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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
25/33

第1章 第24話 歴代の星凱帝に課された役割

 僕は基本的に、自身に関する事柄以外はどうでもいい。

 迂闊な言動により、そのせいで他者が命を落とそうが知った事ではなかった。

 依頼者、半ば強引な巻き込まれではあったが、ローズの策謀で当代の星凱帝(せいがいてい)エレンの護衛を引き受ける形となった。

 しかし、それを堅実に遂行する義務はないだろう。

 依頼の報酬も、不透明だ。

 それらを取り決める前に、カノンの襲撃に遭った。


 僕の胸中は、いま揺れている。

 依頼者であるエレンの味方につき、カノンを退ける。

 その場合は、必然的にカノンが所属している組織、管理者の閲覧会(アグレスタ)とも敵対するわけになる。

 些か、面倒なのは間違いない。

 可能なら避けたいところ。

 だったら、ここはエレンを見捨てローズのように《次元歪曲(ディシス)》で去るのが得策か。

 僕は思案しながら、気になった要点を尋ねた。


「何かエレン君が、いや……というより、星凱帝(せいがいてい)が暴走するとかなんとか聞こえたけど……それはどういう意味なのかな」


 少し気にかかった。

 それを教えてもらってから、今後の判断をすればいい。

 僕は警戒をとかない。

 暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを、右手に握りなおす。


「……ああ。そういえば、ノワールさんが転生をする以前の時代は、まだ星凱帝(せいがいてい)はいませんでしたからね……ご存知ないのも当然です」

「転生……?」


 エレンがこちらに視線を向ける。

 口を滑らせたわけではないだろう。

 カノンは、わざと言っている。


「うん、この身体になってから初めて聞いたよ。下痢女神に尋ねても、詳しい事は教えてもらえないし」

「彼女は無知ですからね」

「そうそう。あと、ケチ臭い」

『お前ら、随分と言いたい放題だな』


 僕も素性を、エレンの前で隠し通す気はなかった。

 知られたところで、然程不利益はない。

 相手にもよるが――。

 エレンなら大丈夫だと思う。


「――ならば、その無知無能な女神に代わって、とても優しい堕天使の私が教えて差し上げましょう」

「ありがとう。助かるよ、カノンちゃん」

『私は無能ではない』


 僕が微笑むと。

 ――いえいえ。

 カノンは身体の前で手を振った。

 そして、堕天使は落ち着いた口調で語り出す。


「当代の星凱帝(せいがいてい)、知っての通り彼女、いえ彼……エレンさんが、その地位を継承しています。確か……エレンさんの代で四代目でしたか?」

「……え!? た、多分……そ、そうだと思います……」


 質問をふられたエレンがたじろいだ。

 自信が無さそうに答える。

 何で分からないんだよ。


『三代目じゃなかったか? 多分』


 女神様の記憶力も怪しいもの。

 信用に足る情報にはならない。

 結局、何代目なんだ。

 話し始めて、こんな最初で止まるとは思わなかったのだろう。

 カノンも少し困った顔をしている。


「気にしないで進めていいよ」

「分かりました、では――」


 時間の無駄だ。

 さっさと続きを話してもらいたい。


「四代目(仮)であるエレンさんの現在の年齢は28歳ですが……」

「思ってたより、ババアだった」

『失礼だぞ、ノワール。私と比較すれば、まだまだ赤ちゃんだ』


 それも、そうか。

 僕の中で勝手に、エレンを成人したばかり位の歳かと認識していた。


「……い、いえ……その、言いづらいのですが……」

「ん? なんだい」

「……実は、31……です……」

「……え?」

『ババアじゃないか』


 と、クソババアの女神様が言う。

 その詐称を、カノンは既知だったのかな。


「……31なら、まだいけますね……」


 カノンがぼそりと呟いた。

 ――何が?

 聞かないほうが良いかも。

 スルーしよう。

 というか――。


「エレン君は男だから、ジジイか……未だに間違えそうになるよ」


 当代の星凱帝(せいがいてい)は女性ではない。

 性別は男性、皇子だ。

 慣れないな。

 エレンが、どこか女性的に見えるのも影響している。


『……だが、実際には三十路のジジイか』


 そう言われると、色々と凄いな。

 エレンの知性もだけど、とても三十路を超えた男性には思えない。

 味音痴だし。


『それは、別に良いだろ』


 エレンのような人物を国家の頭に据えるとか、ヴァミリド神教国は大丈夫かな。

 いや、政治を取り仕切っているのは星灯録(せいひろく)教会だから、問題は無いのか。

 星凱帝(せいがいてい)というお飾りをやっていれば、それでいい。

 それ以上の能力は、求められていないのだろう。


『哀れなジジイだよ。同情はしないがな』


 先代の星凱帝(せいがいてい)、ライリーラは違ったのかもしれないが、いまの星凱帝(せいがいてい)エレンは、完全な星灯録(せいひろく)教会の操り人形だ。

 現状、哀れな傀儡としての価値すら危うい。


「ババアでもジジイでもクソビッチでも、好きに呼んでもらって構いません!」

「じゃあ、クソビッチ」

「はい!」

『受け入れるな。素直過ぎるだろ』


 ただ、馬鹿なだけかと。

 エレンには考える頭がない。


『クソビッチは、どこから出て来たんだよ』

「なんで、クソビッチなの?」


 女神様の疑問を、僕が代弁する。

 どうでもいいけど、聞いてあげよう。


「よ、幼少期の頃から女顔だったので……その、何故か男の子から告白をされることが多々あり……高等部のとき、学年の女子を仕切っているリーダー格の女生徒が好意を寄せている男の子から関係を迫われ……どこから耳にしたのか、その女生徒と友人たちから、クソビッチと呼ばれるようになりました」


 話すにつれて、エレンは暗い声音になる。

 あまり思い出したい記憶でなさそうだった。

 無理に追及するのはやめてあげよう。


「そっか大変だったね、クソビッチ」

『……配慮』


 しないよ、そんなこと。

 本人から蔑称で呼ぶ許可は得ているのだから、気にせずとも良いだろう。


「そんな年齢詐欺のクソビッチさんですが、置かれている立場も内包する役割も、彼らにとっては厄介極まりないのですよ」

「だ、だましているつもりはないのですが……ただ、若年に見られがちなだけで……」


 と、エレンが小さい声で返す。

 聞こえてはいるだろうが、カノンは自分の話を続けた。


「初代から星凱帝(せいがいてい)には、ある役割が課されています。それは……存在意義とも言い換えられ、星凱帝(せいがいてい)たらしめる根幹でもあります」

「前置きが長いよ。もう少し、簡潔にお願い」


 僕は言った。

 そんな横やりに、カノンは怒りはせず苦笑い。


「長々と申し訳ありません。私も説明書の内容を抜粋してお伝えしているだけなので……これでも、かなり要約している方なんですがね」


 星凱帝(せいがいてい)の役割が書かれた説明書。

 何だ、それ。

 僕の不思議そうな顔を見て、カノンは――。


「ああ……説明書というのはこれですよ、これ」


 と《異空間収納(ディートファスト)》から、分厚い紙の束を取り出した。

 角がホチキスなどで、とめられているわけでもない。

 何枚位なのかな。

 見た感じだと、A4サイズの紙が30枚程度。

 なかなかの量だ。


「私が重要だと思った箇所だけを持ってきているので、この量で済んでいますが……実際、管理者の閲覧会(アグレスタ)の情報保管室には、あと80枚位の星凱帝(せいがいてい)の説明書がありますよ」


 多過ぎるだろう。

 文字数に換算すると、どうなるのかな。

 考えただけで疲れる。


「そんなに誰が書いたんだよ……」


 読むのも大変だろうけど、説明書を作った者はどういう精神をしているのか。

 僕だったら、途中で飽きる。

 最初の頁で。


『はえーよ』


 興味の度合いによっては、どれだけ作業量があろうが疲れない。

 だけど、限度というものがある。


管理者の閲覧会(アグレスタ)には、規則や秩序に厳粛な方が約一名いらっしゃいましてね。その方が、飽きもせず作ったんですよ……本当に、ご苦労な事です」


 ひらひら、と説明書を振りながらカノンは肩を竦める。

 それから咳払いをして言った。


「えー……あまり長話をするのもあれなので、私の方で適当に省かせてもらいますね」

「助かるよ。お腹空いたし」

『……お前は、食い物のことしか頭にないのか』


 カノンが説明書の頁を捲る。

 そう言われても、ね。

 〈邪神族〉に転生しようが、食欲はある。

 元々、食事は好きな方だ。


『その傍で、現在進行形で命を狙われているクソビッチがいるのを忘れるなよ』


 と、確認をされて僕は視線を向ける。

 それに気付いたエレンの口元が僅かに微笑んだ。

 思ってはいたけど、かなり楽観的な性格だ。

 命を狙われている、いや既に殺されたというのに。


『お前とは別のベクトルで、危機感が欠如しているな』


 ――そうかな。

 僕は自身が被る危険を察知する程度は容易だ。

 笑顔で巻き込まれに行ける。


『なんで、自ら進んで飛び込むんだよ……阿呆か、お前』


 自覚のある阿呆ですよ。

 以前、そう女神様が仰っていました。


『……ああ、そうだったな。お前が欠如しているのは、倫理観だったよ』


 誉め言葉として受け取っておきます。

 カノンは目当ての頁を見付けたのか口を開いた。


「えっ……星凱帝(せいがいてい)は異世界と異世界、即ち星の境界に存在する神々が創りし機構、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)の核を穿つ為に〈竜種〉ミネルヴァにより創られた、星の代行者になりえる存在である……だそうです。何を言ってるのか、分かりました……?」

「分かんない」

『ウサギさんが、ぴょんぴょん』


 それは、ミネルヴァだろう。

 バニーガールと星凱帝(せいがいてい)は関係ない。

 難しい話に、メノア様は思考を放棄していた。


「――ですよね。説明している私も、さっぱりです。いまので分かったのなら、貴方は天才です」


『太古の昔、神々が聖戦で傷付いた数多の星に、恒久的に星力(メリス)を供給する為に、星の支配者である〈竜種〉に協力を仰ぎ協同で創ったのが、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)だ。あの機構は、数千年経った今でも稼働し続けている。全ては星の源たるエネルギー、星力(メリス)を平等に分け与える為に……なるほどな、それを壊す目的で創られたのが、星凱帝(せいがいてい)というわけか、馬鹿な事を考えるものだ。女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)は星の生命維持装置のよう代物だ。最悪、女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)と繋がった全ての星が滅びるぞ』


 天才だとカノンに揶揄されたからか。

 メノア様が饒舌に喋る。

 こちらは全然、なるほどではない。

 かろうじて理解したのは、何故か創った側と壊す側、その両方にミネルヴァが関わっているといったこと。

 カノンの表情を伺う。


「へー……そうなんですね」


 と、メノア様の声が聞こえている彼は呆けた顔をしていた。

 ――良かった。

 付いていけてないのは、僕だけではなかった。

 エレンは。


「ぼ、僕のお母さんとお父さんは人間です! ドラゴンじゃありません!」


 うん、平常運転かな。

 安心した。


「――待ち合わせ時間を過ぎても来ないから、様子を見に来てみれば……なにを、しているのですかカノン」


 そのときだった。

 僕は身体が硬直する。

 否、停止する。

 瞬きができない。

 手足が動かなかった。

 呼吸はしているのか。

 心臓が動いているのかも分からない。

 動作、それを完全に封じられた。


 何をされたのだろう。

 僕が開いたまま止まった目で部屋を見渡す。

 そして分かった。

 同様にエレンと、それからカノンも動きが止まっている。

 停止しているのは、人物だけではなかった。

 客室の壁にかけられた時計、その針が17時から進まない。

 この空間全体の時間が、現在で固まっている。


「今日は貴方の仕事が休みだから、精霊の楽園(ディラネス)の観光をする約束だったでしょう? なのに――」


 と、その女性の声が虚空から部屋に響き渡る。

 気配はしない。

 魔力も感じない。

 しかし、包み込むような優しい声音に、確かな重みを感じさせている。


「いつまで、こんな無価値な愚物たちに構っているのですか……おかげで、私はとってもお腹が空いてしまいました」

「気が合うね、僕もだよ。さっきから、腹ペコだ」


 時間が止まった、いや止められた部屋で――。

 僕は変わらず口を動かした。


「これも何かの縁だ。何なら、一緒にご飯にしない? おすすめのお店を知っているんだ」

「……驚きましたね。私の《権能》の中で動けるとは……」


 それは少しばかりの驚愕を見せる。

 続けて得心がいったように告げた。


「……ああ、なるほど。貴方が噂の〈邪神族〉ノワールに転生をした、神殺しの元〈勇者〉(かい)ですか……まさか、貴方もこの場に同席していたとは思いませんでしたよ。これも、運命の巡り合わせでしょうか」

「噂? そんなに僕は有名人なのかな……何か、気恥ずかしいな。悪い噂じゃないと良いけど……」


 ――ふふ。

 虚空から女性の笑い声が聞こえた。

 《権能》持ちなら、女神かな。

 察するにカノンが信仰している女神、エリアルだろう。

 デートがどうのと言っていたし。


「悪い噂というと、貴方が過去に女神と同衾をした話でしょうか」

「どの女神のことだろ……」

『何で心当たりがあるんだよ』


 転生前の記憶は曖昧なんだよね。

 都合の悪い出来事ほど忘れている。

【次話予告】

ノワールは碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスで殺されたエレンを《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》で蘇生させた。

生き返ったエレンを再び殺そうとするカノン、蜂蜜パンという甘い誘惑をされノワールの胸中は揺れ動いた。

歴代の星凱帝(せいがいてい)に課された役割をカノンの口から説明してもらっていたとき、時間の停止と共に響いたのは、彼が信仰する女神、エリアルの声だった。

カノンを迎えに来たその女神は、億劫そうに神の審判を下す。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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