表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
22/32

第1章 第21話 異次元に飛ばす長弓

本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。

今朝がたに確認をしたところ、本作の週別ユニークユーザー様が100人を超えていました。

とはいえ、多少の前後はあるでしょうし、何より安定しない数字ではあると思いますが、それでも読んでいただいた皆様、ありがとうございます。

これからも読んでいただけると嬉しいです。

 異世界レネイストに存在する種族で、最上位である〈神族〉や〈竜種〉に追随する上位種族がいる。

 中でも〈天使族〉は神々が住まう異界、神界の遣いとされるが、魂が堕ちたそれは稀に変質する。

 聖なる神の信徒でありながら、悪しき狂人な暴徒。

 清浄で潔白な神界から、永久的に追放をされた罪人。

 それが〈堕天使族〉だ。

 金色のマッシュショートヘアーを雅やかだった。

 カノンの頭頂に乗るのは、王冠だ。


 顔の造形美が人外だった。

 背に生えた翼は、本来は白色だったのだろう。

 しかしながら〈堕天使族〉に堕ちた弊害により、その片翼が変色している。

 白と黒の色合い。

 天使とは異なる、また別種の美麗さだ。

 絵に描いた王子様のような容貌である。

 爽やかな柔らかい笑顔を湛え、演出服のような純白のフロックコートを着こなし、赤いマントを羽織っていた。

 そんな彼が右手に持っていたのは3mの長弓だ。


『――碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクス、それが放つ矢に射抜かれたが最後、次元の彼方にさよならだ』


 ――怖いな。

 異世界に転生した初日に、お別れの挨拶をするのは避けたい。


『そう不安がるな。セラスの時と同様に、当たらなければ良い話だ。まあ〈葬白蝶(そうしちょう)フュラネル〉とは違って、碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスは掠ったら、即座に別次元に飛ばされるが……』


 つまり、多少の自傷を覚悟しての戦闘は辞めた方が良いね。

 セラスと戦った際は、少しばかりの星力(メリス)を葬られるのを考慮した上で傷を負ったけど。

 碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスは、そうはいかないようである。

 僅かな掠り傷でも、アウト。

 無傷で反撃しなければならない。


『どこかも分からない異世界に、飛ばされたいのなら別だ。レネイストに帰ってこられる保証は無いがな』


 そんな展開も面白そうだ、とメノア様が嗤う。

 勘弁してもらいたい。


「……ぼ、僕は無実ですっ!」

「はい……?」


 と、エレンが立ち上がり言った。

 怯えながら声を震わせ主張する。


「モニカさんの不貞の証拠なんて、これっぽっちも知りません!」


 自分は例の件とは無関係だと。

 そう、賢明に伝える。

 しかし――。


「私は同僚と言っただけで、名前は公言していませんよ。何故、モニカさんの事だと思ったんですか?」

「…………あ……」

『やっぱり、阿呆だなこいつ。流石は教会の操り人形だ。いや、いまは人形ですらないのか』


 ――クックック。

 メノア様が皇子の知能を哀れむよう嘲笑った。


「……すまないね。この皇子は味音痴な上に、壊滅的なまでに頭が終わっているんだ。あまり、責めないあげてよ」

「ロ、ローズさん!?」


 カノンを剣呑に見据えながら、口調は穏やかに言う。

 後ろでエレンが抗議の声を上げるが、それを無視して続けた。


「私はただの立会人だ。この二人とも……君らの件とも無関係な部外者」


 ――だから。

 と、ローズがこちらを横目に一瞥。

 カノンと向き合い交渉をした。


「彼らの命をどうこうしようが自由だけど……私は見逃してもらえないかな。君も無駄な手間を増やすのは面倒だろう?」


 エレンが目を見開いた。

 味方だと思っていた人物に、たったいま売られたわけだ。

 その反応は自然なもの。


『お前もな』


 ――確かに。

 何気に僕も売られる対象に入っている。

 どうやらローズは、僕らを切り捨てる選択をしたらしい。

 ――いや。

 僕は思い直す。

 わざわざ、エレンとの邂逅まで演出をしておいて、そんな簡単に反故にするものかな。

 この状況は想定外なのかもしれないけど、それでも違和感がある。


「そうですね……私も暇ではありませんので。エリアル様の崇高なる教義を世界に布教する為にも、いつまでも執行にかまけてはいられません」


 カノンは演説をするように流れる口調で言った。

 知らない〈神族〉の名前だ。

 知識にもない。


『私も知らん。誰だ、それ』


 貴方でも分からないなら、誰にも分からない。

 〈神族〉ではないのかな。


「ですので――」


 と、カノンは。

 右手に携えた長弓、碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスを構える。


「愚鈍な皇子には、早々に舞台から退場してもらいましょう」


 碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスが、エレンを捉える。

 カノンが細い腕で、その弦を軽々と引いた。

 彼は矢を持たない。

 だというのに、だ。

 カノンは矢があるのように、弦を引いてみせたのだった。


 弓がしなり、弦が軋む。

 不可視の矢が、エレンに射出された。

 視覚に矢は視認出来ない。

 放たれたそれは、僕の身体を横切り、そして――。


 数瞬遅れて、凄絶な破裂音が響いた。

 顔を後ろにやると、そこには首から上が消失したエレンの骸があった。

 なるほど、頭部だけ別次元に飛ばされたらしい。

 当たった箇所だけが、そうなるのかな。


「どういう原理なんだろ」

「暢気に考察している場合かい?」


 僕は顎に手を添え考える。

 そこに呆れた様子のローズが言った。


「早速、護衛対象が死んでしまったよ。彼を守るのは、君の役目だろう」


 どこか僕を責めているように聞こえるが、しかしそれが飾りなのが分かった。

 ローズは特に、何も感じていない。

 護衛の依頼者であるエレンが目の前で殺された事に、僅かな驚きも見えなかった。

 目の奥が笑っていた。


「そういえば、そうだった」


 僕は、いま思い出した態度を装う。

 それから、親の仇を見るようにカノンを睨み据えた。


「僕の大事な親友……では、ないな……うん、そこまで仲が良いわけでもないし、なんなら彼のことをあんまり知らないけど……許さないよ!」

「それは、他人以外の何者でもないのではありませんか?」

「ノワール君にとっては、彼は他人ですらないと思うよ。道端に落ちている石ころが妥当かな」


 僕が精一杯にやった怨みを込めた演技は、しかし伝わらなかった。

 悲しいものだね。


『……ああ、あの阿呆な皇子に匹敵するほどに、お前の演技力の低さも悲しいよ』


 嬉しいです。

 ありがとう。

 ――でも。

 と、僕は目に力を込め直す。

 まだ、諦めていない。

 両目を憎悪に染めて、僕は大声で言い放った。


「殺してやるー」

『棒読み』


 ――おかしいな。

 思っていたより、声が出なかった。

 普段、あまり大きな声量で喋らないからだろう。

 目力だけ無駄にこもっている僕は、高々に右腕を突きあげながら宣言をしたが――。

 しかし、気迫は微塵も感じられない様相だ。

 いたたまれない空気が流れている。

 ローズが困ったように腕を生み、カノンが頬を搔いていた。


「じゃあ、僕はこの辺で――」


 と、何事も無かった風に僕は立ち去ろうとする。

 右手を挙げた僕の真横を、不可視の風が横切った。

 それは、矢だ。


「……危ないな。そんな物騒な獲物、安易に人に向けないでよ」


 僕が視線を向け叱責する。

 そのまま気付かず歩いていたら、いまごろは別次元にいただろう。

 間一髪だった。


「人、には向けていないので、ご安心を」


 碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスを向けたまま。

 カノンの蒼い双眸が細まる。


「私はただ、この星を蝕む癌を排除しようとしているだけですよ」


 それは僕のことかな。

 だとしたら、酷い言われようだ。

 でも、僕は優しい。


『凄い優しい』


 そう、凄い優しい。

 だから、そんな誹謗も許せる。

 ――ニコリ。

 僕は微笑むと、その場に膝をついた。

 それから床に両手を当て、頭を下げる。

 土下座だ。


「誇り高き管理者の閲覧会(アグレスタ)様……矮小で邪悪な私を、どうかお許し下さい」

『プライドの欠片もない奴だな、お前は……だが、邪悪な自覚はあったのか』


 知りませよ、そんなのもの。

 プライドなんて、下痢と一緒に肛門から出てしまいました。


『下痢なのは、私だろ。お前はまだ、異世界でションベンもしていない』


 僕の中で、おしっこをする絶妙なタイミングがあるんですよ。

 そのときになったら、見せますね。


『どうでもいいし、見せるな』


 ちなみに、お風呂上りは出やすいです。

 管が緩みます。


『詳細はいらん。誰が聞きたいんだ』


 女神様は、お腹を冷やさないようにして下さい。

 また、下痢に襲われないよう。

 お大事に。


『……ああ、分かっている。ありがとう』


 僕は額を床板についたまま許しを請う。

 相手がどんな表情をしているのかは見えない。

 何故だろう。

 ローズがいる方向から、軽蔑の視線が向けられている気がする。

 スッ、と僕の後頭部に冷たい風が吹いた。

 何かが触れている。


「貴方が下げる頭には、一体どれほどの価値があるのでしょうね……?」


 カノンの冷淡な声が頭上から聞こえた。

 彼の表情を想像してみる。

 怒っている、わけではないだろう。

 呆れ、でもないと思う。

 億劫が適切かな。

 さっさと執行を終わらせて帰りたい。

 そんな空気を感じる。


「女神エリアルの残念な頭よりは、価値があると思うよ、うん……」

「……ほう?」


 明らかに空気が変わった。

 声のトーンが下がり、憤りが混ぜられる。

 どうやら、不味い発言をしてしまったらしい。

 思った事を口にしただけなのにな。


『コミュニケーションの基本は、相手を気遣うことだ』


 と、女神様に諭される。

 まさか、会話もまともに行えない方に教えられるとは。

 これは駄目かな。

 カノンに殺される。

 次元の彼方に直行だ。


『いってらっしゃい。二度と帰って来るなよ』


 ――はい。

 いってきます。


「《次元歪曲(ディシス)》」


 転移の術式を呟かれる。

 発動したのは、ローズだった。

 隙を見て、術式を構築していたようで――。

 そのまま彼女の姿が《次元歪曲(ディシス)》により消えた。


『本格的に捨て駒、いや身代わりにされたな』


 哀れだ、とメノア様がつまらなさそうに欠伸をする。

 客室に残されたのは、僕とカノン。

 それから、エレンの亡骸。


「じゃあ、今日はこの辺で――」


 再度、僕は去ろうと上体を起こす。

 しかし、頭が押さえつけられており上がらない。

 足で踏まれている。


「執行の現場にいた目撃者を、行かせると思いますか?」

「……行かせなよ。君の為にも」


 カノンの双眸が剣呑に細まる。

 瞬間、彼が碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスの弦に指をかけたとき――。

 僕は《異空間収納(ディートファスト)》から出した、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスで、カノンの手首から先を切り落とした。

 土下座をした不安定な体勢での抜刀。

 勿論、カノンの姿は見えていない。

 ただの感で斬った。


「この程度の傷……」


 と、碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスを持っていた右手が切れ、しかしカノンは再生を試みる。

 けれども、その直後眉を顰めた。

 傷が再生しない。

 斬られた裂傷に、何らかの回復系統の《魔法》をかけているのだろうが、効果が無かった。

 確かに術式は発動しているというのに。


「不思議だろう? なんで《回復魔法》が効かないのか。だけど、教えてあげな――」

暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスは星力(メリス)を素に製作された〈勇者〉の刀。他の管理者の閲覧会(アグレスタ)がどうかは知りませんが、私のような半端な身には覿面……といことですか」


 切り落とされた右手首と碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスが中を舞う。

 その獲物を左手で掴み言ったのだった。

 いや、そんな解明をされても困る。

 僕は暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスの製作過程など知らない。

 素材に使われたのが星力(メリス)というのも、初耳だ。


『盗……貸したときに言わなかったか?』


 言われてませんよ。

 そういう重要な情報は事前に伝えておいて下さい。


『すまんすまん。ミネルヴァから送られてきた、バニーガール姿の写真に気を取られていて、忘れていたよ』


 ――パチン。

 と、メノア様が異界で手を合わせて詫びる。

 優先順位が違うと思う。

 先に伝えてほしかった。


『バニーガールの恰好をした筋骨隆々なおっさんと、同じようにバニーガールになったミネルヴァのツーショットだ。誰でも気になってみるだろ』

「どれだけ、ウサギさんが好きなんだ……」

『ぴょんぴょん』


 やかましい。

 僕は身体を起こすと、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスの柄を握りなおした。

【次話予告】

ノワールは『竜脈の畔』の客室で、ローズとエレンの二人と取引をしていたとき、突如として奇襲を受ける。

それを仕掛けたのは、話にも挙がっていたエレンを狙う管理者の閲覧会(アグレスタ)、その第四席である《碧落》のカノンだった。

彼は手にした長弓、碧軌弓(ひゃくききゅう)トラウディクスでエレンを瞬殺する。

護衛対象が殺されてしまい、ローズは隙を見て《次元歪曲(ディシス)》で逃げてしまう。

客室にカノンと共に残されたノワールは、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを取り出し応戦したのだった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ