15、ダルダ団員、お頭と共にブルーと会談す。
バクラム率いるダルダ団三百人と、ブルー率いる山賊団五百人は砂漠の真ん中で向かい合っていた。
両軍の間の距離はわずか五百メートルほどで、目を凝らせば、遠くに佇む一人一人の輪郭まで見えるほどだった。
バクラムの隣でそれを眺めていた手下のゴンゾは不安で唾を飲み込む。
これから会談が開かれるのだ。
バクラムのお頭とブルーの野郎が直接話す会談。
両軍の見守るちょうど真ん中で……その会談が開かれる。
すると、対峙するブルー山賊団から会談が行われる両軍の真ん中に向かって歩いてくる二人の男がゴンゾの瞳に映る。ターバンをぐるぐる巻きにした男が二人……
きっと、どちらかがブルーの野郎にちげぇねぇ。
「ほら、こっちも行くぞ、ゴンゾ」とバクラムは歩き始める。
四角い顎のゴンゾは後に続く。シャリ、シャリ、と一歩歩くごとに砂を踏みしめる音がした。
二人は会談場所である両軍が対峙する真ん中に向かって足を進める。
「お前のやるべきことはわかってるな? ゴンゾ」とバクラムは歩きながら確認してきた。
「へい、お頭」とゴンゾは返事をする。
やるべきこと、やるべきこと、とゴンゾは心の中でそう唱える。
やるべきこと……
それは……ブルーとお頭の話し合いを見守ることではなく……
ブルーを速やかに殺すこと。
そう、それこそがゴンゾの任務だった。
とにかく、ゴンゾは頭の中を整理する。
まず、どうしてこんなことになったのか、を。
そして、お頭があの日何を言ったのか、を。
あの日、王家の軍隊とブルーの山賊団が手を組んだことを知ったバクラムのお頭は、皆にあることを訴えた。
両方の軍隊が合わさって敵の数が膨れ上がる前にブルー山賊団を潰すしかない、と。
そのためにお頭が考えた作戦こそが、トモダチ作戦だった。
トモダチ作戦。
なかなか皮肉の聞いたネーミングだとゴンゾは思った。それはつまり、和議の会談に見せかけたブルーの暗殺作戦だった。
でも、正直なところ、なんでブルーを暗殺しなきゃならないのかがよく分からなかった。
だが、お頭は言う。ブルー山賊団はブルーさえいなくなってしまえば簡単に空中分解する組織だ、と。なぜなら、あの集団はブルーへの恐怖心によって成り立っている集団だから、だそうだ。
つまり、ブルーさえ殺してしまえば、あとは烏合の衆。他に山賊団を指揮する人間がおらず、組織さえ維持できなくなって滅ぶ。
それがお頭の見立てだった。
ゴンゾはそれほど賢くなかったので分からなかったが『たったそれだけのことで、本当にあの山賊団が壊滅するんですかい?』と尋ねたら、お頭はこう答えた。
『必ず壊滅する。間違いねぇ』と。
アルカーキの街の住人は心の底からブルーと山賊団を恨んでおり、尚且つブルーだけを心の底から恐れている。ブルーが死んだことがアルカーキの住民に知れれば、住人は一斉に山賊団に反逆するはずで、ただその時を待てばよい、ってことらしい。
そのためにお頭はこのイギーの砂漠にブルーを呼び寄せた。
和議を結ぶという名目で……
そして、ダルダ団の中でもっとも戦闘能力の高いゴンゾにブルー暗殺の任務が任されたのだ。
このしくじることができない任務に抜擢されたことにゴンゾは胸を高鳴らせていたし、何よりお頭に選ばれたことが誇らしかった。
それからお頭は、毎日毎日、耳にタコができるんじゃないかってほど繰り返した。
そう、まるで俺たちを洗脳するかのように繰り返した。
『ブルーさえ殺しちまえば、イギーの砂漠にいる連中は木偶の坊のようにボォーっと立ち尽くすだろうぜ。だから、俺たちはそれを見届けたらトルトゥーガの街に戻りゃあいい。たったそれだけでこのリーズ領は俺たちのものだ! いいか? たったそれだけでこのリーズ領は俺たちのものだ!』
ゴンゾとバクラムの二人は足を前に進める。
ゴンゾの目に相手の姿がハッキリと見えてきた。
どちらの男も不必要なほどにターバンをグルグル巻きにしたうえに、マスクをつけており、顔が見えない。一体どちらがブルーなのだろう?
そう、この会談は二対二で行われる会談だった。(正確に言えば、バクラムがそう仕向けた)
お頭はこう言っていた。
『この会談は二人一組で行われる。俺と護衛役のワンセット。相手も同じだ。まぁ当然だろうな。少しは暗殺も警戒されてるはずだ。それに、ブルーは手練れのお供を連れてくるだろう。だから、そいつを素早く殺せるかどうかが、今回の作戦の分かれ目だ。分かるなゴンゾ? だからこそ、最初に狙うべきは護衛の男。ブルーはその次に狙えばいいんだ。この順番を忘れるんじゃねぇぞ。ほとんどの護衛は自分のボスがやられないか、それだけを気にする。だからこそ、護衛は自分を攻撃してくるなんて微塵も思っちゃいねぇ。そこが付け目だ』
ゴンゾは頭の中で復唱する。
まず、護衛を狙う。まず、護衛を狙う。まず、護衛狙う。まず――
相手との距離がどんどんと縮まる。
どんどん、どんどん、と。
だが、近づくうちにゴンゾは奇妙な思いにかられる。
こちらは遠目でもお頭が来たって服装で分かるようにしてるのに、なんだってあの二人はどっちも似たような恰好をしてるんだぁ?
それも、どっちもターバンにマスク。見分けづらいし、第一、誰が誰だかわかりゃしねぇ。
そこが引っかかったが、ゴンゾはとにかく自分の仕事に集中するために無駄な考えを頭から追い出す。
砂を踏む音が耳の奥に入り込む。
そして敵の二人と十メートルぐらいまで互いに近づいた時点で、お頭は歩みを止めた。
「じゃあ予定どおり、互いに剣を捨てようじゃねーか! 会談に剣は不要だからな! そうだろう?」
これもお頭の作戦だった。敵が安心するように敵も自分たちも武器を捨てる。もちろんゴンゾだけは武器を隠し持っていた。服の内側に、ひっそりと短刀を隠し持っていたのだ。
近づいてきた敵の二人はそれにうなずくと、腰につけていた剣を砂の上に放り投げた。それを確認してから、バクラムとゴンゾの二人も剣を鞘ごと遠くに放り投げる。
予定通りだった。
すべてが予定通り。
ゴンゾは服の内側に携えた短刀を胸に一歩ずつ近づく。
ターバンでぐるぐる巻きにした二人もこちらに近づいてくる。
そして、その距離が2メートルぐらいになると、バクラムは笑顔で手を差し出した。
「どうも。俺がトルトゥーガのバクラムだ。どっちがブルーだ?」
一瞬の沈黙のあと、向かって左側の男がバクラムに向かって歩き始めた。そして、ゆっくりと手を差し出す。
その瞬間、バクラムとゴンゾは目があった。
ブルーがどちらか判明した瞬間であった。
今だ、とバクラムはゴンゾに目で合図を送る。
それは、たぶんほんの一瞬の出来事だったに違いない。
――まず、護衛を狙う。
合図を受け取ったゴンゾは、まるで狐のように素早く動くと、目にもとまらぬ速さで懐から短刀を取り出し、そのままブルーの護衛の喉を切り裂いた。
あまりに突然の出来事にブルーは息を吸い込むだけで精いっぱいだった。
ゴンゾの足は止まらない。
声も出せずに皿のように目を大きくしたブルーの背後に回り込むと、ゴンゾは渾身の力で、背中から心臓を一突きした。
――手ごたえあり!
ブルーは「馬鹿な……」とかすれ声をだし、口から血を吐き、そして砂の上に膝から崩れ落ちた。
ブルーのマスクが真っ赤に染まり、乾いた大地に血の恵みが染み渡る。
バクラムのお頭と目があった。
思わず、ゴンゾは飛び上がりそうになる。
やった! やったぞ!
完璧だった。我ながら完璧な仕事をやってのけた。これでリーズ領は俺たちのものだ! とゴンゾは思った。
あとは立ち尽くす無能なブルー山賊団を尻目にトルトゥーガの街に帰ればいいだけ。たったそれだけでいい。
そうですよね? お頭?
ねぇお頭?
バクラムは、じっと砂の上にあおむけに倒れたブルーの死体を眺めていた。眉をひそめ、首を傾げながら……。何かがおかしい、そんな顔をして眺めていた。
すると、次の瞬間「突撃ぃいいいい!」という声が聞こえた。そして、沢山の男が唸り声をあげる声が聞こえた。
ゴンゾとバクラムはその声のする方を振り向いた。
そこにはこちらに向けて突撃してくる五百人のブルー山賊団がいた。手に剣を持ち、鬼気迫る顔でこちらに向けて皆走ってくる。
「お頭! 話が違うじゃねーですか!」とゴンゾはわめく。
「もしかして」とバクラムは言い、ブルーのマスクを脱がせる。ゴンゾはその顔を見て驚いた。ゴンゾは一度ブルーの顔を見たことがあったのだ。だからこそ、すぐに分かった。
別人! ブルーと思い込んでいたのは、別の誰かだったのだ。
「じゃあこっちは?」と言い、ゴンゾは護衛役と思った人間のマスクを取り外す。
だが違う、こいつもブルーじゃねぇ!
「どうすんです、お頭!」
「どうもこうもねぇ! 戦うしかねーんだよ! ダルダ団! 行くぞ!」
すでにダルダ団も動き始めていた。敵が突撃したことに慌てたが、ボスを殺されるわけにはいかない、と三百人も一斉にこちらに向かってくる。
「こうなりゃ徹底的に戦うしかねぇ! ゴンゾ! 覚悟はいいか!?」
くっそぉおお! とゴンゾは思った。ハメられた。ブルーの野郎にハメられた。ゴンゾは思い切り叫んだ。こんなに悔しいと思ったことは初めてだった。
「くっそおおおおおおお!」




