第四十三話:ニール港へ到着! そして波乱
道中にナギとミーニャから変態の誹りを受けたりしつつ、しかし俺たちは無事にニール港へとたどり着くことができた。
港の手前にある小高い丘を頂上まで登りきると、視界が一気に広がる。
「おおー、ここがニール港かぁ」
ぱっと眼前に広がる景色の先には、水平線。海だ。
三日月型にゆるやかな丘があり、そこから海岸にかけて大きな港街が広がっている。三日月の両端には立派な灯台が二つ、港のシンボルだ。
港には巨大な船が幾つも停留していて、遠くからでも港の活気が伝わるようだ。
キュー、とカモメだかウミネコだか分からない鳥が鳴き、俺たちの頭の上を飛び去って行く。
「こういう景色ってわくわくするよな」
「あ、分かる。私もニール港の雰囲気、結構好きなんだよね」
「ふふ、何だかお上りさんみたいなリアクションだね」
「何だよナギ、悪いか?」
「ううん、微笑ましいなぁって思っただけだよ。ほら、早く行こう!」
ナギを先頭に、俺たちは港街ニールへ向かって元気よく歩き出した。
ニール港の中は、外から見るよりも数段の活気があった。
カッペルと比べると露店の数が多い。NPCが客引きのために声を張り上げていて、どこからか食べ物のいい匂いまでしてくる。
雑然とした活気、とでもいうのだろうか? 威勢のいい海の男の掛け声も聞こえてきて、気分があがる。
「ニール港はいつ来ても賑やかだよねぇ」
隣を歩くナギも、何だか上機嫌で楽しそうだ。さっそく近くの露店で串焼きを買っていた。
「自由すぎるでしょ、ナギちゃん」
「美味しいよ? ミーニャも食べる?」
「うーん、可愛いからヨシ!」
「買い食いはいいけど、これからどうするんだ?」
ミーニャに聞けば、どうやら彼女はこの後のプランがあるようで。
「リョーダンはニール港の冒険者ギルドに行くんでしょ? その後は一緒に近くのダンジョンにいかない? 近くの浜辺に洞窟型のダンジョンがあるんだ。ミーニャも、一緒にダンジョン攻略しようよ」
「あら、良いわね。ナギちゃんとダンジョンなんて、久々な気がするわ」
「ダンジョンか、それは楽しみだな」
そんな会話を交わしながら街の中を進んでいくと、すぐに大きな建物を見つけた。あれがニール港の冒険者組合だな。
両開きの押戸を開けて中に入ると、予想通り、多種多様な装備に身を包んだ大勢のプレイヤーがこぞってクエストを受注していた。
ニール港は初心者の街カッペルとは違い、このゲームに慣れてきたプレイヤーが多い。必然、装備の質も見た目も優れている。
今は新フィールドのヤマト島に一番人が集まっているらしいが、そのヤマト島と繋がる港であるニール港にも、同じくらい人が集まっている。
「受付はあっちか。悪い、二人とも。ちょっとメインクエスト進めてくる」
「オッケー、私たちは向こうで待ってるね」
二人を待たせ、受付のNPCに声をかける。その際にカッペルの街の受付で貰っていた紹介状を渡した。これでメインクエストが進行するはずだ。
「こんにちは。これ、紹介状です。これを渡せばいいってカッペルの冒険者組合で言われたんですけど」
「はい、お話は伺っていますよ。リョーダンさんですね、このニール港周辺での冒険者活動の申請、承りました」
紹介状のおかげでスムーズに話が進み、受付からニール港周辺の地図を受け取った。
ふむふむ、海岸の浜辺が探検できるほか、近くにはサバンナのような草原もあるのか。
これでニール港周辺のフィールドにも冒険にいけるようになった。
メインクエストでは、ここからニール港周辺を探索して星の遺跡を探し出す必要がある。だが今日はナギが近くのダンジョンに連れて行ってくれるというので、一緒に遊ぶとしよう。
受付で手続きを済ませ、メインクエストの進行度を進めてからナギたちの元へ戻ってくると、何やら人だかりができていた。
何事かと近寄ると、
「うわ、凄いことになってるな……?」
思わずそんな言葉が口から出てきた。
「あの、ナギさんですよね!」
「うわぁ、本物だ! 会えると思ってなかった!」
「スクショ良いっすか?!」
「スクショはNGで……!」
ナギとミーニャは、何人ものプレイヤーに囲まれ、対応を迫られていた。しかもどうやら相手は一パーティーというわけではなく、複数のパーティーから勧誘されているようだ。
「ほら、ちょっと! しつこいよアンタたち!」
「どう、俺らとパーティー組まない? 俺らこれからダンジョン行くんだけど、やっぱ女の子もいた方が華やかだしさぁ」
「そうそう、ナギさんみたいな人に、俺らもプレイのコツを教えてもらいたいっていうかー?」
「お断りよ!」
困ったような苦笑いで相手をしているナギと、そんなナギを守るように強い口調で断りを入れているミーニャ。
多くはその言葉を受けて素直にその場を離れたものの、しつこく勧誘してくるパーティーがいるようで。どうも穏やかな空気ではなくなってきている。
そんな二人が俺と目が合うと、途端にパッと顔を明るくして駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなさい。今日は友達と遊ぶので、この辺りで!」
俺の手を取り、ナギとミーニャは通りへ飛び出そうとした。
だが、その前を数名のプレイヤーが遮る。やけにしつこかったプレイヤーたちだ。三人組で、いずれも男性プレイヤー。装備の質から見るに、レベルもそれなりにありそうだ。
「ちょっと、連れないなぁ。というか、誰その男?」
「え、ええと、僕の友達で……」
ナギのたどたどしい言葉を受けて、男たちの注目が俺に移った。刺々しい視線を隠そうともしない。
離れていったプレイヤーたちも、遠巻きに騒ぎの様子をうかがっているのが横目に見える。
……うわぁ、何か嫌な感じに目立っているぞ?
ネットのやりとりに疎い俺でもこの空気は何となくわかる。
彼らはナギの周りに男の俺がいるのが、あまり面白くないのだろう。俺が思っていたより、ナギはアイドル的な人気があるらしい。
絡んできた男は不躾に俺の全身を上から下まで値踏みするように眺め、吐き捨てた。
「どう見ても初心者じゃん。俺らの方がナギさんの役に立つって」
「そうそう、こういう足手まといをパーティーに入れないほうが良いっすよ、ナギさんは強いんだから」
おっと、露骨に喧嘩を売ってきたぞ?
こういうタイプのプレイヤーが、本当にいるとは思わなかった。スタブレは剣に頭をやられている狂人は多いが、比較的に治安が良いゲームだと思っていたのに。
カチンときたものの、この手の輩は相手にしないのが一番である。
「ナギ、ミーニャ。相手にしないほうが良いよ、行こう」
男たちを押しのける。だが外に出ようとしたとき、そのうちの一人がなんと剣を抜いて、行く手を阻んだ。
――対戦が申し込まれました。受理しますか?
目の前に浮かび上がったのは、対戦申請だ。
「なぁ、お前。雑魚の癖にナギさんに付きまとって、恥ずかしくないの?」
「……本気かよ?」
まさかこんな大勢の前でPVPを申し込まれるとは思わなかった。何だこの状況。
周囲のプレイヤーは騒ぎを聞きつけ、野次馬のようにどんどん集まっている。突発的な揉め事というのは、無関係の人間からすれば面白く見えるものだからなぁ。
ゲームということもあって気が大きくなっているのか、相手の男は周りにわざと聞こえるように大きな声で煽る。
「俺が初心者に剣の振り方を教えてやるよ。まさか逃げねぇよな?」
困った。正直、あまり勝てる気がしない。
だって装備を見るに、相手のレベルが高いのは事実だし。流石にナギよりレベルが低いだろうが、それでもレベル40台くらいはありそうだ。
無視して突っ切ってしまおうと思い、後ろを振り返ると、心配そうに俺を見ているナギと目があった。小さな背丈がいつも以上に小さく見える。
……しょーがないなぁ。
「……昔っから自信あり気な割に、押しに弱いタイプなんだよ」
「あ? 何か言ったか?」
「こういうヒーローチックなことは、柄じゃないって言ったんだよ」
気が変わった。ここまでお膳立てされて、逃げるのも釈然としない。それに、相手の態度に腹が立っているのは事実だ。
男なら覚悟を決めなきゃいけないときがある。
それはきっと、モグラと戦ったときもそうだし、今みたいなときもそうだ。
腰にさげた居合刀の柄に触れる。硬い握りの感触に馴染みのようなものを感じて、俺もすっかり剣に頭をやられてしまったのかもしれないな、と思った。
俺は深く息を吸い込み、目の前のウィンドウに表示された承認ボタンを押した。




