7 帰路
「痛いっ! 痛いよ……」
「どうしてこんな事をするんだっ!」
「誰か、誰か助けてよ……」
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
……あ?
カチッ
いつものように目覚ましを止めはしたが、なんだこれ……
視界がぐらぐらする……
ドサッ……
「ったぁ……」
起き上がろうとしただけなのに、ふらついてベッドから落ちた。
身体が動かしづらいし、熱っぽい気がする……
ふざけた夢まで見ちまったし、最悪な朝だ。
「体温計……あったか?」
引き出しを適当に漁って、体温計を見つけた。
熱を計ってみると、38.4℃。
完全に風邪だ。
昨日雨に打たれて濡れたままだったのに、美月を観察しながらゆっくり帰ったせいだろう。
自分がアホらし過ぎて笑える。
「……寝るか」
誰に言うでもなく宣言して、布団に潜った。
学校への連絡なんて、別にする必要もない。
俺がいなかろうが、美月には何の影響も……いや、ゴミがなくて清々すると笑っているだろうか?
それとも、いない事にすら気付かない程の無関心か。
ははっ、どっちもキツイな……
少し寝てから、また起きた。
時計を見ると10時を過ぎていた。
誰からの着信も、連絡も、何もない。
そうだろうな。
いつもそうだった。
俺から指示を出す事はあっても、あいつ等から何か連絡が来たことなんて一度もない。
俺がいない平和を謳歌しているのは、美月だけじゃない……
頭がガンガンする。
喉から耳の奥にかけて、焼けるように痛い。
水分を取りたいのに、動きたくない。
薬を飲んだ方がいいんだろうけど、それすらも面倒だ。
寝るしかない。
ただ今寝ると、ろくな夢を見ねぇ……
朝一から下らない昔の夢を見て、さっきもその続きだった。
また寝ても、またあの夢が……
折角強くなったのに、また弱くなる……
弱かったら、ヒーローは、美月は俺を助けに来てくれるんだろうか?
でも、やっぱり……
「もう……弱くは、なりたくねぇな……」
気がついたらまた寝ていた。
時計を見ると、16時……結構寝れたな。
ちょっとは回復したみたいで、動けるようにもなってきた。
腹は別に減ってねぇけど、何も食べないのも良くないだろうと思い、カップ麺を作った。
これを食って、また寝るか……
今日は金曜……土日も寝てれば、流石に治るだろ。
飯は……あ、やべぇ。
これが最後のカップ麺か。
土日の食料も買いに行くしかないな。
今ならそこそこまともに動けそうだし、今のうちにコンビニに行っておくか。
適当に服を着て、家の近くのコンビニに向かう。
カップ麺を適当に5個くらい、風邪薬、スポーツドリンクを3本買った。
これでまぁなんとかなるだろ……ん?
くそっ、また視界がぼやけてきた……
「はぁ、はぁ、はぁ……」
やっぱり動くのはまだ早かったか?
コンビニの駐車場の車止めに適当に座り、視界が回復するのを待つ。
頭が痛い……熱が上がってきている気がする……
とりあえず飲まないよりマシだろうと、今買ったばかりの風邪薬をスポーツドリンクで流した。
このままここでじっとしていれば、帰れる程度には回復するだろう。
日も沈みかけてきて、風も冷たくて気持ちいいし……
カサッ……
「……ん?」
急に陰った感じがして、額が冷たくなった。
なんだと思って顔をあげると、美月がいた……
一瞬幻覚かとも思ったが、紛れもなく本物の美月……
美月が俺を見下ろしながら、俺の額に棒アイスを当てているところだった……
「……は、え?」
「熱、あるんじゃない?」
「いやっ、え、はぁ? お前、何でここに?」
「帰路」
きろ、キロ、帰路……
初めて……初めて俺の質問に美月が言葉を返してくれた。
初めてもらった言葉が"帰路"。
たったの2文字……
それでも、俺を認識して返事をしてくれたんだ。
「これはあげる。ちゃんと病院に行った方がいいよ? じゃあね」
「待て……」
俺の袋に棒アイスを入れた美月は、そのまま立ち去ろうとした。
そんな美月の上着の端を掴んで進行妨害をする。
ただ、なんで引き止めたのかは自分でも分からない。
気がついたら、美月の上着を掴んじまってたんだ……
「……何?」
「あ、いや……その……」
「どうしたの? 風邪で困ってるなら、ちゃんと助けを呼ばないとダメだよ?」
「助け? あいつ等に頼れってか? んな真似出来る訳……」
「困ってる時に1人で解決しようとするのは間違ってるよ? もっとちゃんと周りに頼って、看病してもらわないと」
「……頼るって、俺にはそんな相手……」
「家族や友達、誰でもいいんだから」
「誰でも? ははっ、だったらお前は、俺が看病してって言ったら、してくれるのかよ?」
自分でも自分が何を言ったのかなんて、正確に分かっていなかった。
それでも美月が、
「私? うん、いいよ」
って、平然と答えてきた事だけは分かった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




