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ひまわり  作者: -満月-
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14/14

夏祭りの前夜

 四人で考えた「犯人をおびき寄せる作戦」の準備を終え、宗介はようやく家へ戻ってきた。

 自室の扉を開けると、誰もいないはずの部屋へ向かって小さくつぶやく。


「ただいまーと」

 

「おかえり」

 

「っ!」


 思わず肩が跳ねた。

 ベッドの上では、涼夏が寝転がったまま漫画を読んでいる。


「……涼夏、いたのか」


「うん」

 

「そうか。じゃあ、千花には連絡しておくよ」

 

「大丈夫。書き置きは置いてきたから」

 

「そっか」


 ぺらり、と漫画のページをめくる音だけが静かな部屋に響いていた。

 宗介は、なるべく平静を装って尋ねた。


「ずっとこの部屋にいたのか?」

 

「うん。今日はずっと宗ちゃんの部屋で漫画読んでた」

 

「そうか」

 

 机に目をやると、ピンクのイルカのぬいぐるみと読んだ漫画が山積みになっていた。

 

(良かった……)

 

 少なくとも、外へは出ていなかったらしい。胸をなで下ろした、その時だった。


「あっ」

 

「どうした!?」

 

 涼夏が何かを思い出したように声を上げ、勢いよく立ち上がる。

 宗介の体に、再び緊張が走った。


「明日、夏祭りなんでしょ? 今は八月にやってるって、千花が!」

 

「あ、ああ。そうみたいだな」

 

(……まさか)

 

「行きたい!」


「え?」

 

(やっぱり)

 

「行きたい! 夏祭り!」

 

「いや、でも——」

 

「お願い! 行こうよ、夏祭り! 明日は死体探しお休みしていいからさ。ね? ね? ね?」

 

「…………」


 そう言いながら、迫ってきた。

 涼夏は昔からこうだった。子リスが木の実をねだるような、せわしなく愛らしい上目遣いを浮かべ、両手を胸の前できゅっと組んでお願いしてくる。そして、それに宗介は一度も勝てた試しがない。

 

(うーーーーん……負けた)


 「……分かった」

 

 観念したように答えると、涼夏はぱっと顔を輝かせた。本当に嬉しかったようで、宗介には彼女の周りに小さなひまわりがいくつも咲いているように見えた。

 

「やったー! みんなにも聞いてみてね!」

 

 満面の笑みではしゃぐ涼夏のその隣で、断り切れなかった自分に、宗介は情けなさを覚えていた。


 * * *

 

 宗介は三人とのグループメッセージを開く。


『ごめん。明日、涼夏と夏祭りに行くことになった』

『え』

『押し負けた』

『もう、何やってるの!』

『仕方ない。明日は僕たちだけで実行しよう』

『了解』

『宗介は涼夏を引き留めていて』

『分かった』

『それじゃ、明日は二十時三十分にあの倉庫前に集合だ』

『OK』

『了解』

『よろしくな』


 やり取りが終わると、宗介は小さく息をついた。

 

「みんな来れるって?」

 

 不意に涼夏から尋ねられ、宗介は目が泳ぐ。


「あー……みんな予定があって来られないって」

 

「えー」

 

 露骨に残念な顔をし、肩を落とす涼夏。

 

「仕方ないよ。二人で行こう」

 

「……うん」

 

 納得したのかしていないのか、涼夏はいじけるように、ぷくっと頬を膨らませた。


 その時、不意に部屋の襖が開く。

 

「宗介、お母さんもう寝るからね。ちゃんとお風呂入って寝るんだよ」

 

「はーい」

 

 母はそれだけ言うと、静かに襖を閉めた。

 宗介も余計なボロを出さないよう、逃げるように部屋を出る。

 

「俺、風呂入ってくるから」


「いってらっしゃーい」

 

 涼夏は気のない返事をすると、再び漫画を読み始めた。


 ——数秒後。


 涼夏は読んでいた漫画を閉じ、ベッドから降りると、机の上に置かれていた宗介のスマートフォンを手に取り、再びベッドへ寝転んだ。画面を点灯させると、パスワード入力画面が表示され迷わず入力していく。

 

「パスワードは、宗ちゃんの誕生日っと」

 

 慣れた手つきで数字を入力すると、あっさりロックは解除された。

 

「詰めが甘いんだから、宗ちゃんは」

 

 くすり、と笑いながら、先ほどのグループメッセージを開く。

 画面を読み進めるうちに、涼夏は何かに気づいたように勢いよく体を起こす。

 

「えー、宗ちゃん。みんなのこと、夏祭りに誘ってないじゃん」

 

 ムスっと口を尖らせ、不満そうにつぶやく。

 しかし、その表情はすぐに変わり、

 

「そうだ、いいこと思いついた」

 

 何か名案を思いついたらしい。いたずらを思いついた子どものように、涼夏はにやりと笑った。

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