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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
18/32

第1章 第18話 皇帝を取りまいている陰謀

本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。

今週で投稿を始めてから、約一か月が経ちました。

私の個人的な事情もあって、毎日投稿するのは難しかったのですが、それでも追って読んでいただいている読者様、本当にありがとうございます。

今後も不定期の更新になるとは思いますが、それでも読んでいただけると嬉しいです。

これからも、ノワールとメノアの旅路を見守ってもらえると幸いです。

 中性的な声音の彼女、ローズは女性だ。

 しかし、女性の平均身長を優に超える、高身長。

 すらりと引き締まり、起伏が明確な体型だった。

 そんな幽艶な美貌を覆うのは、チャイナドレス。

 生地は照りのある蛍光の紫黒だ。

 金色の蛇の紋様が刺繍されている。

 ドレスのスリットから覗いた婀娜な太腿は、白濁じみていた。


 濡羽のストレートヘアーにはお団子カバーが被せられ、毛先にかけ藍色に発色。

 それは綺麗なグラデーションのようにも思えた。

 容貌は絶世と言える。

 成熟した色気があり、だが毒牙のように鋭利で危険な香りが内包されている。

 それを加味させるのが、鷹の如き鋭さの深紅のつり目だ。


 穏健な気質に見えるが安易に触れてはならない。

 口調や態度に現れるそれらも、しかし全て計算された外面でしかないのだろう。

 決して本心からではない。

 意図的に作られた性質だ。

 穏やかな雰囲気に危険な気配を纏った人物だった。


「私のことは、既にヴェノム君から聞いているのかな……それとも、まずは自己紹介から始めたほうが良いかい?」


 ローズが階段を上りながら聞いた。

 その後ろにいる僕が返答する前に、彼女は続けて言う。


「――ああ、でも『初めまして』って挨拶するのも、何だかおかしいよね」


 と、ローズ。

 僕は違和感を覚え、怪訝に尋ねる。


「ローズさんとは初対面の筈だけど……」


 それは間違いない。

 彼女とは此処『竜脈(りゅうみゃく)の畔』で、初めて会った。

 実は前世からの知り合いという線も無いと思う。

 転生前の記憶が曖昧だから、完全には断言しかねるが――。

 すると、そんな僕の反応にローズは僅かに笑った。


「ああ、変な言い方をしてしまってすまないね……別に深い意味があるわけじゃないんだ」


 誤解を生んだのならすまない、そうローズは謝る。

 ただ、と後ろの僕を横目に言った。


「少し前から、君の動向を観察していてね。だから、そのせいか身近な存在に感じられるんだよ」


 取り繕ったように言ってはいるが、それは盗撮まがいの侵害行為ではないのかな。

 知らない所で、他人に日常を見られている。

 あまり気持ちの良いものではないだろう。

 大概の事柄に無頓着な僕だが、しかし人並みに不快感は感じる。


『……嘘つけ、詐欺師。ローズに見られている事に、お前はわざと気付いていないフリをしていただろうが』


 いつもより口調に覇気のないメノア様が指摘する。

 知り合いの女神様とのババ抜きは終わりましたか。

 予想は出来てますが、結果を教えて下さい。

 僕の魂の所在も。


『あれは、その場で適当に吐いた冗談だ』


 メノア様は疲れたように息をする。

 何だ、嘘だったのか。

 それなら、安心だ。


『お前のような最高級の素材を、遊戯のかけ金に出すわけがないだろう。そこらの量産型の転生者ならまだしも』


 異界にいるメノア様は、硝子のコップに飲料でも入れているのだろう。

 飲み物を注いでいるのが聞こえた。

 ――どうでしょうね。

 怪しいところですが。

 メノア様なら、そんな賭けもやりかねない。


『昔の私だったら、確かに若気のいたりでやったかもしれないな……』


 乾いた笑いをしたメノア様は。

 ――ゴクゴク。

 と、飲料を口にする。

 なら、糞婆になった現在のメノア様は、何を賭けたんですか。

 遊戯をやったのは事実でしょうし、かけ金があったのも本当ですよね。

 ただ、それが僕の魂とは別の物だったわけで。


『そうだ』


 と、メノア様は喉を潤したのか声に活力が戻る。

 コップを置いてから答えた。


『全容を説明すると長々となるから割愛するが……つまり私はこの世界レネイストの権利を賭けたわけだ』


 どういうわけだ。

 まるで、分からない。

 結論が壮大過ぎる。

 そうなった過程が無いと、理解が追い付かない。


『ああ……心配はいらん。仮に私が負けようが、別にレネイストが滅びるわけではない』


 こちらを安心させるように言っているが――。

 そんな不安は抱いていない。


『じゃあ、何に対して文句があるんだ』


 聞いてやる、と偉そうなメノア様。

 それ以前の話ですよ。

 色々と言いたいですけど、とりあえずこれだけ。

 遊戯で決めるような案件ではない。

 それもババ抜きで。


『じゃんけんも、候補にあった』


 もっと悪い。

 そんな子供のお遊びのような方法で、世界の権利を賭けられるなど、下界で生きる人達からすればたまったものではない。


『知らないのだから、何も問題はあるまい。バレなければ、それは犯罪にはならないんだよ』


 分かったか? とメノア様が悪びれもせず言い切る。

 流石は性根が腐っている女神様だ。

 ただの戯言も、この方が口にすると自然体ゆえに真理に聞こえる。


『良い勉強になったな』


 これは学習になるのかな。

 女神による婉曲な洗脳な気もする。


『勉強だよ』

「勉強か」

『そうだ』


 そうらしい。

 僕は洗脳――。

 勉強をさせられた。

 実に有意義な学びだ。


「……ん、何か言ったかな少年。勉強、というのが聞こえたけど」


 ローズが前を向いたまま訊ねてきた。

 つい、心の声を口にしてしまっていたようだ。

 あまり大きな声量ではなかったけど、近い距離にいたローズには聞こえていた。

 そんな問題のある発言ではないので良いが。

 さて、どう返したものかな。


「僕は将来……冒険者になるのが夢でね。その為に、最近は魔物学だったり魔法工学の勉強をしているんだ。部屋についたら、その勉強の続きをしようと思っていてね……思わず、気持ちが出てしまったんだよ」

『お前のような愚鈍な狂人が、そんな勤勉な糞餓鬼だったとは、驚いた』


 クックック、とメノア様が意地の悪い笑いをする。

 僕が適当に考えた設定を嘲笑っていた。

 勿論、そんな大層な夢は抱いていない。

 レネイストにある職業から、僕のような年齢の男児が憧れそうなものを選んだだけである。

 そこに実在する学問を付け加えた。

 変に怪しまれる事はないだろう。


「そうなんだ」


 と、ローズが一言。

 感想がそれだけなのかな。

 咄嗟に頑張って考えたのに。


『うっすいコメントだな。私の方が長かった』


 ――ですね。

 疑われているとは思わないですけど。


『単純に餓鬼の将来の夢などには、興味関心がないだけだろ』


 ――ボリボリ。

 メノア様が、またお菓子を摘まみ始めた。

 それなら良いですけどね。


「ローズさんは、夢とかは無いんですか?」


 ただ、黙っているのもあれなので。

 僕から少し話題をふってみる。


 というか――。

 いま思ったんだけど『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の二階に繋がる階段は、終わりが見えない。

 横幅は広いので、ローズの後ろにいる僕の視点からでも、前方は確認が可能だ。

 そこには上階に繋がっているのだろう階段が延々と続いている。

 辿り着ける階層があるのか不明な、果てのない段差だ。

 これは多分《次元歪曲(ディシス)》の応用かな。


 『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の、一階と二階――。

 その間の部分を《次元歪曲(ディシス)》で、空間ごと捻じ曲げている。


『独自の防犯対策だろうな。かわいらしい小細工だ』


 メノア様が馬鹿にする。

 『竜脈(りゅうみゃく)の畔』は、裏ギルドとの橋渡し役。

 表裏、その両方の世界との中間に位置する宿屋だ。

 非合法的な職業の人物などと、日常的に関わる機会は多々あるだろう。

 それなりの防犯対策や自衛を備えていても、不思議ではない。


「私の夢かい……? そんなものは幼少期にさえ考えた記憶はないが」

『つまらん餓鬼だったんだな』


 ――うーん。

 と、ローズは思案するように間を置いて。


「夢ではないけど……いまは満足した職に就いてはいるよ」

『どうせ、つまらん仕事だろ』


 異界にいるメノア様の声は僕にしか聞こえない。

 ベルザのような例外もあるが、ローズの耳には入っていない。


『裏社会に生きる輩は、中身のないつまらん奴か、頭のねじが外れた奴のどちらかだ』


 なので、そんな偏見は僕しか聞こえていないので大丈夫だ。

 つまらない仕事なのは、メノア様も同じでは。

 女神に面白さ、やりがいなどを感じていますか。


『無論だ。女神だから、私の独断と横暴で世界を好きに出来る。これ以上に愉しい職業も他にない』


 メノア様が堂々と言い張った。

 横暴な自覚はあるようだ。


『無ければ、ただの阿呆だろう』


 違うんですか。

 そうだと認識していましたけど。


『私は阿呆ではない。学習をしない馬鹿だ』


 どちらも似たようなものだと思う。

 謎の拘りだ。


「こうして宿屋も経営しているし、おかげさまで最近ではお得意様から、高額な護衛依頼も舞い込んできたんだ。商売繁盛で何よりだよ」


 ローズが軽やかに言った。

 彼女、ローズの素性は『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の責任者。

 それと同時に武器商人の組合『狂笑会(きょうしょうかい)』の首席でもある。

 まあ、バーテンダーのヴェノムから聞いた情報でしかないけどね。

 真偽は不明だ。

 それを裏付ける情報は持ち合わせていない。

 だけど、現在の状況で考えると筋は通る。

 なんにせよ、そういった組織の関係者であるのは間違いない。


「忙しそうですね」

『お前の感想も薄いな。ローズと同レベルだ』


 当たり障りのない事を言っただけだ。

 無言で通すのも印象が悪いだろう。


『今更、お前がそんなものを気にするとはな。私からの印象は最の悪だ』


 何だその独特な言い方は。

 別に貴方に、どう思われようと構わないですよ。

 メノア様の印象も、最の悪です。


『……言葉の使い方が気持ち悪い奴だな。普通に喋れないのか』

「うん、そうだね。確かに忙しい」


 と、そんな女神のブーメランな発言は聞き流して。

 ローズの話に耳を傾けた。


「特に今朝からは多忙なんだよね」

「へー」


 そうなんだ。

 大変そう。


「なんでか、知りたいかい?」

「いや、別に」


 興味ない。

 それよりお腹空いた。


「君には特別に教えてあげよう」

「僕は唯の凡人なので、教えないでいいです」


 そういえば――。

 メノア様が言っていた店は『蛇鶏王(バジリスク)亭』だったかな。

 今晩は『竜脈(りゅうみゃく)の畔』に泊まるとして、明日にでも行ってみよう。


『世界を支配する〈魔王〉様も絶賛! 天に上る快楽を味わえる特盛蕎麦、な』


 メノア様が流暢に紹介する。

 商品名ですか、それは。

 レネイストにいる〈魔王〉は、食レポなんてするんですね。

 何か柄でもない。

 〈魔王〉のイメージとは違う。


『そいつは職業差別だ。〈魔王〉だろうがなんだろうが些細な事だ。食文化に種族も国境も関係はないんだよ』


 ――確かに。

 その通りです。

 僕が間違っていました。


「今朝がたのことだよ。ヴァミリド神教国の星凱帝(せいがいてい)エレンが『竜脈(りゅうみゃく)の畔』を訪ねて来たのは」


 断りを入れたのに話しだした。

 この感じは、途中で遮るのも無駄かな。

 黙って聞こう。


『聞き分けが良いな』


 諦めがいいだけですよ。

 労力を割きたいと思わない。

 疲れるからね。


「……なんでも、ここ最近になり当代の星凱帝(せいがいてい)エレンが、星灯録(せいひろく)教会に命を狙われているらしいんだ」


 そう話している本人、ローズも然程興味がないのか。

 どこか淡々としていた。

 見聞きした話を、脚色はせずに続ける。


「エレンの側近は教会内部の派閥抗争が要因だとみているようだが……教会側の真意は分からない」

「へー」

『ふーん』


 現在、僕がいるヴァミリド神教国は星凱帝(せいがいてい)が最高位の地位ではあるけれど、その裏で実権を握っているのは星灯録(せいひろく)教会で。

 当代の星凱帝(せいがいてい)は、教会の操り人形のような存在。

 と、前にメノア様が言っていた。

 その人形の糸を引いている人物が、人形を殺そうとするのは、どういう理由が想定されるだろう。


『使い道を失った。或いは、利用価値が無いと判断した』


 安易に考えるならそんなところだろう。

 僕と同じ見解だ。

 ――うん。

 やはり、面倒な予感がする。

 セラスも管理者の閲覧会(アグレスタ)が、どうのと言っていたし。

 星凱帝(せいがいてい)周りが、色々ときな臭い。

 関わらずに済まないかな。


『無理だろ、飽きらめろ糞餓鬼』


 ――ですよね。

 いえ、分かっていますよ。

 僕も現実は見えていますから。


『なら、無駄な問答をするな。面倒事はさっさと終わらせて、飯を食いに行こう』


 世界を支配する〈魔王〉様も絶賛! 天に上る快楽を味わえる特盛蕎麦、ですね。

 覚えていますよ。


『ああ、そうだ。当然、お前の奢りでな』


 ――チッ。

 僕は胸中で舌を打った。

 女神様はけち臭い。


『お前を〈邪神族〉に転生させる為に、多方面に便宜をはかったせいで、こちとらパン一切れ買えるかも怪しいほどに、金欠なんだよ』


 違法な転生に関する保険金。

 それから書類の偽装工作でしたか。


『……文句があるなら、その程度のお遊びも認めない、頭の固い管理者の閲覧会(アグレスタ)に言え』


 異世界人を身勝手な都合で転生、それも〈邪神族〉に。

 容認されないのは、当たり前なような。

 そんな暴挙が見逃されたら、世界の秩序が崩壊するだろう。


『私を正論で殴るな……そういうところ、管理者の閲覧会(アグレスタ)の連中とソックリだ』


 ――良かった。

 管理者の閲覧会(アグレスタ)は、まともな思考をする方達なようだ。

 常識的な僕と気が合いそう。

【次話予告】

ノワールは『竜脈の畔』でセラスとの戦闘の後、その宿屋の責任者だと思われる人物、ローズに案内され客室がある二階に向かった。

『竜脈の畔』の階段には《次元歪曲(ディシス)》の応用により、空間が捻じ曲げられ延々と続いていた。

客室に到着するまでの間、ローズが話し出したのはノワールが異世界に転生してからというもの、何かと見聞きする異名、星凱帝(せいがいてい)に関する陰謀だった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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