第1章 第15話 邪神族を祓う武器
本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。
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セラスの双眸が、僕を捉えた。
右腕を水平に上げ、右掌を前に出す。
手底に黒い窪みがあった。
銃口だ。
『自動小銃――祓癌銃ガサラ。〈邪神族〉や〈悪魔族〉といった邪悪な存在を祓う銃だ』
メノア様が戻ってきた。
何していたんですか。
お手洗いで席を外すなら、そう言って下さいよ。
『なんでトイレをするのに、お前に許可を取らないといけないんだ……いや、トイレではないんだが』
メノア様の尿意を管理をするのも、息子である僕の役割なので。
安心して良いですよ。
別に嫌悪感とか感じません。
『それを感じるのは、頼んでもいないのに管理される私だ』
というか、とメノア様。
異界で物音を立てながら言った。
『女神は尿も便もしない』
「なるほど、そういう設定ですか」
『そうだ』
――そうなんだ。
頭の片隅に覚えておこうかな。
『……なら、さっさとその出来の悪い生物兵器を殺せ。お前の残念な頭が浄化されないうちにな』
祓癌銃ガサラ、でしたか。
特定の種族を殺傷するのに特化した武器のようだ。
『魂に当たれば即死、掠れば星力の簒奪で済む』
どちらも嫌だ。
死ぬよりも、星力を奪われた後の方が怖い。
『そこには〈聖女〉の上で腰を動かす邪神の姿が……』
「勝手に描写をするな」
気持ち悪い。
メノア様のせいで、想像してしまった。
『屈辱と羞恥に染まった表情の邪神、それを艶美な裸体の〈聖女〉が性愛で包み込む。邪神は凄絶な嫌悪感から表情を歪めるが、しかし〈聖女〉の欲望を拒むことは……』
それ以上聞いたら吐きそう。
と、セラスの掌の銃口が白光に埋まった。
刹那、音速を越えた弾丸が僕に着弾する。
床板が壊れ、木片と埃が舞う。
確かな殺傷性のある威力だったが、僕は無傷だ。
暁灯瑠刀フォルラリスの鎬を、セラスに向け弾道を完璧に予測し弾いた。
『カッコつけるな。ただの偶然だろ』
場が静まったとき、僕の身体は霞む。
それから消えた。
セラスの背後に出現――。
一瞬の移動、僕は暁灯瑠刀フォルラリスを振るった。
それは、しかし空を切る。
セラスの首は刎ねられなかった。
『下手糞』
「うるさいよ。観戦者は黙って見ていて下さい」
『はーい』
メノア様が不貞腐れたように返事をする。
視線を上にあげれば、天井を背に僕を見下ろすのはセラスだ。
『私を見下ろすとは、大層な身分だな』
「野次を飛ばさないと死ぬのかな」
黙れ、と言った矢先にこれである。
口を開けば皮肉が出る。
『それが私の長所だ。可愛いだろ』
「ええ、セラスよりは」
『……だろう?』
僕に肯定されたのが嬉しかったのだろう。
心なしか上機嫌な様子が伝わった。
褒めてはないけどね。
セラスの前腕が裂ける。
身体に搭載されているのだろう武器が露わになった。
『音波刃物、祓癌刀ソキエドラだ。効果は銃と同様だ』
瞬間、僕とセラスは霞み消える。
店内に旋風すら発生する速さ。
床を滑るように飛び、剣戟を交わす。
金属音は散った火花が尽きるより先に鳴った。
武器の持ち手は霞む。
土埃を纏い肉薄するセラスは、僕の懐に踏み込み祓癌刀ソキエドラで、胴体を横薙ぎに斬った。
僕は焦らない。
その必要もない。
冷静に、それから泰然と――。
祓癌刀ソキエドラを迎え撃った。
だが、僕は暁灯瑠刀フォルラリスを持ち、バッと背後に振り向いた。
――キキキキキキキキキキンンンッ!!!
僕の眼前に、一瞬間鉛が連続する。
それは、散弾の弾雨。
「《時空を超える弾丸》に気付かれるとは……お見事ですわ。流石は〈勇者〉カイン様」
「僕はノワールです」
『私はメノアです』
知っています。
僕は《時空を超える弾丸》を暁灯瑠刀フォルラリスで刻む。
この不意打ちをセラスは狙った。
祓癌刀ソキエドラの特攻は、はったり。
それと《時空を超える弾丸》を察知出来たのは、僕の第六感だ。
『つまり、偶然か』
必然です。
そんなに僕の感覚が信用ならないですか。
『うん』
「否定しろ」
悲しい。
僕は創造主に信用されていない。
《時空を超える弾丸》を全弾斬り終えると、僕は暁灯瑠刀フォルラリスを背に据えた。
それと同時、暁灯瑠刀フォルラリスの胴に重い衝撃が走る。
祓癌刀ソキエドラの打撃だ。
《時空を超える弾丸》これも、はったり。
本命は《時空を超える弾丸》に気を取られた隙の、祓癌刀ソキエドラによる奇襲だ。
だが、僕は二重のはったりを事も無げに防いだ。
「おやおや、これも防がれてしまいますか……」
と、セラスは祓癌刀ソキエドラを手に意外そうにする。
僕は表情を変えない。
正直、いまのは危なかった。
対応出来たのは偶然だ。
『ほら見ろ……偶々だろうが。いらん見栄を張るな』
メノア様が揚げ足を取ってきた。
すみませんでした。
僕が悪かったです。
『分かればいい』
良いんだ。
適当に謝っただけなのに。
簡単な女神で助かる。
「〈勇者〉カイン様は感覚が敏感な殿方なのですね」
「何か言い方が嫌だ……」
『僕はノワールです』
代わりに言ってもらって助かります。
セラスが口にすると、違った意味に聞こえる。
『考え過ぎだ、エロガキ』
「誰がだ」
また、新たな蔑称が増えた。
不服だ。
「何か興奮する」
「私もですわ!」
『お似合いの夫婦になれそうで、なによりだよ』
メノア様が突き放すように呆れる。
いまのは冗談ですよ。
『……だが、その女は本気だ。残念なことにな』
見てみろ、とメノア様に言われる。
目に見えるセラスは、非常に興奮した状態だった。
顔は紅潮し、目が爛々としている。
離れていても息の荒さが伝わった。
獲物に飛びかかる寸前の様相だ。
「〈聖女〉を騙る身とは思えないね」
「ありがとうございます!」
だから、何が?
会話が通じているようで、かみ合っていない。
「カイン様は、こういう淫らな女性がタイプだと伺っていましたので……そのご希望に沿ってみましたわ」
――僕はノワールです。
もう、それを口にするのも疲れたから言うのはやめよう。
それより――。
「誰に聞いたのかな」
好きな異性の性格を他言した覚えはない。
勿論、セラスのような女性は好みに該当しない。
『私は?』
嫌いですよ。
何を当たり前な事を。
『ふふっ』
メノア様が笑う。
人に嫌われて嬉しいのかな。
変わった女神だ。
「貴方様のお父様ですわ」
「いないけど」
「……え?」
「ん?」
セラスが驚いたように瞳を瞬かせる。
それから左手を口元にやり、震えながら申し訳なさそうに僕を見た。
「私の無知を、どうかお許し下さい……まさか、既に故人になられていたとは……」
「そういう意味じゃないんだけどね」
何か勘違いをしている。
生死は関係ない。
単純に父親はいない。
記憶が無いのなら、存在しないも同然だ。
『ただ記憶力が致命的にない餓鬼が、忘れているだけだろ』
そうなのかな。
どうだろ。
別に、それでも良いと思う。
僕の日常に支障はない。
『どうだかな』
僕はニコリと笑みを見せる。
気分を害していない事を伝えた。
「君が何処の誰から耳にしたのかは知らないし興味もないけど……」
僕は笑みを深める。
それは友好的なものではない。
拒絶の意味合いがある微笑み。
「生憎と、僕は年下が好きなんだ」
『心底、どうでもいい』
メノア様が吐き捨てる。
因みに、女神様は論外ですよ。
残念ながら。
なので、想いに応える事は叶いません。
『告白をする前に振るな……する予定もないが』
そうですか。
仮に告白をしてきたら了承しましたけどね。
『なんでだよ。私は好みではな……いや、なるほど。そういう目的か』
どういう目的だ。
何に納得したのかな。
『散々、誹謗を吐いてはいたが、本心ではお前も男だったという事だろう……?』
クックック、とメノア様が陰湿に嗤う。
だから、何のことやら。
『……つまりは、私の身体が欲しかったわけだ』
「いや、いらん」
僕は即答する。
そういう欲望はない。
あっても、メノア様には向けない。
『恥ずかしがるなよ』
――ニヤニヤ。
と、そんな笑みをしているだろうメノア様が想像出来た。
「なるほど……カイン様は年下の女性がお好きなのですね……ということは、私はカイン様にとって理想の女性ですわね」
セラスが目を輝かせ言った。
話が通じない人を相手にするのは疲れるな。
『本当にな』
メノア様が露骨な溜め息を漏らす。
貴方の事も言っているんですが。
『私は人ではないからな』
そこは察してほしい。
指摘が細かい。
いや、分かっていた上で、そういう態度を取っているのかな。
「面倒な神だ」
『お前もな』
そうだった。
僕は〈邪神族〉でした。
未だに実感が湧かないんですよ。
でも――。
「面倒臭さでは、メノア様に到底及びませんけどね」
僕も性格に、それなりの欠点があるのは自覚している。
だけど、メノア様には敵わない。
『当然だろう。私は存在自体が世界にとって厄介だったから、こんな何の娯楽もない異界に閉じ込められているんだ』
そうなった詳しい経緯は知らないが――。
自慢げに話しているように思えてならなかった。
「大変そうですね」
『私の境遇に興味を持て』
それは無理かな。
僕は無感情な感想しか言えない。
『……つまらん奴だな。お前には好奇心が無いのか?』
メノア様の冷淡な声音。
どうでしょう。
あるとは思いますよ。
人並みには。
『なら、そんな可哀想な感性のお前に、愉快な喜劇を話してやろう』
それは、とっておきの話題だったのだろう。
メノア様が機嫌良さげに鼻を鳴らす。
少しばかり声のトーンも高い。
「別に興味な……」
『これは太古の昔、神話の時代。〈魔女〉と恐れられた令嬢と、異世界から召喚された〈勇者〉の奇怪な恋物語——』
メノア様は訥々と話し始める。
好きにさせておこう。
途中で無理矢理遮るのも面倒だ。
【次話予告】
ノワールは『竜脈の畔』で、話が通じない〈聖女〉セラスと戦闘を続ける。
彼女は異形に変貌する生物兵器のような存在であり、あらゆる武器が身体に装着されていた。
相変わらずまともに会話が出来ない相手に辟易しながらも、戦いは激しさを増していった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
良ければ評価を貰えると嬉しいです。




