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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第二章:土竜と竜と遺跡と宝石、世界は星のみに非ず

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第二十二話:川を渡って


 シャーロさん、えびはちまきさんと別れた俺は、NPCに頼んで船を出して貰い、対岸へ渡った。

 この先にある山の麓がサブクエストの目的地になっている。


「この山には特に何もないって話だけど」


 広大なマップが売りの一つであるスターブレード・ファンタジーでは未探索エリアも多いが、その分、攻略勢による探索が盛んにおこなわれている。新マップであるヤマト島も現在、攻略勢のプレイヤーによってマッピングがされている最中だ。

 この先にある山もプレイヤーによって既に調べられたらしいのだが、特別変わったものはなかったとのこと。せいぜい、鉱石の採掘スポットがいくつかあった程度だとか。

 マップ上でも名前がついたフィールドではないし、山といっても険しいものではなく、なだらかで低い山だ。わざわざ来ることはない、と。

 話を教えてくれたシャーロさんたちも、特に用事があるわけではないので川を渡った先には行ったことがないらしい。


「でも地図はこの山なんだよなぁ」


 しかも、山の頂上ではなく麓のところに印がついている。ランドマーク的なものがあるとしたら頂上にありそうなものだけれど。

 拙い地図を頼りに山に近づく。すると……。


「グルル……」


 クマさんに出会った。


「デカいな……!」


 立ち上がると俺の身長の二倍くらいある大きなクマだ。太い腕と涎を垂らした凶悪な口。とてもお友達にはなれそうにない。頭の上には敵対エネミーのマークがついているからね。

 デカいモンスターというのは、それだけで迫力がある。VRならなおさらだ。

 これまで出会った大きなモンスターは黒毛の狂虎くらいか。あとついさっき食べた魚。

 ハングリーグリズリーと名がついたクマが、両腕を広げ威嚇しながら立ち上がる。


「それは隙だぜ」


 素早く踏み込んで〈抜刀〉。ジャンプして首を狙う……が、なんとクマは太い腕を交差して斬撃を防いだ。

 フルチャージの一撃は防御の上からでもダメージを与えたようだが……良い反応しやがる。このクマ、強いかもしれない。


「毛皮が硬いな」


 手応えはイマイチだった。

 すぐに〈納刀〉してバックステップ。チャージ再開。

 クマが腕を振りかぶり俺を叩き潰そうとする。図体がデカいが動きは比較的遅い。余裕をもって回避して――。


 ドゴッ!


 腕を叩きつけた地面が大きく抉れた。

 ……これは、一撃貰ったら死ぬな?


「あれ、ひょっとして適正レベル帯超えちゃったか?」


 意識を訂正。このクマ絶対俺より格上だ。黒毛の狂虎のときのような絶対差はないと思いたいが。

 様子見のために一度大きく距離を取る。

 クマはよだれを垂らしながら突進、横に跳んで回避。


「グルァ!」


 だがその回避を見越していたかのようにクマは急制動、腕を大きく振るって薙ぎ払いを仕掛けてきた。

 慌てて〈瞬歩〉を発動。スキルアシストを受けつつ地面を蹴って、素早くステップ回避。

 危ねぇ、スキル発動のタイミングが少しでも遅れていたら巻き込まれていた。

 クマがそのまま連続攻撃を仕掛けてくる。デカいからこっちの回避動作もどうしても大きくなる。


 身を投げ出し、地面を転がって爪のなぎ払いを避ける。最後に〈瞬歩〉のリキャストタイムをつなぎ合わせ、バックステップで大きく距離を取った。


「こういう時に不足を感じるな……!」


 無くして気がつくありがたさ。火力を取るなら居合刀(ヤマトブレード)なのだが、攻撃を「弾く」動きができない。そうなると戦い方が安定するのは日本刀(ブシドーブレード)だ。

 あと、ヤマトブレードで使えるスキルが現状で〈抜刀〉〈納刀〉の二つしかないのも困りもの。もう一声、攻撃スキルが欲しい。

 回避、回避を続ければ痺れを切らしたクマが大振り。これは隙あり。

 チャージはまだ八割程度だが、隙は狩る。大振りを最小限の動きで回避し、毛皮の薄い脇を切り上げた。


「グマァ!?」

「今、クマって鳴いた?」


 高威力のダメージにクマは思わず後ろへ仰け反った。

 牙を剥き出し、憎らしげに俺を睨むクマに俺も好戦的な笑みで挑発。

 このクマ、頭が良いな。隙を狩られ、逆上するのではなく警戒を見せ始めた。

 だが時間は俺に有利する。睨み合いの間にもチャージは溜まる。

 じりじりと互いの間合いを図りあい、三十秒近い膠着状態の間にもチャージは完了。次はこちらから仕掛ける。

 踏み込みに反応したクマが叩きつけ。左に回避。抜刀の仕草でフェイント。クマがガード体勢になったのを見越して〈瞬歩〉で位置取りを変え、ガードを外して胴に攻撃を当てる。


「おっ、今の手ごたえはクリティカルだ」


 良いダメージ入ったな。

 クマの両腕の威力は脅威だが、動きが遅い。当たらなければどうということはない。

 まぁ、俺の集中力が切れて一撃当たればジエンドなんだけど。






 長く続いた戦闘も、ついにとどめの一撃。〈抜刀〉がクマの防御をすり抜け、胴を切り裂いた。

 ダメージエフェクトが炸裂し、ゆっくりとハングリーグリズリーが倒れる。


「グマァァァ……」

「今、クマって鳴いた?」


 何でこいつ悲鳴だけ妙にコミカルなんだ。

 まぁ良いか。時間はかかったが討伐完了。タフなやつだった。


・ハングリーグリズリーの毛皮

 ごわごわして頑丈な毛皮。防具のほか、一枚物はカーペットにも使われる。


・ハングリーグリズリーの爪

 ハングリーグリズリーの剛腕を強化する、太くて頑丈な爪。薬の材料にも使われる。




「……すげぇ、もうレベルが14になった」


 キャラクター経験値とスキル経験値が、今の戦闘で沢山手に入った。

 特に戦闘中によく使った〈瞬歩〉の歩行系統や、居合刀系統のスキルツリーのレベルが大きく上がっている。おかげで新しいスキルがいくつか増えた。


 歩行系統のパッシブスキル〈持久力〉は、歩行系統のスキルで消費するSTの消費量を低減させるスキルだ。地味だけど助かるやつ。これがあれば〈瞬歩〉をもっと気軽に使える。


 そして念願の攻撃スキルも新しく覚えた。

 居合刀(ヤマトブレード)系統アクティブスキルの〈連閃〉と〈半月斬り〉が良いスキルだ。

 〈連閃〉は日本刀系統の〈十文字切り〉のような連続攻撃スキルで、〈抜刀〉と組み合わせて発動することで現在チャージ量30%相当の攻撃を追加で放つ。

 今までのチャージ攻撃一発分が、この〈連閃〉を重ねれば一発強になるのだ。


 そしてもう一つの居合刀系統アクティブスキル〈半月斬り〉。これは〈抜刀〉より威力が下がるが、システムアシストを受けて体を捻り大きく刀を振り回すスキルで、当たり判定が180度ある。

 囲まれたときに対応できる範囲攻撃スキルは強い。

 これは大きな火力アップだ。


 多分、このクマの適正レベル高いよな。滅茶苦茶強かったもん。

 ステータスが腕力に寄っていて素早さが低かったから、速度を活かしながらチマチマと攻撃を当てることで時間をかけて倒すことができた。だがまともに正面から戦えば太刀打ちできなかっただろう。

 戦闘時間も、今までで一番時間がかかった。


「強敵だったぜ、クマ公」


 だが今の俺はえびはちまきさんにご馳走してもらった刺身と煮つけのおかげで攻撃力が高いんだ。あと三分くらいで料理バフの効果時間が切れるけれどな。

 思わぬところで助けられた。バフがなかったらもっと大変だっただろう。


「とはいえ、こんなやつを何度も相手にしていられないな……」


 一度や二度ならまだしも、連続で戦闘になってしまうと厳しい。囲まれでもしたらひとたまりもない。

 西風の平原から川を越えただけでモンスターのレベルが大きく上がっている。戦闘は避けながら進もう。






 ハングリーグリズリーの大きな足音を警戒し、戦闘を避けながらゆっくりと進むことで俺はようやく地図に描かれた場所に来た、のだが……。


「何もないなぁ」


 特に目印になりそうなものはない。木や岩が近くにあるが、そんなものはこのフィールドのどこにでもある。

 建物があるわけでもなし、洞窟が隠されているわけでもなし。


「地図が怪しいから微妙に位置がずれているとかか……?」


 モグラたちの手描き地図だから、縮尺が参考にならない可能性もある。だいたいこの辺りだということは分かるのだが、近くにランドマークはないだろうか。

 そう思って一歩踏み出し、


 ズボッ!


「えっ」


 落とし穴に落ちた。


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