第七十四話:顔合わせ
DMの案内に書いてある場所を何度も確認してから、モーリーに教えてもらった店に入る。カッペルの街の片隅にある小さな酒場だ。
中には数人のNPCがいるが、彼らは無視してカウンターへ座る。そして事前に聞いていた合言葉を伝える。
「マスター。ラム酒を二杯とつまみに蛇の尾の干物、それから熊肉のハチミツ煮込みをくれ」
「……時間がかかる。奥の部屋で少し待っていてくれ」
店主は食器を扱う手を止め、カウンターに小さな鍵を置き、目線だけで奥の扉を見た。
俺はその鍵を受け取り、鍵を開けて店の奥の部屋へと入る。
待ち合わせのメンバーは、既に全員が揃っていた。
「遅いぞリョーダン。主催が遅れてどうするんだ」
「こんな変な店を紹介したのはお前だろ、モーリー。店の場所が分かりづらくて若干迷ったし、なんだあの合言葉は。妙に緊張したぞ」
「あれ、そうなんだ。僕は結構楽しかったけど」
「拙者もワクワクしたでござるな」
「俺もだね」
「だとよ、緊張したのはお前だけだ」
「じゃあもうそこはオンラインゲーム歴が浅いからってことにしておいてくれ。あんまりロールプレイには慣れてないんだよ」
軽口を言いながら、席に座ってメンバーを見回す。
ナギ、モーリー、ケンさん、ノブシゲさん。彼らは全員、俺が声をかけて集めたメンバーだ。
「えー、本日は急な呼び出しにもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます。早速で悪いんだけど――第一回、ユニークボス『決壊』の攻略会議を始めようと思います」
ナギとケンさんが、小さく拍手をしてくれた。
ユニークボス『決壊』を倒すため、あらかじめ協力を要請していたモーリーとナギ。その二人だけではなく、俺はさらにもう二人の人物にも協力を要請していた。
ギルド『戦国同盟』のリーダーであり、ナギとも同等の実力を持つノブシゲさん。そしてこのゲームの対人戦において最強と目される星剣使い、ケンさん。
この二人に声をかけたところ、反応はすぐに返ってきた。
ケンさんの答えは即答のイエス。ただし、協力するうえでの追加条件があるとも言ってきた。
その協力条件とは、ボス攻略後にケンさんと本気の勝負をする、というもの。
レベル差があることも承知で、それでもケンさんは一度俺と戦ってみたいらしい。何というバトルジャンキー。
そんなことで良いのならと、俺も了承した。それだけでケンさんの力が借りられるのなら安いものだ。
一方のノブシゲさんは、もし本当なら是非とも協力すると言ってくれたものの、まだ確信が持てないと言われた。
というわけで、みんなへの説明と作戦会議のためにも集まってもらったというわけだ。
作戦会議が始まってすぐ、ノブシゲさんが手を挙げた。
「まず拙者から確認したいのでござるが、リョーダン殿が名を挙げたユニークボス、『決壊』とやら。つまりは、リョーダン殿は新たなユニーククエストを発見し、さらにはボスと戦うところまでクエストを進められたと、そういうことでござるな?」
「ええ、そうです」
「いまさらリョーダン殿を疑っているわけでもないのでござるが……いきなり言われてもにわかには信じられなくてな。ユニーククエストに挑めるという、何か証拠でもあれば諸手を挙げて協力いたすのでござるが」
「ノブシゲさんの言うことは最もですね。こんなスタブレ始めたてのプレイヤーが、いきなりユニーククエストがどうこう言っても、まず普通は信用できないと思うんで」
予想していた俺は、「他言無用で」と一言添えてから、自分のクエスト受注欄のスクリーンショットを共有した。
当然、その受注クエスト一覧の中には、『ユニーククエスト:封土決壊』の文字がある。
「これは俺のクエスト受注欄の画面です。見ての通り、ユニーククエストを受注しています。俺は既にユニーククエストの攻略経験があるモーリーに協力を依頼しました。モーリーの証言によると、ユニーククエストは二段階制。前提条件をクリアすることでクエスト名が変化して、ボスに挑めるようになります」
もう一枚、ユニーククエストのクエスト名が変化する前に取っておいたスクリーンショットも共有する。
「そしてもう一つ、この二つの宝石が、ユニーククエストの前提条件。つまりボスに挑むためのキーアイテムです」
俺はテーブルの上に、二つの『割れた宝玉』を置いた。一度台座にはめ込んだが、その後も普通に取り外せたのだ。
もしあの場に置いたままにしておいて、第三者が偶然見つけたら困るのでちゃんと回収してある。
「ボスに挑むための条件は俺が以前にクリアしたユニーククエストと同じだ。確かに、リョーダンはボス戦一歩手前という状況らしいな」
「なるほど、そこで俺たちに協力してほしいってことだね」
「そうです、ケンさん。いくら何でも、俺一人でボス攻略なんてできないと思うので。報酬は山分けするドロップアイテムと、ユニークボス討伐の名誉。いかがです?」
にやりと笑ってノブシゲさんに問いかける。彼もまた、俺と同じように笑って深く頷いた。
「相分かった。であるならば、拙者も協力いたそう」
「じゃあ、これから本格的に攻略会議……といきたいところなんですけれど、実は俺もまだボスに対する攻略に役立ちそうな情報をほとんど掴んでいないんです」
俺はそう前置きしてから、これまでの一連のクエストの中で得た情報を共有した。
地下にある封土神殿のこと。星喰獣の逸話と、それを調べていた学者ボナパルトのこと。モグラたちとの組手と、遺跡の壁画からボスもおそらくモグラ型だろうという予想。
だがこれまで得た星喰獣に関する情報はフレーバーテキストに近いものばかりで、ボスの見た目や能力、果ては攻撃モーションなんかはまったくわかっていない。
「と、ここまでが今のところ分かっている情報です。正直、ゲーム内情報を考察するならともかく、攻略に役立つかと言われると微妙なんですよね」
「うーん、確かにこれだけの情報だと、流石にいきなり攻略するのは難しいと言わざるを得ないね」
「ああ、俺も同感だ。ボスの動きや弱点が全く分かっていないとなると、対策の立てようもない。このメンバーの実力なら、並大抵のボスならそれでもいいかもしれないが、ユニークボスとなるとな……」
ふと思い出したように、ナギが声をあげた。
「ちなみにモーリー、『霧消』を倒したときは何回くらい挑んだんだい?」
この中で唯一、ユニークボス攻略経験のあるモーリーの情報は貴重だ。全員が彼の言葉に耳を傾ける。
「『霧消』のときは俺のところのメンバーでも指折りを募って、四回目で討伐できたな。一度目が様子見、そこから準備と対策をしながら三回挑んで、ようやくクリアできたって感じだ」
「あの霧って二週間に一回しか出現しなかったんだよね。ということは二か月近くかかったってことか……。今回はそういう回数制限とかはないの?」
「一度も挑んでないから確信できないけど、ないと思ってる。ボス戦一歩手前まで行ったけど、時間の条件になりそうなものは特に見当たらなかった」
「であれば、やはり一度挑んでみるのが手っ取り早そうでござるな」
全員が頷く。もちろん俺も同意見だ。
「おぉ、ここが件のダンジョンでござるか!」
「僕、絶叫系はダメななんだよ……。次来るときも同じトンネルを通るの、リョーダン?」
「そうなるな、頑張れナギ」
このままテーブルを囲んでいても進展がないため移動。全員を引きつれ、封土神殿までやってきた。
巧妙に隠された地下トンネルを滑り降りたことで、ナギが若干グロッキー状態ではあるものの、それ以外のメンバーは新しいダンジョンに興奮している様子。
「こんな辺鄙なところにダンジョンがあるなんて驚いたぜ。よく見つけたな」
「まぁなりゆきで」
みんな驚きの表情と共に、辺りを見回している。ケンさんは早速、近くに生えている宝石樹に近寄っていた。自由かよ。
「はいはい、皆さんこっちですよー」
バスガイドの気分で、全員を奥の遺跡へと連れていく。
道中、モグラたちは出てこなかった。俺一人の時はひょこひょこと歩き回っているので、おそらく他の皆を警戒して出てきていないのだろう。
普段は静かで厳かな封土神殿も、流石に何人ものプレイヤーで押しかければその重苦しい雰囲気も和らぐというもの。足取り軽く進み、やがて封土神殿の奥にある祭壇の前までたどり着いた。
「ここからおそらく、ボス戦が始まります」
「すごいね、周りの壁画とかも作りこまれてる」
「俺はこういう固っくるしい雰囲気、あんまり得意じゃないな。地下だから暗いし」
全員が顔を見合わせ、一つ頷く。
「じゃあ、行きます」
俺は中央の台座にある宝玉をセットし、そのまま台座を起動した。次の瞬間、視界が光に包まれる。




