第二十三話:封土神殿
落とし穴に落ちた俺は、そのままトンネル状に掘られた地面をどんどんと転がり落ち――末端の出口へたどり着いた。どしんと尻もちをつく。
「びっくりしたぁ!」
ゲームなので痛くはないが、現実だったら死んでたぞ、この落とし穴。
おむすびころりんも真っ青な距離を転がった気がする。途中がスロープ状になっていたとはいえ、随分深い位置まで落ちた。
地面に打ちつけた腰を押さえながら立ち上がり、辺りを見回す。
「……なんだ、ここ」
俺は言葉を失った。
ねじくれ曲がった太い木のようにいくつも地面から生えているのは、赤や青や緑など色とりどりの宝石の塊。
硬い岩盤を削って作られた道と、岩をくり抜いて作ったような奇妙な構造の巨大遺跡。
上を見上げれば空はなく、ここが地下なのだとわかる。地下にドーム状の空洞ができあがっているのだ。あちらこちらから無数に生えた宝石の木そのものが光を放ち、光源になっている。
俺は反射的にメニューを開き、現在地を確認した。
フィールド名やダンジョン名が記載されるそこには、これまでの「西風の平原」の代わりに、「封土神殿」の文字が記載されていた。
封土神殿なんてダンジョン名、聞いたことがない。
「おいおいおい……」
周囲のオブジェクトの雰囲気からも察せられる。何だかとんでもない場所に来てしまったようだ。
「ここがモグラの巣、ってことか?」
周りを見回してもモンスターの姿はない。
地下だからか、耳が痛くなりそうなほど静かだ。風の音すら聞こえない。それだけで厳かというか、どこか張り詰めた雰囲気を感じる。
初めての遺跡攻略が、まさかストーリーの「森の神殿」でないところになるとは。
「とはいえここまで来て、手ぶらで帰るわけにはいかないよな」
俺は恐る恐る、遺跡に入っていった。
「本当にデカい遺跡だな……」
視線の先にあるのは巨大な神殿。そこまで続く道と、街路樹のように生えた光る宝石の樹。
「この木みたいな宝石、もしかして採掘できるか?」
思いついたら即実行だ。近くに生えていた緑色の宝石樹の前に立つ。これにするか。
メニューを開いて武器を『旅立ちの日本刀・改』に変更。鞘から刀を抜き、大きく振りかぶる。
「オラッ!」
剣を勢いよく宝石の木に叩きつける。
ガキンッ! と気持ちのいい音を立てて――日本刀が折れた。
「マジで!?」
なんだこれ、硬っ!?
「いや、そう簡単には採れないとは予想していたが、ここまでとは」
宝石が硬すぎて、剣の耐久値の総量が足りていないのか?
だが俄然レアアイテムの気配を感じる。一個で良いから持って帰りたいな。
剣の欠片を消費して折れた旅立ちの日本刀・改を修復し、またしても叩き折る。
修復、折る、修復、折る。
「何か申し訳なくなってくるな……」
初めての愛刀にこの仕打ち、俺も心が痛い。だがこれもレアアイテムのためだ、悪く思うな。
そして手持ちの剣の欠片を使い果たし、やっぱり無謀だったかと諦めかけた最後の一撃、刀が折れると同時に、ついに宝石樹の一部が割れて欠片がドロップした。
・翡翠の地脈樹片
特殊な環境下において長い年月とともに凝縮した地脈の結晶。淡く光を放ち、一欠片であっても膨大な力を秘めている。
「おおぅ、間違いなくレアアイテム!」
絶対に良いアイテムだ。大事にしよう。
もっとたくさん欲しいが、手持ちの剣の欠片がもう残っていない。これ以上の採掘は無理だな。
その代わりに今の採掘アクションで尋常ではないスキル経験値が入ったらしく、採掘系統のスキルツリーのレベルが大きく上がった。メッセージウィンドウが次々に現れて新しいスキルの習得を教えてくれる。
「うわ、めっちゃスキルが増えた」
非戦闘時にオブジェクトへ与えるダメージを高め、採掘効率を上げるパッシブスキル〈採掘の心得〉。
採掘に使用した道具の耐久値減少を抑えるパッシブスキル〈道具は大切に〉。
さらには何と、鉱石系モンスターに与えるダメージを180秒間増加させるバフ系のアクティブスキル〈破魔掘〉。
副産物的に手に入ったスキルだが、割と助かるかもしれない。
「あとは遺跡の中も調べてみるか」
俺が落ちてきた場所から真っすぐ道が伸び、その先には神殿と呼ぶにふさわしい装飾が施された巨大な遺跡が建っている。あれがきっと、遺跡の本丸だ。
何か貴重なお宝とかないかな。気分はトレジャーハンターだ。
「しかし、モンスターの気配がないな」
ここに来てからモンスターやNPCの気配がない。不気味なくらいに静かだ。クエスト絡みでモグラが出てくるかと思ったが、そんなこともない。
「いや、こんなところで出てくるモンスターなんて会いたくないが」
遺跡を守るガーディアンみたいなモンスターがいたとしたら、絶対に強いもんな。
周囲の警戒を怠らず、俺は恐る恐る遺跡の中に足を踏み入れた。
遺跡の中は天井が高く、岩の柱が乱立していて広い。
手近な柱に近寄ると、柱には仰々しく文字が刻まれていた。
「なんだこれ。読めない……いや、読めるのか?」
ほとんどが意味不明な文字や掠れて読み取れない文字だが、中には字体が崩れているものの日本語で読める単語が混ざっている。色んな言語の継ぎはぎなのか、これ?
ゆっくりと、読める単語だけをつなぎ合わせ、解読を試みる。
「星……獣……神殿? これは読めない、飢えた、封土、崇める、決壊?」
内容が抽象的すぎてよくわからない。意味がありそうで繋がりが見えない単語ばかりだ。
何度も繰り返される文字は、「封土」「獣」「星」「決壊」あたりだろう。
「神殿っていうくらいだから、何かを祀っているのか……?」
だがこのスターブレード・ファンタジーという世界において、神様は設定上存在しない。
それに類するものがこの世界を作ったとされる『大星』だが、ここはその大星とは無関係な建物なのか? それとも、ここも『星の遺跡』の一つなのか?
「……ダメだ、手掛かりが少なすぎる。そもそもこういう考察には向いてねぇんだ、俺は」
頭を振ってごちゃごちゃした考えを振り払う。スクショでも取っておけば、考察なんて後からいくらでもできるだろ。
「いきなりデカい遺跡が出てきて目的を見失いかけたが、そもそもの目的はサブクエストなんだ」
こんな、遺跡に入ってすぐの柱でいちいち頭を悩ませている場合じゃない。
ということでスクショを数枚撮った後に柱から離れて神殿の奥に向かう。
すると、少し歩くだけですぐに中庭のような広い場所に出た。
円形の広場と、それを彩るように生えた大小様々な宝石の木。ここが建物の中心のようだ。
そしてその広場の中央で待つ、一匹のモグラ。
「ビンゴ」
クエストの目標地点だな。
小さな体ながら堂々とした立ち姿で俺を待つモグラの前に相対する。
「よう、待ち合わせ場所はここで良いのか?」
言葉が通じるかは分からないが、ちょっと挑発的に声をかけてみる。
よく観察すると、なんだか今まで見てきたデフォルメモグラよりも目つきが鋭く強そうだ。毛並みの色もちょっと違う。
俺の姿に気が付いたモグラがスコップの刃先を突き付けてくる。
「モグ!」
一声鳴いた次の瞬間、周囲の地面から大勢のモグラが現れて俺を取り囲んだ。
神殿の中庭に突如出来上がる、広さ十メートルほどの狭いコロシアム。観客は全員モグラのアウェーだ。
「おいおいおい……」
取り囲むモグラの数が滅茶苦茶に多い。十や二十じゃ効かない数だ。クエスト名が『モグモグ百匹組手』だったが、まさか本当に百匹いるんじゃないだろうな。
そう思った矢先、目の前にメッセージウィンドウが浮かび上がった。
――クエスト進行状況が更新されました。
――ソードディグ・ナイトを百体倒せ。
多分明日も更新します




