第四十三話 魔人王出撃
「ザーーーーー」
どんなものも飲み込んでしまいそうな大滝。俺はその滝に打たれながら、木の枝に魔力を込め上に向かって滝の流水を斬る。
「ザバーーン、ザシャー」
滝は見事真っ二つ、上がった水しぶきとともに虹も姿を見せる。
「ジン、ご飯よ」
俺の名はジン・ウラオ。世間では剣聖と呼ばれている。
「今いくよ母さん」
現在は田舎に帰省している。田舎と言っても周りは山と森に囲まれた特殊な地域。
俺達の一族はその昔、魔人と呼ばれ住む土地を追われこの土地、というよりも森に住んでいる。現在この村には20人ほど「魔人」が住んでいる。
魔人とは魔力を常人よりも大量に持っている者のこと。魔女は突然変異でその者限りだが、魔人は遺伝。魔人の子供は魔人となる。ただし制限があり魔人となるのは男のみ。と言っても必ず男が生まれるのでその限りではないのかもしれないと母は言っていた。
この村の人達は「気にするな」と言うが、やはり我々をこんな僻地に追いやった人間たちにはいい思いを持っていなかった。いやそれどころか優れた人種である我々魔人がこの世界を支配する、それが当然なのではないか? そう考えるようになる。
何度か人類側の世界に顔を出したがその度に世界征服は失敗する。そのつど反省し準備を行ってきた。
「では行ってくる」
食事を済ませこれからドルンゴの街へ。10トン鉄の塊を持ち上げ頭の上に乗せた。
そして、今回の旅で今度こそ世界征服を果たし、魔人が頂点となる世界を築くのだ。
はーっはっはっは、支配してやるぞ人間ども!
「ハンカチ持った~?」
「あ、忘れた」
「ズドーン」
鉄の塊を放り投げハンカチを持ちに行く。
「いってらっしゃーい」
今度こそ出発。
巨大な森を抜け、平原に。
「ズシーン、ズシーン」
「なんじゃーありゃぁ……」
歩く度に地響きが起こる。ここから人間とたまに会うから目立ってしまって恥ずかしい。
しかし、これも世界征服を成すための計画のひとつなのである。
クックック、せいぜい呆気にとられてみているがいい。お前たちのその行動がこの俺を強くするのだ。
「ビリッ」
「ギャン」
前方で歩いていた二人組の女の一人が道に飛び出していた毒草のトゲに引っかかったのをみた。
「まずい、解毒剤を持ってない……」
「うぐぅ」
フン、間抜けな話だ。
「このままじゃ」
「ズドーン」
「な、なんだ!?」
「……」
「あなたは? これは毒消し薬! 使ってよろしいんですか?」
コクリと俺はうなずいた。
「あ、ありがとうございます!」
俺が支配した時に人類が滅んでいては仕方ない。このぐらいなら助けてやろう。
薬を渡し俺は再び道を歩き始める。
「ズシーン、ズシーン」
「一体あの人は?」
「フォホッホ、お主、運がいいのぉ。あの方は剣聖様じゃよ」
「け、剣聖様!? あの方が!」
「そう、寡黙で話をほとんどしない。そしてその心は慈愛に満ち溢れておる」
「確かに」
「剣聖様に出会っただけで運勢が変わったという人までおるからの」
「私の知り合いも剣聖様のおかげで結婚できたとか」
「ま、あくまで噂じゃがの」
「そ、そうですよね」
ふぅ、それにしても弱点はなかなか克服できないな。
人と接すると緊張して声が出にくくなるのだ。一応慣れてくると、「はい」と「いいえ」くらいは言えるようにはなるが会話ができないんだよね。魔人の村以外の人とはまともに話せたことはないなー。
話さえ出来れば今頃なー。
あれは忘れもしない、人類の土地に来て半年、手柄を上げて王に謁見した時があった。
「欲しい物を申してみよ」
(ぐっ、言えない、話せない)
(何故何も言わない? !? いやこれはまさか……、そうかこの程度では貰うほどではないということか。さすが剣聖とうたわれるものよ)
「よい、下がれ」
うまくやればあれを足がかりとして世界を征服できたのに。
しかし、遂にその対策をとった。今度こそチャンスを掴むぞ。
鉄を研究所に収め、しばらくしてかなり強めの魔獣を倒し再び王との謁見の機会を得た。
「欲しい物を申してみよ」
(ふむ、今回は文字で伝える作戦を立ててきた。クックック、この紙で……、紙を忘れた! い、いかん。ペンはあるサッサッと書き込んで)
(何故何も言わない? !? いやこれはまさか……、そうか物言わぬ者、物言えぬ者のことをもっと考えろと言うことか!?)
「よい、下がれ」
失敗しちゃった。
俺は謁見の間を出た。
「さすが剣聖殿ですね。一言も言わず王を納得させてしまうとは」
「うむ、いつも思う。彼にかなうものなどおるまい。あのサイモンとてな」
やれやれ失敗とはな。まあまたいつかチャンスが来るさ。
「ズシーンズシーン」
新しく手に入れた鉄の塊とともに俺は再び旅に出た。




