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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
32/33

第1章 第29話 瞬間的な肉薄

 堕天使の身体から粒子が立ち込める。

 それは、魔力だ。

 体内に巡るエネルギーが、外に放出されている。

 カノンが意図したものではなかった。

 《神痕術(アクドマ)》により、〈馬獣族(ケンタウロス)〉と融合したことで、彼の魔力は爆発的に増大している。

 それにより、身体の内側から無意識のうちに、莫大な魔力が漏れているのだろう。

 僕の魔力、その色彩は黒色だ。

 女神様は灰色らしいが――。


「また、随分とキラキラした魔力だね。見ているだけで、目が疲れそうだよ」

「申し訳ありません。なにせ、私は存在が宝石のような堕天使なので……どれだけ隠そうと、内なる輝きが溢れ出てしまうのです」


 カノンの魔力は黄金だった。

 その一つ一つが、華やかな光を発している。

 どこか神秘さすら感じさせるそれは、しかしながら粒子に内包された力は凶悪だ。

 感覚で計っただけでも分かる。

 融合をしたカノンの魔力量は、僕は遥かに上回っている。

 大体、僕の三倍程度かな。


 僕は〈勇者〉から〈邪神族〉に転生をした。

 だけど、未だ当時の力は取り戻していない。

 色々と面倒な制約があるからなのだが――。

 それでも、いまの僕は〈邪神族〉の身体を手に入れている。

 〈神族〉の亜種とはいえ、上位種族であることに変わりはない。

 元来の魔力量も、下位の種族と比較すると数倍の開きはある筈だ。

 女神様の創造した力による成果も大きいが、〈邪神族〉は優れた肉体と器を兼ね備えた種族であるのは疑いようがない。


 そんな僕を超える存在がいるとするなら、それこそ同等の〈神族〉か、或いはレネイストの最上位種族である〈竜種〉位なもの。

 〈堕天使族〉も、上位に位置づけられるが、しかし根本的な地力では神に劣る。

 絶対に突破することが叶わない、限界の壁がある。

 どれだけ鍛錬しようと、種族に与えられた性能以上の力は発揮出来ない。

 ――なのに。


「恐ろしいな。そんな、とんでもない量の魔力をもろに食らったら、ひとたまりもないよ」


 どう見積もっても、カノンの魔力量は〈堕天使族〉が持てる値を逸脱している。

 魔力だけなら〈神族〉を超えていた。


「ご安心を。私も弱者をいたぶる趣味はありませんので……可能な限り楽に殺して差し上げます」

「それは助かるね。ありがとう」

「いえいえ、礼には及びませんよ」


 ニコリ、とカノンが微笑む。

 そして――。


「《誇り高き精霊の弓士は(アネスト)我が命に応え敵を穿つ(ウェレオス)》」


 先刻していた詠唱を呟いた。

 瞬間、僕は鳥肌が立った。

 本能の警告に従い、咄嗟に身を屈める。

 ――シュン。

 と、頭頂を疾風が掠った。

 遅れて、後方で黒板を爪で引っ掻いたような、それでいて激烈な爆発音が轟いた。


 横目で伺う。

 僕の後ろ、星力(メリス)の砂浜の一箇所が、不自然なまでに裂けていた。

 空間に裂け目ができている。


碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスか、《誇り高き精霊の弓士は(アネスト)我が命に応え敵を穿つ(ウェレオス)》の能力かな」

「教えるとでも……?」

「良いじゃん、教えてよ。僕との時間を楽しみたいんでしょ」

「着弾をした空間、または人物などを異次元に送ります。それが私の《異能》――《誇り高き精霊の弓士は(アネスト)我が命に応え敵を穿つ(ウェレオス)》に付随する力です」


 と、優しい堕天使が教えた。

 付随、といった表現が気になる。

 別種の能力があるのかな。

 何にせよ飛ばされた箇所は、存在そのものを世界から切り取られるのだろう。

 その裂けた傷跡を治せる保証はない。

 当たれば、いや掠れば死と同義だ。


 ――それに。

 と、僕は思考をしながらも身体を動かす。

 カノンの目《魔眼》を見る。

 次の発射までを、魔力の流れで目算した。

 猶予は、1秒もない。

 僅か、0.7秒程か。

 しかし、僕が行動するのに充分な時間だった。

 魔力を下半身、両足に集中させる。

 カノンの《魔眼》が微かに光った。


 残り、0.3秒。

 《魔法》を編んでいる暇はない。

 そんなことをしている間に、次元の彼方に飛ばされる。

 小賢しい策も必要ない。

 ただ、純粋な力でねじ伏せればいい。


 ――0.1秒。

 再度、異次元に直行する不可視の矢が射出される。

 と、同時に僕は地面に伏せた状態から駆けた。

 砂浜を這うように高速で走る。

 僕は《魔法》を使っていない。

 単純な魔力の応用だ。

 魔力を両足に集めて、脚力を飛躍させている。


 加減を間違えば、脚の筋肉がちぎれる。

 そのときは《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》で治すまでだが、そうはならないだろう。

 僕の身体は、女神様の最高傑作だ。

 ある程度の負荷には耐えられる。

 僕は低姿勢で、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスに星力(メリス)を流す。

 前方、カノンとの距離は凡そ30m。

 そこまで、一気に駆け抜ける。


「……おやおや、かけっこが得意なようで。初等部では、さぞやチヤホヤされるでしょう」


 警戒をしたカノンが、背中の両翼で僅かに後退した。

 白黒の翼で飛びながらも、その堕天使は長弓を悠然と構える。


「――ですが……残念なことに、ここは運動会でも体育祭の会場でもありませんよ」


 着地と同時に放たれた不可視の矢は、中空で分裂。

 『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の客室で見た技と同じだろう。

 そう思い、こちらも《開闢(かいびゃく)》を繰り出そうとしたのだが、しかし――。


「同じ手は使いません。私は飽き性なので」

「気が合うね。僕もだよ」


 数が違う。

 客室のときに分かれた矢は、数十本程度だった気がする。

 ――だが。

 目下、視認できるだけでも百はある。

 そして、全てに異次元に飛ばす効果が付与されていた。

 広い砂浜、その空間を有効的に使う権利は、カノンにもある。

 彼は出し惜しみするつもりはないようで――。


管理者の閲覧会(アグレスタ)が定めた規定に基づき、違反者である〈邪神族〉ノワールに対して……あー……この宣告、面倒なんですよね……」

「じゃあ省いていいよ」

「一応、そういう規則なので」

「体裁とかいうやつ?」

「そうです」

「下らないね」

「ええ、本当に」


 と、共感をしたカノンは――。

 矢の嵐を降らせてきた。

 僕は静かに糸目を開ける。

 迫るその殺意を、平静に見据えた。

 直後、一本目の矢が僕に着弾――。

 する寸前に、それを暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスで斬った。

 ほぼ同時、休む間も与えられず、二本目が来る。

 禄な構えも出来ず、態勢も安定しない。

 しかし、やることは変わらない。


 そもそも、僕に典型的な剣術など必要はない。

 覚える気も無かった。

 僕は感覚型だ。

 前世で〈勇者〉をやっていた時代も、剣の勉強や鍛錬などした覚えはない。

 そんな面倒で無為な時間を過ごすなら、愉しい遊びをしたい。

 人類と敵対する〈魔王〉の飲食物に、こっそり鼻水を混入させたりとか。

 ――うん。

 そのほうが、余程有意義だ。

 僕の人生に勉強や努力は不要である。


「私なら、下剤を混ぜますね」

「良い案だね……って、やっぱり声聞こえてる?」

「いいえ、聞こえません」

「嘘だー」


 過去に行った可愛らしいイタズラを思い出しながら、僕は矢の暴雨を突っ走った。

 三本、四本、五本。

 瞬間的に、それは眼前に迫る。

 斬っても斬っても、雨は止まない。

 けれども、距離は確実に縮まっている。

 あと、20m程。

 女神様は言った。

 異次元に飛ばす不可視の矢に、当たらなければいいだけだ、と。

 明解な理屈だ。

 自覚のある阿呆な僕でも分かる。


「ノワールさんは天才ですからね」

「ありがとう、知ってる」


 回避はしない。

 僕が斬らずに矢を避けたら、亀裂が生まれる。

 それにどういった影響があるのかは不明だが、行動が制限されるかもしれない。

 あまり、裂け目を増やさないほうが良いだろう。

 暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを片手に、不可視の矢を斬り続けて――。

 残りは、20本と少し。

 僕は駆け出してから、数秒の間に80本近い矢を斬っていた。


「もういいかな」


 と、僕は避けに転じる。

 音速で飛来するそれに合わせた速度で、僕は身体を動かした。

 無駄に魔力と体力は消耗しない。

 掠り傷さえ負わず、僕は無傷のまま矢の雨を抜けきった。


 ――ドドドドドドドッ!!!


 と、背後で連続して爆音がする。

 視線は向けない。

 見ずとも察せられる。

 標的に当たらなかった矢が破裂して、裂け目となったのだろう。

 いまは無視でいい。

 僕は暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスの柄を、しっかりと握る。

 既に間合いだ。


「詰み、かな?」

「そうですね……貴方が」


 暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスの刃先が、カノンの首筋に触れる間際――。

 僕の身体が硬直した。

 させられた。


「どこまで飛ばしたのかと思ったら……少し、遠出し過ぎですよ、カノン。私の許可無しに離れてはいけません」


 エリアルだ。

 カノンと関係性を持っている女神の声が、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に響き渡る。


「これはこれは、ご心配をおかけしたようで……申し訳ありませんでした。反省はしていません」

「しなさい。あとで、お説教ですからね」

「……許してはもらえませんか?」

「『女神エリアルたんは怒ってるんだからね!』室で、お説教です」

「勘弁して下さい。エリアル様は叱責が長いので、聞いてて途中で飽きるんですよ……」

「その前に僕が殺してあげるから、大丈夫だよ」


 時間を停止させる能力。

 女神エリアル固有の《権能》だろう。

 どういう原理で発動し、対象の時間を操作しているのか。

 まるで理解不能だが、僕には関係ない。

 《理を変転させる(フィルア)幻惑の坩堝(イレラ)》で、理を歪める。

 それにより、僕にかけられた《権能》の効果が抹消された。

 行動が可能になった僕は、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを水平に振りきった。


「何なら、ノワールさんもご一緒に――」


 そんな誘いは最後まで言えない。

 カノンの首が宙を舞った。

 砂浜に堕天使の頭部が転がる。


「生憎と、うちのノワールは私の汚部屋を掃除する先約があるんでな。お前らの痴話喧嘩には付き合ってられない」

「そんな約束していませんよ、クソ女神」


 意識の中で聞いていた声音と同様の低声。

 その性悪な女神は下界に姿を現した。

 何故か鼻の穴にティッシュを詰めた状態で。

【次話予告】

ノワールは飛ばされた異界、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)でカノンと戦闘を始める。

どちらも本音を言わず、適当な軽口を叩き合いながらも、戦いは激しさを増していった。

碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスが放った不可視の矢、それが百に近い分裂をして、矢の暴雨となりノワールを襲う。

それを無傷で斬り伏せ避けきると、カノンの首に刃を走らせた。

しかし、響いたエリアルの声により、状況は変転する。

女神メノアも降臨し、ノワールは面倒を予感した。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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