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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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37話 戦略構築

 大いなる災いが近いというのは、巷でも噂になり始めていた。その噂には真実と虚偽が丁寧に織り交ぜられ、噂の域を超えないように調整されていた。その噂を流しているのがシルベスタ先王率いる隠密団だからだ。ただ不安を煽るだけではなく、闇の賢者がそれを回避できる可能性についても言及されており、民衆は闇の賢者に期待することで一切の不安が消え、経済活動は滞らないという寸法だ。


 民衆の不安だけが増大して経済が破綻するようでは、それによって戦争が起きたりしてしまい、大いなる災いどころではなくなるだけではなく、それ自体が災いとなるのだ。


「全世界の地震の巣を再度調べ直したのじゃが、危険な活断層は見つかっておらん。災いは今のところ分かる限り、地震ではないようじゃ」


 顎鬚を揉みながら、シルベスタ爺様は以前そう言っていた。次は火山について世界中を調べる計画のようだ。だがどんな災いなのか、はっきりと分かるのは直前になってからだろう。ある程度推測しておいて対処しなければ間に合わないというのにだ。だから今必要なのは、いくつもの選択肢を考えておき、何が起きても対処できるようにしておくことだ。


 俺たちも今すぐに対処し始めたいが、俺たち自身の力がまだ足りていないという自覚があった。今すぐ始めたところで、結果は中途半端なものになるのだ。遠回りだと思っても着実に歩を進めることの方が重要なんだと自分に言い聞かせ、焦りを打ち消す。





 加護戦は5人組で行う、加護の力試しのための総合遊戯として認知されていた。もちろんやる側の3年生は必死なのだが、国民にとってはこの上ない嗜好で、どの高校が優勝するのかは毎年王立高校のある4カ国だけでなく、世界のあちこちで賭け事の対象となっていた。


 今年は各王立高校の代表が決まる前から、一番人気は闇の賢者と火王家直子を擁する<木星団>であると、当の本人たちが決めてもいない団名で投票されていた。いや、木星団にしか投票されていなかったと言うべきか。


 だが俺たちがそもそも8校で行う勝ちあがり戦に出るには、第一高校の予選を突破しなければならない。それは、校内の勝ちあがり戦で優勝するということだ。


「巷では木星団ということになってしまっているが、団名はそれでいいかい?」


 いつものユリカ家の会議では、加護戦に関する議長に決まったマスタリウスが半分以上呆れた顔で俺たちに提案する。いや、もうそれでいいよと誰もが思っているだろうが確認の為だ。


「いいよ~」「さんせーい!」「良いと思うぞ」「もうそれ以外に無いな」「他に無い名前だから格好良いと思うのだ!」


 …全会一致で可決だ。名前などどうでもいいのだ。まあ本当なら、強いて言えば太陽団なのだが。


「では次に基本的戦略・戦術を詳細まで詰めよう。戦略についてはこの間決めた枠組みで、拳術防御担当がカケル、加護防御担当がカケル・ミュー、情報担当はアルケイオス、体術・攻撃攻撃担当はユリカと私で、基本は守り抜いて最終的にユリカの闇加護で一気に削るということで」


「「うんうん」」


 ユリカとミューはマスタに頷いて次の話を促した。


「で、次に個別の戦術なんだが、拳術についてはカノミ流の良し悪しに関係するだろうからほとんどカケルに頼ることになるが、攻撃が漏れたときは基本逃げで、支援が得られるまで距離をとりながら守備に入るというのはどうだい?」


「マスタはもう拳術攻撃に入れるはずだが?」


 アルはマスタの上達具合を考えて、拳術攻撃参加を提案してきた。


「そうかもしれないが、付け焼刃な面もあるだろうね。相手との間に拳術の熟練差があるばあいは攻撃に回るさ。差が無いか、こちらが劣っている場合は攻撃には入らない形がいいと思っているよ」


「うん、基本はそれでいいだろう。だがマスタはほとんどの場合、相手より拳術の腕が良いだろうから、いけそうならどんどん行ってくれ」


 俺はマスタの基本戦術を火の加護より拳術にしたほうがいいと思っていたので、拳術による相手の加護の封じ込めで防御の負担を減らそうとするための考えを出してみた。


「ああ、できれば私も突っ込んでみたいよ。自分の力がどれだけ上がっているのかを試す機会なのでね。カケルやユリカと組み手するといいように受け流されるので自分の強さがよく分かっていないのさ」


 マスタが感じることももっともだと思う。俺とユリカは異常なのだ。何せ総合試験の中の、いっさい女性にも容赦の無い、男性中心の採点をするはずの体力測定で、ユリカは満点をたたき出した。そのへんの筋骨隆々の騎士と比べてもそれ以上の筋力を持っているのだ。


「マスタは強いよー! ずっとやってたら多分私たちより強くなるよ!」


 カノミ流師範としては、弟子に対して最高の賛辞を送るユリカと同じく、マスタが俺たち以上の素質を持っているだろうことは俺も同意見だった。


「それは素直に嬉しいね。だがまだ実感が無いので、戦略からずれない範囲でいろいろやらせてくれ。次にミューの守備についてだが、基本的に使用する詠唱は…」


 マスタはそうやって次々と、各人の戦術を議論にのせて固めていった。ユリカはいざというときのために、魔龍が使っていた銀の障壁を新規作成し、高速化しておくというのが課題となった。





 話は次第に、既に高校へ申請されている戦団についての対策へ移っていく。


「既に登録されているのはエスタ=ユウチが団長の<赤い火星強騎士団>と、三年三組のブルジ=エクストが団長の<白鯨団>と、俺たちと同じ一組の女子生徒たちで構成したイリス=ニューアが団長の<華之団>の3つだ」


「エスタのは随分長い団名だな。何故<火星団>じゃないんだろうな」


「さあ? 格好つけているだけさ」


 まあ、エスタのはどうせ配下を集めたのだろうから置いといて、一組の女子たちが団を作ったのは驚きだった。6人の団員がいるようなので、相手によって戦い方を少し変えるのだろう。試合では5人だけ出ればいいし、最大5回行われる区分戦ごとに変えてもいいのだ。だが、区分戦の中での交代は認められない。


 ブルジ=エクストはとても体格ががっしりとした、人の良い男だったと記憶しているので、仲間が勝手に集まったのだろう。白鯨という団名はエクストの人柄を良く現していた。この3戦団が、登録開始初日に申請をした戦団だった。


「<赤い火星強騎士団>は火の加護が3人、地が2人、水が1人だ。<白鯨団>は水が2人、火・風・地は1人ずつ。<華之団>は風が3、水が2と火が1、だ」


 華之団は構成が偏りすぎているが、いったいどんな戦術を見せるのか、戦ったとしても楽しみだ。エスタの団も火に偏っているが、構成だけで攻撃主体というのがすぐに分かるから論議はあまりいらないかもしれない。


「エクストの団は均衡の取れた状態で来る感じがするな。あそこはエクストの人柄で全員が楽しんでやっているんだろう。強敵になりそうだな」


 アルはエクストについての情報を少し持っていたようで、それを皆へ伝えながら強さの度合いも予想した。


「華之団は未知数だな。もし意表を付かれた場合は危険だから、慎重に対処していこう。火星騎士団については戦術を見て、普通の攻撃型のようだったら防御に徹した後一気に粉砕すればいいな」


 俺もアルに続いて各団についての予想をするが、華之団がどのような戦略を持っているかは戦ってみないと分からない部分が多いだろうことを全員へ共有した。皆も同じ考えでいたようで、頷きながら聞いていた。


「まだまだ登録申請はこの後も1週間続くから、どんな団が出てくるかはまだ分からないよね~。それで、練習はどうするかについて話したいな~。まだちゃんとやってないし」


 そうだ、まだ俺たちはミューの言うとおり、会議ばかりでちゃんとした練習をしていないのだ。


「攻撃側と防御側に分かれて模擬戦をするのはどうだろうか。私は中立で分析をし続ける役割をしてみよう」


「あ、じゃあそれで! それから、練習場所はどこにする?」


 アルの提案にユリカが即答した。練習場所については俺に心当たりがある。


「俺が以前から野外活動をしていて、太陽王の力を得た場所はどうだろう? 周りに人家はないし、次元扉でここから移動すれば、対戦する相手に情報が伝わることも無いと思う」


「カケルの案に賛成!」


「おそらく大丈夫だと思うが、一度行ってからにしよう」


 ユリカはすぐに賛成したが、アルはすぐには了承しなかった。だが、そういう客観的な意見は絶対に団としては必要なのだから、俺も気分が悪くなるわけがなく、むしろ嬉しいことだった。


「じゃあとりあえず、来週の日曜日は全員で一度そこへ行こう」


 これで方向性はだいたい決まったから、あとは練習するのみだ。今から翌週が楽しみだった。みんなが家から出て行くのを見送った後、アイデインが天井から降りてきて俺にそっと紙を渡してきた。賢者会議の招集日について書かれた紙だ。そうだ、そろそろ次の賢者会議があるのだ。少々早いが、加護戦の後だと俺が勝手に思い込んでいただけだ。





「予知は次第に不明瞭になってきています」


 予定の日程より少し早めに開かれた第二回賢者会議冒頭に、エリオスは申し訳なさそうに言う。


「予知の力が発揮されなくなってきているのか、それとも未来が不確定になってきているのか、どちらなのかをはっきりと確定させることもできません」


「何故そのようなことになるんでしょうね?」


 俺はエリオスを責めるつもりもないので、軽い気持ちで疑問を投げつけてみた。


「カケル王の干渉によって、歴史が変わりつつあると私は考えています。今まで見えていた光景までが見えなくなっているのですから」


 イーノルス神官主は真面目に答えてくれた。


「ということは、これも良いことという考えでいいのかな?」


「そうとも取れますが、不穏な動きもあるやもしれません」


「不穏な動き、そっちの方を重視したほうがよさそうですね」


「そして、その不明瞭さが完全に消えて、以後真っ暗に見えるのが、どうも2~3年後なのです」


「文字通り、お先真っ暗というわけですか…。時間がありませんね。それまでに木星圏の開発を終了、移動方法の確立も必要ですね。でも移動方法についてはおそらく心配要りません。ユリカは新しい詠唱を作り出しました。それによって瞬間移動が可能になります」


「ほう! それはどのような詠唱で?」


 イーノルス神官主は好奇心いっぱいの目で俺とユリカを見比べる。


「考えた場所へすぐに扉を開くことができます。ただし、一度行ったところでないと無理のようです。これなら一度木星へ行きさえすれば、そこと地球の間を結ぶことができます」


「うってつけの詠唱じゃな!」


 この2つの議題だけで、会議はあっさりと終わる。その内容は不明瞭さを増しているが、ユリカの新規詠唱だけが明るい話題だ。報道陣へは、木星圏の開発終了とともに、人類が一斉に移住できる詠唱を生み出したことだけを伝えた。それだけでも人類にとってはこの上なく明るい報道となるだろう。


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