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悪夢契約者ナイトメアクライアント  作者: 花言葉
眠り姫を起こして
8/19

6

 その夜、ルル姫に呼ばれて、ルル姫の部屋にいた。

「夢の中であなたが、出て来たのだけど、聞いた話によると、あなたはナイトメアクライアントなんだって」

 ルル姫が目を輝かせてそう言う。

「あの、ユメノと言う方、かっこよかったですよね、どこに住んでいらっしゃるのかしら?」

「あの~、もしかして、好きになってしまわれたのですか?」

「いいえ、お礼を言いたくて」

 ルル姫はいたずらっぽく笑う。その姿は普通の一六才にしか見えなかった。

「あの、さっき、パーティーがありましたけど、平気でしたか?」

「ええ、少々のウソは、社交界では、当たり前の事ですの、一々動じていたらきりがありませんわ」

「でも、嫌なんでしょ」

 そう言うと、ルル姫は、氷の様な顔になって。

「嫌よ」

 と低い声で言った。少し驚いた。

「でもね、一つ良い事があったの、お見合いがなくなったの、お母様とお父様は、王子が気に食わなくて、ナイトメアサーバントに取りつかれていたと思っているみたいで、「自由に決めなさい」って言ってくれたわ」

「よかったね」

 ジュリアもうれしい気持ちになってそう言った。

「後、メルローさん、あなたとチャニさんの事、大好きでらっしゃるのね、どちらが本命なのでしょう?」

 ルル姫は意地悪そうな顔をして訊いてくる。

「どちらでもいいじゃないですか」

「気になります」

「それじゃあ、今度訊いてみます。どうせ、はぐらかされるでしょうけれどね」

 苦笑いしてそう言った。

「メルローさんは良い方です。手放さないようにしてくださいね」

「えっ、うん」

 ルル姫は私の返事を聞いて湯あみに行った。

「さ~て、私も自分の部屋に戻りますかね」


☆ ☆ ☆


 部屋に戻ると、チャニがうろうろしていた。

「チャニ、ただいま」

「ルル姫と何を話していたの? まさか、恋バナとかだったのかしら? 私も行けばよかったですわ」

 チャニは悔しそうに、床を蹴った。

「チャニは、メルローをどう思っているの?」

「同僚」

「そうよね、当然そうだよね、訊いた私がバカだった」

「まさか、メルローが私を好きだとルル姫にいたのですか? それなら、どうしましょう、サーバント同士で恋なんてできないわ」

「どうして?」

「私達は、悪夢なのよ、本当は形の無い物なのだから、恋なんてしても、変なだけでしょう」

 チャニは開き直ったようにそう言った。

(そうなのかな?)

 いつも人の姿をしている二人が、形のない存在だと言われてもいまいちピンとこないものである。

「チャニは、チャニだよ、悪夢だろうと、人だろうと私の大切な友達だからね」

「ジュリア様、光栄ですわ、これからも側においてくださいね」

「うん」

 手を握り合い、うれしくなった。その後、二つのベッドに分かれて寝た。


☆ ☆ ☆


 次の日に、ユメノの元へ向かった。

「みなさん揃いましたね」

 チャニも髪を整えて、一緒にユメノのところに来てくれた。メルローはユメノと同じ部屋なので、当然いる。

「はい」

「では、中央の本部へ向かいましょう、馬車で四時間かかりますから、準備を整えてから来てください」

「はい」

 持って来ていた数少ない道具をリュックに入れて、背負い、準備は万端だった。

 外に出ると、貴族が使う馬車が二台用意されていた。

「後ろの茶色い馬が引いてくれる馬車にお乗りください」

「はい」

 馬車に乗ると、すぐに出発した。

「ルル姫、さようなら~」

「さようなら」

 手を振って窓を閉めた。行きはあんなに霧に囲まれていたのに、全く霧がなくなって、庭のきれいなオブジェなども、今は良く見える。

「噴水よ、水が出ているわ」

 窓の方を指差すチャニ。

「うんうん、すごいね」

「ふぁ~」

 メルローの気の抜けたあくびが聞こえた。メルローは、今、チャニの隣に座って寝ている。

 ガタガタ揺れる馬車は、森を抜けて行く。森を抜けたとたん、真っ青な雲一つない空が見える。

「雲一つないわね」

「すご~い」

 チャニときゃっきゃっとしていると、メルローは、それを優しい目で見ていた。その目を見た時、少しだけドキッとしたような気がしたけど、気のせいだろうと思う事にした。

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