第十九話 力の行方
村に帰ってきた。しかし、妙に騒がしい。
「ああ、博士。丁度良いところに」
メイド服? の格好をした女性がこちらに向かって歩いてきた。
「どうしたんじゃシャール? 皆慌てているようじゃが」
「アネスちゃんの屋敷が火事で燃えてしまい彼女が行方不明なんですよ」
「なんと彼女が」
「アネス、ちゃん?」
「山に住み着いている女吸血鬼じゃ」
「そうじゃな、厄体とは直接関係ないがこちらも説明しておきたい。状況も気になるし屋敷へ向かおうかの」
「ご一緒します。シャールです、皆さんよろしくおねがいします」
山の伐採場のさらに奥。そこには火事によってほとんど燃えてしまった屋敷があった。
「人類がこの地に入植して20年。次第に手を広げ18年ほど前にここに村を作り伐採を始めた」
「伐採を初めて一ヶ月くらいたった頃、一人の少女が深夜、この村を訪れた。彼女は自分を吸血鬼だと名乗り「昼伐採の音がうるさいから静かにやってくれ」とクレームをつけに来たんじゃ」
「吸血鬼って人を襲うのでは?」
「彼らもそう思っておって身構えておったようじゃが、そんな素振りは全く見せなかったらしい。人の血を吸わずとも魔獣や野生の獣の血を吸って生き延びる事はできると言ったそうじゃ。それでも吸血鬼だと忌み嫌われておったからわざわざ人里離れたところまで行ってそこに住んだ。ところが近くに村ができてしまって出会うことになってしまったわけじゃ」
「なるほど」
「話を戻す。彼女の意見はわかるが伐採をやめるとなるとここで暮らせなくなってしまう、と考え、何か無いものかと考えたのがあの屋敷じゃ」
「骨格だけしか残っていませんが立派なお屋敷だったのはわかります」
「うむ。彼女はあばら屋に住んでおった。場所も伐採の音が響くところだった。周りに森があるところに場所を変え、防音効果付の地下のある屋敷を建てて彼女に住まわせた」
「これが成功して共存はできたものの、やはり吸血鬼の力は恐ろしい。そこでお目付け役とたまにメイドをシャールにやってもらっておったわけじゃ」
「ははは、こう見えてそこそこ強いんですよ。彼女を制圧できるくらいには」
ふむ、彼女もゲームに出てくる。その強さはコルスさんをも上回る。
「ここからは私が説明を」
「今日の朝、私がここへ来たときには屋敷は燃えきっており今と同じ状態でした」
「いつも彼女が寝ている地下をチェック、彼女はいない。周りを簡単に探したけれどやはり見つからず。そして私は先ほど村に戻ってきていたわけです」
「アネスちゃん、どうして……」
一緒についてきていた村人達が悲しみをあらわにしていた。
「皆からは好かれていたんですね」
「ええ、ちょっとやんちゃでしたが可愛らしさ、優しさが受けてこの村ではちょっとしたアイドルみたいになってたんですよ」
「ふむふむ」
『ズドドドド』
森の奥から何かがこちらへ向かってくる音が聞こえてきた。
「なんだ?」
音がする方向へ体を向け武器を構える。
「うおおおおお!」
猛烈な勢いで全裸の少女が森から出てきた。
「皆の者! 出迎えか? ご苦労!」
「アネスチャン!? いやいや全裸って!」
見た目は15歳位の女の子。背中に白い羽根が生えていた。
「ほらほら、じっくり見ない」
ミューは両手で俺の顔をつかみ、無理やり横へ動かした。
「一体何があったの?」
シャールさんがローブをアネスに着せながら彼女に訪ねた。
「これがまた奇っ怪なことが起こってのぉ」
「魔獣の生き血をすすっておったら妙にデカイ牛が現れての、こちらを襲ってきおった」
厄体エイブルか。
「んでソイツの血をすすって家に帰って眠っておったら身体が炎に包まれていた。火事かと思ってとりあえず外に出る。朝がそろそろ近いんで近くの洞窟に入って奥までいったところ、体が燃えだしての」
「いろいろ試しているうちにどうも身体が全く逆の作りになってしまった事がわかった」
「うーん? アネスちゃんは陽の光に当たると体が燃えるんだったね」
「うむ。それが暗闇に包まれると体が燃えるようになった、ようだ」
「またおかしな身体に……」
「ハッハッハ、面白い身体だぞ。ろうそく一本程度でも大丈夫だから通常の生活は困らんし」
「それにこれからは昼間に活動できるから日々の生活が楽しみだ!」
「アネスちゃんはいつも前向きね。ところで今まで何をしていたの?」
「体の底から力を感じてな。少し体を動かしておった」
「そういうことね」
「博士、どう思います?」
「彼女が大地のエネルギーを吸い取ったとみて間違いないじゃろう。エネルギーが身体に入り込み他の種族に変化してしまった、かな。元の黒い翼が白い翼に変わっておる。大地のエネルギーを吸ったのなら力も数倍上がっているだろうか、力を感じるというのはそのことじゃろう」
立派な髭を触りながら答える博士。