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ACT:08  スズキタロウってどんなやつ?(羽場下 叶編)

またしばらく投稿していなかったのにお気に入りが増えている不思議……。



ありがとうございます! とにかくお待たせしました。

最新話、どうぞ!

 初めて気が付いたのは、入学してから二ヶ月くらいだったから、いまからちょうど一月前の六月だったと思う。

 友人の弥生、夏海と一緒に帰っている途中にガラの悪い男の子たちに絡まれたことがあった。そんなとき自分たちよりも小さい男の子が三人、間に入ってきたのだ。

 弥生や夏海は、剣道や柔道をやっているのであの時のことを思い出すたびに、「悔しい。今度あんなことがあったらフルボッコ!」と息巻いているが、そんな武道経験者であっても身動きできなくなってしまうような場面に、中学生、もしかすると小学生かもしれないと思ってしまうような男の子たちが割り込んできたのだから、それはもう驚いた。

 その後はもう颯爽と駆けつけるヒーローのようにあっという間に――ってわけじゃなく、見栄えも悪く、泥臭い取っ組み合いだったのだが、小さいほうが勝つのだから驚いた。

 でもなによりも驚いたのは彼らがどう真剣に振る舞っても、周りの雰囲気は緩んでしまうのだ。彼らが助けに入ったときは相手が「ちっちゃ!」とキレるより驚いていたし、「もう安心ですよ、御嬢さん方」とか言っときながら、どっちが勝つかわからないくらいの接戦で私たちをハラハラさせたり、何から何まで締まらない。

 特に最後。ガラの――もう不良と言ってしまおう。不良が名前を聞いたときは特に空気が弛緩した。

「ふっ、おれの名前は、鈴木 太郎!」

「そしてオレが、鈴北 楼!」

「そしてぇ、俺が珠洲 喜太郎!」

『え? みんな、スズキタロウ?』

『違う!』

 思わず不良と口を揃えて聞き返してしまったのだ。

 それからはトントン拍子に状況が進んでしまった。不良がさっさと追いやられ、彼らも「また覚えられんかった……」とか「助け損じゃね?」とか「馬鹿。神は見てるんだよ(泣)」とか肩を落としながらこちらが礼を言う前に去って行ってしまったのだ。

 まぁ同じ学校の制服だったから(ここで初めて彼らが高校生だと気付いた)明日学校で彼らを探して礼を言おうということを、弥生と夏海で決めてその日は帰った。

……んだけど。

 次の日学校に行っても、彼らの顔が全く思い出せないのだから驚いた。

 じゃあ、あのくらい背の低い人はそうそう居ないだろうからと、身長を目印に探しても、これがまた見つからない。

 今思えばあそこまでぱっとしない人間も珍しいなぁと妙に感心したものだ。

 どちらかというと整った顔立ちをしているのに、三人とも似たような顔立ちなので、三人でつるむだけで三人とも埋もれてしまうのだろう、とか見つけられないのは自分たちが薄情じゃないからだと焦って議論したこともあった……。

 そんな状況が動くのはこれまた早く、その日の放課後の部活でのことだ。

 同じ部に所属する中では一番仲のいい沙知にその話をすると……。

「……その人たち、スズキタロウって名乗ってなかった?」

「えっ!? なんでわかるの!?」

 聞くとそのうちの一人は兄だったそうだ。さらに話を聞くと自分は本当に薄情なんじゃないだろうかと思ってしまうことに、彼らは三人とも同じクラスだという。

 どうしよう、どうしようとテンパる私に沙知は、

「いつものことだから気にしなくていいよ……」

 いや、それはあまりにも報われないんじゃないだろうか……。

 しかし沙知も過去に、兄を皆に知らしめる努力をしたことがあったという。結果は「えっ。誰それ?」に終わってしまったそうだけど……。

 とにかく次の日学校に来た私はクラスの名簿をまず確認してみた。

 そこにはここまでスゴイ名簿が存在するのかと驚愕するしかない表記があった……。


 (出席番号順 前略)

 一〇番 高坂 信吾

 一一番 琴倉 美穂

 一二番 斉藤 信也

 一三番~一五番 スズキタロウ……だった筈。

 一六番 瀬能 千佳

 一七番 竹蔵 洋介

 (以下 略)


 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 目をこする。おかしい。一部分だけ名簿としての役割を果たせていない箇所があるような気がする。横に居る弥生と夏海も「まだ寝惚けてんのかしら……」とか「おっかしぃなぁ。字が読めなくなっちゃった」とか言っているし何かの間違いだろう。

 よし、もう一度確認だ!


 (出席番号順 前略)

 一〇番 高坂 信吾

 一一番 琴倉 美穂

 一二番 斉藤 信也

 一三番~一五番 スズキタロウ……だった筈。

 一六番 瀬能 千佳

 一七番 竹蔵 洋介

 (以下 略)


 ……間違いじゃ、ありませんでした。

 いや、まず一三番~一五番っていう表記がおかしい。

 そしてカタカナ表記……。せめて本人たちに確認くらいとったらどうだ、学校……。

 それに、筈って! そこは! 教育! 機関! としてっ! 自信を! 持つとかっ! 以前のっ! も・ん・だ・い・だぁー!!

「カナ、落ち着いて、カナ!」

 はっ! ごめんね、弥生。ちょっと感情の制御ができていなかったみたい……。

 とりあえず、そこまで認識が薄い男の子たちということはわかった。


 その日から私たちの「スズキタロウ観察」は始まった。本来の目的が忘れられているような気もするが、女の子としては自分たちを助けてくれた男の子がまともに評価されていないというのは複雑だったので、どうにかしようということだったんだけど……。

 これがまたぱっとしない。成績は下の上から中の下。運動神経は悪くないようだが、このクラスには速水君といったイケメンをはじめ、数名のスポーツイケメンが存在するため目立たない。

 というか、注意して見ている筈なのに割と頻繁に見失う……。どんな存在感をしているんだろう? 数値化できたらいいのに……。気になる。

 だけど見れば見るほど……かわいい。

 格好いいとかじゃなくてかわいい。

 兄弟姉妹はいないけど、弟みたいだ。

 あのちょこまかと、短い手足ゆえの細かい動作がまたキュンとくる。保護したい。

 三人ともそうなんだけど、よく見るとやっぱり違うなぁとわかるようになってきた。

 まず鈴北 楼君(頑張って覚えた)だけど、彼は一番やんちゃそうな雰囲気。三人の中では一番アクティブであり、言葉に力がある。反抗期の弟タイプ。

 次に珠洲 喜太郎君(頑張って覚えた)だけど、彼は一番大人しく感じられる。三人の中では一番冷静なんじゃないだろうか? よく周りを見てる。皮肉弟タイプ。

 最後に鈴木 太郎君(頑張って覚えた)は彼らのまとめ役だ。三人の行動決定や予定の決定など最後の判断をよく任されている。その小さな体とのギャップがまた……。背伸びする弟タイプ。

 う~ん、私としては背伸び弟タイプが一番かわいらしいです。撫でたい。

 弥生は皮肉弟タイプ。皮肉を言ってくるのを更に口で言い負かすんだそうだ……。

 夏海は反抗期弟タイプ。抵抗するのを抑え込んで揉みくちゃにしたいらしい。

 気づいてみると中々個性のある彼らが目立たないのがまた不思議だった。


 そして今日まで観察を続けてきたんだけど、毎日注意してやっとここまで認識できるようになったんだから、これは他の人に中々知られないわけだと納得してしまうようになっていた頃だ。

 地球外移民プロジェクトを利用した課外実習があったのは。

 クラスの皆はすぐにパーティーを作ってコネクト・インしてしまいグループが作れなくなってしまう。いつもなら弥生と夏海のクラスも合同なのに……。

 そう思った矢先、話し声が聞こえた。

「……タロー、お前恨みの晴らし方も小っちゃいな……」

「ロー、タローもそれは承知だと思うよ……」

 残ってる……。いや、でも、今まで見てただけでなんの関わりもなかったのになぁ……。

 でもこのままじゃ実習に参加すらできなくなっちゃうからなぁ……。思い切ってパーティーに入れてもらうことにしよう。

 そして入れてもらいたい旨を伝えると、目と口を開いて互いに指をさし合う形で固まる三人。……ダメなんだろうか?

「えっと、ダメ、かな……?」

 その後何かに突き動かされたように顔を見合わせる三人に、同行の許可をもらえたので先にコネクト・インして月読へと向かった。


 鈴木君たちのアバターの外見を聞いておくのを忘れたのは、月にある宿屋にてアバターと接続が完了した直後だ。

「あ~。どうしよう……」

 とりあえず支援センターに向かって事情を説明すれば、鈴木君たちのアバターの特徴なども教えてもらえるだろう。

 そんなセンターに向かう私を待ち受けていたのは……。

 とってもかわいらしくデフォルメされた、人型を保つスライム、とんがり帽子のゴブリン、山伏姿がちょっとキュートな天狗のアバターだった。あの胸に抱えられる大きさがまたグッとくる。

 それがニュースで言っていた魔王認定を受けたプレイヤーだと気付いて、こんなかわいい魔王が存在していいのか……と思索に耽ったことは内緒である。

「いや、一回学校に戻ればいいんじゃね?」

「学校じゃアバターの情報はわからんだろ」

「だからクエストカードの連絡先をだな……」

「教えてもらえねぇよ!」

「じゃあどうすんだよ? 羽場下が見つからなかったら行動できねぇし、もしなんかあったりしてもわからんままじゃ対処のしようがないだろ」

 この会話からして、鈴木君? まさか彼らだとは……。目立たない割にどこまで底が知れないんだろう、無駄に……。

 とにかく今まで見てきた彼らの印象と目の前にしたアバターの姿から我慢が出来なかったので、一番好みのスライムを抱きかかえる。すっぽり収まるこの大きさがホント、かわいい。

 ちょっとひんやりした、ウォーターベットのような感触が気持ちよかった。


 その後の探索でも彼らの中々のハイスペックぶりが発揮された。いや、プレイヤーとしてならホント凄い。

 魔王認定を受けていると言っても、驚かずにはいられない。見た感じ彼らのアバターもかなりのチューンが施されているのでかなりのポイントを稼いできたのだろう。このことを自慢すれば一発だと思ったのだが、彼らの通称を思い出してそれは難しいと思いなおす。

 魔王A、B、Cだからなぁ。どこまで薄っぺらい扱いを受ければ気が済むのだろう……? 最早フォローできる範囲を逸脱しているような気がしてならない。

 ただ初めて会話らしい会話を交わしてみると、中々面白い。気が合うのかな? 高校生にもなると外見を気にして服装や言葉遣いなどを飾る男子が多くなってくるけれど、ここまで素でいる男の子も珍しいんじゃないだろうか。彼らのほうがいかにも「男の子」という感じがして、好感が持てる。

 何より彼らがいたからこそ見ることが出来た「月虹の花」は素晴らしいものだった。この地球外植物も彼らが第一発見者だというのだから、ちょっとは自慢してもいいんだよ? 鈴木君たち……。

 沙知がかつて奮闘したのも頷ける。不良に絡まれていた私たちを迷いもせずに助けに来たり(互いにフルボッコだったけど……)、勉強も全くダメというわけでもなく、運動に関しては中々目を見張るものがあり、地球外移民プロジェクトに至っては他のクラスメイトを凌駕する高評価。しかもそれを鼻にかけないのだから彼らの人の良さがわかるというものだ。

 ただ、残念なのは……。

「すご~い! 流石羽場下さん!」

「羽場下さん、俺と結婚してくれ!」

「誰だ!? どさくさに紛れて求婚してるやつは!」

「今回の課題達成者は羽場下一人かぁ……」

「俺もダメだったのにすげぇなぁ! 羽場下!」

「速水ぃ! 俺もってなんだよ!」

「速水君はBランク認定なんだから当然でしょ!」

 いつまで経っても彼ら自身が、公に評価されないこと……。

 一緒に行動して彼らの凄さが知れると、この事実はすごく悲しい。今回の実習では私は何もしていないのに……。

 クラスメイトに連れられるままに教室を出るときに見た鈴木君たちの顔は、写真の中のようにピクリとも動かない。彼らもシゲちゃんに抗議しに行くだろうから大丈夫だとは思うけれど、また機会があった時彼らに聞いてみようかな? でもそんな踏み込んだことを聞いても大丈夫だろうか? 話したのも今日が初めてだし。

 ならもう少し話せるようになってみようかな。自分にしては思い切った考えだと思う。けれど今までのどんな男の子たちよりも楽しく過ごせたのだから、もっと仲良くなってみたいとも思うのだ。

 とにかく明日の朝の「おはよう」から始めてみよう。

 そう決めた、私の「スズキタロウ」君たちとの初接触(不良イベントはノーカウント!)の日の出来事だった。

実はフラグを立ててたスズキタロウw

これからどう報われるのでしょうか……?


次回予告「遂に認識!? スズキタロウ!」



感想・ご意見などお待ちしております。

あ、もう一つの作品のほうも読んでいただけると嬉しいです。では! また次回!

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