表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
23/32

第1章 第22話 女神と邪神の合言葉

 カノンが握る碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスから、不可視の矢が射出される。

 彼の斬られた右手は治っていない。

 片手しかない状態だ。

 しかし、カノンはそんな不憫を微塵も感じさせず動作を行った。

 別に碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスは、手を使わずとも射出が実行されるのだろう。

 使い手の思考と、魔力で繋がっているとみえる。

 カノン本人が、撃つのを念じるとそれが碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスに伝わるようだ。


『――なら、それと似たように私が思えば、お前は思い通りに行動するわけだな……よし、その場で全裸になり奇天烈な踊りを披露しろ』


 残念ながら、僕は都合の良い道具ではないので。

 そんな、ふざけた命令は聞きませんよ。


『……やれやれ、本当に使い勝手の悪い玩具だよ、お前は』

「この後、エリアル様とのデートかありますので、早急に終わらせましょう」


 と、カノンが高らかに告げる。

 不可視の矢が、眼前に迫った。

 やはり、視覚では矢は認識出来なかった。

 だが、僕は何かを斬るように、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを横に振った。

 何も無い彼我の中空に、粒子が散る。

 不可視の矢を、僕は斬っていた。


「おやおや……貴方は目が良いんですね」


 カノンは僅かに驚き笑う。

 後方、僕の背後に目をやって――。


「そこの皇子とは大違いだ」


 カノンが断続的に追撃をする。


 ――と。

 弦から射出された、数瞬後。

 矢が中空で分裂した。

 数は50を超える。

 そんな暴れ雨の如き矢が、僕に降り注いだ。


 放たれ分かれた矢、その全てに同様の効果が付与されている。

 一本でも当たってしまえば、僕は異次元に行ってしまう。

 客室は狭い。

 カノンが乱入する際の暴風で、室内の家具などが壊れたとはいえ、そこまでの広さはない。

 あまり自由に動けるスペースはなかった。

 窓から逃げるのも難しいだろう。

 それを、カノンが見過ごすとも思えないし。

 本当に外に出られるかも分からない。


 この客室までの階段は《次元歪曲(ディシス)》により、歪められていた。

 いま、現在地が神都アリオンの何処に位置するのかも不明だ。

 或いは、まるで知らない土地かもしれない。

 出られたとして、そのあとが問題となる。


 ――なら。

 と、僕は暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスに星力(メリス)を流した。


「《更待月(ふけまちづき)》――《蜃滅幻(しんめつきょう)》」


 暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを持った右手が霞む。

 瞬間、全ての不可視の矢が粒子にされ滅された。

 それは幻影の斬撃《蜃滅幻(しんめつきょう)》。


暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスにある本領、その秘技である《開闢(かいびゃく)》の一つか』


 僕が使っている大太刀、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスには全部で、14の《開闢(かいびゃく)》がある。

 《開闢(かいびゃく)》とは、それ即ち暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを覚醒させる、秘技のこと。

 そのうちの一つとなるのが《更待月(ふけまちづき)》――《蜃滅幻(しんめつきょう)》。

 目には見えない幻の斬撃だ。


『《開闢(かいびゃく)》は強力な反面、星力(メリス)の消耗が激しい筈だが……』


 暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスの性能を完全に発揮させるには、魔力では意味がない。

 魔道具ではないからである。

 この大太刀は、星力(メリス)を使わなければいけない。

 現にいまの《開闢(かいびゃく)》により、僕の体内に残存する星力(メリス)が明らかに減った。


『澄ました顔をしているが、内心辛いんだろう?』


 と、メノア様が問いかける。

 気遣う言い方だが、僕には挑発にしか聞こえない。

 この程度なら、何も問題はありませんよ。

 僕、ノワールの身体が女神様のお手製なので。

 耐久と体力には自信があります。


『クックック、それはなによりだ。〈魔女〉の鞭打ちにも耐えられる性能に創った甲斐があったな』


 ――待て。

 なんだ、その理由は。

 僕の身体は、女神様の趣味と嗜好によるものではなかったのか。


『無論、それもあるが……この先の未来で起こりうる、ありとあらゆる可能性を想定して、お前の身体を創造した』


 その未来に考えられるのが〈魔女〉の鞭打ち。

 限定過ぎる出来事なうえに、あまりにも曲解な可能性な気がする。


『気に留めるな。仮の話だ』


 そうならないよう願おう。

 異界から嫌な微笑が聞こえた。


「流石は元〈勇者〉。この位では仕留められませんか……」

「何の話かな。僕はノワールだよ。恥ずかしいから、種族は秘密ね」


 ――スッ。

 と、カノンの蒼い双眸がこちらを見据える。

 そして言った。


「貴方は本当に分かっていないのですか?」


 ――それとも。

 カノンが冷徹な眼差しで、僕の胸中を射抜いた。


「転生前の記憶があるというのに、記憶喪失のフリをして〈邪神族〉ノワールとして振舞っている」

「僕がそんなに演技派な人物に見えるのかな。そんなことが出来るなら、女神の玩具なんてつまらない仕事はやめて、俳優にでも転職するよ」

『私が子供のときに抱いていた将来なりたかった職業は、お花屋さんだ』


 そうですか。

 また、随分と可愛らしい。

 とても、お似合いだと思います。

 僕も花は好きですよ。

 というより、植物全般に関心があります。

 生命が朽ちる様子が、目に見えて分かり易いので、観察していて愉しい。


『クソみたいに、歪んだ感性だな』


 どうでしょう。

 僕は、そう思いません。

 人が桜など、綺麗な木々や植物を見て、感動を覚えるのと同じように、僕は生命の生涯を見届ける過程を愉しんでいるだけですよ。

 何も、おかしな感情ではありません。


『性根の腐った私も大概だが、お前の曲がった感性は死んでも治らんな……ああ、本当に治療のしようがないよ』


 メノア様の声音には諦めがあった。

 女神様が仰っていたように、僕は自我が強いらしいので。


『……だからこそ、元転移者の〈勇者〉から〈邪神族〉に転生するなんていう、本来なら不可能な所業が成功したわけだ』


 あれ、その事実はもう公言してもいいんですか。

 気を遣って、折角これまで知らない態度を取っていたのに。

 〈邪神族〉ノワールも、なかなかに愉快な役なので愉しめていましたよ。


『その無機質な感想は、私たちの会話をずっと盗聴している、その王子崩れの狂信者にでも言ってやれ』

「――おや、やはり私に聞かれている事に気付かれていたのですね」


 カノンが笑う。

 表情は変えず、僕は淡々と言った。


「うん……僕がメノア様に殺されて、異世界レネイストに〈邪神族〉として、転生したときから現在に至るまで、ずっと会話を聞いていたんでしょ……?」


 それに感付いたのは、転生をする前――。

 異界で女神様と、話しをしているとき。

 だけど、僕たちは気にせず会話を続けた。


「どうだった? 聞いてて楽しかったかな。何か有意義な情報でも得られたかい」

「心底、盗み聞きする価値のない、無駄な会話でしかありませんでしたよ。ええ、本当にね……」

『はてさて、どれのことを言っているのか……無駄話には心当たりが多過ぎるな』


 そんな、異界にいるメノア様の声が聞こえているのだろう。

 カノンの表情が乾いた笑みに変わる。

 無駄話というと――。

 女神様の部屋が汚いこと。

 絶賛、下痢気味だということ。

 〈竜種〉ミネルヴァが最近、バニーガールのバイトを始めて、それから――。


「……もう、結構ですよ。全部、聞いた事のある話なので」


 と、カノンが止める。

 どこか、うんざりした様子が滲み出ていた。


「……そう? 残念だな。まだ、色々とあったんだけど……メノア様の糞が、バナナの形だった事とか」

「何ですか、その話は……」

『私が今朝出した糞に関して、そこまで詳細には言ってないだろ』


 そうだったかな。

 僕の記憶違いか。


「……いや、これは失敬。耳を汚してしまって、ごめんね」


 僕は軽い謝罪をする。

 それから、冷めた声で続けた。


「カノン君? さん?……は、どうしたいのかな。もしも、万に一つの可能性だけど、僕の前世が〈勇者〉で、何らかの理由で〈邪神族〉に転生をした。それも偶然な出来事と偽った、意図的な転生で」


 客室の内装、置かれていた家具はあらかた壊れてしまっている。

 しかし、手前側のソファーはかろうじて無事だった。

 その背もたれの裏面に、僕は寄りかかる。

 手に持った暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを弄びながら、カノンと向き合い話をした。


「君でも、さんでも……なんなら、ちゃんでも構いませんよ。好きに呼んでもらって結構です」

『じゃあ、カノンたん』

「それはやめて頂きたい。何か、馬鹿っぽいので」

『好きにしろって言っただろう……』


 と、メノア様が不満げにぼやいた。

 カノンにも、許容範囲があるのだろう。

 たん、を付けられるのは僕だって嫌かもしれない。

 これといって明確な表現は言葉にできないのだが、とりあえず何か嫌悪感がある。


「なら、カノンちゃん」

「はい」

『……それは良いのか。基準が分からん奴だな』


 僕が改めて名前を呼ぶと、カノンが笑顔で応えた。

 今後は、ちゃん付けで行かせてもらおう。


「メノア様のはからいで〈邪神族〉ノワールに転生をした僕が、実は前世の記憶を、つまりは〈勇者〉であった頃の記憶を持った状態で、しかしそれを忘れたフリをしていた、と……カノンちゃんは、そう思っているのかな」


 すると、カノンは――。

 碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスを手に緩慢に頷いた。


「ええ……その上でずっと女神の戯れで、異世界に〈邪神族〉として転生をした、無知な人物を演じていた……私に行動や言動を監視されているのが、分かっていたから」


 そして、僕を直線上に見つめて。

 否、僕と意識が繋がっている女神に向けて告げる。


「……勿論、メノアさんはそれを全て承知でしたよね? ノワールさんの前世、(かい)という人間を殺したのも適当な理由ではない。最初から〈邪神族〉に転生をさせる為の、計画された所業だった。単なる女神の暇潰し……などではありませんよ」

『――だったら、どうする? そいつを、ノワールを殺すか? 確かに、管理者の閲覧会(アグレスタ)の規定に基づけば、ノワールは紛れもない世界の異物だ。管理者の閲覧会(アグレスタ)は、異世界を調整する秩序の番人として、その間違いを正す必要があるな』


 そう朗々と言い返すメノア様は、笑いながら喋っていた。

 管理者の閲覧会(アグレスタ)が、僕を執行するのは不可能だと馬鹿にしている。

 物騒な話になってきたな。

 僕は世界の異物らしい。

 だけど、執行されるのは怖いし嫌だ。

 どうにか、許してはもらえないだろうか。

 僕は、まだ何も悪い行いはしてないんだからさ。


『宿屋の器物破損』


 それは僕の責任ではないと思う。

 セラスが悪い。

 こちらは無実だ。

 問い詰められたら、知らなかったと言って通そう。

 知らなかった。

 記憶にない。

 うん、良い言葉だよね。

 僕が大好きな単語だ。


『それで済むなら、管理者の閲覧会(アグレスタ)はいらない』


 なら、解体しましょう。

 そんな組織、不要ですよ。


「……一つ、聞いてもよろしいでしょうか」


 カノンが人差し指を立てる。

 視線はエレンに向けられていた。


「何かな? 答えられることなら言うよ」


 僕はソファーの縁に乗っかる。

 足をぶらぶらとさせながら返答した。


「これは質問というより、確認になりますが……貴方の前世は〈勇者〉、それも神殺しの大罪を犯した、元転移者の〈勇者〉(かい)。当時はカインと名乗っていたようですが……そんな貴方の身に何があったのか、死に至る出来事を経て、女神メノアの手により〈邪神族〉に転生をした」


 僕は途中で口を挟まない。

 静かにカノンの話を聞いていた。


「そうして意図的な転生を偶然の産物だと装った貴方たちは、まるでお互い初対面のように振舞い接していた……何故なら、私に盗聴されていると気付いていたから」


 ――しかし。

 と、カノンが怪訝に問いかける。


「……不思議なのは、何故女神メノアはノワールさんに、前世の記憶が残っていると分かったのでしょう。元〈勇者〉とはいえ、所詮は人の身。それを無理矢理、神の力で〈邪神族〉に転生させるなど、あまりにも危険な行為です。最悪、魂諸共滅んでいたでしょう」


 ――怖いな。

 そんな末路になっていたかと想像すると寒気がする。

 転生が成功して良かった。

 自我の強さに、万歳。


『万歳!』

「一般的な転生でさえ、前世の記憶が残らないのが殆ど……いえ、寧ろ記憶を残したまま生まれ変わる事例の方が稀です。だというのに何故、ノワールさんに記憶があると確信していたのですか?」


 それがカノンの疑問らしい。

 ――良かった。

 凄い難しい専門的な回答を要求されないか、ひやひやしていたけど。

 それに関する事なら答えられる。


「合言葉だよ」

「……合言葉?」


 カノンが眉を寄せた。

 ゆったりとソファーの縁から下りると僕は言った。


「転生をする前に、メノア様と合言葉を決めていたんだ。〈邪神族〉に転生をした後、記憶と意識がはっきりしているかどうか……その確認をする為にもね」

『ああ、私は別に必要無いと思ったんだがな。しかし、過去の実験の結果からしても、転生をした後に副作用が起こる可能性もあったからな。定期的に、事前に決めた合言葉を口にするよう、ノワールと約束していた』


 カノンが興味深そうに片眉を上げる。

 異世界レネイストに転生をしたのは、今朝のことの筈なのに、どこか懐かしさがあった。

 まだ、半日しか経っていないのにね。

 僕と女神様、二人の間だけで通じる合言葉。

 それを僕が口にする。


「気持ち悪い」


 他人が聞けば、ただの暴言でしかない。

 そんな言葉を僕は、異界で女神様の姿を目にした瞬間に言った。

 あれが、最初の確認だ。

 記憶と意識が残っているのか。

 下界に行った後も、僕は定期的に言っていた。


 転生の副作用は、時間の経過で発症する場合もある。

 そうなると意識が混濁して、暴走を起こすかもしれない。

 実際、女神様が過去に行った実験では、そうなった事例もあったと前に聞いた。

 だから、僕は意識がはっきりしているのを示す目的で。


「気持ち悪い、その合言葉で確認を取っていたんだよ」

『そのせいで私の繊細な心は、深い傷を負ったがな……』


 知らないな。

 女神様の精神状態なんて、どうでもいい。

【次話予告】

ノワールは『竜脈の畔』の客室にて、管理者の閲覧会(アグレスタ)の刺客、カノンと対峙をする。

彼が扱う得物、碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスから放たれる不可視の矢を、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスの秘技である《開闢(かいびゃく)》で切り伏せる。

その技を見たカノンは〈邪神族〉ノワールと女神メノアが、演技をしている事を見抜いた。

合言葉を教えたノワールは、星凱帝エレンを《魔法》で蘇生させたのだった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ