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秀才型兄 天才型妹

これは実際の個人、団体、地名その他の固有名詞とは一切関係まりません。

つまるところフィクションです。


 壊れたおもちゃ箱。そう形容する事が最もふさわしいような、円形の小部屋。

 しかし、ただの部屋でない事は一見して理解できる。その部屋には窓が無い、しかしそれだけではなかった。

 天上が存在しない、否、ふつうの部屋なら天上があるはずのそこには、果ての無い闇が広がっていた。


 その部屋の真ん中に、一人の少女が座っていた。ひざの上には真っ黒な猫が眠りについている。

 少女がいとおしげに黒猫を撫でていると、深い闇の向こう――天上方向に青白い光がちらついた。

 視界の端にそれを捕らえた少女が、天を仰いだ。

 しばらく見ていると、ちらついていた光はだんだんとその点滅の回数を減らしていき、やがて点滅をやめ小さな光の粒となった。

 それはゆっくりとその大きさを増しているようだった。

 

 目を細めた。その時、突然体が大きくゆさぶられるような感覚に陥った。

 このゆれがあの光と関係している事は想像に易い。しかし、周囲を見ても振動を受けている様子は無い。そして再び遠く光る不気味な光を再び見上げ、悟った。

 光は大きくなっていたのではなく、接近していたのだと。それはただの光などではない事を。

――ふと、ひとつの曲が脳裏によみがえった。

 あわてて振り返るのと、背後のカーテンが翻るのとがほとんど同時だった。

 そこに人影をみとめ、走り寄ろうとしたその時、ついに大量の何かが降り注いできた。

 それは、床に触れるなり燃え上がった。

 炎の勢いはすさまじく、あっという間に炎の先がカーテンを舐め、カーテンの向こうは炎に包まれた。


 耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫びが辺りに響いた。

 それと同時に放出された大量の力は、やがて主の思いに答えるように一点へ終結し、ひとつの式が編まれた。

 それはとあるものを乗せ何処いずこかへと消え去った。



 炎に包まれた部屋はしばらくと持たず、床に、壁に、亀裂の侵入を許し、それは縦横に走りぬけた。

 床が限界に達し、一箇所が崩れると連鎖反応のように周りへと崩壊が進んでいく。

 小部屋の断片はばらばらになり、落ちていった・・・・・・


 床の下。そこにも果ての無い闇が広がっていた。まるで重力に引かれるようにその中へ吸込まれていく小部屋の断片は、やがて少女と黒猫を残し消え去った。

 少女は、うずくまっていた。

 そして、泣いていた。

 雫が落ちては散り、宇宙空間に浮く水滴のように少女の周りを漂った。

 少女には分かっていた。自分が使った力がなにを成したか。しかし、無意識にやったそれは、不完全で基本となる部分を無視した、いわば出来損ないの魔術でしかなかった。

 だから泣いていた。あえないと思うから。

 ――そう、思わずにはいられないから。


    

   ☆★☆★☆☆


 


 「では、お兄様行ってまいります」

 「うん、行っておいで優希乃ゆきの。俺は保護者席のどこかにいるから」

 悠斗が笑顔を向けると、優紀乃は小さな笑みとともにわずかにうなずいた。 

(さて、これからどうしようかな・・・)

 会場に向かって歩き出した妹の背中を見送りながら思う。

 今日は、私立星桜せいおう学園大学付属第三高校新学期初日。つまり始業式の日だ。 

 しかし、それは午後からのことであって、午前中は入学式に当てられている。二年生の悠斗が学校にいるにはいささか早すぎる時間である。

 時間を間違えた、訳ではない。

 

 答えは、今悠斗の視線の先にある妹の背中。

 彼女は今年、三校に入学することになったのだ。

 諸事情あって式に来ない――というか家にすらいない――両親に代わって、悠斗が妹の面倒を見ている。

 これはもの心ついた時から続いている日常・・なので別にわずらわしさなど感じない。むしろその逆だった。

 自宅に帰れば昼勤のハウスキーパーだっている。

 強いて言えば、自分達には努力などでは埋め得ない実力の差がある、というところだ。

 学年が違えど、二月生まれの悠斗と十二月生まれの優紀乃。処理能力に年齢的な差は無い。というよりも、そこで差を作れない。

 現に優希乃は今日の入学式に新入生総代としても臨む。悠斗は、というとEクラスだ。


 三校といえば、国内屈指の実力と名声を兼ね持つ星桜学園大に、毎年100名以上の入学者を出すエリート高校だ。

 付属高校は全国に4つある。

 そもそも関西進出の足がかりとして大阪に第一高校が創設されたのが始まりだった。

 続けて神戸にも二校が建てられた。

 だが、大学に手が届くことはなかった。

 関西地方に強い地盤を築いている(と言っても、WW3後の話ではあるが)一派が進入を許さなかったのだ。

 そのため、関東に残り二つの付属高校を設立した。というのが三校創立の裏話。


 

 この高校が高い進学率を誇る主な理由として徹底的な実力主義の教育方針があげられるだろう。

 毎年二百五十人迎えられる新入生は、9クラスに分配される。ここですでに、この学校の方針がはっきりと現れる。

 AからIまであるクラスのうち、A組は理数科。三校生の間でさえ優等生と呼ばれる、天才たちの集まりだった。

 B組以降は普通科ではあるが、その中でも成績の順番で上から割り振られていく。

 三校の入試問題は”超”の付く難関で、これに一次合格しただけでも世間から見ればすごいことなのだ。

 だが、三校の入試は二次試験まである。テストの結果とあわせて、作文、面接がかせられる。公にはしないことになっているが、家柄の調査も行われる。

 最も、これはよほどの問題が無い限り多少は目を瞑ることになっている。むしろ金銭的な面で三校の教育課程に耐えられるか、という部分が多く見られる。

 つまり、ある程度お金持ちで、勉強に秀でて、面接、作文に才のあることが条件なのだ。

 ただし、合否はすべての総合点から判断される。そのため、中には一寸背伸びして、ワンランク上の高校に受かってしまった。という意識の子も混じっている。勉強はそれなり・・・・でも、作文もしくは面接が飛びぬけてうまかった。ということだろうが、一定の基準は満たしているのだから不合格にすることも出来ない。

 だからといって、優等生と混在させるわけにも行かず、このような一見、きわめて容赦ない教育方針になっている。

 ただし、I組にもなるとその引け目はかなり大きい。自信を失い脱落していく子もいるわけだ。

 悠斗は、2-E。良いとも悪いともいえない。

 ただし、星桜学園への合格者数のノルマ|(もちろん暗黙の了解である)は100名。主力はDまでと考えると、補欠であることは否めない。

 ただし、優希乃は違った。彼女は主席合格での入学だ。

 そしておそらくA組に配属されるのだろう。

 とても血の繋がりがあるとは思えない。




「あの、すみません」

 突然か掛けられた声に、回想は打ち切りとなった。

       

 

不定期更新になりますが、よろしければお付き合いください。

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