第1章 第26話 間違った判断
本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。
現在、執筆と並行してこれまで投稿をしてきた話を添削しています。
誤字や脱字が無いか、それらがあるなら修正をしています。
本編には影響がありませんので、ご安心下さい。
それに伴い、もしかしたら最新話の投稿に遅れが生じる可能性がありますが、ご理解の程お願いします。
僕は少し前の出来事を思い出した。
それは今朝のこと――。
女神様により〈邪神族〉ノワールとして、異世界レネイストに転生を果たし、旧ベルザ教会で零花の身体を借りて、下界に降りていた女神ベルザとの会話である。
あのときは、女神様との無駄話に意識を向けていたので、殆ど聞いていなかった。
しかし、断片的ではあるが耳に残っている単語もあった。
彼女、女神ベルザは言っていた。
《虚無の巫女》であるメノア様は《星を喰らう獣》に対して創られた存在だ、と。
これといって明確な根拠もない話だが――。
その説明が事実だとしたら《虚無の巫女》メノア様は、僕を滅ぼす目的で神々により創造されたわけだ。
管理者の閲覧会や、エリアルの言い分も足すなら、《星を喰らう獣》は何らかを意図して女神の聖杯機を破壊しようとしている。
それが壊されてしまえば、女神の聖杯機と繋がる星々に、星力の供給がされず滅んでしまう。
レネイストも例外ではない。
故に、そうならないよう《星を喰らう獣》が生まれる前に、その疑惑がある僕を不完全な状態のいま、排除をしようと試みた。
簡単に整理すると、こんな感じかな。
半分程度は、僕の憶測も混じっているけど――。
「《星を喰らう獣》、そんな物騒な存在になった覚えはないし……これから先もなる予定はないよ」
僕は〈勇者〉カインといった前世を隠していた。
記憶がないフリをして、女神様の都合で転生をさせられた無知な者を演じていた。
それは、カノンに会話を盗聴されていると気付いていたからである。
他にも隠し事はあるが、そんな僕でも《星を喰らう獣》とは無関係だ。
『お前は私の玩具、それ以上でも以下でもない』
メノア様が言う。
――その通り。
僕は女神様の創造物、玩具だ。
《星を喰らう獣》ではない。
「貴方個人の意思など関係ないのですよ」
エリアルが告げる。
僅かに声音を下げ続けた。
「《星を喰らう獣》は異世界から現れし、世界の異物。それは星の理を……摂理を破壊する災厄です。しかしながら《星を喰らう獣》は不定形な存在……その姿形や能力も、千差万別とも言えます」
それを聞きながら、僕は既視感を感じていた。
似たような存在の話があった。
《虚無の巫女》だ。
あれも、存在が判然としないと言っていた。
時代や国家によって、呼称や役割が変わる。
細かい差異はあるだろうが、どこか似ている気がする。
『生憎と私は、唯一無二にして孤高な女神だ。そんな訳の分からん害獣と一緒にされても困るな』
と《虚無の巫女》のメノア様が鼻で笑い飛ばした。
女神様はどちらかというと、孤独が適切だと思う。
異界に閉じ込められているし。
『どっちも似たようなもんだろ。私が特別な女神であることには変わりはない。そうだろう……?』
――はいはい。
僕は胸中で適当な相槌を返しておいた。
「――ですが、過去に出現した《星を喰らう獣》には、ある共通点があります」
「なんだろう。気になるね」
こちらの女神の話にも、適当に返事をする。
僕の関心は言葉とは反対だが、耳は向けていた。
それはそうと、エレンはどうなったのかな。
視線を動かす。
エレンは立った状態で止まっていた。
意識はあるのか、会話の内容は聞こえているのか。
分からないが、いまは放っておこう。
「過去、約千年間の間に討伐された《星を喰らう獣》は、三体……そのどれも、理を超越した神の如き能力を所有しており、世界に甚大な災害を齎しました……が、既に管理者の閲覧会により、どの個体も滅ぼされています」
「良かった、ハッピーエンドだ」
『つまらんエンディングだ。折角、生まれた災厄なんだから、もう少し自由に泳がせておけ』
「そうして滅ぼした《星を喰らう獣》の死体を回収し、管理者の閲覧会で身体の構造や能力を解析したところ……実に興味深い事が判明しました」
僕とメノア様の野次には触れない。
無視して結論を言った。
「《星を喰らう獣》が所有していたのは〈神族〉や〈邪神族〉といった種族固有の能力……所謂《権能》であり、その身体には神と同等の星力が流れていたのです」
「同じだ」
『お前とな』
「……そんな彼ら彼女ら《星を喰らう獣》は全員、総じて転生者、または転移者と云われる者達でした」
「僕のことだ」
『偶然にもな』
「つまり――」
と、エリアルは間を置いて。
最後にまとめを口にした。
「異世界から現れる、星の理を破壊する世界の異物《星を喰らう獣》は、転生転移者のなれの果て……それが、管理者の閲覧会が出した結論です。蒙昧な〈勇者〉カインの頭でも、お分かりになりましたか……?」
「いまの僕はノワールだけど……理解はしたよ、うん」
『私はさっぱりだ。何を言っているんだ、この時止め女神は』
僕の中で納得は出来た。
引っかかる点もあるが、それを問うのは後でも良いだろう。
「――なるほどね。だから、君たちは僕を警戒しているんだ。前世はどうあれ、いまの僕は種族が〈邪神族〉で、その上転生者でもある。おまけに《権能》持ちときた……うん、疑う材料としては十分だね」
あはは、と僕は笑う。
これだけの疑惑となる要素が揃っていて、見過ごす方がおかしい。
「……しかも、僕は〈勇者〉カインだった頃の素性を隠して、記憶喪失まで装っていた。まあ、それは君らに盗み聞きされていたからだったんだけど……どうやら、その偽装が裏目に出てしまったらしい」
嘘を重ねた結果、より疑いが深まった。
何か知られたら都合が悪い事実を隠している。
そう勘繰られても仕方ない。
僕としては、盗聴に対する偽装以外の思惑はなかったのだが、それが現状に繋がってしまった。
「一つ聞きたいんだけど、良いかな」
「ええ、構いませんよ。私の好みでも知りたいですか」
「いや別に。それは、どうでもいいよ」
「そうですか……残念です」
エリアルの声が下がる。
気落ちしていた。
教えたかったのかな。
『私は花が好きだ。それも、瑠璃色の』
貴方の好みは聞いていません。
子供のときの夢といい、また可愛らしい。
「私は昔、教団の枢機卿を夢見ていましたね」
「その話題を広げないでいいよ」
カノンの夢は枢機卿。
管理者の閲覧会に所属している現在と関連があるのか――。
「僕が聞きたいのは彼のことだよ」
と、視線で示す。
僕が目をやったのは、停止したまま動かないエレンだ。
彼にはエリアルの《権能》に反発する自力は無かったのだろう。
「君らの話を聞いた感じだと、エレン君……も含めた、歴代の星凱帝の役割は女神の聖杯機の破壊なんだよね?」
「ええ、仰る通り……ですから、私はこうしてエレンさんを執行しにきました」
「……だよね。それと存在意義は違うけど、似たような災害を引き起こす可能性がある《星を喰らう獣》、その疑惑が僕にかかっているから、何か事が起こる前に元凶を消そうとしている」
「はい……まあ、再三言っていますが、管理者の閲覧会は兎も角、私個人としましては無理にノワールさんや、それに裏にいるメノアさんと敵対する意思はありません。私は平和主義の優しい堕天使さんなので」
とは言うが、カノンは碧軌弓トラウディクスの構えを解かない。
その先は、僕に定まっている。
「しかしながら、申し訳ないことに此処で貴方を見過ごすわけにもいかないんですよ。私も第一席からの勅命で来ていますから……あまり、殺しは気が進みませんが、ね」
「……御託は結構ですよ、カノン。もう話すことも無いでしょう? さっさと、星の癌を滅ぼしなさい。貴方には執行をする義務がある」
エリアルが命じる。
話し合いでは解決が不可能なようだ。
どうにか、戦わずに済ませたかったが――。
『やれやれ……随分と上から目線の、偉そうな物言いだな。何様のつもりだ』
普段の貴方がしている言動を鑑みてもらいたい。
だが、ここはその意見に共感しておこう。
「……悪いけど《星を喰らう獣》でもないのに、冤罪で殺されるのは御免かな」
僕は《異空間収納》から、暁灯瑠刀フォルラリスを取り出す。
それを握ると、星力を流した。
「僕も女神様……メノア様に創造された誇りがあるからね。そう簡単には、命を差し出さないよ」
「素直に執行されてもらえたら、私の方から第一席にかけあって、貴方を転生させ、管理者の閲覧会の席に加えるよう手配しましょう」
「それを先に言ってよ」
僕は出したばかりの暁灯瑠刀フォルラリスを床に置いた。
そして両膝をつき、床に座る。
投降を示した。
『おい……誇りとやらはどうした』
ありませんよ、そんなもの。
カノンに執行されたら、女神様からも解放される。
再度、転生をして管理者の閲覧会の一員となる。
こんな好待遇な条件を断るわけがない。
僕を生かすも殺すも、創造主である女神様が好きに出来ると言っていたが、死ねば関係ない。
晴れて、僕は自由の身だ。
「おめでとうございます、ノワールさん」
『ああ、本当におめでたい奴だよ……頭がな』
カノンが笑顔で祝った。
対して、メノア様は冷めている。
『偽善者集団の管理者の閲覧会が、自ら執行を下した罪人を、再び生き返らせる……それも、わざわざ転生をさせてまで……その上、同等の地位を与えるだと……? ありえん話だな』
「確かに〈邪神族〉を転生させるのは容易ではありませんし、他の席次……何より、第一席の了承が得られるかも分かりません。しかし、ノワールさんが管理者の閲覧会にとって有用な存在だと証明が出来れば別ですよ。第一席は、個人の過去や素性より、その者が持つ能力を重要視しますから。現に〈邪神族〉ではありませんが……〈悪魔族〉から転生をして、席に加わった方もいますしね」
そこに〈勇者〉カインの前世がある、僕がいても問題はない、と。
管理者の閲覧会を管理している第一席とやらに承諾されるには、組織にとって使えるかを伝える必要性があるわけだ。
「何か、面倒だな……やっぱり、その提案は無しで」
『ほう……? どうやら愚鈍なお前にも、まだ最低限のまともな判断力は残っていたようだな』
――どうかな。
これは正しい選択とは言えない。
断るということは必然的に、管理者の閲覧会と敵対関係となる。
カノン単体を相手にするのとは訳が違う。
僕個人が組織に狙われる。
『なに、死んだら死んだで私が何度でも改造してやる。好きなだけ殺されろ』
それは、非常にありがたいが――。
不用意に死にたいとは思わない。
命は大切に扱わないと。
『お前が言うと、胡散臭さしか感じないな』
クックック、とメノア様が嗤った。
そうかもしれない。
だけど――。
「転生して管理者の閲覧会になるより、女神様の下痢処理係の方が性に合っているからね」
『……戯言を。自分のケツは自分で拭けるわ』
メノア様が嗤って吐き捨てる。
怪しいものだ。
意外と拭き残しがあるかもしれない。
【次話予告】
ノワールは管理者の閲覧会のカノンと対峙をしている際に、時間を停止させ現れた女神エリアルの口から、世界の異物である《星を喰らう獣》について語られる。
それは数多の星々を繋いでいる女神の聖杯機といわれる機構を、破壊する存在であると知った。
これまでの行動が重なり《星を喰らう獣》の疑惑を深まってしまったノワールは、その場で素直に執行をされるか否かを問われる。
カノンの提案を断ると、ノワールは本格的に管理者の閲覧会と敵対をする選択をしたのだった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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