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悪夢契約者ナイトメアクライアント  作者: 花言葉
中央のナイトメアクライアント
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9/19

1

 東の門を抜け、中央の領域に入った。ユメノは有名人らしく、門番一人一人が頭を下げている。

「中央ってやっぱりすごい」

 東にも施設はあるが、チェックを必要とするほどの機密もないし、入り放題なのである。しかも、決して立派だとも言えない作りである。

 中央の施設までは、まだ道があるらしく、街を抜ける。

「ここで買い物したら楽しいだろうな~」

 馬車の窓からみただけで、何店舗もの店が並んでいて、色とりどりの品が並べてあり、楽しそうな音楽が流れている。

「帰りに寄りましょう」

 チャニがそう言う。

「うん」

 うれしい気持ちで頷いた。

 メルローもうっすら目を開けている。興味があるのだろう。

 色々な街を歩く人々をながめているうちに、また風景が変わった。

「これって、城だよ」

 チャニが城を指差す。

「これが、中央の施設~?」

 白い洋式の城は、どこまでも続くかのごとく続いている。

「大きい」

 門の中へ入って行く。

「どうやら、私達、とんでもない依頼を引き受けちゃったのかも……」

 ジュリアは汗をかいている。

「ジュリアなら大丈夫よ」

 チャニが楽しそうにそう言う。

「そうだ、例え、へましたって怒らないって、ユメノが言ったんだし、失敗しても大丈夫だろうよ」

「……メルローは失敗する事前提なのね」

「もちろん」

 悪びれることなくそう言った。

「み~て~ろ~、成功させてやるから~」

「はいはい、期待はしていないから、無理するなよ」

 メルローは、そう言って笑った。

(ムカつくやつだな)

 メルローは元から、私達には意地悪なサーバントだったと言う事を思い出して、心を律する。

 ガタガタと馬車が揺れる。

(さあ、私の試練が始まるのね)

 息を飲んで座った。


☆ ☆ ☆


 馬車は、城の入り口に着いた。

「皆さん、ご苦労様です」

 ユメノがそう言って、馬車に近づいてくる。

「ほ、本当に失敗してもいいのよね?」

 そうつぶやいていると、ユメノはドアを開けて。

「そんなに固くならないでください、あなたほど優秀なクライアントなら大丈夫ですよ、きっと」

 笑顔でそう言う。

「さっきは、気合入っていたくせに、弱気だな」

 メルローが楽しそうにそう言ってくる。

「大丈夫よ、メルロー、私をなめないでくれる?」

 にらみ合っていると、ユメノが笑いながら。

「本当に仲良しですよね、うらやましいです」

「装飾のサーバントは、消えているよね? 消すことが出来るの?」

「まあ、そんなところです。深くは話せませんが……」

 ユメノは少しばつの悪い様子で、顔を軽くしかめた。

「あっ、まずいこと聞いちゃった?」

「いいえ」

 ユメノは、すぐに笑顔に戻ったのだが、その笑顔は、少しだけだけど、怖いような気がしたけど、気のせいかな?

「それよりも、中央の決まりでも教えましょうか?」

「お願いします」

「でも、馬車から一回降りて、応接間へ行きましょう。あなた達は大事なお客様なのですから」

「すみません」

 ジュリアは、馬車から降りて、ユメノの後ろを歩いた。城の中にある、金色の装飾は、葉やつたをイメージして作られているようだった。

「「キレイね」」

 チャニと同時にそう言った。

「やだ、ジュリアもそう思うのね、私達って、感性が似ているのかしら?」

「はっ、チャニ、お前と感性が合う女は、この世界に8割はいると思うぞ、何て言ったって立派だしな、この城」

 メルローが感心して辺りを見ている。

「8割ってどこを調査したのよ」

「ああ、中央の人間が一割と、金持ちが一割で、あとの8割は驚く、そう思うだろ、ユメノ」

「まあ、大体合っていると思いますよ」

 チャニとメルローの言い争に巻き込まれたくない様子のユメノは、なんだか、いつもと違い、適当な返事をした。

「チャニもメルローも落ち着いて、あんまり騒ぐと、東の恥になるよ」

「「はーい」」

 ジュリアが怒るとすぐにケンカをやめた。

 いつの間にか中へ大分歩いたと思っていると、応接間に着いたようだ。

「こちらが応接間です」

 そう言って、案内された所は、白くて金色の模様で飾られている高級ソファやテーブル、ティーカップが並んでいる食器棚、窓の外は、庭が広がっている。

「「すてき」」

 また、チャニとかぶった。しかし、チャニは、メルローが言った。8割の女と言う意見のせいか、何も言ってこなかった。

「今、紅茶を持ってこさせますね」

ユメノがそう言うと。

「お待たせしました。紅茶のサーバントのご登場です」

ティーカップを並べたトレーを持って、メイド服の赤毛の女がそう言って現れた。

「あなたは、ユメノのサーバント?」

「え~と、ユメノよ」

「そっか、ユメノは、紅茶のサーバントもいたんだ」

「紅茶のサーバントはやたらと紅茶を煎りたがって、中央の係の方もお手上げなんだってさ」

 ユメノは、そう言いながら、少しさみしそうな顔をしたような気がした。

(何かあったのかしら?)

 それは、サーバントに眠らされている、知人のせいなのだろうと思って、口には出さなかった。

「では、私は、失礼します」

 紅茶のサーバントは、部屋を出て行ったので、紅茶に口をつけると、甘い味が口の中に広がった。

「渋くない」

「本当、まろやかですわ」

 チャニが喜びながら、頬に手を当ててそう言う。

「チャニの淹れたお茶は、飲めるけど、ここまでうまくないよな~」

 メルローが、紅茶を二口飲んでそう言った。

「メルロー!」

 チャニが怒ったので、手を叩いた。

「やめなさい」

「は~い」

 チャニが落ち込んで席に座った。

「では、中央のサーバント制度について、お話してもいいかな?」

「はい」

「中央のサーバントとクライアントは、特別出勤制なんだ。よほど、地方のクライアントが、困っている時、または、地方のクライアントが現れない時、そういう時だけ出勤するんだ」

「つまり、自由にサーバントに手を出せないの?」

「まあ、そうなる。だから、夢世界以外では、サーバントは出せなかったんだ。装飾のサーバントも中央に自動で送られたんだ」

「なるほど」

 そう言われると、サーバントがいないのも納得である。

「いつもは、サーバントは、この中央の城にいるんだ」

 さっきいた紅茶のサーバントの様に、好きな事をして暮らしているのだろう。そう思うと、中央のサーバントは幸せなのかもしれないと言う思いも生まれた。

「ユメノは、すごいね、みんなを幸せにして」

「一番大事な人を眠らせているのに、私はすごくなんかないですよ」

 すさんだような瞳で、そう言い放った。

「ユ、ユメノ? どうしたの」

「つい、かっとなってしまいました。すみません」

 ユメノが小さくなった。

「ユメノは、大切な人のために努力できる。良いクライアントだよ、私にはきっと、出来ないもの」

「そんな事は無いよ、ジュリアさんは、メルローとチャニのためなら、どんなことだってしたでしょう。あなたほどのクライアントになる方は、なかなかおられません、誇りに思ってください」

 ユメノにほめられると、自分のちっぽけな悩みが、消えて行くようだった。

「ありがとう、ユメノ」

 笑顔でそう言った。

「あなたの笑顔は、ステキですね、笑っていられる時間を大切にしてください」

 ユメノは、小さな声でそう言った。たぶん、大切な人の笑顔を思い出したのだろうと思い気の毒になった。

「ユメノもあんまり考え過ぎちゃダメだよ、絶対クライアントの人が助けてくれるからね!」

 背中を押したつもりだったが、ユメノは。

「クライアントの人って、君もそうだろ。私は、君に助けを求めたんだ。出来れば君に助けてもらいたい」

 泣きそうな顔でそう言った。

「ねぇ、ユメノ、何があなたをそんなに苦しめているの? 自分で自分を壊しているように見えるのは、私の気のせい?」

「なんで、君には……何でもない、気のせいですよ」

 いつもの笑顔に戻ったユメノ、でも、痛々しく感じるのは気のせいなのだろうか? 首を傾げたくなったが、傾げなかった。

「中央のクライアントも先代から継いだのか?」

 メルローが急にそんな事を言い出す。

「まあ、そうですけど」

「そうか、何か、お前は、気配が時々揺らぐぞ」

「揺らぐ? どんなふうに」

「サーバントに毒されたクライアントみたいな気配だよ。お前、サーバント達によっぽど嫌われているんだな」

 メルローがそう言って笑っている。

 そうか、メルローの言う通り、気配が揺らぐんだ。だからユメノから変な感じがすると思ったんだ。

「ユメノ、本当に大丈夫なの、サーバントに喰われていない?」

「大丈夫ですよ、中央のクライアントは、特別優秀で、サーバントと深くまでつながることが出来るんですよ」

「そうなの、それならいいのだけど」

 中央のクライアントの能力で、サーバントに喰われるなんて事があるわけないんだ。大丈夫だよね?

「城の案内をしましょう」

 ユメノは、明るい声でそう言った。

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