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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
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第1章 第8話 予言された未来の選択

 ベルザが立ち止まった。

 そこには何もない。

 階下は隠れ、先が見えない。

 光が届かないその突き当りは、世界の淵なのではないかと思わせる。

 足を踏み外したが最後、永遠と落ちていきそうな底のない暗闇だ。

 しかし、ここが目的地だったのか。

 ベルザは黄泉灯(よみとう)アルスタラを、掲げるようして闇に突き出す。

 その行動を、僕は静かに後ろで見ていた。


 変化が起きたのは、直後のことだった。

 まるで壁一面に塗られた黒色の塗料が洗い流されるかのようにして、闇が溶けるように消える。

 その神具、黄泉灯(よみとう)アルスタラは――。

 ここを通過するのに必要な鍵だったのだろう。

 或いは、旧ベルザ教会に張られていたような、単純な結界の類か。


『どうでもいいだろ、そんなこと』


 メノア様は興味がない、と欠伸をしていた。

 もしかして、意識が途切れていた間、寝てましたか?

 何か、やけに眠たそうですね。


『……そんなわけないだろうが。生涯、生産性のないつまらん人生を送るお前と違って、私は忙しいんだよ』


 ふわぁ~、と隠す気もない欠伸が聞こえた。

 絶対に寝てたな。

 間違いない。

 ベルザの策略とか関係なしに、単純に寝落ちしていただけなのでは――。

 いやいや、流石にそれはないか。

 実際《虚無の巫女》の正体が、メノア様であるのは事実だろうし。


 まあ、一応は本人に確認をしておこう。

 都合の良い事に《虚無の巫女》疑惑の女神が、そこにいるからね。

 それで、メノア様は自分の事を創造者だとか救世主だとか、そんな異名を自称している痛い女神だったんですか。

 詳細な説明を、お願いしますよ。

 簡潔にね。


『……だったら、悪いか? ん? 私が誰かに迷惑をかけたかよ。言ってみろ』


 さっきも思ったけど――。

 メノア様、子供かな。

 こっちは説明を求めていたのに、開き直っている。

 でも《虚無の巫女》であるということは、認めたも同然だ。

 なんで、そんな《虚無の巫女》なんて職業、やっているんですか。

 飽きもせずに。


『お前は、一言余計だ。それに女神も《虚無の巫女》も職業ではない。この世界を循環させる役割の断片だ』


 メノア様の表情は見えないが、どこか遠い彼方を見つめて言っているような気がした。

 つまりは世界を、レネイストを構築する部品のような存在ということかな。


『そんな可愛いものではないが……』


 いや、メノア様を可愛いなんて思ったこと、一度もありませんよ。

 そういうの自意識過剰です。

 女神のフリをした自認救世の、自分大好きっ子とか救いようがない。

 世界を救世する前に、まずは己を見たほうが良い。


『善人面した狂人な偽善者に言われるとは、心外だな。お前こそ、これまでの行いを鑑みろ』


 メノア様が言い返す。

 しかし、僕には響かない。

 過去の言動や行動など、いちいち覚えていない。

 寝たら忘れる。

 多分、興味がないのだろう。


『物忘れ糞爺』


 何か聞こえた。

 気のせいかな。

 糞、は余計。

 それは女神様の特権だ。


『いらんわ、そんな権利』


 そう言うメノア様だったが、あまり強い拒否はしない。

 どこか、その蔑称を受け入れている節があった。

 何気に気に入っているのかもしれない。


「――《虚無の巫女》の概要は以上です。何か質問があれば、どうぞ。私が知る範囲のことでしたら、お答えしますよ」


 と、ベルザがこちらを振り返る。

 いや、待ってほしい。

 メノア様との会話に夢中で《虚無の巫女》の話なんて、途中から全然聞いてなかったんだけど。

 さて、どう返したものか。

 ここは、素直に言うのが正解かな。


『適当に誤魔化しておけ。どうせ、大した内容の話はしてない』


 それが重要だったかどうかの有無を決めるのは僕ですよ。

 思考の邪魔なので、少し黙っていてもらっていいですか。


『チッ……』


 舌打ちした。

 まあ、いいや。

 いまはメノア様の機嫌より――。


「いえ、特に質問はありません」

『ないのかよ』


 はい、ないです。

 何も。


『……いや、あるだろ。《虚無の巫女》にはどういう能力があるのかとか……《星を喰らう獣(ストイタス)》を封じる為に創られた《虚無の巫女》は、何故そもそも必要だったのかとか……色々あるだろうが』


 それを聞けよ、とメノア様が促す。

 僕は、それを聞き流すと笑みを見せた。


「ベルザさん、諸々ありがとう。おかげで、疑問が解消したよ。今夜は爆睡できそうだ」

『嘘つけ……何も解決してないだろうが。寝てる間に何かヤバいことが起きて、そのまま死んでしまえ』


 僕が感謝を告げているとき位、静かにしてほしいものである。

 余計な口は慎んでもらいたい。


『お前の減らず口が、一番余計だ』


 それはお互い様では。

 メノア様に言われる筋合いはないような。


「ノワール様に感謝されるなど、恐れ多いです」

『……本当にな。見る目のない女だが、立場は弁えているようだな。そこだけは、評価してやろう』


 少し――。

 いや、ここから離れるまで黙ろうか女神様。


『黙るのはお前の方だ、ノワール。何故、こんな小娘に世辞を言う。利益もクソも帰ってこないぞ』


 メノア様の威圧するような強い口調。

 仮にもベルザ様は、女神ですよね。

 それなりに、最低限の礼儀を払う必要はあるのでは。


『女神に下手に出る邪神など、聞いた事もないわ』


 なら、僕が最初ですね。

 嬉しいです。

 相手が人間だろうと女神だろうと関係はない。

 礼節は大切なことだと思う。


『その心を、少しは私に向けろ』


 すみません、何も聞こえません。

 僕は物忘れの激しいうえに、耳が遠い糞爺なので。


『根に持つな、気持ち悪い』


 不機嫌になったメノア様は口を閉じた。

 おかげで頭の中が静かになる。


「この先を抜ければ《転移魔法》――《次元歪曲(ディシス)》の術式が発動し、ヴァミリド神教国の首都、神都アリオンに出ます」


 ベルザが黄泉灯(よみとう)アルスタラを持たない方の手、その指先で示した。

 それを自然と目で追う。

 黒い塗料が綺麗に剥がれ落ち、その裏にあったのは白だった。

 先行きが不明な――。

 果てのない、白濁とした広漠な世界。

 これが神都アリオンに繋がる道なのだろう。


 闇に閉ざされた螺旋階段と光に包まれた《次元歪曲(ディシス)》、そのモノクロの線引き――。

 それを跨ぎ、僕は真っ白な空間に足を踏み入れる。

 床が無いような、ありもしない浮遊感に襲われた。

 体験したことのない不思議な感覚。

 そこに地面は存在しないのだろうが、確かに足裏に感触がある。

 しかしながら、身体が浮いているような、未知の引力に翻弄される。

 思うように自由が利かない。


「ああ、そういえば――」


 と、別れ際にベルザが言った。

 白い世界に佇む僕は、顔だけを向ける。


「私としたことが、大事な要件を伝え忘れていました」


 周囲に魔力の流れを感じる。

 《次元歪曲(ディシス)》の術式が発動しようとしていた。


「《虚無の巫女》は、いつか必ず貴方を裏切り魂を破壊します」


 ベルザが付けた鴉の仮面、その奥の冷たい眼差しがこちらを射抜いた。

 それは僕の意識にいるメノア様を見ているようにも感じられた。


「貴方の未来の為にも……世界の安寧を維持する為にも……貴方の《権能》――《理を変転させる(フィルア)幻惑の坩堝(イレラ)》で封印するのが最善かと忠告しておきます」


 脅迫でも命令でもない。

 僕の身を、或いは世界を純粋に慮っていた。


『……それは女神としてか? それとも親殺しとしての懺悔か……? どちらにしても、お前の発言を素直に聞いてやる義理などないがな』


 ――なあ、ノワール。

 と、僕に同意を求める。


「うん、分かったよ。最悪、いざとなったら《理を変転させる(フィルア)幻惑の坩堝(イレラ)》を使うね」

『分かるな。ふざけるな』


 僕はニコリと頷いた。

 だって、僕だけの問題ならまだしも、世界のとか言われたらね。

 流石に考えずにはいられない。

 あらゆる選択のうち、最良の未来を取らないと。


『……なんで、そこだけ無駄に理解が早いんだ。そういう柄ではないだろうが』


 メノア様が呆れる。

 性格の問題なのかな。

 倫理観が判断する事柄だと思うけどね。


『お前の思想などは、どうでもいい』


 メノア様は、そう言い放つ。

 はいはい、分かっていますよ。


「《虚無の巫女》、メノア様の封印については、とりあえず保留としておこうかな……また、気が変わるかもしれないけど」

『変わるな』


 と、言いかけたメノア様は――。

 しかし、僅かに焦りながら言い直した。


『……いや、変われ。保留から、封印をしない選択になれ』


 それはどうだろう。

 いまは、まだ何とも。

 強いて言うなら、メノア様の日頃の行い次第かな。


星凱帝(せいがいてい)より偉いこの私に、たかが十歳前後の餓鬼でしかない、お前の機嫌をとれと……そう言いたいわけか』


 良い度胸だなと言わんばかり。

 星凱帝(せいがいてい)が、どなたか存じ上げないので、その比較対象はあまりピンと来ないですが。

 容姿もそうですけど、年齢を設定したのもメノア様では?

 それを言い訳じみた反論に使うのは、いかがなものかと。


『黙れ、糞が』


 言いたい事だけ吐き捨て黙った。

 自分勝手な女神様である。

 面倒なので放っておこう。


「……いまは、それで良いでしょう」


 しかしながら、とベルザは続ける。

 黄泉灯(よみとう)アルスタラを、こちらに向けた。


「貴方は近いうちに選択をする事となる。世界の救済か、それとも――」


 ベルザの言葉は、最後までは耳に届かなかった。

 《次元歪曲(ディシス)》が発動し、視界が白光に染まる。

 螺旋階段に黄泉の灯火を放ちながら佇むベルザ、その唇が何を発していたのか。

 それを読み取るのは、かなわなかった。

 姿形が彼方に遠のいていき、僕は《次元歪曲(ディシス)》で神都アリオンに転移をしたのだった。

【次話予告】

ノワールは旧ベルザ教会の地下にて、女神ベルザから《虚無の巫女》の概要を知った。

それを聞き終わると、ベルザの計らいにより《次元歪曲(ディシス)》で、ヴァミリド神教国の首都、神都アリオンに転移をする。

そこは異世界レネイストの中でも、最大級の国力を誇る大国、ヴァミリド神教国であり、多種多様な人種と文化が入り乱れる絢爛な都だった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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