第二十話:夏休みはイベントの季節
今回から第二章がスタートです。
第二章ではスタブレの世界観が少しだけ掘り起こされる予定です。
「うーん、やっぱり無いか」
モグラに挑戦状を突き付けられて謎のサブクエストが発生した後、俺は無事に目的地としていた西風の平原の中にある川沿いの村、カラムまでたどり着いた。
モグラとの死闘によって疲れていた俺は、カラム村で小さな宿を借りてリスポーンポイントを更新した後、一度ログアウトした。
今はリアル自室のベッドに寝転がりながら、『スターブレード・ファンタジー』の攻略サイトを見ている。
いきなり発生した謎のサブクエスト、『モグモグ百匹組手』の詳細を調べるためだ。
だが攻略サイトを調べてみても、それらしい記事は発見できない。
有志のユーザー達で運営されているこの攻略サイト、初心者のためのアドバイスや攻略情報などが豊富に掲載されているとても親切なサイトなのだが、トップページにこのような注意書きが記載されていた。
――本サイトに掲載されている情報は有志のプレイヤーにより収集したものであり、すべてのコンテンツを正確に掲載しているわけではありません。
――『スターブレード・ファンタジー』には隠し要素が多く、現状で未発見のコンテンツが多数存在すると考えられます。本サイトに未記載の情報、修正箇所を発見された方は管理者まで連絡をお願いいたします。
まぁ、有志のプレイヤーが運営しているサイトで、公式情報じゃないんだ。現在も絶賛攻略中のMMOで、全ての情報が正しくネットに載っているはずがない。
スターブレード・ファンタジーでも色々なレアモンスターやレアアイテムの噂が絶えず、情報が錯綜しているみたいだ。
例えば俺もこの攻略サイトを見て知ったのだが、スターブレード・ファンタジーには最も有名な未解決クエストがある。
そのクエストは、始まりの街カッペルにいる子供のNPC「嘘つきジャック」から受注できるクエスト、『ユニーククエスト:雲散無生』だ。
そう、クエストのジャンルがメインでもサブでもなく、ユニーククエストとなっているのだ。
他に発見されていないジャンル、ユニーククエスト。どう考えてもレアの気配しかなく、多くのプレイヤーがこぞって受注したのだが、今でもこのクエストの解決策が見つかっていないのだ。
あまりにもクエスト解決の手がかりがなく、一時期には未実装クエストがバグで出てしまっている、なんて噂も流れたほど。
その噂は後日、公式によって否定されたらしいが。
公式からは『ユニーククエストは特定のモンスターに関係する、実装済みのコンテンツです』と回答されたらしい。
それ故にユニーククエストは何かしらのボスモンスターとの戦闘やレイドバトルを含んだクエストなのでは、と推測されている。
とはいえそんな意味不明なクエストすらあるスターブレード・ファンタジーなのだ。
「てことはアレも未発見のサブクエストなのか?」
俺も発生条件がよくわからない。モグラを倒しまくれば発生するのかな。
でもそれだけが条件なら他に発生させた人もいそうなものだけど。
まぁいい。攻略サイトに書いてないくらいレアなものを見つけたぜラッキー、くらいに考えておこう。
「あ、こっちのリンクは掲示板サイトか」
スタブレにもやっぱり掲示板とかあるんだな。あぁ、攻略サイトの運営者グループの一人が掲示板サイトの管理人さんなのか。
リンクを踏んで掲示板を見てみると、うわ、色々あるな。
「そこそこ賑わっているんだなぁ」
ヤマト島攻略最前線スレッドや、レアモンスターの出現条件を検証している攻略系のスレッドもあれば、鍛冶とか薬学みたいな生産系の話をするスレッドもある。
雑談系のところを眺めていて発見した、NPCアリアちゃんの動向を観察するスレッドからは静かに目をそらしておく。
掘ればもっと色々出てきそうだけれど……骨が折れそうだな。
とりあえず明日も学校があるし、今日はもう寝よう。
「剣一、見たかい!?」
「主語がないのに分かるわけないだろ」
登校中に出会った渚が、開口一番にそう言った。何の話だ。
「スタブレのアップデート情報と、次のイベントだよ。今朝、告知がされたんだ」
「へぇ、アプデとイベントか」
渚が手渡してきたスマホの画面にはスターブレード・ファンタジーの公式SNSが映っていて、SNS上で新イベントの告知がされたらしい。
イベントタイトルは『サマーバケーション! 修羅海BBQ』だ。
第二の街、ニール港周辺を舞台とした夏らしい海イベント、と告知されている。そして料理系統のスキルが役に立つかも? とのことだ。
今回の告知はSNSでの事前告知で、イベントの全容は三日後に公式ホームページの更新と合わせて再告知するらしい。
イベントそのものの開催は七月二十五日からとなっている。またそれに合わせて前日の二十四日にはゲームのアップデートが加わり、新コンテンツの実装も予定されているそうだ。
ちょうど俺たちが通う高校が夏休みに入るのと同時にスタブレでもイベントが始まるんだな。これは遊ぶ時間が作れそうだ。
「ねぇねぇ剣一、良かったらイベント期間、一緒にイベントを遊ばないかい? せっかく剣一もスターブレード・ファンタジーを始めてくれたのに、僕たちはあまり一緒に遊べていないだろう?」
「ん? まぁ良いけど」
確かに、せっかくだから渚とも一緒に遊びたいな。普段のダンジョン攻略とかだとレベル差がありすぎて困るが、イベントならまぁ適度に楽しく遊べるだろう。
「となるとイベントまでにニール港に行かないといけないのか」
「今は星の遺跡の攻略中?」
「あー、いや。その前に一度寄り道しているところなんだ。サブクエを先に終わらせようかなって」
「気になったサブクエストでもあるのかい? 頑張ってね」
「ああ、頑張るよ」
よし、イベントまでにメインクエストの進行目標ができた。気になるサブクエストは早めに終わらせてしまおう。それからメインクエストだ。




