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【完結】捨てられ令嬢と魔女の薬屋  作者: 竹間単


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●1


(1)


 人生とは、どうしてこうも上手くいかないのだろう。


「ジゼル、お前とは今日限りでおしまいだ。俺と離婚してもらう!」


「そんな、どうして……」


 まだ結婚してから一年にも満たないというのに、私は夫のアレクシス・ラミレスから離婚を告げられてしまった。


「この状況を見てどうしてと言えるなんて、それこそどうして? アレクはわたくしのことを愛しているのよ。あなたではなく、ね」


 アレクシス様の横に立った女性、ヴィヴィアン嬢が、勝ち誇ったように私のことを見下ろした。そして長い髪をかき上げながら言い放つ。


「そういうわけだから、さようなら。夫から一度も愛されなかった、憐れなジゼル・オルコット」



 その後、私は早急に荷物をまとめさせられ、ラミレス伯爵邸から追い出された。

 最後の情けなのか、実家までの馬車を出してもらえたことは幸いだった。

 ……と思ったけれど、別に幸いではなかった。



「ラミレス伯爵に離婚を言い渡されて出戻っただと!?」


「一体何をしたのよ、この子は!」


 実家に戻ってアレクシス様と離婚することになった旨を伝えると、両親が烈火の如く怒り出した。長時間馬車に乗って疲れたからひとまず寝かせてほしいのだけれど、その願いが叶うことは無さそうだ。


「実はアレクシス様に好きな女性が出来たらしくて……」


 離婚の理由を告げてみたものの、両親の怒りは一向に収まることがなかった。父は鼻息を荒くして、母は金切り声で、私のことを罵った。


「後から来た女など、お前が正妻として堂々としていれば妾の座に収まっただろう!? それなのに離婚をするだなんて信じられん!」


「もしジゼルがラミレス伯爵にすがっていたら、離婚は回避できたことなのではなくて!?」


「そもそもお前が伯爵ともっと良い関係を築けていたら、離婚の話など持ち上がらなかったはずだ!」


「あなたの努力不足よ、ジゼル! 反省しなさい!」


 私の努力不足……それはあるかもしれない。

 結婚はしたものの、私は夫であるアレクシス様とあまり良い関係を築くことが出来なかった。

 妻の役目を果たそうとして、アレクシス様の好きな茶葉を切らさないようにしたり、仕事で疲れているアレクシス様に手作りの菓子を持って行ったりもしてみたけれど……今思うと、これらは使用人の行なう努力だったのかもしれない。だからアレクシス様は、私を妻として重宝しなかった。

 ……と、いうか。


「アレクシス様はもともと私のことが好きではなかったのかも」


「はあ!? 好意も無いのにお前のような男爵家の娘と結婚をするわけが無いだろう!? きっとラミレス伯爵はお前の外見を見初めたのだ。それなのにお前が伯爵の心をしっかりと掴んでおかないからこんなことになったのだ!」


 お父様の言う通り、うちはしがない男爵家であり、どうしてアレクシス様が私に結婚を申し込んでくれたのかは分からなかった。

 結婚した当初は私もアレクシス様が自分のことを見初めてくれたものだとばかり思っていたため、幸せな結婚になるのではないかと夢を膨らませていた。

 しかし実際に結婚をしてみると、アレクシス様は私に一切興味が無い様子で、とても妻とは思えない扱いを受けた。虐待をされたり罵倒をされたりしたわけではないものの、ひたすら居ないものとして扱われたのだ。

 そしてまれに話しかけてくれたと思ったら、他人の愚痴を永遠とこぼされた。きっと誰でもいいから愚痴を聞いてほしいと思ったときに、偶然私が近くにいただけなのだろう。

 こういった愚痴は何度も聞いた一方で、私に対する愛の言葉は一度も聞いたことが無い。

 その状態からの、彼女の登場と離婚宣言だ。

 アレクシス様の恋人であるヴィヴィアン嬢は、とても美しい女性だった。

 私とは違う色っぽいタイプで、ばいーんぼいーんという効果音が似合いそうなグラマラスボディの女性だ。こういう女性がアレクシス様の好みなのだろうか。もしそうなら、なおさら私と結婚をした意図が分からない。特に家柄が良いわけでもなく、私自身がアレクシス様の好みでもないなら、あの結婚は一体何だったのだろう。

 私の結婚は蜃気楼のようにおぼろげで、夢が覚めるようにある日突然消え去る運命だったのかもしれない。


「とにかく。伯爵邸に戻り離婚を取り消してもらうまで、うちの敷居を跨ぐことは断じて許さん!」


「そうよ、ジゼル。早く伯爵邸に戻って離婚を取り消してもらいなさい。頭を下げてどんな扱いでも受け入れる姿勢を見せれば、伯爵も考え直してくれるかもしれないわ!」


 ……それは、本気で言っているのだろうか。

 どんな扱いでも受け入れるだなんて、まるで私が悪いことをしたみたいだ。

 妻として愛されることが出来なかった。それが私の罪なのだろうか? そしてそれを償う必要がある?

 もう何も、分からない。


「……分かりました」


 一方で、私の口は思考とは逆の言葉を紡いでいた。状況的に、こう言うより他に無かったからだ。

 こうして私は、帰る家を失った。




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