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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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45話 校内戦

イーノルス神官主は俺たちの案にさらに一ひねり加えてから情報を伝聞社へ流した。太陽王は16歳から19歳の男子で、王都に住んでおり現在はまだその力を見せていない・・・・・・という予知を発令した。


まあ確かに、俺は世間へその力を見せていないのだからそれは正解だ。これで陰謀の首謀者たちはまだ加護を得ていない者たちを、とくに高校1年生と2年生を躍起になって探すだろう。だがその年齢の男子は、ウルには50万人近くいるのだし、さらに本物の太陽王は既に3年生になっているのだから見つかるわけが無い。


ここで風王家が、中央王家を飛び越えて王都で太陽王捜索隊を作ると言い出した。しかも、その捜索隊は、もともと火星のユウチ市長の命で火星上を捜索をしていた10名を異動させ、ウルから30名、そして何故かヤマタイもその捜索隊へ10名が志願したというものだった。


クマソの発案によって俺たちは情報戦に勝ったのだ。点と点が結びついて敵勢力の全体像が浮かび上がってくる。敵はどうやら風王家、ユウチ家、ヤマタイの3勢力の連合なのだ。ヤマタイは悲しいことに、俺の遠戚であるヤマタイ国主が敵なのだろう。


あとは危険な思想を持っている人間をすべて突き止め、捕縛しなければならない。だたその前に、俺たちは目の前にいるこの相手たちと校内戦を突破しなければならない。その後はアトラタスの生存学課外授業、そして校内戦を勝ち抜いた場合はその後に御前加護戦だ。


5月の暖かい日差しが差す校庭に、7組の戦団がずらりと並んでいた。校庭の中央に置かれた段に上って選手宣誓をするのは、優秀選手ということでユリカがやることになった。


「私たちは正々堂々と、相手を尊敬し、傷つけず、仲間とともに最後まで諦めずに戦うことを太陽神に誓います!」


まあほんとによくできた子だ。それもうわべだけでなく心から言っているのが分かる、本当に透き通った声だ。1・2年生や3年生の五級騎士たちの両親縁者、さらには近所の人たちまで総勢数千人が応援に駆けつけていた。


それぞれの王立高校の加護校内戦は地元の人たちに大人気なのだ。皆ここで勝ち抜いていく組を、御前加護戦でも応援し、さらにはちょっぴりだけ賭け事に興じるのだ。





「俺たちは運がいいことに2回戦えば優勝だ。1回戦は各組の様子を見ておこう」


今回の勝ちあがり戦を行うのは7組なので、1組は1回戦を免除される。ユリカが引いたくじは、その1組だけの1回戦免除を引き当てた。


各組ともなかなかいい連携で敵の標的を崩していく。だが、完全に崩しきれている組はひとつの組を除いて、他には無かった。相手の標的を綺麗に打ち崩していたのは、風の加護が多いことで上位は難しいのではないかと思われていた華之団だ。


風が3人、水が2人、火が1人の構成で地が無いので、自陣の標的が崩されても修復はできないのではないかと思われたが、風の障壁を何重にも張ることでそもそも攻撃を受け付けないし、多少崩されても障壁を張る際に形を戻しながら障壁で固めていたのだ。


守りに関してはほぼ完璧、攻撃はどのようにするかと思えば、水の加護で全員の身体能力を底上げして妨害に対処し、3人の風の加護を複合詠唱で3倍へ強化したものを放って敵の標的を跡形も無く吹き飛ばしていた。これは強いぞ。


俺たちの相手は、同じぐらいの実力と当たってしまい泥試合をなんとか拾った白鯨団だったが、俺たちは勝ちあがる自信に満ちており、その次の決勝戦の相手は華之団だとすぐに分かった。おそらく準決勝でエスタの組はボロボロにされるだろう。


どれだけ派手に動き回っても、場外に出なければいいし、放った加護も強力な障壁が講師の騎士たちによって応援席に張られているから安心してぶっ放せるのだ。そして観客達も安心して応援できる。


やっと出番だ。俺たちが校庭へ姿を見せると、女子生徒たちが黄色い歓声を上げる。そのほとんどがユリカ目当てのようだ。「ユリカさまー!」という声が多く聞こえる。もはや偶像か歌手のようだ。


「え、なんでここまで女の子に人気なの!?」


「ユリカが男らしくて格好良いからだろ」


「確かに格好いいべ!」


ひとしきり笑えたので緊張のほぐれた俺たちは、もはや一回戦で疲れ切っている白鯨団相手には、どれだけ体を慣らすかということだけを考えていた。




「しゃー! 消えろっ!」


男らしいユリカの声が響くと、相手の標的どころか校庭まで深く陥没して消えうせる。いくら彼らが拳術を得意としていようとも、俺たちの中の誰も捕まらなかった。


その圧倒的な加護に、観客が爆発的に反応する。とても低く鈍い加護発動音が鳴った後、ズドンという音とともに標的が一瞬で消えるのだ。加護戦映えする詠唱だなあ。2分あるはずの区分制限時間も、僅か20秒で終わってしまった。


残念ながらユリカ以外は何もしていない。もちろん敵の妨害があったのだが全員ひらひらと避けるので、白鯨団は何も出来ないでいたようだ。カノミ流拳術でみっちり鍛えてきた甲斐があった。


5つの区分戦を戦うのだが、3回勝てば勝ち上がりだ。第一区分はユリカが一瞬で終わらせてしまったが、第二区分はクマソが攻撃してみようということになった。クマソはヤマタイの男らしい火7の加護で、実直な性格そのものを表していた。


「よし、俺もユリカに負けず、盛大にぶちまけるべ!」


「少しもったいつけてもいいぞ。俺たちは何もやることが無くてな」


「む、分かった。それじゃあマスタがかわりに休んでてくれ」


「私も第一区分は何もしていないんだがね、しかしここはクマソの実力を見せてもらうよ。期待してるよ」


クマソとマスタは互いにニヤリと笑って片手をあげて叩き合い、体の位置を入れ替えて選手交代をした。





クマソの詠唱は数十秒ととても長かった。その間、マスタは障壁を5重に張り巡らし、ミューは華之団の戦い方と同じように全員の運動能力を向上させ、詠唱を続けるクマソに襲い掛かる相手の団員を俺が防ぎ、ユリカは攻撃していた。


とても難しい詠唱のようで、何度か最初からやり直しているようだったが、クマソは途中から低次部分を無詠唱化し始めた。だが、俺たちが完全に相手の妨害を防いでいるので、目を瞑って安心して詠唱に没頭できていた。


あの10キロ級の魔獣、大蜥蜴に比べたらこのくらいの攻撃はやさしいものだ。


「・・・灼熱の熱体を天から突き落とし給え!」


はるか天空から、赤い一筋の太い矢、いや光線が敵の標的めがけて落ちてくる。いや落ちてくるという感じではない。気がついたら敵の標的が貫かれて、じゅううという音とともに、水どころか砂利ごと蒸発していた。


またまた物騒な詠唱だな。だがこれも加護戦映えする詠唱だ。加護戦を見に来ていない人や、同じように加護戦をやっている第二高校、第三高校からもこの光の筋が見えただろう。


名も知らなかったクマソの強大な加護を見て、木星団全員が高い能力を持っていることを観客たちは気づき、大きな声を上げて第二区分の勝利を祝福した。


「既に戦意を失っている相手には申し訳ないが、こちらもいろいろと力試しをさせてもらおう」


「第三区分はちょっとアルと一緒に考えていた複合詠唱を試させてほしい」


「アル、マスタも。いつの間にそんなの作ってたの~?」


ミューの質問にアルは微笑んで頷く。


「ああ、ちょっとできるまでは内緒にしておきたかったんだよ。みんなの驚く顔が見たくてね」


そう言ってマスタが片目を瞑り、舌を出した。いつものおどけたマスタだ。





「さて、やるかアル!」


「行こうかマスタ!」


「火の!」「風の!」


「「精霊よ、力を貸し与え給え! 灼熱の風を天に作らせ給え! その熱風で標的を切り刻み給え!」」


見事だ、見事に揃った詠唱が、上空に赤と緑の渦巻きを作り出し、相手の標的に向かって急接近する。だがあれは強烈な熱風のはず、近くにいると危険だ。


「カケル! あの標的の近くにいる2人を助けるよ! 私は右に行く!」


そう言って駆け出すユリカの後を追って俺は左側の生徒に向かい、その体を掴んで自陣の方へ放り投げ、俺も自陣へ戻る。


ズババという音がして後ろを振り返ると、相手の標的は小さな破片に切り刻まれて、砂利の山になっていた。おいおい、みんな物騒な詠唱が多いな。完全に対魔獣用の詠唱だぞ。


特にクマソのは虹色水晶まで蒸発しちまうな。だが、この面子ならアトラタスも大丈夫だろうと確信できた。

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