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ACT:26  スズキタロウが見てる(総集編)

長らくお待たせしました。間が空いてしまい申し訳ありません……。

それでもお待ちくださった方に感謝を。

久しぶりで雰囲気が変わっていないか心配です。


ヒロインとは別に格好いい女の子が一人。何気にいいポジションを確立してる気がするw

 右手に携えたドラグヴァンディルを確認して前方の地球外生物に視線を戻す。タロー君たちを呑みこんだソイツらは水の星、火星の生物にふさわしく水場や水中での活動が主なのだろう。

 ワニのような顔をしているくせに、体を覆うのは鱗ではなく日光を〝テラリ〟と言う擬音が当てはまりそうな粘液で、どう考えてもネバネバだろうから触れたくない。大体ああいう感じの生物は経験からすると……、

「臭い」

「……カナ、ストレートに言うのね……」

 弥生だって顔を顰めてるじゃん。夏海に至っては鼻を摘まんでるし。大体何よ、あの脚。うねうねしちゃってさ。近づきたくないよ~……。

 普通こういう場面だと男の子が嫌がる女の子を前に、率先していいところを見せようとするもんじゃないの? 何が間違って女である私たちが男の子を助けなければならないのか……。

「はぁ……。タロー君は、もう……」

 私の気持ちばかり揺さぶってさ。

 格好いいわけではないのに気が付くと目で追っちゃって、あなたの姿が見えないと不安になっている私が居る。

 確信はないけれど、この気持ちはきっと……。

「心配ばかり、掛けてくれちゃって!」

 ホントは出来る人なのに、世話ばかり焼かせてくれちゃうあなたには、きっと誰かの助けが必要だよね? それが私であることを期待しているよ。

「討伐に行きましょうか。私と氷室――ゴホン。ジェントル先輩、弥生と紫穂先輩、夏海と速水君でそれぞれ一体ずつ相手にしましょう」

「……なぜ言いなおしたんだ羽場下……」

「じゃあ私はキタちゃんを食べた奴を頂くわ」

「厄介そうな生物よね、あいつ等」

「ロー君を助けるために私の拳が唸るよっ!」

「勇者認定試験もなんだかんだと大詰めだな」

 返答を聞く限り反対意見はなさそうだ。全力で魔王の依頼を果たすとしましょうか。魔王に、鈴木君たちに認められるための危険生物討伐戦に赴こう。


 ●×●×●×●×


「ふっふっふ……! 私の往く道を塞ぐ愚かものは、叩くのみっ!」

「……南野さん、テンション高いね」

 これでテンションが高くならいでか! 己の想い人を助けるシチュエーションで張り切るのが男の子だけだと思わないでよ、ハヤミン? 女の子だって、格好いいところを見せて、男の子に意識してもらいたいものなの!

 両掌を一瞬、光が包む。

 露わになった掌は陽光弾く銀の籠手を付けている。これが私の最高装備〝ヤールングレイブル〟。その能力は……

「ハヤミン! サポート、お願いっ!」

「了解っ!」

 こちらの接近に気付いた火星生物が十本の脚を高速で打ち付けてくる。私はサイドステップを織り交ぜながら躱し、近づいていき、すぐ傍で剣を閃かせるハヤミンが足の本数を削っていく。

 流石に討伐条件に指定される生物なだけはある。恐らく掠っただけでアバターは錐揉みしながら吹き飛ばされることだろう。そんな一撃致死の攻撃を余裕を持って大きく躱しながら近づく。視界の端ではハヤミンが歯を食いしばりながら剣を打ち付けていた。

 あれだけの重攻撃を捌き、逆に斬り裂くハヤミンも中々やるじゃない。惜しむらくは装備がその腕と相手に見合っていないということかな。刃こぼれが遠目にわかるほど武器の損耗が激しい。この勇者認定試験が終わったら幼馴染さんと一緒にショッピングにでも行けばいいさ。

 距離をだいぶ詰め、もう少しで相手の懐へ肉薄できそうになったとき、後方で甲高い金属音――ハヤミンの剣が砕けた音。よく頑張ってくれたよハヤミン、あなたのことは忘れないよ……「死んでないからねっ!?」良く吠えるイケメソだね。

「なんてね、本当に助かったよハヤミン! ここまで近づければ十分!」

 望む結果は己の手で掴みとるべし、それが私のモットー!

 自分の両手にある武器の起動ワードを叫んだ。

「――その手に掴め、ヤールングレイブル!!」

 その能力は〝固定と拡散〟。

 小柄な私の右ストレートが馬鹿でかい火星生物を一直線にぶっ飛ばす。

 ただ大きいだけで有利だと思われては困る。人差し指を突きつけて一言物申すことにしよう。

「……頭が高いッ!!!」

「……ガァァァ!」

 瓦礫を押しのけて怒りもあらわに吠える敵。ハヤミンに斬られた脚が泡を立てるような律動とともに再生していく。

「いいよ。これから新しく生まれる勇者に倒されること、誇りに思ってよね」

 再生して再び十本となった脚が、地球上の生物では繰り出すことのできない暴力を伴って襲い掛かってくる。

「――南野さんっ!」

 後方で聞こえるハヤミンの悲鳴。武器を失った彼はこの状況を打開したくとも出来ない。そんな悔しさと、いくらアバターであるとは言え目の前で展開されるであろう悲劇に焦る声。

 私はハヤミンに背中を向けながらも、大丈夫という風に微笑んだ。

 ただ右手を敵に掲げて、グッと握り締める。

 轟音と共に、琴らに向かってきた脚もろとも圧縮されるように動きを止める火星生物。

「早い話、私のヤールングレイブルの能力は疑似念動力と言ったところだね。今は周りの大気をキミ含めて固定してるの……まぁ、キミに言っても通じないか」

 空気のように流動体を固定するのは骨が折れるのだけど、流石にこれで決着とはいかないようで正面で牙の並んだ咢を大きく開いた敵に警戒を抱く。

 同時に耳に「ズ……ズズ……ズ」という、何かを吸い込んでいるような不気味な音が届く。何かしらの事態が進行していることは分かるが、何が起ころうとしているのか全く見当もつかない為、眉をしかめて注意しながら相手を注視するしかできない。

 そして、相手の喉の奥で何かが一瞬光ったと思った瞬間、はるか後方で轟音。恐る恐る振り向くと、競技場と観客席の間に張り巡らされた防護フィールドに一直線に走る線。防護フィールド自体に問題はなさそうだったけれど、視認も出来ない攻撃手段を相手が持っているとなってはこちらとしては大問題である。

『さぁ! どうやら相手も本領を発揮したようです。実はあの生物、身体の下に給水口みたいな器官がありそこから水を摂取、圧縮して口から放射することが出来る中々脅威レベルの高い生物です!』

「ウォーターカッターか!」

 思わず怜っちに毒づくがそれどころではなかった。咄嗟に右手の圧力を解除し左手で足元の水を掬うように拡散させることで目眩ましとし、後退する。

 今まで立っていた場所を極細の水が突き貫けるのを何とか確認して、ハヤミンを左手で固定した空気に包みこむことで軽く摘まむような感覚で二人して相手の右側へ大きく回り込む。

 どうやら易々と救出という風にはいかないよう。待っててね、ロー君!

「ハヤミン、戦力外通告だよ」

「……もう少し言い方何とかならない?」

「だって武器もないのに……戦力外どころか邪魔だよ」

 項垂れるハヤミン。

「まぁ、よくやってくれたじゃん。大した装備も無いのに良く持ちこたえたし。あとは任せてよ」

 言葉の後でハヤミンを大きく後方へと送る。直後襲いくるウォーターカッターは危ないところだったけれど、数センチというレベルの誤差で外れた。いやいや、あっぶな~……。

「さって! じゃあ始めようか。言っとくけど手加減ナシだかんね?」

「グルルルル……」

 唸る相手に躊躇せず突貫する。当然脚による打撃で迎撃が来るけれど、ヤールングレイブルの前では運動エネルギーによる攻撃は期待できない。

 捌くように両手を動かすたびに、不可視の壁にぶつかったかのように固まる脚。どんな強力な攻撃であっても瞬時に固定してしまう能力は、逆に相手に急ブレーキの慣性に似たダメージを与える。

 そして私のアバターの波動システムは振動を操るもの。ヤールングレイブルと合わせれば、

「こんなことも出来るんだよね」

 遠距離から、拡散した振動を打ち込むことによる攻撃。甲高い音と同時にのけ反る相手。

「まぁ、欠点は拡散というくらいだから当然攻撃力も拡散しちゃうわけで。決定力に掛けちゃうんだけどね」

 余計怒ったように猛り狂う相手を見てゲンナリする。先ほどみたいに波動を固定した一撃をぶち込めればいいんだけど……。

「さっき、最高の一撃をぶちかますべきだったなぁ。失敗、失敗」

 ハヤミンのサポートなしでアレの懐に潜り込む自信はさすがにない。

 こちらも相手も決定打を届かせられない状況。どうするか考えていると相手も埒が明かないことを本能で悟ったのか体の動きを変える。

「…………なに?」

 十本ある脚のうち、四本をねじり束ねる姿に、私の危険信号が大きく警鐘を鳴らす。力を溜めるように、込めるように引き絞ったそれは、まさしく私の自信を砕く槌のようでもあった。

 そして、予想を裏切らずその槌が放たれる。

 耳に聞こえるのは「ボッ」という空気の破裂音。

 咄嗟に両手のヤールングレイブルで〝固定〟を試みるけれど、

「痛っ!?」

 今までの比ではない運動エネルギーを伴うそれは、固定を物ともせずに打ち破って私に反動としてダメージを通してきた。

 しかも本命の攻撃は未だ私に向かってきてるのだ。このままじゃアバター完全破損で強制コネクトアウトになっちゃう!

 だから今度はもう一つの能力――〝拡散〟による回避を試みる。

「うぐぐぐ……固っ……!」

 狙ったのは相手の束ねられた脚。徐々に、徐々にだけど、少しずつねじれを無理矢理に(ほど)いていく。

 だけど……

「解けない……!」

 相手の攻撃はもう間近。目を瞑りそうになったとき。

 ものすごい勢いで飛んできた石が、脚の隙間に叩きこまれた。

「ハヤミン!?」

「補助線目視システムは何も剣に限ったサポートプログラムじゃないんだよ! これで少しは緩んだと思う!」

 さっすが、イケメソ! 決めるべき時に決めてくれる。これがロー君だったら残念な結果になるんだろうなぁ……。

 ハヤミンのおかげでギリギリ目前で花開くように、だけどものすごい勢いで、爆発するように拡散する脚。私のすぐ傍を駆け抜けていく四条の攻撃。それらは例外なく私の拡散によるダメージで表面が爛れたようになっていた。

「……油断したよ。これは反省だね」

 気になる男の子を助けるシチュエーションに浮かれすぎてた。イベントだからって、気になる人の前だからって、振り向かせるチャンスだからって、いつだって振る舞うべき行動を間違えてはいけない。

 そうだよね、ロー君!

「波動システム〝威裂波(いざなみ)〟起動」

 破裂音とともにアバターの内部から暴力的な振動が生まれる。それは私の身体――アバターすらもダメージを受ける諸刃の剣。

 その振動を纏い、相手へと走る。迎撃しようにも六本に減った脚では私を捕えきれない。また纏う威裂波が攻撃を寄せ付けることが無かった。懐に潜り込むことが出来た私は、右手を相手へと打ち込むことで、相手の体内へ威裂波を固定させる。

 威裂波を体内に撃ち込まれた相手がもがくが、私の攻撃はまだ終わってはいなかった。打ち込んだ後即座に後退した私は、相手の体内にある振動そのものとも言える威裂並を拡散させる。

「――爆ぜろ、威裂波」

 固定されることで反響し合っていた振動は、拡散された瞬間一気に膨張する。その破壊の波動は火星生物の体を粉微塵にしてしまう。

 中のロー君は無事なのかって? 少しくらい怖い目を見てもらおう。私ばっか苦労するのは嫌だ。

 拍手するように掌を閉じればタイミングよく空から落下してきた天狗型の小さなアバターが挟まった。頬を挟む形でドンピシャ。涙目なのは先ほど余程怖い目に遭ったのだろう。

「……食べられるのは中々怖い経験だった?」

 勢いよく首を振り私を指差そうとしたロー君を万力のように締め上げる。私の行動はロー君を助けるものであったので対象外。後ろで〝明らかにオーバーキル〟と言う表情のハヤミンも多分目の錯覚だろう……いや、確かにあれほど強力な技である必要はなかったけど、その場のノリって言うか……。

「私、とてもよく、頑張った」

「……何で、片言?」

「何か言うことあるんじゃない?」

 にっこり。

「…………め、迷惑かけてごみん。助けてくれてありがとう」

 よろしい。


 ●×●×●×●×


「……中々厄介な生物ではあるようね」

 紫穂先輩の呟きには大いに賛成できる。夏海の攻撃により一体が水を利用しだすと残りの二体も同じような攻撃手段をとってきた。

 それでも私を瞠目させたのは、相手のウォーターカッターをひとつ残らず相殺する紫穂先輩の技量であったりする。この人〝ターゲット・オブ・スズキタロウ〟とかバカな騒ぎなんてしてないで、普通に振る舞っていればかなりの好物件なんじゃないだろうか?

「しかし、困りましたね。相手が視認不可能な遠距離攻撃を有している時点で私のような近距離型のアバターはほとんど対抗手段が限られてしまいますから」

「何言ってんの。そのためのペアでしょうに」

 そうは言うが、近距離型二人で構成された夏海・速水君ペアは厳しいだろう。それに私も紫穂先輩が相手の攻撃を撃ち落とすというサポートがあっても相手の巨体から繰り出される高速かつ超重量の脚による打撃は中々にきついものがある。

「弥生、あんた近距離ならアレを仕留められる手段はある?」

「絶対とは言い切れませんが、奥の手はあります」

 私の戦闘スタイルはそもそも仲間の一番前で、危険な生物と渡り合うためのモノだ。求められるのは迅速に危険を排除するという点から、どのような生物が相手であっても、どのような窮地であっても、ただ一撃で皆の安全を掴み取るための手段は、ある。

「ならあんたはそれをぶちかましてきなさいな。全ての邪魔は、私が払ってあげる」

「先輩……でも……」

「なぁに? 私が信用できない? 大丈夫よ。私が〝オン・ザ・ボーダーライン〟とか呼ばれてるのはね、何も平凡から抜け出せないって皮肉だけじゃないんだから。安全圏という境界線を、しっかり確保してあげる。少しは先輩の顔も立てなさい」

 片目でウインクしてみせる先輩はこの時、あの〝リミットブレイク・ビューティフル〟鬼怒川 茜よりも魅力的に感じたし、とても頼りに見えた。

「…………当てにします」

「よし、行って来い!」

 恐れることなく、全速力で突撃していく。

 当然相手は私に向かって攻撃を繰り出してくるが、紫穂先輩があれだけ自信を持って言ったことを果たせないとは思わない。私は回避行動も無しに一直線に進むだけ。

 相手の口腔内で水が光を反射したのか、フラッシュが瞬いた。

「――!!」

 流石に腕で手を庇う。そんな私の目先僅か五〇センチほど前で水が弾けた。

「わっぷ! もうちょっと優しく相殺できないんですか!?」

「贅沢言わない! 目視も難しいほどの攻撃を、直撃する前に撃ち落とすことがどれ程すごいかわかってんの!?」

 あんまりわからないとか言ったら、怒るんだろうなぁ……。だって淑女とか言ってバカ騒ぎに参加してた中でも筆頭の一人だったし……。

 うだうだ考えつつも迫りくる脚を蛍丸で切り払う。これならキタちゃんを救出するのも思ったより早くなりそうね。

「……あれ?」

 今まで私に集中していた攻撃が、密度を減らしているように感じる。ウォーターカッターはまだ撃たれてる。眼前で弾ける飛沫で私の体はびしょびしょだ。脚による打撃だって打ち払っている。

じゃあ、どうして相手の攻撃の手が緩んでいるだなんて思ったの?

 相手は、人と違う、地球外生物だからじゃないの?

「――っ!」

 悪寒と伴に振り向けば、三本の脚が私を無視して紫穂先輩へ向かっているのが見えた。

 私はバカか! 人と違って腕は二本ではないことなんか、既に分かっているだろうに。私に攻撃しながらも他の人物にも同時に攻撃の手を割けることくらい、相手を見た時から想像できたでしょうに……!

 急ブレーキを掛け、引き返そうとし、

「――来るなッ!」

 その場で立ち尽くす。

「先輩が、後輩のサポートを買って出た状況で、逆に助けられるなんてヘマするだなんて思わないこと! あんたの仕事は、なに!?」

 紫穂先輩は今もなお、襲いくる攻撃を放置して私への攻撃だけを迎撃している。だから、動きを止めてしまった私は、無傷だ。

「気になる男の子を助けることで、意識してもらいたいんでしょう!? 女の子!」

 この言葉は、私だけに向けたものじゃない。カナや夏海、それどころかその他の人にまで向けた叱咤の声だ。

「あんた達、ターゲット・オブ・スズキタロウでなんて言った!? 仲良くなるために、ここに来たとそう言ったわね! 私がサポートすると言ったのは、今、この時だけのことじゃないわよ」

 こんな場所で、人の想いを暴露するような叱咤はさすがに恥ずかしいので勘弁してもらいたいとも思うが、それ以上に紫穂先輩の、私たちに対する思いやりが心に響く。

 短い付き合いで、些細な切っ掛けの出会い。だけど。それでも。この人は〝先輩〟なんだ。

「勇者認定試験の評価を優先? 私の援護を優先? バカ言っちゃいけないわよ上代。あんたに先輩として一つ言葉をあげるわ」

 私は、確かに先輩からの言葉をこの耳で聞く。

「命短し、恋せよ乙女――ってね。わかったらさっさと行きなさい。余所見は命取りよ?」

 イタズラっぽく笑う先輩に背を向ける。

 未だなお、私に届く攻撃は、ゼロ。

 紫穂先輩、あなた普通にスゴイです。学校で淑女とかバカやってる場合じゃないです。

『あぁ~っと! 霧ケ峰高校パーティーの中山津選手、攻撃を受けアバターが半壊! これ以上の行動は厳しいか!?』

「……射撃プログラム〝グングニル〟アウェイク!」

 見据える相手の更に後方。立体ディスプレイに移る先輩は下半身が無かった。アバターとは言え痛々しいその姿に、胸が締め付けられる。

 そんな紫穂先輩が、宙を舞いながら叫んだ起動ワードに反応して転送された武器を右手に握る。握っているのはなんに変哲もないように見えるライフル銃。

 先輩はそれを、アバターならではの膂力で片手のみで構える。

「あなたに、不可避の弾丸をくれてやるわ! 火星生物!!」

 銃声は、無かった。

 しかし確かに放たれた銃弾は、一発。その一発は確かに逃れようのない銃弾だった。

 火星生物を檻のように囲む光の軌跡。それは紫穂先輩の放った銃弾の道なのだろう。取り囲みながらも、何度も何度も相手の身体を通過する軌道は正に逃れることを許さぬ弾丸の名にふさわしいものだ。

 その光の道を流れ星のごとく飛び回る銃弾が確実に相手を傷つけていく。のたうつ相手は私の接近を容易く許してしまった。

「――感謝します、紫穂先輩。私たちはあなたに頭が上がりませんよ」

 さぁ、始めよう。私たちの青春を。

「動作最適化プログラム、モード:危難必滅〝荒御霊〟」

 まだ知りたいこと、知ってほしいことが沢山ある。

「だから、そんな奴の腹の中に引きこもってんじゃないわよ! キタちゃん!!」

 視界が紅蓮に染まる。動作最適化プログラムの中でも、対象を確実に破壊するための最適挙動を導くプログラム――〝荒御霊〟が導き出した技の試用を許諾。

 最高速の勢いのまま踏み込み、跳躍。蛍丸を構え――

 交錯。

 その瞬間、光が弾けた。私の蛍丸が、赤熱化して煙を上げる。アバターの身体が軋む。光は圧倒的な速度によって何度も翻った蛍丸が生んだ〝火花〟。

 着地しても勢いが緩まず、数メートルを滑って、

「――星剣技・散華光」

 後方で、火星生物が細切れを通り越して炭化した。続いてぽちゃっと何かが落ちる音。

「いや~、はっはっは。助かった助かった。サンキュー、弥生」

「あんたはホントに……」

 うまく動かないアバターを動かして、小さなゴブリンに歩み寄る。そして力の限り抱き上げた。

「迷惑と心配ばかり掛けるんだから……!」

 アバターとは言え、あんな化け物に食べられて心配しないわけがないでしょう。キタちゃんの、馬鹿っ!


 ●×●×●×●×


「さて、何かいい方法はあるのか?」

「そうですね……ジェントル先輩を紳士として死地へ送り込むとか」

「……お前は先輩をなんだと思ってるんだ」

 紳士を名乗るなら女性の助けになるべく体を張ってもいいと思う。

「ま、冗談は置いて。基本先輩のサポートを受けつつ私が討伐。そんな形でしょう」

「それが無難だな」

 氷室先輩をその場に残し、火星生物の元へと歩いていく。右手のドラグヴァンディルを一振りして感触を確かめる。うん、いつも通り。

 私のアバターは弥生や夏海のアバターとは違い万能型であるため特殊なプログラムを備えていない反面、基本性能(スペック)の能力値が高い。あとは私自身がこの身体(アバター)をどこまで上手く扱えるかにタロー君の無事が懸かってる。

「……懸かってるだなんて、なんか照れるな」

 ウォーターカッターが飛んできたのでドラグヴァンディルで防ぐ。無粋な……じゃなくて悶えてる場合じゃなかった。タロー君もアバターだから最悪の事態は起こりえないのだけど目の前で食べられてしまえば心配するなという方が無理だと思う。

「……助けた御礼とか、期待してもいいのかな」

 次は多数の脚による打撃が来た。今度は迎撃するまでもなく水中から盛り上がってきた濡れた土が壁となり攻撃を阻んだ。

「お前は何を悶々としてるんだ……」

 愕然としてしまった。

「………………何だ。あなたに言われたらおしまいだというその表情は……」

 人のふり見てわがふり直せとはよく言うものである。〝悶スター・オブ・ジェントルマン〟に言われてしまうとは、反省しなきゃ。

「〝マ〟! 〝マ〟だから!!」

「心を読まないでください。覗きで訴えますよ」

 今度はあっちが愕然とする――と、またウォーターカッターが飛んでくる。先ほどと同様に切り払いながら相手を見遣る。

「さて、そろそろ真面目に行かなきゃね……。どれ程のクラスかな? 〝主〟? 〝徘徊者〟? それとも〝潜伏者〟? はたまた〝襲撃者〟?」

 そう問いつつも恐らくは〝徘徊者〟クラスの生物だろうとあたりを付ける。勇者認定試験の障害として用意されていたのだ。〝潜伏者〟や〝襲撃者〟では実力不足だろう。だからと言って〝主〟クラスを持ち出してくるほどサポートセンターも考えなしではないだろうし。

 〝徘徊者〟の生物の生態として、彼らは強力な個体であるがために、他の生物の存在を特に気に掛けることなく行動することが挙げられる。つまり彼らは自分たちが生物ピラミッドの頂点に近い存在であり、獲物ではなく捕食者であることを本能に刷り込まれているわけである。

「そこを油断、傲慢として突破口に出来るかが勝負どころかな……」

 相手を中心に、円を描くように反時計回りで歩く。背中は丸め、やや前傾姿勢。武器は構えず軽く握ることで即応可能な状態にしておく。

 武器に特殊能力があるわけでも無く、アバターにも特筆すべきシステムを備えていない私にとって大切なのは情報だ。相手の挙動で二手、三手先を予測する「見切り」。それさえ成してしまえばどうとでもなる。本来、アバターとはそれほどまでにハイテクノロジーなのだから。

「さぁ、私とアナタ。どちらが捕食者だろうね……」

 相手の身体が、僅かに跳ねた。

 左手でハンドシグナル。同時に踏み出した右足でバックステップ。アバターの膂力に任せた強引さを以て身体を射出する。相手の右手側へと歩めていた足を、反転し左手側へと迫る動き。しかも保っていた距離を縮める軌道。

 私の動きから一拍の間を置いて、四本の脚が暴風を伴って動く。その動きは反転する前の私の動きの先へと放たれていた。初手の駆け引きは相手の攻撃を予感し、逆に打って出た私が上手と言ってもいいだろうと自己評価。

「やっぱり、そう簡単にはいかないか!」

 二本の脚が強引に軌道を変えたのか、私の動きを追ってくる。だけどその動きも予測済みだよ!

「先輩!」

「おうよ! ()(こん)(じょう)!!」

 先ほどの対魔王スズキタロウ戦でも使用した音声干渉プラグラム――俗に魔法の名称で通っているそれが土塊の錠前を形作り二本の脚を拘束する。ハンドシグナルで簡単に魔法の準備だけを呼びかけておいたため、先輩もすぐに対応できた。

 その間に私は攻撃の届く距離まで近づき、

「タロー君を返してもらうわよ!」

 力いっぱい振り抜いたドラグヴァンディルは…………呆気なく弾かれた。

「え?」

「馬鹿野郎! ぼけっとすんな!! タイタンハンド!」

 先輩が土塊の腕で私を大きく回収させる。遠ざかる視線の先では残りの脚で私が居た場所を叩く火星生物がいた。

「助かりました、先輩」

「おぉ。紳士だからな」

「それはどうかと……」

 振出しに戻るように先輩と二人並んで相手を見据える。

「おい、まさかの金属生命体じゃなねぇか。俺の魔法じゃアレを貫通するのは難しいぜ?」

「そんなこと言われましても私も万能型ですし、一芸に秀でたシステムを持っているわけじゃないので……困ったなぁ……」

 惑星開拓をしていると極まれに、異常に体が硬い生物と出くわすことがある。体組織に金属を大量に有する生物群――総称して金属生命体。有する金属にもよるが、十中八九が耐久力がバカにならない為、特殊兵装や特殊システムで対処するのが普通なんだけど……。

「どうすんだ?」

「……仕方ない、ドラグヴァンディル以外の切り札はまだ使いたくなかったんだけどなぁ」

 一応、この後の〝勇者×魔王 称号者統一トーナメント〟も見据えているので……まだ勇者になれるか決まってないけど。

 ドラグヴァンディルを背中に収める。

「先輩はアレ、どれくらい止められます?」

「……最大で五秒。相手の地力が強すぎる」

「充分です。その間で仕留めましょう」

 クエストカード取り出し、装備を交換すると背中で淡い光が発生する。光が収まった後には何もない背中と、腰に一振りの剣。

 武骨な感じがしたドラグヴァンディルとは対照的に洗練された両刃の片手剣。白銀色の剣身が美しいのでお気に入りである。私の持ち武器で最も鋭い切れ味を誇るこの剣の銘は、

「……オートクレールか」

「あ。知ってます?」

「ドラグヴァンディルと言い、第一世代の装備が性に合うのか」

「第一世代は手に入れるのが難しい方ですからね。集めるのには苦労してます――そろそろ行きましょう。あっちも焦れてきてるようですし」

 先輩から距離を取り、先ほどと同様相手の周りを歩く。タイミングは私の「見切り」だ。歩きながら取り留めもなく思うことがある。タロー君との関係について、だ。

 タロー君が星喰いを討伐した時、すごいとか、私もいつかは同じようにとかありふれた想いではなく、自分のことを頼ってほしいと思った。

 どうやら自分は守ってもらいたい性分じゃなく、一緒に支え合いたい性分のようで。

 元々アバターが万能型なのも、アバターならではの機能なしで(地力は本体とは比べ物にならないけど)、自分の動きだけでやっていきたいと思ったからで。

 特殊な機能は本来の姿とは違って飾りのように思ってしまうんだ。だからだろうか、飾らず振る舞う君が気になるのは。まぁ、キミのアバターは色々特殊なプログラムを備えているけど、それを飾りだと思うのは自分に対してだけだったのは見栄っ張りなんだと思う。

「とにかく……ここでアレに勝てたら君の隣に少しは近づける、タロー君?」

 相手の動きが、跳ねた。

「――フェイントでしょ?」

 先ほどとは違い、反転せずにただ加速する。距離はまだ詰めない。初動だけを見せた脚がピタリと止まる。

 少ししてゆらゆらと脚を揺らす相手に、軽く驚く。さすが〝徘徊者〟クラスの地球外生命体というところだろう。先ほどの遣り取りだけで人との戦闘における駆け引きを学習し始めているのだ。

 揺らしてる脚の内三本を体に引き寄せるのを見て迷うが、合図は出さない。

 ――囮だ。

 あれに目を取られると気が付けなかった。地球外生命体の恐ろしさが良くわかる行動だった。素直に褒めよう。

「だけど、私の方が上だったね!」

 ハンドシグナル、踏み込み、そして轟音。

 相手に迫る私の後方では、水中から忍ばせた脚が突き出たところだろう。相手は十本ある脚の内二本を奇襲に用いていた。定期的に確認できる脚の本数を数えていてよかった。

縛牢陣(ばくろうじん)!」

 先輩の声と同時、相手の全方位を巨大な岩盤が取り囲む。勝負は、ここから五秒。

 一秒。ねじり束ねた脚が一直線に岩盤を紙の様に貫いて迫る。

 二秒。跳んで躱すのではなく膝を抱え込むように相手の攻撃を下にやり過ごした。

 三秒。伸びきって勢いを無くした脚に着地、一気に駆ける。

 四秒。岩壁にひびが走る。私はオートクレールを振りかぶり。

 五秒。崩れた向こうに露わになる、敵。相手は攻撃を突きこむ。

「ヤァッ!」

 脚とオートクレールが接触し、何の抵抗もなく刃が通る。そのまま相手の体すらも難なく斬り裂いて、

「――一振りで馬の首すら斬り落とすとまで謳われた名剣、味わさせてあげる!!」

 崩れる岩盤の欠片を足場に縦横無尽に飛び回り、銀光を閃かせる。金属生命体の硬さが嘘のように抵抗が無い。ドラグヴァンディルは頑丈さに主眼が置かれたけれど、オートクレールは切れ味に主眼が置かれた第一世代装備。その切れ味は、ダーインスレイブだって凌ぐだろう。

「ふうっ」

 地に足を付けて一息。周りではぼちゃぼちゃと生まれる戦闘の結果。この言葉を贈るのは、自分のけじめだ。

「あなた達の命を奪ったことは、詫びましょう。でも、私達人間も未来ためにこの星を拓いていかなくちゃいけない」

 オートクレールを鞘に納めて目を閉じる。

「テラフォーミングが原因で生まれ、また私達の手で駆除されるなんて身勝手だけれど、だから身勝手ついでに、どうか安らかに眠れることを祈ります」

 周囲の音がなくなる――と、最後に一つ今までとは違い、パチャッと軽やかな音。

「これが人という傲慢な種の業なれば。せめていつかこの星を、あなた達の生命(いのち)が不当に脅かされることの無いものにすることを約束しましょう」

 勇者の誓文と呼ばれるそれを呟いて瞳を開ければ、

「……おう、叶。ありがとな」

 気まずそうなスライムが一体。

 近づいて胸に抱きあげるこの感触もなんだか久しぶりのように感じる。助けた後に彼へと掛ける言葉は、実は彼が食べられた時から決めていた。今精いっぱいの笑顔とともに声を出す。

「待った?」

「……いや、ずっと早かったぜ」

 それなら良かった。

『……す、すごぉい! 霧ケ峰高校チームほぼ同時に三体の地球外生命体を討伐っ!! 魔王救出と合わせてかなりの高評価は確実か!? ともかく残り時間もあと僅か、参加者の皆さんは頑張ってください!』

 今回のことでもう少し、キミの瞳に私が大きく映ることを期待してもいいよね、タロー君?


感想、ご意見、誤字報告などお待ちしています。

またリアルの状況などで更新が遅れる場合はその旨を活動報告にて知らせていますので、よろしければときどきご確認ください。


ようやっと次回はスズキタロウ視点に戻る予定。


また、次回!

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