自分だけの判断
店舗を出た佐藤は、すっかり晴れやかな顔をしていた。
買い時を誰かに決めてもらうのではなく、用語の意味を知り、全体の視野を広げ、最後に決めるのは自分自身。
四十年間、数々の現場で決断を下してきた男としてのプライドが、心地よく刺激されていた。
その足で渡辺の書店へ向かった佐藤は、自慢げに胸を張った。
「渡辺さん。相場の波というのはね、木を見て森を見ずではいかんのだ。画面をキュッと縮めて全体を俯瞰し、最後は自分の目で判断するのが本物の投資家だよ」
渡辺は一瞬驚いた顔をしたあと、ふふっと楽しそうに微笑んだ。
「まあ! 画面を縮めて全体を見るコツを掴まれたのですね! さすが佐藤様、もう立派な分析家ですね」
「ふふん、斎藤くんという良い指導者がいてね。彼は安易な助言は一切せん。だが、正しい見方だけを教えてくれるのだ」
「本当に素敵な担当者さんに出会えて良かったですね」
自宅に帰った佐藤は、居間のテーブルにスマホを置き、斎藤に教わった通り画面を横にして、指でキュッと縮めて全体を眺めた。
ゆったりとした右肩上がりの波。
そして、自分が理解した専門用語の数々。
「よし……『なるようになるさ』だ」
佐藤は自分の指で、静かに、そして力強く「積立設定(購入)」のボタンを押し込んだ。
誰に頼るのでもなく、自分の意志で最初の一歩を踏み出した瞬間だった。




