64ページ
人はきっと、誰かに救われながら生きています。
大きな言葉じゃなくてもいい。
たった一言。
たった一つの優しさ。
それだけで、生きようと思える夜があります。
この物語には、“運命を書き換える力”が登場します。
けれど本当に描きたかったのは、魔法みたいな奇跡ではありません。
苦しみながらも誰かを想うこと。
忘れたくないと願うこと。
誰かの痛みに手を伸ばそうとすること。
そんな、不器用で優しい人たちの姿です。
もし今、少しだけ苦しくて、少しだけ疲れているなら。
この物語が、あなたの心へ静かに寄り添えますように。
『時雨堂に、雪は降りつづく』
どうか最後まで、見届けてください。
突然、深層書庫の奥から大きな鐘の音が響いた。
ゴォォン――。
空間が揺れる。
栞の顔色が変わる。
「まずい……“書庫主”が起きる」
「書庫主?」
雫が聞き返した瞬間。
黒い霧が一点へ集まり始めた。
巨大な影。
無数のページで構成された、人の形。
顔がない。
だが全身から、圧倒的な悲鳴のような感情が溢れていた。
『返せ』
低い声が響く。
『運命を返せ』
雫は膝が震えた。
玲が前へ出る。
「あれは、時雨堂そのものだ」
「え……」
つまり。
人々の後悔。
失われた記憶。
消えた運命。
全てが集まった存在。
それが“書庫主”。
書庫主は雫を見下ろす。
『お前が均衡を壊した』
空気が重くなる。
雫は呼吸すら苦しかった。
そして。
書庫主がゆっくり手を伸ばす。
その先には――雫の人生の本があった。
最後まで『時雨堂に、雪は降りつづく』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、“救うこと”について考え続けた作品でした。
誰かを助けたいと思うことは、とても優しくて、同時にとても苦しいことです。
全部を救いたい。
誰も傷ついてほしくない。
そう願っても、現実は簡単ではありません。
それでも、人は誰かを想い、支え合いながら生きていける。
その小さな希望を、この物語に込めました。
雫が最後まで失わなかったものは、“人を想う心”でした。
そして玲たちもまた、誰かを忘れずに生き続けました。
人は、誰かの記憶に残る限り、きっと消えません。
もしこの物語の誰かが、あなたの心に少しでも残ってくれたなら。
それが、この作品にとって何よりの救いです。
あなたの明日が、今日より少しだけ優しいものでありますように。
本当にありがとうございました。




