46話 少女達の奮闘
決勝戦、華之団との戦いは、一区分先制で向こうに取られてしまった。
彼女達の攻撃はとても強く、俺たちの標的を削り尽くし、しかしこちらの攻撃は信じられないほどの障壁の固さに全員舌を巻いていてしまうほどで、全然削れなかったのだ。
それに対して、ユリカは次元扉の詠唱を魔獣との戦いのときのように2つ重ねることを試そうと言った。
「複合詠唱はまだ試してないべ?」
「あれだけ動き回られて拳術を使われると複合詠唱する暇がないね」
「じゃあ第二区分はカケルがアルとマスタを防衛して、ミューは攻撃するか?」
「いや、ミューが2人を防御して、カケルは拳術攻撃だべ!」
「で、それとは別に私が次元扉を重ねて放てばいいね!」
「時間を合わせて複合詠唱が相手の障壁をある程度破りきれば、ユリカの加護が決まるべ!」
クマソはこの決勝戦、参謀を務めるという形に落ち着いていた。待機席からの声掛けは反則ではないので、加護を使うべき時間を知らせてもらうことにした。
「じゃあ行くべ!」
「「「「「おう!」」」」」
俺たちは円陣を組んで気合を入れ、楽しそうに笑顔を浮かべる、華之団の少女たちが待つ試合場の枠内へ足を踏み入れた。この子たちは、本当に強いぞ。
案の定、エスタたちは三本一気に取られて負けていた。もともと心が通っていない騎士団だったようで、動きがばらばらだから、勝てるわけが無いのだ。
華之団にも参謀がいて、しきりに攻撃の時間帯や防御に当てる時間帯を指示していた。この決勝戦は試合場の外から声を出す参謀の想像力がどれだけ正確かによって決まるのだ。
「ユリカ! 次元扉開始だべ!」
「しゃー!」
「アルとマスタはちょっと待つべ! ミュー、マスタの後ろから来てるべ! ・・・複合開始だべ!」
「「おう!」」
「ぶっぱなすべ! ミューの後ろから2人迫ってきてるぞ!」
その間、俺は風の加護を持つ3人に対して同時に攻撃を繰り返し、風の複合詠唱を一切唱えさせなかった。直後、正確に計られた時間どおり、アルとマスタの複合詠唱が相手の標的に張られた障壁をあらかた吹き飛ばすと、それを覆い尽くすように次元扉が二重発動して華之団の標的を異次元に送り込んでいた。
第二区分はなんとか余裕を持って勝てたが、第三区分は相手が何をしてくるかが問題だ。俺の拳術を見越して障壁をさらに厚くしてきたら引き分けになる。だが華之団が第一区分以上の攻撃体制を選ぶようなら、どう転ぶか分からない。
「第三区分はどうするー!? クマソ、何か考えは?」
ユリカはクマソに第三区分の戦い方を請う。俺たちはクマソの作戦立案能力を信じて、その意見に頼るようになっていた。その状況に、木星団全員が興奮して盛り上がっている。
「相手は俺たちより一つ多い3試合目、そろそろ加護が切れてくる頃だべ。相手に加護を使わせるようにするために障壁を厚く張るべ!」
「よし、決まりだ。こっちが守りを厚くしよう。カケル、風の加護を相手に唱えさせるために拳術は後回しにして、地の障壁も追加してくれ」
アルがそれにすぐ賛同する。
「やってみよう! よし行くか!」
第三区分も円陣を組んで掛け声を付けてから試合場へ踏み入る。この第三区分を制した方が勝つだろう、という雰囲気が試合場に満ちており、観客も固唾を呑んで試合を見守る。
「はじめっ!」
「・・・地の壁を張り巡らし給え!」 「風をさえぎる壁を張り巡らし給え!」
俺もアルも、両手で二重に障壁を作る。地の障壁で囲ってしまったため、周りからは俺たちの標的が何も見えない。さらにその上からアルが二重の風障壁を作り、鉄壁の守りになった。
「・・・火の壁を張り巡らし給え!」
予定外だがマスタがさらにその外側に、熱体による障壁を追加した。これなら相手の攻撃から完全に標的を守れるだろう。クマソの作戦をさらに補強するのだ。
「「「風の矢で標的を切り裂き給え!!」」」
5回ほど風の3倍化複合加護を放つも、俺たちの障壁は頑丈で壊れなかった。外側の熱体障壁をさらにマスタが追加している間に、俺とアルは相手に拳術で襲い掛かって詠唱を消し去った。さて、このままだと引き分けになる。
「複合詠唱だけでいい! 開始するべ!」
ユリカの次元加護がなくても障壁が消し飛べば普通の加護で相手の標的に攻撃できるということだ。おそらく相手の加護は弱くなってきており、クマソは障壁もさっきまでの攻撃を加えなくても崩壊すると踏んだのだろう。
「残り15秒だべ!」
クマソが残り秒数を告げると同時にアルとマスタの複合詠唱が華之団の標的を襲い、こんどは完全に障壁を消し去ってさらに標的まで少し削っていた。
ユリカは次元扉の大きなものではなく、小さめのものを放って発動までの時間を短くし、標的に放ったところで区分終了の音が鳴った。小さい時限扉は華之団の標的を少し掠め、確実に削っていた。これで、第三区分は先ほど以上の勝利だ。今度は、加護で守って勝った。
よし次は、と思ったところで、華之団のうちの2人が倒れてしまった。加護を使い切ってしまったのだ。華之団は試合に出れる残り人数が4人となってしまい、結局棄権せざるを得なかった。
闇の賢者率いる木星団にも物怖じせず、本気で優勝するつもりでいた華之団の少女たちは悔しさで涙を流していたが、第二区分と第三区分の戦いを考えると、たとえ加護が切れなかったとしてもその先が想像できたのか、納得していた。
「ありがとう! 君たち強かったよ!」
「力尽きちゃったね! やっぱりあなたたちすごいわ!」
俺たちも笑顔で彼女たちと握手し、その戦いを讃えあった。彼女達は普通の騎士団よりはるかに強く、もし御前加護戦に出たとしても優勝するような戦団だと俺は思っていた。今回はクマソの作戦勝ちだ。だが、もう一度戦ったらどうなるかは分からない。
激しく燃えた決勝戦に、観客も大満足といった顔立ちで歓声を上げながら表彰式を見守っていた。
「今日は最高の日だよー! ミュー、おめでとー!」
昨日は加護戦で大量の加護を使って疲れきってしまったが、一晩寝て元気になった俺たちはマスタの提案どおり火王城でアルとミューの結婚式に参列した。ユリカはミューの花嫁姿を見て声を大きく祝福している。
白い衣装に身を包んだ2人は、まるで白鳥がそこに迷い下りたかのように美しかった。誓いの言葉を述べて指輪を交換し、そっと口付けした2人を拍手で見守った。
わざわざこのために神官主が火王城に来てくれたが、その厳かな儀式のおかげで2人とも完全に夫婦の顔になっていた。火王のマーテル=ダブスも息子の仲間達の慶事に出席し、祝辞を述べてくれた。
あと10日ほどでアトラタスの生存学課外授業だ。今度は魔獣との戦いを前提とした授業になる。必ず毎日魔獣と戦うことになるだろうから、危険なのだ。
だがこの2人には今はそんなことは関係なかった。口付けを終えたその時、アルが叫んだ。
「カケル! 私も愛に気づいたぞ!」
アルの周囲を強烈な風の加護が覆う。アルもやっと、本流から力を引き出すことを自覚したのだ。愛に気づいたとしてもそれだけの強さを身に纏うことはなかなか無いだろう。
「アルケイオス殿、そなたはもう一流の騎士である。妻のミュー殿と手を合わせて、どうか・・・民を救ってくだされ」
「必ず成し遂げると誓いましょう」
「誓います」
イーノルス=シンク神官主がアル、そしてミューの目を見ながらその使命を告げ、それに2人が応えていた。




