第10話 逃げ出しても、投げ出してもいい。
「リーゼ様?」
朝食の途中、ぼんやりとしているお嬢様に声を掛ける。
今日の朝食も完璧だ。若鳥肉の包み焼。野菜もキノコもたくさん入っている。
ここのコックさんは優秀だわ。私の意図するところをきちんと理解して、理想的な食事を提供してくれている。
「さすがにお疲れですかね?今日で丁度、90日目ですね。疲れがたまりましたか?」
「あ、、、先生、、、いえ、、、神殿に伺うのは、もう、慣れましたから。」
「ここのところ、雪が続きましたからね。雪道はいつもより倍疲れますでしょ?」
「・・・そう、、、ですねえ、、、、」
薄っすらと笑って、蕎麦の実の入ったスープを口にする。短いままの金髪がふわりと揺れる。
「・・・怖いんです、、、、」
「ん?」
「・・・あと10日しかないのが、、、、、怖いんです。終わってしまうのが、、、」
ああ、、、、
「もちろん、最初は意気込んでおりました。100日間は長いですから。でも、、、、ここまで来てしまったら、終わりが見えてしまったら、、、、どうしようもなく、怖いんです、、、、」
「・・・・・」
「先生に、お百度参りのお話を聞いたとき、、、ジーク様に婚約破棄されて、途方に暮れていた私は、一本道が見えた気がしたんです。あの方のために、、、ジーク様のために、私が出来ることがまだあったことに、震えるほど、、、、、嬉しかったんです。」
「・・・・・」
「神殿に祈りを捧げているときは、無心です。日数が残り少なくなったころから、門を出て、屋敷に帰るまでの間は、、、、その後のことを、どうしても考えてしまいます。あの方が、、、ここを出ていく日のことを、、、、」
「・・・・・」
「もちろん、お元気になられてここを去るのは、喜ばしいことです。その後に、幸せな毎日を、と。それから、、、私は?」
「・・・・・」
「・・・わがままですね?動けなくても、歩けなくても、話していただけなくても、一緒に暮らしていると思うだけで、、、、幸せだと、、、、、。私は、、、公爵家の一人娘として、父のためにも領民のためにも、婿を取ることになります。父に、この願掛けが済むまではと、見合いを待ってもらっております。」
「・・・・・」
「私は、、、白くて肥満体で、醜いでしょ?ジーク様はこんな私を、僕のマシュマロ姫、と、呼んでくださって、大事にして頂いて、、、私はいつも幸せにして頂いていました。」
「・・・・・」
「学院に通うようになって、綺麗な方がたくさんいらっしゃって、驚きました。ジーク様は素敵な方ですもの、、、私のようなものにはもったいないと、他人に言われて気が付きました。あの方に好きな方が出来たのは、仕方がないことだと、、、、ある意味、、、当たり前のことかと、、、、」
「リーゼ様、、、、そのように、ご自分を卑下するものではありません。あなたは、優しく、知的な、しかも努力家ですよ?いいところを数えましょう?」
「・・・・ありがとうございます、先生、、、、」
「リーゼ様、逃げ出しても、放り出してもいいんですよ?無理なら無理、と。」
「いえ、やり遂げます。先生が初めに教えてくださったでしょ?下を向かず、前を向いて、胸を張って、、、、そんなふうに生きようと、、、、思ってはいたのですが、、、、なんだか、弱気になってしまいましたね?」
リーゼ様は、、、うふふっ、っと泣きそうな顔で笑った。
*****
「お見合なさるそうですよ?リーゼ様。」
さらっと伝える。
ジークは黙々と朝食を食べている。
「ああ、そうですか、まあ、大公家の一人娘ですしね。ようやくその気になった、って感じですか?」
気を使って、ジョンが受け答えをする。
「ジーク様も、お帰りの時期になったようですね?もう、何の不自由もありませんから。これ以上の御静養は不要です。」
「・・・・・」
「あと10日で、王城にお戻りください。」
「・・・・・」
「・・・ジーク様?」
「・・・・の、か?」
「はい?」
ジーク様から聞かされた話は、まあ、無いわけではない。脊椎を損傷してしまった場合、歩行障害、そして、勃起障害。
ジークは、、、、王城で安静にさせられている間、医師団の話を聞いてしまったらしい。ちょっと配慮が足りないよね?まあ、、、、眠っているんだと思ったんだろうけど。
歩けるようにはなった。運動も支障がない。ただ《《それ》》は、、、、私では検証できないなあ、、、ジョンに頼んでプロでも呼んでもらう?あとは、、、自分で?とか?
人によっては、気持ちが伴わないとダメな人もいるから、、、、なかなか難しいよね?
ジークの煮え切らない態度は、、、、そこかあ、、、、、さすがに気が付かなかった!!!
「子供が作れないような婿なら、、、、要らないだろう?」
うーーーーーーーん、、、、、
え?じゃあ、リーゼが嫌いになったわけじゃないのね?




