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その夜、ルル姫に呼ばれて、ルル姫の部屋にいた。
「夢の中であなたが、出て来たのだけど、聞いた話によると、あなたはナイトメアクライアントなんだって」
ルル姫が目を輝かせてそう言う。
「あの、ユメノと言う方、かっこよかったですよね、どこに住んでいらっしゃるのかしら?」
「あの~、もしかして、好きになってしまわれたのですか?」
「いいえ、お礼を言いたくて」
ルル姫はいたずらっぽく笑う。その姿は普通の一六才にしか見えなかった。
「あの、さっき、パーティーがありましたけど、平気でしたか?」
「ええ、少々のウソは、社交界では、当たり前の事ですの、一々動じていたらきりがありませんわ」
「でも、嫌なんでしょ」
そう言うと、ルル姫は、氷の様な顔になって。
「嫌よ」
と低い声で言った。少し驚いた。
「でもね、一つ良い事があったの、お見合いがなくなったの、お母様とお父様は、王子が気に食わなくて、ナイトメアサーバントに取りつかれていたと思っているみたいで、「自由に決めなさい」って言ってくれたわ」
「よかったね」
ジュリアもうれしい気持ちになってそう言った。
「後、メルローさん、あなたとチャニさんの事、大好きでらっしゃるのね、どちらが本命なのでしょう?」
ルル姫は意地悪そうな顔をして訊いてくる。
「どちらでもいいじゃないですか」
「気になります」
「それじゃあ、今度訊いてみます。どうせ、はぐらかされるでしょうけれどね」
苦笑いしてそう言った。
「メルローさんは良い方です。手放さないようにしてくださいね」
「えっ、うん」
ルル姫は私の返事を聞いて湯あみに行った。
「さ~て、私も自分の部屋に戻りますかね」
☆ ☆ ☆
部屋に戻ると、チャニがうろうろしていた。
「チャニ、ただいま」
「ルル姫と何を話していたの? まさか、恋バナとかだったのかしら? 私も行けばよかったですわ」
チャニは悔しそうに、床を蹴った。
「チャニは、メルローをどう思っているの?」
「同僚」
「そうよね、当然そうだよね、訊いた私がバカだった」
「まさか、メルローが私を好きだとルル姫にいたのですか? それなら、どうしましょう、サーバント同士で恋なんてできないわ」
「どうして?」
「私達は、悪夢なのよ、本当は形の無い物なのだから、恋なんてしても、変なだけでしょう」
チャニは開き直ったようにそう言った。
(そうなのかな?)
いつも人の姿をしている二人が、形のない存在だと言われてもいまいちピンとこないものである。
「チャニは、チャニだよ、悪夢だろうと、人だろうと私の大切な友達だからね」
「ジュリア様、光栄ですわ、これからも側においてくださいね」
「うん」
手を握り合い、うれしくなった。その後、二つのベッドに分かれて寝た。
☆ ☆ ☆
次の日に、ユメノの元へ向かった。
「みなさん揃いましたね」
チャニも髪を整えて、一緒にユメノのところに来てくれた。メルローはユメノと同じ部屋なので、当然いる。
「はい」
「では、中央の本部へ向かいましょう、馬車で四時間かかりますから、準備を整えてから来てください」
「はい」
持って来ていた数少ない道具をリュックに入れて、背負い、準備は万端だった。
外に出ると、貴族が使う馬車が二台用意されていた。
「後ろの茶色い馬が引いてくれる馬車にお乗りください」
「はい」
馬車に乗ると、すぐに出発した。
「ルル姫、さようなら~」
「さようなら」
手を振って窓を閉めた。行きはあんなに霧に囲まれていたのに、全く霧がなくなって、庭のきれいなオブジェなども、今は良く見える。
「噴水よ、水が出ているわ」
窓の方を指差すチャニ。
「うんうん、すごいね」
「ふぁ~」
メルローの気の抜けたあくびが聞こえた。メルローは、今、チャニの隣に座って寝ている。
ガタガタ揺れる馬車は、森を抜けて行く。森を抜けたとたん、真っ青な雲一つない空が見える。
「雲一つないわね」
「すご~い」
チャニときゃっきゃっとしていると、メルローは、それを優しい目で見ていた。その目を見た時、少しだけドキッとしたような気がしたけど、気のせいだろうと思う事にした。




