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「中央の設備の使い勝手を覚えておくといいですよ、サーバントと出会った時に楽でしょうから」
「そうね」
お茶を飲み干し、ティーカップを置いて、ユメノの後を追いかけた。
「では、まず、クライアント管理室へ」
クライアント管理室に行くと。
「おい、ユメノ、またサーバント増えたらしいな、お前は、本当に優秀だな、先代も喜んでいると思うぞ」
『中央クライアント管理長』と言う、バッジを下げた。ひげを生やしているおじさんが笑顔でそう言って来た。
「ユメノは、お前達に無礼な事をしていないか?」
「いいえ」
「……」
メルローは黙ったままユメノをにらむ。
「女性に好かれるところも、さすがお前だよ、イケメンはいいな~女の子に何を言っても怒られないなんて」
「そ、そんなことないですよ、ユメノさんは紳士ですから……」
つい、そう言ってしまったが、今のでは、まるでユメノの事が好きな人の態度だと思った。
「ジュ、ジュリア」
チャニが、名前を呼んだ瞬間に、『中央クライアント管理長』はユメノの肩に手を回して。
「へ~、もう一人、取り入っちゃったの?」
「そんなことはしていません」
ユメノは嫌そうな顔をしてそう言う。
「まあ、あれだ、この子もクライアントなんだろ? 同じ職業の子を好きになっちゃうんだね」
「違います」
ユメノは冷めた目でそう言った。
「私は、『中央クライアント管理長』で、その名の通りクライアントの監視が仕事なのだよ」
「中央クライアント……」
「ディックと呼んでくれてもいいぞ、俺の名前なんだ。俺は、ディック・ハンサンスと言う者だ」
「そうですか、ディックさん、あなたは、今回のサーバントにとりつかれた方をどう思いますか?」
ディックは、少し顔をしかめて考えた。
「ある、女性なんだが、とりついているサーバントが何のサーバントなのか、全く見当がつかないんだよ。なんせ彼女は、心の強い人で、ユメノも悪夢の中に何度か入っているのだが、未だに何のサーバントなのかわからないらしい」
「ユメノがわからないなんて、難しそうね」
「だから、女性のクライアントならわかるかな? と思って君を指名してあげたんだが、ユメノ、彼女はどうだい?」
「まあ、今の状態でいつまでもいるのは嫌だ」
「そうと決まれば、サーバント選びだ。お嬢ちゃん、付いておいで」
ディックがジュリアの腕を引く。
ユメノが見えなくなった所で、ディックはジュリアに。
「女の子が一番に悩む事って何かな?」
女の人を救うために必死な様子でそう訊いてきた。
「人それぞれですよ、女の子は悩むことが多いですから、恋愛に美容に、人間関係にお金、他にもですね――」
「わかった、わかった。女は悩みが多いのか、大変だな、これは……」
ディックがそう言うので、女に偏見を持たせてはいけないと思い。
「男の人だって悩むでしょう?」
「いいや、俺は全く悩みがない」
ディックは笑顔でそう言った。
「幸せなんですね、悩みが無いなんて……」
「そんな事は無いよ、君に悩みを話したところで、解決してくれるかなんてわからないからな……」
ディックの悩みは、女の人の事だと思って、力強く。
「私だってやる時はやります」
そう言った途端ディックはおどけた様子になって。
「そうか、おじさんの財布が空っぽ何だが、お金を貸してくれるのかな?」
なんて言って来た。
「ディックさん、ふざけないでください」
つい、怒ってしまったが、ディックは、何か言葉を飲みこんで、ふざけた様子にも見えた。
(よほど大事な女の人なのだろうな)
みんなにこれほどに大事にされている女の人を見たことがなかったので、少しうらやましかった。
「どうした? ジュリア」
メルローが心配してくるので。
「大丈夫だよ」
笑顔でそう言ったものの、中央と言う場所に未だになれず、不安があった。
「さあ、さあ、ユメノのサーバント名簿だよ」
そう言って渡された本には、さっきの紅茶のサーバントや、この前捕まえたばかりの装飾のサーバントも載っていた。
「すごい、一二五匹もいる」
夢中で名簿をめくった。
「光のサーバントってどんな感じかな?」
「イルミネーションの様にチカチカしていたりして」
チャニがおどけたようにそう言う。
「光のサーバントは、暗闇を照らすだけ、暗い所にいない限り、意味の無いサーバントだよ」
ユメノがそう言って現れた。
「ユ、ユメノ! あなたってすごいのね、一二五匹もサーバントを連れているなんて、驚いたわ」
「決して、私の力ではございません」
「えっ? 何で?」
「い、いや、サーバント達のおかげなんだよ」
「ふ~ん」
何も疑う気は無かったが、ユメノ達の話は、時々おかしい気がするのだ。
(なんでなんだろうか? 何か私に隠しているんじゃないかしら?)
少しだけどユメノ達に疑問を持った。
「では、使うサーバントは決まったかい?」
「はい、チャニとメルローがいればいりません」
はっきりそう言った。
「でも、君、その二体だけで、交渉できるほど簡単な相手ではないんだよ」
「私はそうは思いません、私は、信頼できるサーバントは、一〇〇体のサーバントに勝ると信じています」
ユメノの目を見て、はっきりとそう言った。それを聞いたユメノは、少し驚いて固まっている。
「考えてみてください、信頼のできない相手がいる戦場ほど怖い物はありませんよ」
ユメノは、考えた後頷き。
「そうだね、君の言う通りかもしれないね」
「でも、一つだけお願があるの、ユメノも一緒に来てくれない?」
少し恥ずかしいがそう言った。
「でも、私には救えなかった」
「私もいれば、何かに気が付けるかもしれないじゃないですか? 気づいても、私の力では救えなかったとき、ユメノに託したいの。だめかしら?」
「……良いですよ」
ユメノは一番うれしそうな顔で笑った。
「つまり、私を信頼してくれていると言う事ですね」
「うん、ユメノの事は信頼している。あなたは、その女の人を助けたいと言うのは、本当の事だもの、それが終わるまで、私達に手を出さない確証があるの」
「確証って何?」
「女のカン」
「……」
「うそよ、クライアントがサーバントを譲るとまで言うほどの事は、相当な事のはずだと思ったから」
「……鋭いな」
ジュリアはおばあ様に教わった。人の見抜き方を心得ている。そのため、普段は抜けている分、人の心の中を覗こうとするとき、人が変わる。
「私をなめていましたね」
「少しばかりね、優しいだけの女の子だと思っていたよ」
ユメノは、白状するようにそう言った。
「クライアントは、そう簡単になれるものじゃないと言う事は、あなたも知っているでしょう?」
ジュリアは、ユメノを見つめ、確認するようにそう言った。
「そうだね」
ユメノはたじたじしてそう言った。その時は、ジュリアの変わり振りに驚いたからだと思ったが、少し違うような気もした。
「それで、その女の人だけど、いつ会わせてくれるの?」
「君の覚悟が出来た時でいいよ」
「奇遇ね、私は、とっくに覚悟をしてきたのよ、チャニ、メルロー、行くわよ」
「はい」
「はーい」
チャニは喜んで返事をするが、メルローは眠そうである。
「そうでしたか」
ユメノは小さく笑って、部屋を出て行くので追いかけた。
「待って、ユメノ」
「案内します」
ユメノはそう言って城の奥の部屋にジュリアを連れて行った。




