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辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


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第34話 荒原は敵ではなく、道は守れる





 秋の雲は低い。

 荒原を覆う空は、いつもより重く、光を反射しない。


 だが、風は穏やかだった。

 砂が舞うほどではない。

 植物も、完全に枯れてはいない。


 ログイン完了。

 行政盤に、並んだ報告は一見すると物騒だ。


 《荒原:モンスター出現増加》

 《西領物流路:通行不安定》

 《偵察報告:戦闘未発生》


 レリィが、画面を見つめながら言った。


 「……数は増えていますが、

  争いが起きていません」


 私は頷いた。


 「ええ。

  だから“調べる”価値がある」


 モンスターが増えたからといって、

 即ち敵意が増えたわけではない。


 動いた理由が、まだ分かっていない。



◆ 第一節:荒原へ ― 武器を持たない調査


 調査隊は小規模だった。

 武装は最低限。

 盾も、槍も持たない。


 持っているのは、


 ・測量具

 ・水位計

 ・地図

 ・土嚢用の布

 ・記録帳


 レリィが、少し不思議そうに言う。


 「……本当に、

  戦う準備はしないんですね」


 私は答える。


 「戦う準備をすると、

  戦う理由を探し始める」


 荒原は、広い。

 だが、均一ではない。


 歩くたびに、地面の硬さが変わる。

 砂、土、粘土質。

 かつては川だったであろう痕跡。


 若手技師が、地面を指して言った。


 「……ここ、

  踏むと沈みます」


 私は足を止める。


 「地下水が、

  浅くなっている」


 レリィが地図を広げる。


 「昔の水路と、

  位置がズレています」


 荒原は、死んでいない。

 形を変えているだけだった。



◆ 第二節:地形の変化 ― “荒れた”のではない


 調査を進めるにつれ、

 一つの傾向が見えてきた。


 ・低地が湿りすぎている

 ・高地が乾きすぎている

 ・境目が、極端


 若手技師が言う。


 「……昔は、

  もう少し均されていたはずです」


 私は頷いた。


 「水の通り道が、

  変わったのよ」


 夜間水循環や草治水が、

 周辺領地で進んだ影響も、

 間接的にここへ及んでいる。


 悪意はない。

 だが、環境は連動する。


 レリィが、低い声で言った。


 「……住みにくくなった、

  ということですね」


 私は答える。


 「ええ。

  だから彼らは動いた」


 敵意ではない。

 移動だ。



◆ 第三節:モンスターの行動 ― 攻撃していない理由


 荒原で見かけたモンスターは、

 こちらを見ても、すぐに襲ってこなかった。


 距離を測り、

 様子を見て、

 進路を変える。


 若手技師が、緊張しながら言う。


 「……逃げてますね」


 私は首を横に振る。


 「避けてる」


 違いは重要だ。


 逃走は恐怖。

 回避は判断。


 レリィが、記録帳に書き込む。


 「攻撃性:低

  警戒性:高」


 荒原の問題は、

 戦争ではなかった。



◆ 第四節:原因の仮説 ― 環境の歪み


 調査の結果、

 原因は三つに絞られた。


 1. 地下水流路の偏り

 2. 植生の急激な変化

 3. 人為的治水の連動影響


 若手技師が、恐る恐る言う。


 「……私たちの技術も、

  影響していますか?」


 私は、はっきりと答えた。


 「ええ。

  良い影響も、悪い影響も」


 沈黙。


 だが、誰も目を逸らさなかった。


 「だから、

  直せる」



◆ 第五節:西領物流の現実 ― 守るべきは“通路”


 調査と並行して、

 西領からの要請が届いた。


 ――荒原を通る物流路が、

   不安定になっている。


 だが、襲撃はない。

 通れないわけでもない。


 **“通りづらい”**だけだ。


 私は、西領の責任者と会った。


 彼は、地図を広げて言う。


 「……夜明け前、

  ここで足止めされます」


 「モンスターに?」

 「……いえ。

  水溜まりと、

  足場です」


 私は、地図を指でなぞる。


 「道が、

  環境に負けている」



◆ 第六節:限定協力の提案 ― 軍を出さない理由


 西領の責任者は、

 最初、軍の派遣を想定していた。


 だが私は、首を横に振る。


 「軍は、

  通路を壊す」


 「……では?」


 私は、淡々と提案する。


 ・仮設の水逃し溝

 ・草帯による視線誘導

 ・通行時間の調整


 「……それで?」

 「ぶつからない」


 レリィが補足する。


 「物流は、

  “早さ”より

  “止まらないこと”が重要です」



◆ 第七節:現場での作業 ― 道を“ずらす”


 作業は、地味だった。


 道を作り直さない。

 少しずらす。


 低地を避け、

 草が自然に生えている場所を選ぶ。


 若手技師が言う。


 「……草がある場所は、

  踏みやすいですね」


 私は頷く。


 「根が、

  地面を支えている」


 草治水の思想は、

 ここでも役立った。



◆ 第八節:通行時間の変更 ― 夜を避ける


 次に変えたのは、時間だった。


 夜間水循環の影響で、

 夜明け前が最も不安定。


 だから、


 ・夜明け前は通らない

 ・朝日が出てから通る

 ・夕方は早めに止める


 単純だが、

 効果は大きい。


 西領の責任者が言った。


 「……軍より、

  効きました」



◆ 第九節:モンスターとの距離 ― 見えない協定


 通路を変え、

 時間を変えた結果、

 モンスターとの接触は激減した。


 彼らは、

 新しい道を避ける。


 理由は簡単だ。


 そこは彼らの通路ではない。


 レリィが言った。


 「……縄張り争いを、

  起こさせていません」


 私は頷く。


 「ええ。

  それが一番大事」



◆ 第十節:結果 ― 荒原は落ち着き始める


 数週間後。


 荒原の一部で、

 植生が戻り始めた。


 地下水位も、

 少しずつ均されている。


 調査報告には、

 こう記された。


 《荒原:回復兆候あり》

 《物流路:安定》

 《戦闘発生:なし》



◆ 終章:守ったのは、道と時間


 夕方。

 西へ向かう荷車が、

 静かに荒原を抜けていく。


 レリィが言った。


 「……戦いませんでしたね」


 私は答える。


 「ええ。

  必要なかった」


 荒原は、敵ではなかった。

 ただ、歪んでいただけだ。


 そして、

 物流は守られた。


 速さではなく、

 確実さで。


 私は、いつもの言葉を静かに口にした。


 「――今日も、地味に守れたわね」


 レリィが、穏やかに微笑む。


 「はい。

  とても長く効く勝利です」


 荒原に、風が通る。

 それは、少しだけ柔らかくなっていた。



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