13 用事
美月は俺が思っていたよりも、というか、常人では理解が出来ないくらいに、博愛精神の強い聖女だった。
だから無機物の可燃ゴミとまで言われて全く相手にされなかった俺でも、普通に話してくれるようになった。
岡島のことを許したように、俺の事も許してくれているんだ。
俺が本当に反省しているんだと分かってくれているんだろう。
朝、"おはよう"と声をかければ"おはよう"と返してくれる。
昼休みも当たり前みたいに近くでパンを食ってても、嫌な顔1つしないで一緒に食べて話を聞いてくれる。
放課後も、さり気なく一緒に帰っているが、拒絶されたりはしない。
寧ろ美月は常に人助けをしながら帰っているから、俺もそれに協力し続けていた。
「ありがとー」
「良かったね、ちゃんと見つかって」
「うんっ」
「今度からは気をつけろよ」
「本当にありがとう! おねえちゃん! おにいちゃん!」
今日の帰りもまた、美月は人助けをしていた。
公園でなくし物をしたと泣いていたガキの、なくしたという幼稚なブレスレット探しを。
俺も一緒に探して、茂みに落ちていたのを見つけた。
ガキは嬉しそうに手を振って帰っていったが、あんなどうでもいいもんを宝物として必死になれるとか……俺にもあったな、ガキの頃。
まぁ、あの頃の俺がなくしたものは、結局戻っては来なかったけど。
「帰るか?」
「ん? うん」
「美月。お前さ、毎日こんな事してて、疲れねぇの?」
「こんな事?」
「困ってる人、助けたりして……」
「疲れないよ」
「そうか、スゲェな」
一緒に帰るようになって分かったが、美月は本当に毎日ずっと人助けをしている。
わざわざ家から遠回りして、色んな場所を彷徨いたりしてまで困っている人を探しているから、本当に誰も助けないで帰る日なんてないに等しい。
そこまでして困っている人を助けようとするのは、本当に美月がどこまでも優しいヒーローだからこそだろう。
「じゃあ、また学校でな」
「うん」
ありがたい事と言うべきなのか、美月の家と俺の家は徒歩10分圏内の近さだった。
ここの分岐の道を右に行くか左に行くか程度の違いだ。
前に俺の家に最寄りのコンビニの前を帰路として通っていたし、近いだろうとは思っていたが、まさかここまで近いとは。
お陰で違和感なく美月と一緒に帰れている。
まぁ、美月からしたら違和感だらけで迷惑かもしれねぇけど、今日みたいに俺だって役に立てる事があるんだ。
だからきっと、美月は俺と帰るのを嫌がってなんていない……と信じたい。
翌日の金曜日。
今日も当たり前のように美月と会話し、一緒に昼飯を食べて、一緒に帰る。
ただ今日は珍しく、美月がどこにも寄り道をしようとはしなかった。
「今日は寄らねぇの? 駅前とか、公園とか」
「うん。今日は用事があるから」
「そうなのか」
美月がただただ真っ直ぐに家方面へと向かうから声をかけてみたが、なんか用事があるらしい。
一緒に帰っているとは言っても、俺が勝手に美月に着いて歩いているだけだ。
だから用事があるとか、そういう都合を教えて貰えないのなんて、当然の事だとは分かってる。
それでもやっぱり、美月がこれっぽっちも俺と一緒に帰っているとは認識していない事に対するダメージは感じてしまう……
「じゃあな、また月曜日」
「うん」
「あ、なぁ、美月? お前、土日どっちか空いてたりするか?」
「空いてるよ」
「そ、そうか! その、一緒に飯とか行かね?」
「行かないよ」
「映画とか……」
「観ないよ」
「……だよな。わりぃ、なんでもねぇ。じゃあまた月曜日ー」
「うん」
土日にも会えねぇかと、結構勇気出して誘ってみたんだが、結果は撃沈だった。
まぁ分かってはいたからダメージは少ない。
学校でもあれだけ徹底して食べ物を受け取らない奴が、休日に一緒に飯を食ってくれる訳はねぇんだから。
「はぁ……」
なんかここ最近、ずっとため息ばっかり吐いている気がする。
自業自得なのは分かってはいるんだが……
家に帰って冷蔵庫を開ける。
この変な焦燥感を落ち着かせたくてスポーツドリンクを飲み、また冷蔵庫にしまう。
なんの用もないのに冷凍庫を開ける。
あの日美月がくれた棒アイス、一度溶けて変な形で固まったままの棒アイスを見て、美月との繋がりを感じてから冷凍庫を閉める。
いつの間にか変な習慣ができちまった。
風呂に入って、飯を食って、適当に勉強。
美月に少しでも認めてもらえるように、勉強は欠かせない。
追いつける訳はないけど、少しでも近づきたいから。
美月の事を考えていると、また変な焦燥感に駆られたので、冷蔵庫に向かい、スポーツドリンクの残りを全て飲み干した。
飲み干しちまったが、まだこの後も飲みたくなる事は目に見えている。
「買いに行っとくか……」
気分転換も兼ねて、コンビニに買いに行く。
ついでにと明日の昼飯も買って外に出たところで、
「ここまでで悪いな、美月。気をつけて帰れよ」
「はい、ご馳走様です。ありがとうございました」
と、美月という名を呼ぶ男の声と、聞き慣れた綺麗な声が聞こえた。
声のした方を見ると、走り去っていく車と、その車から降りた様子の美月がいて、俺に気付く事なく家の方へと歩いて行った……
今日は用事があるとは言っていた。
用事って、男と食事に出掛ける用事だったのか……?
一体どういう関係の……そんな事、聞ける訳がない。
俺は美月に勝手に付き纏ってるだけの男に過ぎないんだから……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




