↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dear Four Seasons 〜魔剣使いが往く異世界剣聞録〜  作者: 鹿島ジュン
1章︰Adventures of the Four Seasons

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/24

5話 精神の願望/Mind's Desire



 二度にわたる、異形の怪物の瞬殺劇。

 一度目はナツを襲っていた怪物の子供の有無を言わさぬ斬首。二度目は、怒り狂って先走った成獣らしき個体の余裕の真っ二つ。


 漆黒の刃を構えて人間離れした活躍を見せる夜永春斗──ハルの姿は、昔からよく知る幼馴染のそれとは完全にかけ離れていた。

 まるでダークファンタジーのゲームから飛び出してきた魔剣士さながらに魔剣を振るう、圧倒的な技の冴えと存在感。

 それは背後にいるアキ、ナツ、フユの三人の胸に、激しい驚愕と、どこか震えるような畏怖を刻み込んでいた。


 それが本人由来のものではなく、超常めいた恐るべき恩恵をもたらす魔剣によるものだからだとしても。


 だが思い返して考えてみれば、その認識や感想は正しくない。

 夜永春斗はいつだって、やることは『同じ』だった。

 勉強に困ったとき、誰かがトラブルに巻き込まれたとき。悲しいことがあったとき、ちょっとしたわがままを聞いてほしいとき──普段はクールで素っ気なく接するが、その実、誰よりも仲間思いで、寄り添ってくれて、頭が切れて、要領が良くて、頼りになって、強くて──優しかった。


 そして生きるか死ぬかの非日常に巻き込まれた今もまた同じ。ハルは皆を守る、たったそれだけのために、人外の力を振るってまで戦っている。


 ──なのに、自分たちは⋯⋯ッ!


 自分たちは今、完全に庇護対象であり、足手まといだった。

 しかも戦えないだけではない。この場から『逃げる』ことすらできないが故に、明確にハルの足枷になってしまっている。


 そして三人がこの場に身を寄せ合って硬直せざるを得ない理由は、フユの観察眼によるものだった。彼女は少しでも怪物の注目を浴びないよう、蚊の鳴くような小声で二人に事実を告げる。


「も、もし⋯⋯アレが、クマとワニの特徴を、それぞれ持ってる生き物だとしたら⋯⋯背を向けた人を、優先的に追うはず⋯⋯」


「あ⋯⋯うん、聞いたことあるよ」


 ナツが引きつった顔で、必死に記憶を手繰り寄せた。


「クマって、走って逃げたら逆に興奮して追ってくるんだよね。有名な死んだフリも実はダメで⋯⋯目を合わせたまま、ゆっくり下がっていくのがベターな対応だって⋯⋯」


「う、うん⋯⋯。でも、今はそれもダメ。もし、ハルのカバーできないエリアで襲われたら⋯⋯間に合わずに殺されちゃう⋯⋯そうなったらもう⋯⋯どうしようも、ないから⋯⋯」


「てかあいつら、明らかに『知性』みてえなのあるよな⋯⋯。ただ野生の本能ってだけじゃ、ハルの挑発受けた一匹がキレたり、他のやつらが慎重だったりの説明つかねえぜ⋯⋯」


「うん⋯⋯結局、無理、なの。ここにいるしか⋯⋯ない⋯⋯っ」


「クッソォ⋯⋯ハル⋯⋯すまねえっ⋯⋯!」


 アキが奥歯を血がにじむほど噛み締めた。恐怖と、それ以上に己の無力さに対する焦燥が、胸の奥でざわざわと渦巻く。


 魔剣──それさえ使えれば。その思いが、呪いのようにアキたちの心を支配していく。

 あの町工場で見つけた、四本の物々しい魔剣。いかにもファンタジックなアイテムが、なぜ日本の工場にあったのか疑問は尽きない。だが今はそんな謎はどうでもよかった。


 ハルの魔剣《楽園と冥府の剣》が、人を人たらしめる枠を超えさせる力があるのだとしたら。

 残りの三本──自分たちが手を触れたあの剣たちもまた、同様の奇跡を秘めているはず。

 それさえ叶うならば、この場を文字通り「切り抜ける」ことができる。生き残ることが──助かることができる。


 ならば、あと必要なのはただ一つ。あの魔剣をこの手に呼び出すための、自分と剣を繋ぐ、自分だけの『言霊』だけ。

 それなのに──


「⋯⋯オレらもよ、ハルと同じように、魔剣使えるはずだよな? あの時、確かにオレらみんな光る剣に触ったんだ⋯⋯」


「う、うん⋯⋯。それで、気付いたら⋯⋯変な森にいた。ハルも私たちも、条件は一緒の⋯⋯はずだよ⋯⋯」


「あたしも自分の中で確かに感じるてるの⋯⋯。『これ』が魔剣だって、わかるのに⋯⋯わかるのに⋯⋯っ!」


 ──それなのに、何故? 何故、魔剣の力を起動・発動するための言葉がわからない?


 三人の心が死への恐怖、現状への焦燥と困惑、そして罪悪感でどんどん負の方向へと傾いてしまう。

 脳裏にある謎のワード。これを唱えることで魔剣の使い手として覚醒できる。その確信がある。

 だというのに、肝心の言霊としての意味が全くわからない。まるでアクセス不可の強固なプロテクトが徹底して掛けられているかのように、主への理解を拒ませている。

 ハルは一番にそれをやってのけて、他の三人も、我が身に起きた得体の知れない気配を感じるところまで来ている。何故──?


「──!? っく⋯⋯!」


 その時、最前線で四頭の怪物を強烈に睨み据えていたハルの口から、苦悶の呻きが漏れた。

 漆黒の魔剣の刃を地面に突き立てるようにして、ハルがガクンと、辛そうにその場に膝をつく。


「ハル!?」


 完璧だったはずのハルの威圧による防壁。そこに、明確な異変が生じていた──。




ちなみに四人はまだここが「異世界」だと明確には認識していません。異世界転移が実際に自分の身に起きるなんて夢にも思わないのが普通ですから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。