第二十五話:モグモグ百匹組手・リベンジ
リベンジマッチ
「……モグ?」
「よう、リベンジしに来たぜ」
翌日。学校帰りにコンビニへ立ち寄って、普段はあまり飲まないエナジードリンクを買ってきた俺に抜かりはない。授業中にしたイメトレもばっちりだ。
体調は万全。準備は万端。気合は満タン。カフェインは十分。
もう一度封土神殿に来る際に、剣の欠片を大量購入して、第一の愛刀『旅立ちの日本刀・改』を酷使してきた。
愛刀をへし折りながら採掘したことにより、レアアイテムっぽい『翡翠の地脈樹片』と、追加で赤い色の宝石樹から『深紅の地脈樹片』もゲットしなおしたぜ。
おかげでお金がすっからかんになったがな!
剣の欠片のや回復ポーションの値段も、数が増えると馬鹿にならないんだ。
もし今回の戦いに負けてリスポーンしようものなら、次に挑むには消費アイテムを買うだけの大量のお金を確保してこないといけない。
つまりこれから、俺の全財産を賭けた負けられない戦いが始まるのだ。まさに背水の陣。
「そう、思えば最初から気概が足りなかったんだよな」
挑む前から百匹相手は無理ゲーだとか、やれるだけはやる、みたいな消極的な思考だった。
そんな弱気で勝てるわけがないんだ。
自分を信じられないやつが、そして自分の剣を信じられないやつが、いったい何に勝てるというのか。
「昨日は不甲斐なくて悪かったな、モグラ」
強敵であるモグラには、その覚悟を教えてもらった。そんな相手には敬意を払うべきだ。
一礼してモグラに対峙し、柄に手を添えて剣を構える。するとモグラも挑戦者がやる気とみて、スコップを構えた。
「モグ!」
一声鳴くと、またしても俺を取り囲む百匹のモグラ。
今日の俺は、昨日の俺とは一味違う。全員斬り捨ててやるぜ。
深く息を吸って、集中。
すっと、思考が研ぎ澄まされ、スイッチが切り替わり、視野が一時的に狭くなるような感覚。音が遠くなり、ただ自分の思考が加速する。手足に力が漲る。
「いざ、尋常に――」
「モグモグ!」
「――勝負!」
まず一匹。
五匹のモグラが連続で俺に飛び掛かってくる。互いの隙を補うような形で、時に時間差で、時に死角から。
「逃がすかぁ!」
突撃を終えて着地したモグラに〈瞬歩〉で追いすがり、
「〈半月斬り〉!」
大きく横薙ぎで撃破。そのまま体を捻り、背後から飛んできていたモグラにも強引に刀の軌道をぶつけて二匹まとめて撃ち落とす。
当たり判定がデカい攻撃は強ぇ! 何より〈半月斬り〉の方なら〈連閃〉と違って一撃でモグラが落ちる!
〈納刀〉と同時に走り出し、他のモグラから距離を取る。
「オラオラ邪魔だどけぇ!」
ギャラリーのモグラに突撃すれば、巻き込まれるのを嫌って群衆が左右に避けた。
モグラが取り囲んでいる範囲は僅か十メートル程度の円だが、実際の中庭はもっと広い。ギャラリーを押しのけて空間を十全に使っていく。
走る最中にふと、正面に生えている宝石の木に意識が向いた。
まるで鏡面のように綺麗に光を反射している宝石の、そこに映る俺の顔は、獰猛とすら表現できる笑顔だった。
そしてその鏡面の向こう、背中側から飛んでくるモグラを認識した瞬間、体が反射で動き出す。
宝石の木に足をかけて跳躍し、背後から追いかけてきたモグラの突進を避ける。モグラは急ブレーキに失敗して宝石の木に頭をぶつけていた。
空中に身を躍らせた俺を狙って攻撃を仕掛けてくるのは、三匹のモグラ。これは一度に避けきれないので、チャージを諦め抜刀して三匹分の突進攻撃を順に弾く。再チャージに時間がかかるが、必要経費だ。
こういうときに空中ジャンプが欲しくなるな。
中庭のコロシアムを縦横無尽に駆け、モグラの猛追を振り切る。
こまめにステップを刻み、ジグザグの動きを意識しながら走り続ける。背中を狙って弾丸のように飛んでくるモグラに追いつかれないよう、走って走って走る。
そして居合刀のチャージが溜まれば俺から攻撃に出る。
「モグ!」
「〈瞬歩〉、〈抜刀〉!」
互いの突進のタイミングが噛み合い、俺とモグラの間の距離が一瞬でゼロになる。音より速く、激突。
まさか俺のほうからも突進してくるとは思っていなかったのか、モグラがスコップを振り切る動作が遅れている。
思考が加速する中、細切れの視界で咄嗟に防御に回ろうとしたモグラの驚いた顔が見える。賢いし反応速度も悪くないが、
「俺の方が速いなぁ!?」
居合刀の切っ先が奔り、モグラを真っ二つにする。ダメージエフェクトを後ろに残し、鞘の中へ叩きつけるように勢いよく〈納刀〉、そして一秒たりとも立ち止まることなく駆けだす。
「強壮ポーション様々だ!」
かなり高かったのだが、買ってきてよかった。
強壮ポーションはHPを回復する回復ポーションとは違い、飲んでから一定時間、STの回復速度を高めるポーションだ。
効果時間が長いものや回復速度の上昇量が高い高位の強壮ポーションは滅茶苦茶に値段が高かったので一番安いものを買ってきたのだが、それでもスキルの連続使用を後押ししてくれる。
このSTドーピングがなければ、スキルのクールタイムが間に合ってもSTの回復が間に合わずに途中で息切れしてしまうだろう。
このポーションはお金に余裕があれば常飲したいくらいだ。
また一匹突撃してきたので回避。すぐに切り返してジグザグステップで距離を稼ぐ。これでまた少し余裕ができる。
「そう、これは組手! 俺もお前らから学ばせてもらうぜ!」
突撃と一撃離脱を繰り返して戦場を駆けまわる戦闘スタイル。これ、モグラたちの戦い方と同じだ。
でもAGIを活かした居合刀の戦い方としては、これが最適な気がする。
互いに己の速度を誇示し、追いかけ、振り切り、縦横無尽にフィールドを駆け回って激突する。
戦場にエントリーしてきたばかりの新たなモグラを容赦なく斬る。リスキルして悪いな、でも戦いってこういうものだから!
「ワハハハ、何か楽しくなってきたぞぉ!?」
呼吸すら忘れるほど深い集中と、同時に広く敵の動きを見られている冷静な視野、加速する思考、そして上がり続けるテンションのボルテージ。ベストコンディションだ。快感すら覚える。
さて、そろそろ折り返しだ。まだまだイケるぜ!
するとやはり、折り返しを過ぎてからモグラたちの練度が上がった。攻撃はより鋭く、素早くなる。
そして、これまた予想通り、
「モグッ!」
「二段加速もしてくるよなぁ!」
今回の戦闘で初めてまともに攻撃を受けた。スコップの刃先が俺の胴を斬り、HPが瀕死まで削り取られる。
だが、来るとわかっていれば驚きはない。
流れるような動作でショートカット登録を呼び出し、回復ポーションをすかさず使用してHPを安全圏まで回復。そのまま足を止めずに走り、距離を作る。距離はそのまま次の動作への余裕に繋がる。
「モグ!」
距離を詰めてくるモグラ。カウンターを合わせて、
「〈抜刀〉!」
「モグ!」
モグラは居合刀を二段加速で回避し、角度を変えて突撃してくる。虚しくも空振りになる居合刀。
だが、それは予想していた。
「〈連閃〉!」
故に追撃の二発目で迎え撃つ。STの消費は嵩むが仕方ない。
追撃をぶつけて弾き返す。腰を捻り、納刀する前に別モグラの突進を刀身で逸らして受け流してから走って〈納刀〉。
背中に飛び掛かってくるのまでは織り込み済み、横にステップを踏んで避ける。
急角度でのステップは現実でやれば足を痛めてしまうような挙動だが、VRだからこそできる変態挙動だ。
追いかけるように空中で軌道を変えたモグラの二連突撃に合わせて、俺も〈瞬歩〉を発動。即座に位置取りを変えて回避。
さぁ、居合刀のチャージが完了するまでは追いかけっこだ。
「ハハハハ、走れ走れ走れー!」
「モグ!」「モグモグ!」「モグモグモグ!」
アドレナリンがどばどば出ている感覚、戦いの高揚感とそして謎の無敵感。
今の俺なら勝てる。
一匹飛んでくる。チャージはあるが、一度見逃して回避。
ニ匹飛んでくる。〈半月斬り〉をぶち当てて同時に撃墜。
三匹飛んでくる。ステップと〈瞬歩〉による無茶なジグザグ軌道で回避。
ちょうど目の前に着地したモグラがいたので蹴り飛ばす。ダメージはないがボールのように吹き飛んでいったので距離ができた。この隙にチャージ。
モグラたちと切り結ぶたびに動きが洗練されていく。目まぐるしく変化する視界と立ち位置を脳が高速で処理して、次に攻撃が飛んでくる方向を予測する。
追いかけてくる弾丸のような斬撃から逃げ、次は攻撃するために追いかける。攻守が一瞬で逆転し、一撃で殺す反面、気を抜けば一撃で殺されるという緊張感が背筋をずっとはい回っている。
瞬きすることすら恐ろしい高速戦闘。だが、それがたまらなく楽しい。
剣の一振りが、踏み出した一歩が全て経験値になる実感。ただ訓練所で剣を振っているよりもよっぽど身になる。
VR空間だからできる無茶な体の動かし方でも、関節を痛めたりすることがない。現実ではできないような速度で足を動かし、腕を振り、視界がくるくると回るなかでモグラたちと戦う。
本来なら静かな地下空間に響き渡るのは、俺の雄叫びとモグラの鳴き声。そして剣と刃がぶつかり合う高らかな金属音だ。
騒々しく、荒々しく、鎬を削る。命を削る。
そして、終わりがないとすら思えたモグラたちとの組手は、ついに最後の一撃を迎えた。
「これで終わりだぁ!」
「モグ……!」
剣閃が交差する。振り抜いた居合刀に確かな手ごたえを感じ、最後の一体であるモグラがポリゴン片となって砕け散った。
「強敵だったぜ、モグラ」
百体のモグラを倒しきった。
深く息を吐き、ゆっくりと納刀。キン、と硬い音を立てて刀を鞘に納める。そして無人となった闘技広場に、一礼。
良い組手だった。学ばせてもらったよ、モグラ。俺はもっと強くなれる。
「さぁ、どうなる?」
ポコ、という効果音と共に新しいモグラが地面から現れた。
ただしそのモグラに敵意はなさそうだ。つぶらな瞳で俺を手招きしている。
近寄ると、一枚の紙を差し出してきた。
「モグ!」
「おう、ありがたく受け取るよ」
・モグラの認定状
モグラに実力を認められた認定状。この認定状を持っていれば、新たな試練に挑むことができる。
――『サブクエスト:モグモグ百匹組手』をクリアしました。
――EXスキル〈土竜突〉を習得しました。
――レベルが20にアップしました。
――装備中の『旅立ちの旅装(上)』『旅立ちの旅装(下)』の装備制限を満たさなくなりました。装備を自動で外します。
――『サブクエスト:モグモグ百匹組手・皆伝編』が発生しました。
「……えっ?」
突然、全裸に金属ヘルメットと腰巻き装備の蛮族スタイルに衣装チェンジさせられた。
沢山のシステムメッセージが現れ、最後にクエスト発生のウィンドウが現れると、モグラは満足そうに頷き、地面に帰っていった。
……えっ?




