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拝啓、異世界に転生したら邪神になりました  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
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第1章 第5話 自我のある傀儡

 零花に動揺は見られなかった。

 そういった感情すら存在しないのかもしれない。

 構築されたプログラムに乗っ取った行動しかしない。

 女神様は言った。

 意思疎通をはかるのは無駄だ、と。

 零花はマニュアルに沿った行動だけをする。

 ならば、想定外の事態に陥った場合は――。


「……術式の破綻を確認」


 零花が口を開いた。

 先程までとは打って変わり、どこか機械のような。

 たどたどしい、それでいて淡々とした口調。


星力(メリス)の流入によるものと想定……」


 それは、星の力。

 この星に流れる(エネルギー)だ。

 《理を変転させる(フィルア)幻惑の坩堝(イレラ)》に、それを感じたのだろう。


「戦闘結果を検証……」


 動きを止めた零花は、瞬時に導き出す。

 この状況の結末を。


「解答……個体名零花の損壊と確定」


 それは、つまり敗北だ。

 幾度、仮想しようが零花が勝利する光景は見えなかった。

 実証されなかった。


「……現状、イレギュラー」


 零花の目的は、抹殺。

 それを邪魔されたこの状況は、予想外だったようだ。

 零花は突発的な判断を求められる。


「……やれやれ。だから、こんな損な役回り嫌だったんですよ……ええ、本当に」


 零花は態度が急変。

 またしても口調が変わった。

 さながら、自我を得たように流暢に喋る。


「……まぁ、これも親殺しの宿命ですかね」


 大袈裟に肩を竦める零花。

 そこには、確かな感情が存在していた。

 まるで、別人だ。

 だが、二重人格という線は考えずらい。

 単純に演技だった。

 それが妥当だろう。

 しかし、何故そんな真似を――。

 何か知っていますか、女神様。


『知らん。仮に知っていたとしても、何故お前に教える必要がある』


 返ってきたのは短い否定。

 だが、断固とした意思を感じた。

 これは、教えてはもらえなさそうだ。

 まあ、良いけど。


『良いんだ』


 はい、別に。

 零花の抱えている事情とか、僕の人生に関係ないので。

 それが悲劇だろうと喜劇だろうと興味ないです。


『冷めてるな、お前』


 そうでしょうか。

 どちらかというと、女神様も同類では?

 つまらない浮世の事情に首を突っ込んだり、他者に同情したりしないですよね。


『それは、確かにそうだんだが……私の体温より冷めているお前とは違い、私は一応興味は向ける』


 なるほど、それは見解の相違というもの。

 女神様とは性質が似ているが、細かい趣向に違いがある。

 他者に対する興味関心の程度。

 そこに女神様は、一定の価値を感じるらしいが、僕は何も思わない。

 僕に実害を向けられるのなら話は別だが、しかしそうではないのなら、他者の都合など思考の外だ。


 というか、何ですか女神様の体温というのは。

 そんなの知りませんけど、喩えが気持ち悪いです。


『私は人間とは違い、精神が強靭だからな。その程度の誹謗、何度言われようと気にしない……何故なら私は完全無欠にして清廉潔白な理外の存在、女神メノアだからだ。ゆえに、どれだけの謗りを受けようと、この神の身には何の痛痒も与えられない……いや、それどころか戯言を受け流したうえで、相手の意見を尊重する。それが出来てこそ、慈愛溢れる女神だ』


 分かったか? と確認するように言う。

 いつもより、格段に話が長い。

 それに、早口だ。

 相当、気にしている。

 気持ち悪いと口にするのは、いや心の中で思うのも自制しよう。

 でないと、また女神様の無益な長話が垂れ流される。


『無益って言うな』


 今後、これが何度もされると流石に鬱陶しい。

 全力で遠慮したい。


「ところで、一つ提案なのですが……」


 零花が視線を向ける。

 どうやら、何か話をしていたようだ。

 まるで、聞いていなかったが。

 提案というのは、どういう意味だろう。

 まあ、話し合いで済むなら、それに越したことはない。

 戦闘は疲れる。

 身体的にも精神的にも。


「なにかな? 僕に出来る事なら、可能な限り協力させてもらうよ」


 僕は優しい微笑みを返す。

 話し合う姿勢を見せた。


『そこは、何でもすると言って、その女の機嫌をとれ』


 無責任な文句が飛んできた。

 そんな発言をしたが最後、付け入られるに決まっている。

 だから、僕は可能な限りと強調をした。


「いえ、協力はいりません」

『いらないのかよ』


 僕の代わりに突っ込みが入る。

 助かります、女神様。


「というか……そういう上から目線の、僕には力があるから可哀想な君を助けて一生養ってあげよう的なお節介、普通に迷惑ですし気持ち悪いので、やめていただけますか」


 そこまでは言っていない。

 なんだ、その妄想は。

 最早、お節介の枠を超えている。

 まさか再三、女神様に言った誹謗が僕に返って来るとは。

 予想外だ。


『因果応報だな、ざまあみろ。お前は、もっと自分が気持ち悪い存在だという事を自覚しろ』


 メノア様は我が意を得たりとばかりに、便乗するように叩き始める。

 いい気味だ、と笑っているが――。

 気持ち悪い存在でないと、汚物より性根が腐っている気持ちの悪い女神様とは、会話が通じませんからね。


『…………』


 途端に黙るメノア様。

 言い返す言葉がないのか、それとも憤慨しているのか。

 どちらでも構わない僕は、意識を零花に変えた。


「ごめんね……少し君の気持ちを考えてあげられていなかったようだ。けれど、僕が君の力になりたいのは本当だよ、信じてほしい」


 僕は心の距離を縮めるように足を前に動かす。

 提案が何を意味するのかは不明だが、とりあえず寄り添う姿勢を見せるのが重要だ。

 高圧的な態度の人間に、話をしたいとは思わないだろう。


『紙より言葉の重みが薄い蝙蝠野郎にも、話したいとは思わんがな』


 口を開いたかと思えば、即座に直球な罵倒。

 メノア様に鼻で笑われる。


『軽々しい口調で、信じてほしいなどと口にする輩は、詐欺師か偽善者のどちらかだ』


 なら、そのどちらでもない。

 僕は愛好家だ。


『愛好家? 小動物でも愛でるのか?』


 と、メノア様が馬鹿にするように苦笑する。

 動物ではない。

 いや、時と場合によっては、それもありえるが。

 いまは、適切ではない。

 僕が言いたいのは、あらゆる災厄を愛し好んでいる、ということ。

 それを甘んじて受け入れ、愉しんでいる。


『物事に面倒や無関心と言う割には、随分と矛盾した論理だな』


 そうかもしれない。

 否定はしない。

 する必要性もない。

 それが僕の本質だ。


『知らないなら教えてやるが、そういう人間を狂人と言うんだよ』


 メノア様は分かっておきながら、わざわざ言った。

 その蔑称に、僕は不服を示さない。

 自覚はある。

 なければ、それはただの無知な阿呆。

 哀れな道化だ。


『……ならお前は、自覚がある阿呆だな』


 ククク、とメノア様は嘲笑する。

 女神様にどう思われようが興味ない。

 同時に、それを愉しむ。

 いまでさえ、そんな矛盾した思考をしている。


『最早、末期の病気だな。既に手遅れだ、救いようがない』


 勝手に診断をされる。

 実際、女神様に転生させてもらい生き返ったので、救われはしましたがね。

 無論、そういう意味で言ったわけではないのは、承知の上である。

 僕はわざと、理解していないフリをした。


「そこまで言うのなら、助けてもらえませんか。困っている人を見たら、どうしても手を貸さずにはいられないと言うのなら」


 だから、そこまでは言っていない。

 どうやら、零花は妄想癖が強いようだ。

 あまり余分な事は言わない方が良いかもしれない。

 知らない間に、身に覚えのない変な約束をされそう。


『最初は協力を断ったのに、今度は婉曲にお願いしてきたぞ。どういう思考回路をしているんだ。言動があやふやな気持ち悪い女だな、コイツは』


 何故だろう。

 僕の被害妄想かもしれないが――。

 最後の、コイツは、の所に嫌味を感じた。

 その裏に僕も含まれていそうだ。


『零花より、お前の方が余程妄想癖が酷いな……重傷だよ。もう一回、死んだ方が良いんじゃないか?』


 メノア様の哀れみの声。

 まだ、転生して間もないのに、やり直したいとは思えない。

 それが、冗談だとは分かっているが――。


「僕に出来る事なら、可能な限り助力させてもらいますよ」


 再度、協力を申し出る。

 念の為、可能な限りを強調して。

 当初は助力を受ける側だった筈なのに、気付けば立場は反対。

 こちらが助ける形になっている。

 不思議だ。

 もしかして、これも女神様の意図的な誘導だったんですか。


『どうだろうな。私は性根が汚物より腐っている女神だから、難しい事は分からん』


 僕に言われたのを根に持っている。

 機嫌を取るのは簡単だが、それも面倒だ。

 うん、無視しよう。

 これは、僕の推測だが――。

 多分、いまの状況は女神様が意図した展開ではない。

 というか、思っているよりこの女神様は何も考えていない。

 思考や行動が、結構適当である。


『見事に的外れな推測だな。将来、仮に仕事をする機会があるなら、占い師をするのはやめた方がいい。お前には向いていない』


 するつもりは無いが。

 ひとまずは、横に流そう。


「……なるほど。どうやら、それなりに用心深い人のようですね……いえ、これは褒めているのですよ。そうでないと、アレは御せないでしょうから」


 零花が手を合わせる。

 仮面により表情は見えないが、口元が笑っていた。

 それは本心でもあるが、皮肉にも聞こえた。


「アレ、とは何のことかな。教えてよ」


 生憎、こちらはさっぱりだ。

 何も知らない。

 それと、と僕は続けて言った。


「これは僕の憶測なんだけど……君は女神ベルザの使徒でもなければ、意思のない傀儡でもないよね? あれは、そういう風に演技をしていただけだ」


 メノア様は零花の事を意思のない存在だと表現した。

 だが、それはメノア様が吹いた法螺。

 僕を躍らす為の、適当なでまかせ。

 最初から、メノア様も気付いていた。

 多分、旧ベルザ教会に入る間際に、メノア様が言い淀んだ理由がそれだろう。


 そのときに感づき、零花を利用しようと思いついた。

 僕がとる行動を監察するために。

 まあ、本当に試験場の役割も兼ねていたのかもしれないが。

 いまとなっては、どちらでもいい。


「そのうえで敢えて手の内を見せたのは、たんなる親切心かな……? それとも、好奇心かい?」


 僕の実力を測る目的もあったのだろう。

 でないと、開幕からあんな《魔法》で仕留めようとは考えない。

 あれは、僕を明らかに試していた。

 僕の力量が利用するに値するかどうか、それを見定めるのが真意だ。


「……ふふ、どうやら想像力が豊かな使徒様のようですね」


 零花はわざとらしいほどに、口元に手をやり笑う。

 その反応が正解だと言っていた。


「ええ、実に良いですよ。それが《虚無の巫女》に対抗する有効な手段ですからね」


 優美に微笑み続ける零花。

 それは信心深い信徒ではない、意思のない傀儡でもない。

 確かな自我を持った個体が発する言葉だった。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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