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東の門を抜け、中央の領域に入った。ユメノは有名人らしく、門番一人一人が頭を下げている。
「中央ってやっぱりすごい」
東にも施設はあるが、チェックを必要とするほどの機密もないし、入り放題なのである。しかも、決して立派だとも言えない作りである。
中央の施設までは、まだ道があるらしく、街を抜ける。
「ここで買い物したら楽しいだろうな~」
馬車の窓からみただけで、何店舗もの店が並んでいて、色とりどりの品が並べてあり、楽しそうな音楽が流れている。
「帰りに寄りましょう」
チャニがそう言う。
「うん」
うれしい気持ちで頷いた。
メルローもうっすら目を開けている。興味があるのだろう。
色々な街を歩く人々をながめているうちに、また風景が変わった。
「これって、城だよ」
チャニが城を指差す。
「これが、中央の施設~?」
白い洋式の城は、どこまでも続くかのごとく続いている。
「大きい」
門の中へ入って行く。
「どうやら、私達、とんでもない依頼を引き受けちゃったのかも……」
ジュリアは汗をかいている。
「ジュリアなら大丈夫よ」
チャニが楽しそうにそう言う。
「そうだ、例え、へましたって怒らないって、ユメノが言ったんだし、失敗しても大丈夫だろうよ」
「……メルローは失敗する事前提なのね」
「もちろん」
悪びれることなくそう言った。
「み~て~ろ~、成功させてやるから~」
「はいはい、期待はしていないから、無理するなよ」
メルローは、そう言って笑った。
(ムカつくやつだな)
メルローは元から、私達には意地悪なサーバントだったと言う事を思い出して、心を律する。
ガタガタと馬車が揺れる。
(さあ、私の試練が始まるのね)
息を飲んで座った。
☆ ☆ ☆
馬車は、城の入り口に着いた。
「皆さん、ご苦労様です」
ユメノがそう言って、馬車に近づいてくる。
「ほ、本当に失敗してもいいのよね?」
そうつぶやいていると、ユメノはドアを開けて。
「そんなに固くならないでください、あなたほど優秀なクライアントなら大丈夫ですよ、きっと」
笑顔でそう言う。
「さっきは、気合入っていたくせに、弱気だな」
メルローが楽しそうにそう言ってくる。
「大丈夫よ、メルロー、私をなめないでくれる?」
にらみ合っていると、ユメノが笑いながら。
「本当に仲良しですよね、うらやましいです」
「装飾のサーバントは、消えているよね? 消すことが出来るの?」
「まあ、そんなところです。深くは話せませんが……」
ユメノは少しばつの悪い様子で、顔を軽くしかめた。
「あっ、まずいこと聞いちゃった?」
「いいえ」
ユメノは、すぐに笑顔に戻ったのだが、その笑顔は、少しだけだけど、怖いような気がしたけど、気のせいかな?
「それよりも、中央の決まりでも教えましょうか?」
「お願いします」
「でも、馬車から一回降りて、応接間へ行きましょう。あなた達は大事なお客様なのですから」
「すみません」
ジュリアは、馬車から降りて、ユメノの後ろを歩いた。城の中にある、金色の装飾は、葉やつたをイメージして作られているようだった。
「「キレイね」」
チャニと同時にそう言った。
「やだ、ジュリアもそう思うのね、私達って、感性が似ているのかしら?」
「はっ、チャニ、お前と感性が合う女は、この世界に8割はいると思うぞ、何て言ったって立派だしな、この城」
メルローが感心して辺りを見ている。
「8割ってどこを調査したのよ」
「ああ、中央の人間が一割と、金持ちが一割で、あとの8割は驚く、そう思うだろ、ユメノ」
「まあ、大体合っていると思いますよ」
チャニとメルローの言い争に巻き込まれたくない様子のユメノは、なんだか、いつもと違い、適当な返事をした。
「チャニもメルローも落ち着いて、あんまり騒ぐと、東の恥になるよ」
「「はーい」」
ジュリアが怒るとすぐにケンカをやめた。
いつの間にか中へ大分歩いたと思っていると、応接間に着いたようだ。
「こちらが応接間です」
そう言って、案内された所は、白くて金色の模様で飾られている高級ソファやテーブル、ティーカップが並んでいる食器棚、窓の外は、庭が広がっている。
「「すてき」」
また、チャニとかぶった。しかし、チャニは、メルローが言った。8割の女と言う意見のせいか、何も言ってこなかった。
「今、紅茶を持ってこさせますね」
ユメノがそう言うと。
「お待たせしました。紅茶のサーバントのご登場です」
ティーカップを並べたトレーを持って、メイド服の赤毛の女がそう言って現れた。
「あなたは、ユメノのサーバント?」
「え~と、ユメノよ」
「そっか、ユメノは、紅茶のサーバントもいたんだ」
「紅茶のサーバントはやたらと紅茶を煎りたがって、中央の係の方もお手上げなんだってさ」
ユメノは、そう言いながら、少しさみしそうな顔をしたような気がした。
(何かあったのかしら?)
それは、サーバントに眠らされている、知人のせいなのだろうと思って、口には出さなかった。
「では、私は、失礼します」
紅茶のサーバントは、部屋を出て行ったので、紅茶に口をつけると、甘い味が口の中に広がった。
「渋くない」
「本当、まろやかですわ」
チャニが喜びながら、頬に手を当ててそう言う。
「チャニの淹れたお茶は、飲めるけど、ここまでうまくないよな~」
メルローが、紅茶を二口飲んでそう言った。
「メルロー!」
チャニが怒ったので、手を叩いた。
「やめなさい」
「は~い」
チャニが落ち込んで席に座った。
「では、中央のサーバント制度について、お話してもいいかな?」
「はい」
「中央のサーバントとクライアントは、特別出勤制なんだ。よほど、地方のクライアントが、困っている時、または、地方のクライアントが現れない時、そういう時だけ出勤するんだ」
「つまり、自由にサーバントに手を出せないの?」
「まあ、そうなる。だから、夢世界以外では、サーバントは出せなかったんだ。装飾のサーバントも中央に自動で送られたんだ」
「なるほど」
そう言われると、サーバントがいないのも納得である。
「いつもは、サーバントは、この中央の城にいるんだ」
さっきいた紅茶のサーバントの様に、好きな事をして暮らしているのだろう。そう思うと、中央のサーバントは幸せなのかもしれないと言う思いも生まれた。
「ユメノは、すごいね、みんなを幸せにして」
「一番大事な人を眠らせているのに、私はすごくなんかないですよ」
すさんだような瞳で、そう言い放った。
「ユ、ユメノ? どうしたの」
「つい、かっとなってしまいました。すみません」
ユメノが小さくなった。
「ユメノは、大切な人のために努力できる。良いクライアントだよ、私にはきっと、出来ないもの」
「そんな事は無いよ、ジュリアさんは、メルローとチャニのためなら、どんなことだってしたでしょう。あなたほどのクライアントになる方は、なかなかおられません、誇りに思ってください」
ユメノにほめられると、自分のちっぽけな悩みが、消えて行くようだった。
「ありがとう、ユメノ」
笑顔でそう言った。
「あなたの笑顔は、ステキですね、笑っていられる時間を大切にしてください」
ユメノは、小さな声でそう言った。たぶん、大切な人の笑顔を思い出したのだろうと思い気の毒になった。
「ユメノもあんまり考え過ぎちゃダメだよ、絶対クライアントの人が助けてくれるからね!」
背中を押したつもりだったが、ユメノは。
「クライアントの人って、君もそうだろ。私は、君に助けを求めたんだ。出来れば君に助けてもらいたい」
泣きそうな顔でそう言った。
「ねぇ、ユメノ、何があなたをそんなに苦しめているの? 自分で自分を壊しているように見えるのは、私の気のせい?」
「なんで、君には……何でもない、気のせいですよ」
いつもの笑顔に戻ったユメノ、でも、痛々しく感じるのは気のせいなのだろうか? 首を傾げたくなったが、傾げなかった。
「中央のクライアントも先代から継いだのか?」
メルローが急にそんな事を言い出す。
「まあ、そうですけど」
「そうか、何か、お前は、気配が時々揺らぐぞ」
「揺らぐ? どんなふうに」
「サーバントに毒されたクライアントみたいな気配だよ。お前、サーバント達によっぽど嫌われているんだな」
メルローがそう言って笑っている。
そうか、メルローの言う通り、気配が揺らぐんだ。だからユメノから変な感じがすると思ったんだ。
「ユメノ、本当に大丈夫なの、サーバントに喰われていない?」
「大丈夫ですよ、中央のクライアントは、特別優秀で、サーバントと深くまでつながることが出来るんですよ」
「そうなの、それならいいのだけど」
中央のクライアントの能力で、サーバントに喰われるなんて事があるわけないんだ。大丈夫だよね?
「城の案内をしましょう」
ユメノは、明るい声でそう言った。




