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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
30/32

第1章 第27話 女神の聖杯機

先日、投稿をした『お知らせ』にも書きましたが、この場でも念の為に伝えておきたいと思います。

この最新話が投稿されている時には、既に添削などの作業は完了しています。

それに伴って、今話から読者様が読みやすいよう、改行などを増やして行間を空けています。

次話からも、この形で書いていきたいと考えています。

読者様が少しでも快適に読んでいただけるようになったのなら嬉しいです。

 面倒だけど、仕方ない。

 現状、僕にかかった疑いを晴らす材料を持ち合わせていない。

 怪しまれるだけの行動をした僕にも、多少は責任がある。

 何を言った所でカノンはまだしも、エリアルは見逃さないだろう。

 管理者の閲覧会(アグレスタ)の言い分も理解出来る。

 メノア様が言うには、彼らは異世界を調整する秩序の番人らしい。

 それを乱す者に対して、相応の処分を――。

 執行を下すわけだ。


 女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)の破壊は、紛れもない執行対象だろう。

 定められた規定とやらに違反している。

 それを阻止するには、元凶を排除する必要がある。

 女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)の核を壊す為に創造された存在、星凱帝(せいがいてい)

 異世界から現れる、世界の秩序を乱す災厄《星を喰らう獣(ストイタス)》。

 各々、経緯や思惑に違いはあれど、結果的に女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に損害を与えるのは同じであった。

 まあ、どちらも鵜呑みには出来ないけど。


 僕に《星を喰らう獣(ストイタス)》というレッテルを押し付けて、そんな体の良い理由で、管理者の閲覧会(アグレスタ)が僕を始末しようとしているだけかもしれない。

 《星を喰らう獣(ストイタス)》の概要だって、エリアルの口から聞いただけの情報だ。

 僕は自分の目で見た事しか信じない。


 異世界からの転生者であり、その上《権能》を所有する身である僕は《星を喰らう獣(ストイタス)》となった過去の転生転移者たちと、酷似しているのだろうが――。

 僕には肝心の動機がない。

 女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)を破壊して、僕に何か利益があるのなら別だけどさ。


『それを壊せば、神々の機巧は星に星力(メリス)を供給させるといった永劫の役目を終え、機能が停止する。後に残るのは、行き場を失った膨大な量の星力(メリス)だ。それは〈神族〉数百体分に相当する量のな』


 あまり的確な想像はできない。

 どれだけの総量かは未知数だが、女神様は何が言いたいのかな。


『幾度《権能》を行使しようと、使っても使い切れない程の星力(メリス)だ。世界征服なんていう子供じみた野望も簡単に叶えられる。星の命運は、お前の指先一つで思いのままということだ』


 メノア様が酷薄に告げた。

 世界が自らの望む形になる。

 なかなかに魅力的な誘惑だ。

 そんな摂理を無視した力を手にしたなら、色々と愉しい遊びが行えそうである。

 充分な利益だ。

 少し気が変わってきた。

 今からでも《星を喰らう獣(ストイタス)》になろうかな。

 どうやったら、なれるんだろう。

 変身、とでも叫んだらいいのかも。


『――代わりに、膨大過ぎる(エネルギー)に身体が耐えきれず、名状しがたい苦痛と地獄を味わうことにはなるがな』


 それでも良いのか、とメノア様。

 ――いいえ。

 やっぱり、破壊はしないです。

 《星を喰らう獣(ストイタス)》にもなりません。


『変身!』


 ――も、しませんよ。

 僕は〈邪神族〉のままでいい。


『ああ、お前は永遠にお前でいろ。無理に変わる必要もない』


 勿論ですよ。

 僕の前世は〈勇者〉カイン。

 今は女神様の玩具で、下痢処理係の〈邪神族〉ノワール。

 誰が何を言おうと、僕の根幹は変えれない。

 滅ぼされ生まれ変わろうと、僕は僕である。


『何か余分な渾名が混ざっていた気がするが……まあいい。お前は立派な私の、トイレットペーパーだよ』


 メノア様は淡々と言った。

 嬉しいな。

 玩具から紙に昇格だ。


『それは昇格なのか……?』


 ――はい。

 と、僕は内心で素直に喜ぶ。


「――では、そんな下痢処理係のノワールさんを、とっておきの空間にお連れしましょう」

「へえ……何処かな。楽しみだよ」


 ニコリと僕は笑う。

 カノンが碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスの弦に指をかけ、そして。

 緩やかに引いた。

 放たれた不可視の矢――。

 それは、確かに僕に向かう。

 しかしながら、その着弾点は僕ではなかった。

 僕の髪を疾風が掠れる。

 顔面の真横を、それは飛んでいった。


 後方、カーテンが締め切られた窓に当たり、瞬間――。

 『竜脈(りゅうみゃく)の畔』、その客室が捻れた。

 上下左右に空間がねじ曲がる。

 強烈な幻覚を味わっているかのような。

 神経が狂う感覚があったが、足はしっかりと地に付いている。

 そこに床はある。

 部屋が傾いているわけではない。

 歪んでいるのは構造ではない。

 空間だった。


 視界の歪みは徐々に元に戻る。

 平常になったとき、僕の目に映ったのは碧い海だ。

 初めて来た場所である。

 前世〈勇者〉カインの時代にも、実際に足を運んだ事はなかった。

 だが、言われずとも分かる。

 ここが、何処なのか。


「ようこそ星々の墓場、星力(メリス)の終着点へ」


 と、カノンは――。

 両手を広げて、僕の来訪を歓迎する。


「ここは死滅した星が眠り、生命の糧となり……そして、新たな星が誕生する滅びと創造の地、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)です」


 そこ、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)は外界、レネイストから隔絶された異界だった。

 一面に広がる瑠璃色の砂浜。

 見ると、それは集積した星力(メリス)であった。

 澄み切った無窮の大海は、地平線が見えない。

 漣の音が、妙に心地良かった。

 温度は低温で、湿度も感じない。

 暖と寒が共存している。

 微風も吹かない無風な異界だ。

 凪のような穏やかな静謐さ。


「皆でピクニックでもするには、もってこいの穴場だね」


 僕は暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスに星力(メリス)を流す。

 此処、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)が何処にある異界なのか知らないが、レネイストではなさそう。

 数多の星々に星力(メリス)を供給するのが役割なら、その中心にあるのかな。


「――でも、僕としたことが弁当を持ってきていないんだ……ああ、本当に悲しいよ。僕のお腹も泣いてしまっている……」


 ――グー。

 と、僕のお腹が鳴った。

 いつになったら、ご飯にありつけるのか。

 あと少し、時間が掛かりそう。


「ご安心を、ノワールさん。そんなこともあろうかと、優秀な私は持参してきていますので……」

「……こんなことがあると思うかな、普通」

「ええ、思います。私はデキる堕天使ですから」


 カノンが胸に手を添え微笑む。

 ――そうなんだ。

 管理者の閲覧会(アグレスタ)の第四席は、用意が良いらしい。


「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらってもいいかな」

「勿論、構いませんよ。きっと、娯楽に飢えたノワールさんにも満足していだたけると思います」


 僕は暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを構える。

 《開闢(かいびゃく)》、大太刀の秘技を準備した。

 カノンも碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスを構え、しかし――。

 それを持たない左手の人差し指で、スッと僕の後ろを指し示した。


「……ああ、そういえば。一つ、忠告するのを忘れるところでした。危ない、危ない……」

「うっかり屋さんな堕天使だね」

「すみませんね……こう見えて、それなりに歳を重ねておりまして……最近は、物忘れをすることが多いんですよ」


 嫌になります、とカノンが首を横に振る。

 そして言った。


女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)は現在、管理者の閲覧会(アグレスタ)の管轄にありますが……しかしながら通常は、ここに入るには議会に申請をして、許可が下りなければ無断で立ち入る行為は認められません」


「そんなのした覚えないけど」

「では、違反行為とみなし、管理者の閲覧会(アグレスタ)の規定に基づき執行します」

「……あ、思い出した。忘れてただけで、申請したかも」

「嘘はいけませんよ、ノワールさん。嘘つきだと邪神になってしまいます」

「既に邪神だよ」

「おっと……そうでしたね」


 ゴホン、とカノンが咳払い。

 再度、口を開いた。


「……兎も角、私も含めて女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に入る許可を取っていないので、あまり派手に暴れ過ぎると……」

「過ぎると……?」

「頭が硬い議会の連中に見つかってしまうかもしれませんので、早急に決着をつけましょう」


 僕は指で差された方角に顔を向ける。

 そこにあったのは――。

 女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)の上空に存在する、それは。

 巨大な恒星だ。

 質量は太陽や月を優に超えるだろう大きさ。

 その恒星に、すっぽりと帽子のように被さったのは、巨樹だった。


「あの樹は、星を管理する樹(アスタドレスト)。そして……その内側に収まる星が、管理者の閲覧会(アグレスタ)の総本部です」


 巨樹、星を管理する樹(アスタドレスト)の蜘蛛の巣状に伸長した根は、根先を肉眼では捉えられない。

 だが、極限に目を凝らせば、そこはかとないが目視が出来た。

 根先に実るのは、星だ。

 巨樹の根先に実る星。

 改めて見ると、奇妙な光景である。


「知っての通り……数多の星々に星力(メリス)を供給するのが、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)です。そのラインとなっているのが、あの巨樹――星を管理する樹(アスタドレスト)。無駄に存在感があるのが特徴ですね」

「おっきな、ブロッコリーだ」

「食べても味はしませんよ……?」

「……なんだ……残念」


 僕は胸中に湧いていた僅かな興味が消えた。

 星を管理する樹(アスタドレスト)から視線を外す。

 海面に目を移した。

 透明度の高い海中だ。

 濁りがまるでない。

 筒抜けな海底は、真珠色に万彩と輝き、だが海洋生物が一匹も存在しなかった。

 不思議に思っていると、カノンが教える。


女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)には、生物に必要な酸素などが空気中にありません。この異界にある物質は、星力(メリス)のみ……故に、魔物や魔獣もそうですが、ほぼ全ての生物が生きられる環境下ではない、ということですね」


「言われてみれば、何か息苦しいかも」

「……その程度で済んでいるのは、ノワールさんだからですよ。普通なら女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に入った時点で、負荷に耐えきれず身体が爆散します」


 ――怖いな。

 そうならず助かって良かった。


「僕の身体は女神様のお手製だからね。頑丈なんだよ」

「ほう……?」

「〈魔女〉の鞭打ちにも、耐えられるらしい」

「……何ですか、その限定的な例は……」


 それは僕も思った。

 ――あれ?

 女神様といえば、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に入ってから声がしない。

 意識も切れている。

 繋がらない。

 完全に糸が切れた感覚がある。

 レネイストの外だからかな。

 女神様でも、世界の外側まで干渉するのは難しいのかも――。


「まあ、いっか。うるさいのが消えて丁度いい」


 これから先、女神様から逃れたかったら、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に来たら良いのでは。

 ――うん。

 良案だ。


「それは……つまり、声が聞こえず寂しいから会いたい、という愛情の裏返しですか?」

「……ふざけないでよ。あんまり舐めたこと言うと、グーパンチで殴っちゃうからね」

「何か可愛いですね」


 あはは、と笑うカノン。

 その顔面を、一瞬で移動をした僕が《巨人の撃砕(アルベラ)》で殴り飛ばした。

【次話予告】

ノワールは女神エリアルから、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)を破壊する恐れのある《星を喰らう獣(ストイタス)》という疑惑を向けられる。

否定はするが、これまでの行動のせいで疑いは深まるばかり。

女神エリアルは、管理者の閲覧会(アグレスタ)のカノンに命令を下し、それを彼が実行する。

碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスに放たれた矢が空間を歪め、ノワールとカノンを異界に飛ばした。

そこはレネイストの外側にある神々の機巧、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)で――。

ノワールは暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスに星力(メリス)を流し込み、カノンに殴りかかった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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