第八十二話:二度目のPvP
ナギに対して熱心に弟子入りを志願していたオダマキさん。彼女の特訓に付き合うべく、俺たちはカッペルの街のすぐ外の、西風の平原にでてきた。
ここなら広いので、他の人に迷惑をかけることなく特訓ができる。
「では、さっそくお願いいたしますわ!」
むふん、と鼻息荒く前のめりなオダマキさん。しかしナギは「その前に」とオダマキさんに確認する。
「オダマキさんが挑みたい相手って、クエストのボスモンスターなんだよね? 手っ取り早く攻略するだけなら、他のプレイヤーと協力するのがいいと思うんだけど……。あ、ソロにこだわりがあるのならスタイルに文句をつけたいわけじゃなくてね。アサガオさんともよく遊んでいるようだし、特にソロ攻略にこだわりがあるタイプには見えないから」
「おいおいナギ、それはお前分かってないな」
ナギの物言いに、俺は思わず口を挟む。
「一度ライバルと決めた相手は、たとえ強力な敵だったとしても、正々堂々の一対一で打ち破るから良いんだろうが」
「いえ、わたくしもそういう拘りがあるわけではないのですが」
「あれっ!?」
オダマキさんは申し訳なさそうな顔で、詳しい事情を話してくれる。
「無論、パーティー戦が出来ればよいのですが……クエストの挑戦人数の制限があって、ソロでしか挑めないボスなのです……」
「へぇ、そりゃ珍しいクエストだな」
「ともかく、そういう事情でわたくしが強くなって一人で挑むしかないのです」
困ったように笑うオダマキさん。しかし、ナギに弟子入りすることにファン心理として不純なものもあっただろうが、それ以上にモンスターに勝ちたいという戦意も本物だろう。
俺には分かる。彼女の目がそう言っている。気がする。
「でさ。俺とモーリーは何で付き合わされたわけ? 普通にレベル上げをしたいんだけど」
この場にいるのは五人。オダマキさん、アーちゃん、ナギ、モーリーと、俺だ。
そのうち、俺とモーリーは完全に巻き込まれた形になる。レベル上げもまだ途中なのだ。課金アイテムの効果時間もあるので、ほどほどにしてほしい。
「リョーダンには、オダマキさんとPvPで戦ってもらおうかなって。僕とモーリーがその様子を後ろから見て、アドバイス。何戦かしてから、今度は対戦相手をアサガオさんや僕に入れ替えていけばいいかなって」
「俺は助言役ってだけでいいのか?」
「モーリーのスタイル、完全にPvEに振り切ってるでしょ。しかも隠密スキルを使った特化型で、参考にならないの。リョーダンなら、オダマキさんの相手になるかなって」
これで意外とナギは計画を立てていたらしく、すらすらと役割分担を提案してきた。
「……ん? でも、対人戦がボスクエスト攻略の練習になるのか? 対人戦とモンスターじゃ、戦い方も変わってくるだろ」
「リョーダン、自覚ないのかもしれないけど、君、かなりモンスター寄りだよ」
「ひどっ!?」
抗議の目をナギに向けるが、取り合ってくれない。それどころかモーリーまで同意するように頷いている。アーちゃんだけは話が分かっているのか微妙な、いつもの笑顔だ。
「とはいえリョーダンもモーリーも、元々の予定があるだろうから、そう長くは付き合ってもらおうとは思っていないよ。今日のところはひとまず、三十分くらいでどうかな? 残りは後日で」
「分かりましたわ!」
オダマキさんは素直にうなずく。と、同時に俺宛ての対戦申請が飛んできた。
「と、いうわけで、よろしくお願いいたしますわ、リョーダンさん!」
「お、おう……」
とりあえず承諾。完全に勢いに押し切られる形にはなったが、まぁ、こういう日があってもいいだろう。
こういう押しの強さ、アーちゃんの友達って感じがする。
互いに距離を取ったところで、対戦開始までのカウントが始まった。
「おーいリョーダン。負けるなよ。お前さんも特訓のつもりでやれよー」
「二人とも、頑張ってくださいね!」
モーリーとアーちゃんからヤジが飛んでくる。言われなくても頑張るつもりだ。
さて、俺にとっては二度目のPvP。一度目に良い思い出がないこともあって、ゲームでの対人戦経験はほとんどない。人型モンスターとはしばしば戦っているんだけどな。
腰の居合刀の感触を確かめる。左手に短剣を持って、構える。向かい合うオダマキさんも薙刀を構えた。小柄な体ながら、しっかり前に刃先を突き出す構えは、どうも隙があるように見えない。
作戦変更。初手で飛び込んで意表を突く作戦だったが、あの構えを見ると隙がない。ちょっと様子を見てみよう。
――対戦開始!
カウントが進み、試合開始のシステムメッセージが表示される。が、互いに動かない。
「……あら、てっきり最初から仕掛けてくるものと思っていたのですが、当てが外れましたわね」
オダマキさんの薙刀の刃先が何かしらのエフェクトを帯びていた。が、数秒立たずに消える。
「カウンター系のスキルか何かか」
「リョーダンさん、かなり対人戦にも慣れていらっしゃいます?」
「いや、何となくの読みかな」
あっぶねぇ。本当に飛び込まなくてよかった。
「では、こちらから!」
オダマキさんが強く踏み込んでくる。速度はそこまで速くないが、薙刀はリーチが長い。
「せぇい!」
首元を狙うような斬りさげ。短剣の刃先をあわせ、力に逆らわず後ろに跳ぶ。切り返しで前に出ようとしたが、オダマキさんも同時に後ろに下がっている。
詰めようとした距離を、薙刀の刃先で牽制される。
踏み込み、同時に斬り払って下がる。連続攻撃には繋がらないが、リーチの長さを最大限に活かす丁寧な動きだ。
「〈瞬歩〉、〈抜刀〉!」
払いを躱したタイミングで、こちらから仕掛ける。居合刀を引き抜き、一気に相手の間合いの内側へと飛び込んだ。
「甘いですわ! 〈柳の舞〉!」
だが、オダマキさんはその攻撃に反応してスキルを発動。薙刀の握りを変え、居合刀の横薙ぎを受け止められる。
いや、巻き込まれる。遠心力を利かせ、刃先を叩き落とすように、ただ受け流される以上の衝撃で横に押し飛ばされた。
「うぉぉ!?」
想定外の衝撃で姿勢が乱れる。視界の端で、オダマキさんが薙刀の持ち手を変えたのが見えた。
下からすくいあげるように切り上げ。大振りを逸らされた俺は短剣で防ぐ余裕もなく、腕を斬られ、HPが大きく減る。
「ちぃっ!」
精いっぱいに後ろに体を逸らして真っ二つにされるのだけは避けた。背中から倒れるように上半身を後ろへ。
追撃がくるが、倒れこむ姿勢から〈土竜突〉を発動して後ろにロケットのように跳ね跳ぶことで、致命傷を避ける。大きく距離を取ることに成功するが、姿勢が悪かったので地面に背中をぶつける。バク転に失敗したような形だ。すぐに立ち上がれば、さらなる追撃はなかった。
「カウンター型、ってやつか。厄介だな」
「こっちの台詞ですわ。何ですの、今の気持ち悪い動き……!」
「おい、気持ち悪いはやめてくれ」
本当は攻撃に回したかった〈土竜突〉を回避に使わされたんだ。相手の防御スキルのクールダウンは分からないけれど、スキル交換だとしてもダメージの分、俺が損している。
HPの有利を作ったオダマキさんは、無理をせずに堅実に構えなおした。防御力の低い俺は、今の一撃で4割ほどHPを持っていかれている。防具、買い替え時かなぁ。
「……防御型は揺さぶる」
俺のやることは1つ。足を使うしかない。
短剣を構えて大きく旋回するように突進。けれど薙刀の方がリーチが長いので、相手の突きの方が先に届く。
薙刀の切っ先を睨むように見て、タイミングを計り〈ハイジャンプ〉を発動。小柄なオダマキさんの頭の上を飛び越える。
「その程度なら!」
オダマキさんは突いた薙刀を、体ごと大きく回して背後に向かって払う。
――しかし、俺はそこにはいない。
「人の目は、上下の動きにはすぐについてこれないらしいぜ」
ちょうどオダマキさんの頭の上で〈エアステップ〉を使い、飛び越えると見せかけて反転。この位置からなら外さない。
「〈土竜撃〉!」
短剣の方でスキルを発動し、頭上から回転攻撃を仕掛ける。体全体を車輪のように回転させ、真上からの一撃を叩きこむ。
反射的に防いだオダマキさんは、流石の腕前だろう。だがこの攻撃は陽動でしかない。
「っ、えっ!?」
攻撃を防いだはずのオダマキさんの体が硬直する。〈土竜撃〉によるスタン効果が発動し、隙が生まれる。その隙に強引に攻撃をねじ込む。
宙返り、体を捻り――今!
「〈月断〉!」
煌めく刃が尾を引き、オダマキさんの肩を食い破る。会心の手ごたえ。クリティカルが発動し特大のダメージが炸裂する。
オダマキさんがたたらを踏み――全身がスキルエフェクトを帯びる。
……ん?
「〈カウンターバウト〉、〈螺旋突き〉!」
即座、大ダメージの反動を無視するように素早く体を動かし、薙刀が俺の無防備などてっぱらに突き刺さる。
残っていたHPが吹き飛び、俺の視界いっぱいに敗北判定の文字が浮かんだ。




