第9話 無理なら諦めること。
「今朝は、、、、雪が積もりましたね。様子を見られたらいいのでは?」
「・・・いえ、普通通り向かいます。先生。ご心配なさらず。」
そう言って、リーゼはふんわりと笑った。
雪がお嬢様の編み上げブーツが埋まるほど降ってしまった。
「無理なら、諦めることも大事ですからね?その正しい判断ができる方だと、そう、信じておりますから。」
「ありがとうございます。」
お嬢さまは護衛を連れて、いつも通りに出発した。
雪明りで、不思議なほど明るく見える。歩きにくい雪の中を、ゆっくり出掛けて行った。護衛の持つランタンの明かりが、雪で反射するのか、いつもより光の輪が大きい。
*****
「こんな雪の中を、、、、」
今朝もジークはラウンジのソファーに座って、外を見ている。外套を羽織っている。まあ、それくらい寒い。
ゆっくりと昇り始めたお日様に照らされて、雪を踏んだ足跡がグレーの影になる。
今日のお嬢さまの帰宅は、遅くなるだろう。積もった雪を踏みしめて歩くのは、かなりの負荷がかかる。通常の倍ぐらい疲れる。
こんな雪の中を、何をやっているのか?
使用人に聞いても誰も答えなかったに違いない。もちろん、側使えの騎士にも聞いたようだが、、、、
「さあ?お散歩じゃないんですか?」
そんな返答だった。えらいよ、ジョン!
・・・・どうしたいんだ?ジーク?
剣術の練習も始まった。
久し振りなのでなまっていたようだが、まあ、すぐに復活しそうだと、ジョンが言っていた。もともと、かなりの使い手だったらしいから、勘さえ戻れば動けるようになるだろう。
・・・・どうしたいんだ?帰らないの?
なんで自分が捨てた婚約者を気にするのかなあ??
「ほら、、、本心ではなかったんじゃないんですか?たまたま違う女の子といた時の事故だし、歩けない、って思い込んでたし、、、、こんな僕といたって!あの子を不幸にするだけだ!みたいな??」
「・・・・んんん、、、まあ、なくもない?そしたら、歩けるようになったんだから、もう一度プロポーズするなりなんなり、なんかないの?」
「ばつが悪いのでは?お嬢様が、あんまりすんなり婚約破棄を受け入れちゃったし。そんなこと言わないで!お願い!とか、、、、涙ながらに言ってほしかったかも?」
「・・・・ああ、、、、なんか、、、他人の恋愛はわかんないわね?」
「まあ、、、、マリエ様が、分かりやすいだけですよ。」
「は?・・・・・しかしさあ、、、、お嬢さま、あの体型だったでしょ?きれいな美人に言い寄られたら、目移りもするわよね?どうなの、ジョン?男として?」
「んんん、、、まあ、、、ぐらっと?なくもない?あ、でも、マリエ様の婚約者様はなかったですよ?本当です。」
「・・・・まあ、それはいいわ。」
「・・・・・」
「あと、1か月かあ、、、、」