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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
24/32

第1章 第23話 死者を蘇らす神の御業

 僕は暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを持った状態で、エレンの元に歩み寄る。

 既に、カノンの碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスによって、頭部が異次元に飛ばされ骸となってしまったエレンは、しかしまだ完全には死んでいない。

 正確には、魂が滅んでいない。

 エレン本人は、不可視の矢で射抜かれた事にさえ気付かないまま、意識が切れただろう。

 殺された認識すら無いかもしれない。

 胴体だけとなったエレンは、確かに無残な有り様ではあるが――。


 それは所詮、生命の器となる肉体が破損しただけのこと。

 中身、根幹を成す魂が無事なら、蘇生は可能である。

 碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスが放つ、不可視の矢。

 常人からすると、確実な凶器だ。

 しかしながら、その長弓には魂に干渉する能力はないらしい。

 強力なのは、視覚に対する認識を惑わすことだけ。

 それも、熟練の手練れなら戦闘中に慣れるかもしれない。

 言うなれば、簡単な初見殺しだった。


「《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》」


 僕は最上級《回復魔法》《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》を使う。

 これは複数ある《回復魔法》の中でも、その最も強力な効果を発揮する術式だ。

 たとえ、四肢が千切れた身体だとしても、大病を患った余命僅かな患者だろうと関係はない。

 どんな重傷も完治させる。

 まさに、神の如き御業だ。


『魂を滅ぼされたら《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》でも、どうにもならんけどな』


 《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》で治せるのは外側の部分、肉体だ。

 魂を治癒することはかなわない。


『親切な事に、カノンちゃんは愚鈍皇子の魂は滅ぼさなかったようだな。実にお優しいことだ』

「……あはは、私は平和主義者ですので、無用な殺傷はしないのですよ」


 カノンが薄い笑みを張り付けて言った。

 彼の思想が何だろうと自由だが、そのおかげで幸いにもエレンを生き返らせられる。

 最初から、エレンを抹殺する気は無かったのかな。

 と、そこまで考えて僕は察する。

 僕と女神様に、転生と記憶に関する確認を取るのに、その会話の内容を部外者であるエレンに聞かれないようにしたのだろう。


『その腐れ狂信者に、そんな親切心があるとも思えんがな』


 ――どうだろうね。

 意外と優しい人かもよ。

 僕は《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》を構築した右掌を、エレンの亡骸に向ける。

 チラッ、とカノンの様子を見ると彼は微笑んでいた。


「私はとても優しいので、邪魔はいたしませんよ。お好きにどうぞ」

「ありがとう、優しい堕天使さん」


 僕は笑みを返してお礼をする。

 それから《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》で治癒をした。

 言葉通り、どうやらカノンに阻害する意思はないようで。

 こちらを笑顔で黙って見ている。

 エレンは、客観的に見ると酷い重傷だ。


 だが《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》にかかれば、その治癒は一瞬だった。

 術式が発動すると、魔力の粒子が右掌に集まる。

 漆黒の色彩だ。

 それは、僕の体内に巡る魔力。

 人によって、種族によって魔力の色彩は異なる。


『汚い色だな。お前の魔力は』


 そう言う女神様は、何色ですか。

 〈神族〉なら、綺麗な色彩なのかな。

 白色とか。


『……灰色だ』


 何か微妙。

 黒でも白でもない。

 反応が難しいな。


「人それぞれ……皆違って皆良い、ですよね」

「私も、そう思います」

『そんな平凡なコメントはいらん』


 僕の感想に、カノンには同感を示してもらえたが、女神様には不評だった。

 掌に集った漆黒の魔力が、エレンの失われた頭部に流れる。

 そして、元あった頭の形を模るように粒子の群は丸みを帯びていった。

 直後、光が弾けると――。

 漆黒の粒子は中空に消え去り、エレンの頭部は元通りに治っていた。


『ずっと、思ってはいたが……なんで、この愚鈍皇子は立ったまま死んでいたんだ』


 僕もそれは思った。

 言わなかっただけで。

 エレンは碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスで殺されてから、直立した状態で止まっていた。

 多分、あまりにも瞬間的な出来事だったから、彼の脳が追い付いていなかったのかなと思う。


『味音痴な上に、鈍そうだしな。寝ている間、顔に落書きをされても気付かなさそうだ』


 良い悪戯を思いついたとばかりに、メノア様は含み笑いをする。

 これは、いつか犯りそう。


「――んっ……」


 と、エレンの瞼が震える。

 彼の彗星のように美しい蒼い双眸が開いた。

 どこか重たそうに目を開き、そして――。

 ぱちぱち、と瞬き。

 視界が安定してきたのか、その焦点が合う。

 死んで生き返っても、恰好は変わらない。

 外套で顔貌は見えなかった。

 かろうじて、視線が分かる。

 エレンは緩慢に唇を動かした。


「……えっと……一体、何が……」


 状況が分からない。

 そんな様子。

 記憶が曖昧なのかもしれない。

 何を喋って良いのか、上手に言葉が出ていなかった。

 言いたい事があるのだろうが、僅かに唇が震えるだけで発声はしなかった。

 僕は率直に教えてあげる。


「君は死んだんだよ……うん、それはもう瞬殺だった。あまりにも、あっけなかった」

『――それに、情けなかった。その後の死に様も含めてな』


 と、メノア様が付け足す。

 エレンが喋る前に、僕は指をさした。


「彼、カノンちゃんが君を殺した優しい殺人犯だよ」

「やあ、ごきげんよう。それと、さっきぶりですね。無事に生き返ったようで何よりです」

『どの口が言っているんだ』

「……え……え!? ど、とういうこと……」


 エレンの瞳が、室内にいる二人を見つめる。

 貴方は死にました、といきなり告げられても大抵の人は理解出来ないだろう。

 困惑するのは当然の反応だ。

 しかも、それを行った犯人が同じ空間にいて、笑顔で話しかけてきた。


「紹介に預かった、エレンさんを一度殺して差し上げた、優しい〈堕天使族〉のカノンと申します。たん、以外なら……さんでも、ちゃんでも好きにお呼び下さい」


 ニコッ、とカノンが爽やかな笑みで挨拶する。

 そこに敵意や殺意は感じられない。

 友好的な王子様の微笑み。

 自分を殺した張本人でなければ、その笑みに応じただろう。

 ――しかし。

 エレンは僅かに後ずさる。


「カ、カノン……さ」

「ちゃん」

「……カノン……ちゃんさんは……その、管理者の閲覧会(アグレスタ)ですよね……?」


 エレンはおずおずと尋ねる。

 目を合わせるのが怖いのだろう。

 彼の視線は床に向いていた。


「……ええ、私は管理者の閲覧会(アグレスタ)に列席する、第四席ですね。《碧落(へきらく)》という異名は、あまり好みではないのですが……第一席が、管理者の閲覧会(アグレスタ)創設の際に、勝手に名付けただけですし」


 カノンは、もう戦う意思が無いのか。

 手に持っていた碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスをしまう。

 《異空間収納(ディートファスト)》に収めた。


「つい先程、貴方を殺した私が言うのも信憑性が皆無ですが……エレンさん、貴方に危害を加えるつもりはありませんよ」

『本当に信憑性の欠片もない発言だな。流石は聖人面した偽善者集団、管理者の閲覧会(アグレスタ)だ』


 カノンが爽やかな笑みを湛え手を差し出す。

 しかし、それで信用されるわけもない。

 エレンは、また一歩下がった。


「ぼ、僕はモニカさんが、何処の誰とお付き合いをしようと、口出しする気はありません!!!」

「……はい?」


 手を出した体勢で、カノンは固まり首を傾げる。

 何を言うのかと覚えば、出てきたのはモニカの名前。

 そういえば、発端は不貞の証拠だったね。

 ライリーラの魂は、一旦置いておこう。

 ここで、僕が口を挟むと変に話が絡まりそう。


「恋愛は自由にすれば良いと思います!」

『私もそう思います』

「たとえ、相手が身分の違う出自でも――」

『うんうん』

「無差別に人々を虐殺したテロリストでも――」

『うんう……ん?』

「奥さんのいる男性を寝取って、薬漬けにしても良いじゃありませんか!」

『……いや、駄目だろ。イカレてんのか』


 途中までは頷いていたメノア様が、冷静に否定する。

 意外だね。

 薬漬け位、許容するものかと。


『私をなんだと思っている』


 人を玩具としか見ていない糞女神。

 僕は言ってやった。


『性悪、も付け加えておけ』


 そうですね。

 忘れていました。

 性悪な糞女神、これで良いですか。


『ああ、その方が可愛げがある』


 そうかな。

 女神様の感性は分からない。


「私なら薬漬けにする前に、まずは《魔法》で精神を壊してから、まともな思考が出来ないように洗脳を施し、肉体を薬物で犯しますね……それから、徐々に正気を失う様を観察します」

『お前は、本物のイカレ野郎』


 ――奇遇かな。

 僕とカノンは気が合いそうだ。


『シンパシーを感じるな。気持ち悪い』


 ――おや?

 その合言葉は、もう不要では。


『これは、飾り気のない本心から出た言葉だよ』


 酷いな。

 そんな誹謗を言われたのは、いつ以来だろう。


『これから先も、機会があったら言ってやるよ』


 メノア様が嗤う。

 楽しみにしておきます。


「――しかし、貴方はそんな簡単には精神を壊せなさそうだ。腐っても、星凱帝(せいがいてい)を数百年に渡り務めていただけのことはありますね、ライリーラさん」


 と、カノン。

 その目が向けられているのは、エレンの内側にいるだろう先代の星凱帝(せいがいてい)、ライリーラだった。


「知ってたんだ」

「ええ」


 カノンが首肯する。

 冷めた眼差しが、エレンの中を隅々まで探っている。


「私がエリアル様とのデートをする前に、わざわざ此処に立ち寄ったのは、ノワールさんに確認をするのが目的でもありましたが……」


 一瞬、僕に視線をやったカノンは――。

 しかし、再びエレンを見据える。


「本命はエレンさん、貴方……の中にある、ヴァミリド神教国の先代の星凱帝(せいがいてい)、ライリーラの魂を滅ぼすこと」


 そう語るカノンの声音に感情はなかった。

 淡々とした事務的な感じである。


「それは、管理者の閲覧会(アグレスタ)で決議された事項……貴方に拒否権はありません」


 と、カノンは再度《異空間収納(ディートファスト)》から、碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスを取り出す。

 それが、エレンに向けられた。


「ま、待って下さいっ! 私は――」


 エレンは声を張りながら後ずさる。

 だが、それ以上は下がれない。

 彼の背中に窓枠の冷たい感触。

 エレンも逃げ場が限られているのが分かっているのだろう。

 拳を握りしめ、どうにか生き残る道を見つけ出そうとしている。

 そして、覚悟を決めたのか決然と口を開いた。


「私は――」

「暴走はしない、とでも?」

「――ッ」


 エレンの弁論を、だがカノンが遮る。

 それは、的を得た発言だったようで。


「貴方の個人的な判断など、信じるに値しませんね。ええ、どこぞの下痢女神の戯言と同様に」

『言われてるぞ、ノワール』


 いや、貴方の事ですよ。

 僕は邪神です。

 下痢もしていません。


「いまの貴方が暴走せずとも、未来でどうなるかは分からない。もしかしたら、未来の世界で貴方は世界に甚大な災害を齎すかもしれません……そしたら、ノワールさんが大好きな蜂蜜をいっぱい塗ったパンも、食べられない世界になるかもしれないですよ」

「それは、大変だ」

「――でしょう?」

「よし、エレン君を殺そう」

『懐柔されるな、糞野郎』


 これは合理的な判断だ。

 蜂蜜パンを失う世界なら、エレンを見殺しにする。

 特に義理も思い入れだって無いしね。

【次話予告】

ノワールは客室に奇襲をしてきた管理者の閲覧会(アグレスタ)の第四席、カノンに演技をしている事に関しての確認をされた。

そして、メノアとの合言葉を明かすと、最上級《回復魔法》である《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》を使い、殺されたエレンを蘇らせる。

生き返ったエレンは自分の身に何があったのか、状況を理解しきれずにおり、それでも生き残る為にカノンと言葉の応酬をする。

カノンが語ったのは、この世界レネイストにおける歴代の星凱帝(せいがいてい)の役割であった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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