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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第一章:いざ行かん星の世界、切り拓くは我が剣
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第十二話:いざ、新フィールドへ!

新フィールド、新キャラの回です。


 やってきましたカッペルの街西側の平原。正確には『西風の平原』らしい。

 ここは恵みの森と違って、まばらに木が生えてはいるものの基本的には視界が広い草原地帯だ。魔物らしき姿もチラホラ見えている。

 遠くでモンスターと戦っているプレイヤーの姿も多い。


 目指すはこの西風の平原に点在している地下洞窟のうちの一つ。

 メインクエストとしてゴブリンの群れを退治して謎の骨董品を取り返すこと、そして洞窟を探索して武器強化に必要な鉄鉱石を入手することが目的だ。

 剣の欠片も回復ポーションも雑貨屋で補充したし、準備は万端だ。


 それでは新フィールド、いざ出発!


 ポコッ。


「……ん?」


 足元から気の抜ける効果音がした。釣られて視線を下に向ける。


「モグッ!」

「……モグラ?」


 地面から現れたのはぬいぐるみみたいなサイズのデフォルメモグラ。つぶらな瞳が俺を見上げている。


「何だコイツ……?」

「モグッ!」


 ひょこ、とモグラは小さなスコップを取り出した。

 そして俺にその鋭く尖った切っ先を向け――


「モグモグッ!」

「ぐあっ!?」


 まるでロケットのように勢いよく地面から飛び出し、胴体を切りつけていった。

 思わぬ攻撃で尻もちをついた俺の頭上で華麗にターンを決めたモグラは再び加速して地面に潜る。


「これモンスターかよ!?」


 慌てて立ち上がり腰の日本刀を抜いて構える。

 どこだ、次はどこからくる!?


 ポコッ。


「真下ぁ!?」


 このモグラ、次は容赦なく顔面狙ってきやがった!? いま、顔掠ったぞ!?


「殺意高くねぇか!?」


 俺の真下から飛び出し頬をスコップで斬り上げ、空中で華麗に三回転を決めてから地面に帰っていくモグラ。

 デフォルメの見た目と相まって滅茶苦茶に腹が立つ。

 ただこんなふざけた見た目をしておきながら、突撃のスピードが滅茶苦茶に速い。気がつけば斬られていた。

 速度だけなら黒毛の狂虎の突進よりよっぽど速くて鋭い。コイツ、かなり厄介だ。

 

 集中しろ……!


「次で落とす!」


 来い、来い、来い!


「モグモ――」

「見切ったぁ!」

「――グ!?」


 飛び掛かってきたモグラに合わせて日本刀を振り、カウンターでモグラを叩き斬る。

 モグラは一撃でポリゴン片となり砕け散った。幸い、HPは低いみたいだ。


「な、何だったんだ……」



・ソードディグの刃片

 ソードディグが持っていた刃の破片。軽くて硬く、数を集めて溶かせば素材として優秀。



 地面から不意打ちで突撃してくるロケットモグラ、怖すぎる。


「こんな奴がこのマップにうろついているのか……」


 地面からいきなり出てくるのを警戒するしかないのか。

 もう一匹出てきたりしないだろうな。

 俺は警戒して辺りを見回す。


「……ん?」


 見回した先、誰かが凄い勢いでこちらに走ってきている。あれはなんだ……?

 よく目をこらすと、


「た、助けてくださいー!?」

「モグ!」「モグモグ!」「モグモグモグ!」


 それは十匹以上のロケットモグラに追われるプレイヤーだった。


「……えぇ?」






「巻き込んでごめんなさい!」

「謝るのは後で良いから、アンタも気ぃ抜くな!」


 顔面めがけて射出されたモグラに〈唐竹割〉を合わせて撃墜。しかしその隙に別のモグラが左腕を斬りつけていった。クソ、HPがかなり持っていかれた!

 ショートカットで回復ポーションを呼び出してすぐに使う。

 あぁ、今度は右足を斬られた!


「ひゃわわわ!?」

「あと何匹だ!?」

「分かんないですー!」


 今ので四匹目だ。あと半分くらいか? もともと何匹に追われていたのかが分からない。


 ポコッ!


「モグ!」

「あぁ、うぜぇ!」


 クソッ、タイミングが一瞬遅れた。カウンターは空振りに終わり、代わりにモグラが俺の肩口を斬っていく。

 俺の背後で二回転して地面に潜ろうとするモグラ。だが、


「えい!」

 空中でポーズを決めていたモグラを短剣で斬りつけて倒す、モグラを連れてきたプレイヤー。


「ナイスだ!」

「あ、危ない! 左下です!」


 もう一匹が俺の方に来たか!

 だが警戒の声を貰えた俺は迎撃に成功。また一匹モグラの数を減らす。


「次そっち来るぞ! 右側!」

「モグ!」

「ひゃわ!?」


 斬られたところをカバーに入り、空中でポーズを決めていたモグラを叩き斬る。

 このモグラ、突撃そのものは尋常でなく素早いが、攻撃したあと空中で必ずポーズを決めてから地面に帰っていく。そのポーズのタイミングは隙だらけだ。


「ハッ!」


 同時に何匹も飛んでこなければ、斬り落とせる!






「た、助かりました」

「どうにかなったな……」


 十二匹目のモグラを斬り、どうにか難局を乗り越えることに成功した。

 やけに集中力を使った。思わずその場に座り込んでしまう。その隣にもう一人も座り込んだ。疲れたのはお互い同じだな。


「アンタ、何をしたらあんなことになるんだよ?」

「可愛いモグラだったのでエサをあげたら、いっぱい集まってきて……」


 モンスターに餌付けするな。


 一息ついて、改めてモグラに追われていたプレイヤーを見る。

 なし崩しで共闘することになったが、俺と同じ『初心者の旅装』を着ているから新規プレイヤーだな。

 短剣ダガーブレードを装備した黒髪の女性プレイヤーだ。頭の上には「アサガオ三号」というプレイヤー名が表示されている。

 こうして近くに座られて気づいたが、この人背が高いな。俺とそんなに変わらないぞ。俺だって男性平均は超えているから、女性のなかだとかなり背が高いんじゃないか。


「ありがとうございました、リョーダンさん」

「アンタはアサガオ三号さんごう、で読み方合ってる?」

「はい、アサガオ三号です! アーちゃんって呼んでください!」


 アサガオ三号さんは回復ポーションに口をつけ、削れたHPを回復しながらニコッと笑顔を向けてきた。

 何というか、元気の良い人だなぁ。


「それにしてもリョーダンさん、お強いですね!」

「大してレベル変わらないと思うけど」


 お互いに着ている『初心者の旅装』を指さす。これを着ているってことはお互いにレベル15以下だ。

 ちなみに俺はさっきのモグラ叩きでレベルが一気に9まで上がった。


「いえいえ、私ひとりではあのモグラちゃん達を倒しきれませんでした。これはもう命の恩人ですよ!」

「そんな大げさな」


 ニコニコとなんだか楽しそうなアサガオさん。

 モグラの大群を引き連れてきたときはMPK――モンスターの群れを他のプレイヤーに押し付けて倒させる迷惑行為――かと疑ったんだが、彼女の様子を見るにそういうわけではなさそうだった。


 つまりマジの事故だったのか。


「ともかくお互い助かってよかった。それじゃあ俺はそろそろ行くよ」


 モグラ叩きは主目的ではない。メインクエストを進めるために洞窟を攻略しなきゃならんのだ。


「あっ、待ってください!」


 だがそこでアサガオさんから待ったがかかる。


「リョーダンさんも私と同じで、最近このゲームを始められたんですよね? ゴブリンの洞窟はクリアされました?」

「ゴブリンの洞窟って?」

「ほら、あのメインクエストで攻略するように言われた」


 あぁ、俺の今からの目的地だな。


「これからクリアしようかなってところだけど」

「やっぱり! 実は私もその洞窟に向かうところだったんです。これも何かのご縁、もしよかったら、パーティを組んで一緒に攻略してくれませんか?」


 野良パーティのお誘いか。


 俺は少しだけ考える。

 どんなオンラインゲームでも大抵そうだが、ソロでダンジョンを攻略するよりも複数人で攻略するほうが楽だ。そうでなければオンラインゲームにする必要がないからな。

 もちろんアイテム集めやレベル上げ周回などは効率の観点でその例から漏れることもある。

 けれど現状、俺はそこまでタイトな効率でこのゲームを遊んでいるわけじゃない。

 それに先ほどのモグラとの戦いからわかることなのだが、別にアサガオさんは弱くなかった。

 むしろ俺が倒し損ねたモグラに追撃をしっかりしてくれるなど、他人の足を引っ張るようなプレイヤーではない。


 結論、これも何かの縁。現状で特に断る理由がない。


「良いですよ」

「わぁ、ありがとうございます!」


 ということでアサガオさんとパーティを組む。ついでにフレンド申請が飛んできたので承認。


「よろしくお願いしますね、リョーダンさん!」

「改めてよろしく、アサガオさん」

「アーちゃんです!」

「……アーちゃんさん」

「アーちゃんです!」


 馬鹿なコイツ、譲らないだと!?


次話は2/7の夜に更新予定です。

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