代で走り回りつつも、数時間維持できたことで加護を通す意識が体感的に染み付いた。これなら魔獣と激しく戦いながらも維持できるだろう。


神術があればあの大蜥蜴も、ごり押しの詠唱ではなくもう少し余裕を持って戦えていたはずだった。あれは強力な詠唱を立て続けにぶちかましたから勝てただけで、数時間にも渡って戦い続けたら負けていただろう。


いや、負けていたでは済まない話だ。全員死亡していただろう。神術での戦いは加護を消費しにくい、効率的な戦い方なのだ。





今日は爺様は不在なのだが、全員でアルとミューの新居を訪問がてらそこで会議をすることになった。虹色水晶の報奨を頭金にして購入した建売住宅はユリカ家に比べれば慎ましいものだったが、一般的な住宅としては広い方だった。


「本当はもっと広い家も購入できたのだがね、目的はそこじゃないのだからこれくらいでいいと思ってここにした」


居間もなかなか広く、トレノも含めた7人が入ってもまだ余裕がある。ミューは全員にお茶を出し終わると、アルの膝にちょこんと乗ったが、なんだか夫婦というより兄妹みたいだ。


ミューは火星から親元を離れて来ていたので、王立高校の学生寮に住んでいたのだが荷物は少なく、引越しはすぐに終わったようだった。アルも同じくヤルーシア西部から一人で来ていたのだから、学生寮は2つの部屋が一度に空いたことになる。まだ学生寮で生活しているのは、クマソだけだ。


「さて、アトラタスのことについて話そうか」


アルはミューの肩に手を置きながら議題を掲げた。


「太陽王捜索隊がウルを駆けずり回ってるとは言え、また妨害があると考えたほうがいいべ」


クマソはその危険性を最初から考えて行動した方がいいことを俺たちに提案した。


「その通りだ。だが彼らはいったいどこから虹色水晶を手に入れているんだ?」


「火星だろうね。ユウチ家は火星の開発で見つけた虹色水晶を、一部は自分たちの懐に入れているんじゃないかと私は思っているよ。火星で虹色水晶の大きな塊が見つかった報告は、15年前からさっぱり無くなっている」


俺の疑問に、マスタがすらりと答える。つまり15年前から彼らは暗躍し始めたのだろう。


「ということはまだまだ虹色水晶を抱えている可能性はあるな。捜索隊とは別働で、エスバンの妨害は動き続ける可能性は高そうだ」


「次は周辺に身を隠すところがある、樹海だ。おそらく仕込みをしたあとに少し離れたところで俺たちがどう戦うかを監視するだろう」


「カケル、光の加護をこっそり使って監視者を見つけ出すことは?」


「できる。無詠唱でできるように訓練しておこう。エスバンがアトラタスへ現れるのなら、そこで捕縛して敵の組織構造を吐いてもらおう」


そして一斉逮捕だ。これで敵を一網打尽にできるだろう、だがまだ動機がよく分かっていない。風王家が中心となっているのなら、もしかしたら王位簒奪を考えている可能性がある。


光の加護は表が公開、裏が無形・精神。爺様に王城の書庫を探してもらったが光の詠唱については表のものしか存在していなかった。


精神の加護というものがどういう性格を持っているのか分からないが、もしかしたら他人の精神を浄化できる詠唱が作れるかもしれない。いくつか詠唱を作っておこう。

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