1/7
プロローグ
「駒鳥の胸は、なぜ赤く染まってしまったのか」
ここより少し北にある街、ウェルゼ。この街は規模こそ大きくはないが、音楽の街として有名な街である。そのため、街中に楽団や音楽学校がひしめき合っているが、特に聖ハリス声楽女学院の知名度は群を抜いていた。この女学院は実力のあるオペラ歌手を多数輩出し、秋に行われるグランド・コンサートで主演女優、つまりプリマドンナを務める生徒は必ず、大陸一の歌手になると言われていた。
聖ハリス声楽女学院は、オペラ歌手を目指す少女たちの間では最も入学したい憧れの場所であり、音楽を愛する大人たちは、ここの生徒たちを「駒鳥」と呼び、可愛がっていたのだった。
そんな誉れ高い聖ハリス声楽女学院で起きた残忍な悲劇は、すでに風化し、半ば伝説と化している。憧れのプリマドンナへの道半ばで露と消えた少女たちの悲劇は、殺人鬼の死によって幕を降ろされた。しかし、その多くは未だ謎に包まれたままである。