第十三話:ゴブリンの洞窟を攻略
「リョーダンさん、あと少しです!」
「オラァ!」
草原地帯で襲ってきた、妙に角張ったツノを持つシカ型モンスターに、新たに習得した日本刀系統のアクティブスキル〈十文字切り〉を叩きこんで倒しきる。
・カクジカのツノ
カクジカが武器とするツノ。硬くて立派なツノは鑑賞用としての価値もある。
・カクジカの毛皮
カクジカの毛皮は丈夫で暖かく、服の素材としてよく用いられる。
ドロップアイテムも上々だ。そして戦闘を繰り返しているうちにレベルが10にあがった。
目的地となる洞窟はもうすぐそこだ。道中のモンスターも二人で協力しながら難なく倒せている。
「お疲れ様です! ナイスでした!」
「お疲れ、アサガオさんもナイス」
「アーちゃんです!」
「……アーちゃんさんも」
「アーちゃんです!」
呼び名を一向に譲らないな、この人!?
「……アーちゃんもナイスだったよ」
俺がそう呼ぶと、とても良い笑顔を見せてくれる。何でそんなにアーちゃんという呼び名にこだわるのかは不明だ。
短剣と日本刀の組み合わせ。二人ともまだまだ初心者なのでパーティ戦での役割分担などはないが、二人で攻撃すればモンスターもすぐに倒せる。
何より、戦闘が終わるたびに笑顔で「ナイス!」と言ってくれるアーちゃんは一緒にゲームを遊んでいて空気が明るくなる。
褒められると悪い気はしないよね。
ちょっと変わっているけど明るくて良い人だなぁ。
そんなこんなで西風の平原を進み、とうとう目的の洞窟前にたどり着いた。
洞窟は平原の木々に隠れるようにして地面に空いた穴だ。足をかけて下に降りられるような穴を入り口に、横穴が地下へ伸びている。
「ふぅ、ここが目的地か」
「到着しましたね! あの、一度休憩しませんか?」
「そうだな。ここまで戦闘してきたし、ダンジョンに挑む前に一度休憩しようか」
VRゲームは直接体を動かすわけじゃないから厳密には肉体的に疲労することはないが、それでも戦闘を繰り返したりしていると気分が疲れてくる。
ダンジョンに潜る前に近くの木陰に座り、一度休憩だ。近くにモンスターの姿は見当たらないし、大丈夫だろう。
「ついでに色々回復しておくか」
インベントリから剣の欠片を取り出して、『旅立ちの日本刀』の耐久値を回復しておく。日本刀は耐久値がそこまで高くないからこまめに回復しておかないと、肝心のときに威力が低かったり壊れたりされると困る。
まだ予備の武器とかもないからな。予備の武器も余裕ができたら作らないと。
俺の隣に座ったアーちゃんも俺と同じように武器の耐久値を回復している。
「あ、そうだリョーダンさん。良かったらこれ、食べますか?」
と、そこでアーちゃんが何かを差し出してきた。
「これは?」
「おにぎりです。私が作ったんですよ!」
「……ええと、どういうこと?」
何でおにぎりなんか持ってんの? ピクニックか何か?
「実は私、料理系統のスキルを覚えようと思っていまして。まだスキルの熟練度が足りないのでおにぎりしか作れないのですが、これ、ちゃんと回復アイテムなんですよ!」
「えっ、料理って回復アイテムなんだ」
アーちゃんの好意にあやかっておにぎりを受け取る。見た目は普通のおにぎりだ。
・おにぎり
炊いた米を丸く成形した料理。中の具材で効果が変わる。
【効果】HPを微量回復。戦闘中使用不可。
本当に回復アイテムだ。
「毒は入っていません! さぁ召し上がれ!」
何で今、毒の話をしたんだこの人。ちょっとだけ不安になるだろ。
しかしアーちゃんが笑顔で勧めてくるので、恐る恐るかじってみる。
……うん。
「不味くはないんだけど、薄味だ……」
「あはは、なんでもVRの中でお腹いっぱいにならないように、味に少し制限をかけているらしいですよ」
あとは私のスキルがまだまだなのもありますけど、とのこと。
とはいえHPが少し削れていたので、ありがたく頂いてHPを回復しておく。ちなみに具材は鮭だった。
「それにしても良い天気ですねぇ」
同じようにおにぎりを食べながら、ニコニコと空を見るアーちゃんにつられて俺も空を見上げる。
雲一つない気持ちのいい青空。テクスチャが張り付けられただけと一言で言いきってしまうのはもったいないくらい、綺麗な空だ。
「確かに良い天気だなぁ。ピクニックみたいだ」
おにぎり片手にこうして休んでいると、本当にピクニックに来ているみたいだ。
平原を吹き抜ける涼しげな風まで再現されているこのスターブレード・ファンタジー。ただ戦うだけじゃない、のんびりした遊び方もできそうだなぁ。
休憩を終えた俺たちは気持ちを切り替え、警戒しながら洞窟の中に足を踏み入れる。
洞窟の通路そのものは比較的広く、トンネルのようになっているのだが……。
「うわ、想像より暗いな」
しまったな、洞窟だということは聞いていたんだし、明かりを持ってくる必要があった。
流石に真っ暗というわけではなく、近くは見えるものの、視界の範囲がかなり狭い。
「大丈夫です、こんなこともあろうかと松明を持ってきていますから!」
「マジで? アーちゃん助かるよ」
「えへへっ!」
アーちゃんが松明を用意していたようで、インベントリから取り出していた。一つ受け取って火をつけ、左手に持つ。
成り行きで組んだ野良パーティだが、随分と助けられている。俺も頑張らないとな。
「片手が塞がるのは仕方がないか」
明かりで照らしながら、俺たちは洞窟の中を進んでいく。
洞窟の中は曲がっているものの、迷路のように入り組んだものではなく一本道だ。
「敵に警戒しながら進んでいこう」
「はい!」
刀を抜いて警戒しながら洞窟の奥に進んでいく。俺が前で、アーちゃんが後ろだ。
「暗いから足元にも気を付けないとですね……」
「まぁ、流石にゲームだし足を引っかけるような変な足場にはしてないと思うけど……」
と、思わず俺が後ろを振り返った、その瞬間だった。
「ギャギャ!」
「うわっ!?」「きゃぁ!?」
二体のゴブリンが曲がり角で隠れていた。粗末な刃物を振りかぶって襲い掛かってくる。
クソッ、不意を突かれて一撃当てられた! ダメージは……そこそこあるな!?
「ギャギャギャ!」
ゴブリンたちはそのまま俺たちに連続で切りかかってくる。
だが、先制は許したがそのまま黙ってやられると思うなよ。
ニ撃目は日本刀で弾き、体勢を崩させる。今だ!
「〈十文字切り〉!」
「〈ニ連撃〉!」
ゴブリンに二人でスキルを叩きこみ吹き飛ばす。
カウンターをされたゴブリンたちが驚いているうちに一気に攻撃をして、そのまま反撃を許さずに倒しきる。
「ナイスです!」
「いや、ビックリしたな」
警戒していたつもりだったが、不意打ちをされてしまった。
やっぱりこういう狭いダンジョンだと、索敵系のスキルが欲しくなるなぁ。
「ごめん、先頭の俺がもっと警戒するべきだった」
「いえ、今のは後ろから声をかけた私も悪かったです。それにゴブリンも倒せましたから、問題ないですよ!」
そう言って俺を励ましてくれるアーちゃんだが、正直少し気が抜けていた。
俺ももっと気合入れよう。
そうしてより一層の警戒をしながら進む俺たちは道中のゴブリンを蹴散らし、そのまま洞窟の最奥に足を踏み入れた。
ポッと出の新ヒロインに初めての手料理とダンジョン攻略の機会を奪われたヒロインがいるってマジ?
次話は2/8の夜に更新予定です。




