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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
14/32

第1章 第14話 利益のない不毛な会話

本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。

今週は私生活の都合上、投稿をするのが遅れてしまいました。

本当は週の半ばに投稿する予定だったのですが、執筆の時間が取れませんでした。

それでも追って読んでいただいている読者様、ありがとうございます。

明日は投稿をしますが、来週も同様に不定期の更新となります。

 セラスの深紅の瞳が瞬き一つ。

 その瞬間《魔法》を交差させた。

 僕は動きを封じようと《死んでも(ヴァ)怨みを忘れない(デライス)毒蛇の呪縛(フト)》を、セラスは《虚空からの超音波(ヴォルラド)》を。

 邪眼が象嵌された鞭《死んでも(ヴァ)怨みを忘れない(デライス)毒蛇の呪縛(フト)》がセラスに絡みつき、だがその前に不可視の膜《虚空からの超音波(ヴォルラド)》により防がれる。


 セラスは身体能力が異常だ。

 普通に《魔法》を放っても、容易に避けられてしまう。

 なので、まずは拘束をしようと考えたのだが――。


『あの膜《虚空からの超音波(ヴォルラド)》を突破するのは至難だ。紙切れ同然の薄さだが、その硬度は術者の魔力、その練度に依存する』


 《虚空からの超音波(ヴォルラド)》は《魔力障壁(アマリルカ)》と同様の《防御魔法》。

 しかしながら、その系統は同じでも性能は、まるで異なる。

 《魔力障壁(アマリルカ)》は、その術式に組み込まれた性能しか発揮する事が出来ない。

 例えば《魔力障壁(アマリルカ)》の性能を数値で100と表記したとしよう。

 それは防御が可能な限界値でもある。


 100までの《魔法》初級や中級程度なら《魔力障壁(アマリルカ)》でも、充分に対応可能だろう。

 しかし、それを上回る威力の上級の《魔法》だと《魔力障壁(アマリルカ)》は破られる。

 僕が放った《死んでも(ヴァ)怨みを忘れない(デライス)毒蛇の呪縛(フト)》は、その限界値を超えている。

 だから、セラスは《虚空からの超音波(ヴォルラド)》を使った。


『私から見ても……あまり賛辞を送りたいとは思わないが、セラスの魔力量はそれなりだ。その女の《虚空からの超音波(ヴォルラド)》を破るのは、爪楊枝で金属板に穴を開けるようなものだ』


 《虚空からの超音波(ヴォルラド)》の術式には限界値が存在しない。

 その性能は術式を行使した術者が、どれだけ魔力を扱えるかによる。

 素人がやれば頼りない硬度でも、魔力の練度が長けた熟練の術者なら、メノア様は金属板と喩えたが。

 実際には、それ以上の硬さだろうと考えられる。


 ――さて。

 セラスを殺すのは容易なんだけど。

 その前に話を聞いておきたかった。

 だけど、捕らえるのは難しそう。


 《死んでも(ヴァ)怨みを忘れない(デライス)毒蛇の呪縛(フト)》は、捕縛を目的とした《魔法》の中でも最上位の術式だ。

 それを防がれたなら、他の下位の術式を試すのは徒労だろう。

 ――うん。

 何か、もう面倒だから終わらせよう。


『殺すか?』


 そうだね。

 別にセラスの言い分とか聞き入れる必要もない。

 お腹も空いた。

 異世界に転生してから、まだ何も食事をしていない。


『神都アリオンには『蛇鶏王(バジリスク)亭』という料理茶屋がある。そこの蕎麦は、なかなかに絶品だ。今度、時間があるときに行ってみるといい』


 なるほど。

 ――『蛇鶏王(バジリスク)亭』。

 覚えておこうかな。

『勿論、お前の自腹でな』

 奢ってはもらえないんですね。

 まあ、メノア様は何かとケチ臭いですから、仕方ないか。


『……倹約家と言え。最近は出費が続いていてな。あまり貯金に余裕が無いんだよ』


 女神も金銭を貯めるんですね。

 そんなに何を買ったのかな。


『異世界人を転生させるとき、稀に失敗をする事があるんだが、その場合におりる保険金の支払いだ』

「何だ、それは……」


 異世界転生に保険とかあるのか。

 そんな制度、初耳だ。


『最近は、異世界人を転生させるのも、色々と厳正な審査と条件が必要でな』


 ほうほう。

 面倒臭そうですね。


『当然、異世界人をあろうことか〈邪神族〉に転生させるなど、認められている筈もない』


 ――おっと。

 何か流れが変わったな。


『違法な転生を実行するには……つまるところ偽装工作が必要になるわけだ』


 メノア様に悪びれた様子は感じられない。

 その行為を犯したんですね。


管理者の閲覧会(アグレスタ)の目を誤魔化さないと、処刑されるからな』


 穏やかな話ではないな。

 少し転生に関する書類を偽装しただけで処刑ですか。


『その程度で済むなら優しい方だ……最悪、執行者が送られる』


 管理者の閲覧会(アグレスタ)もですけど、執行者とは。

 どういう役職の人なのかな。

 監察官的な、そんな感じだろうか。


『……そんな可愛いものではない』


 メノア様は声の調子が変わる。

 どうやら僕の想像とは違うようだ。


『言っただろう、執行者だと……あいつら管理者の閲覧会(アグレスタ)はレネイストだけに限らず数多の異世界の秩序を調整する番人だ』


 確かに、それだと監察官というのは少し適切ではないな。

 秩序の調整というのが気にはなるけど――。


『それは、また今度……機会があったら教えてやるよ』


 今はそれより、とメノア様。

 脱線をした話をきりあげる。


『その世界最速性欲淫乱聖女を、さっさと片付けろ』


 疲れませんか、その異名を言うの。

 シンプルに名前だけで良いですよ。


『これはクソの役にも立たない雑学だが、セラスは非常に絶頂しやすい体質でな。そこに達する速さもかけられている異名だ』


 本当に無駄な情報だ。

 そんな事情、何で知っているんですか。

 いや、言わないで良いです。


『そうか?』


 心なしか残念そう。

 言いたかったのかな。


「――〈勇者〉カイン、やはり貴方と私は結ばれる運命にありますわ」

「僕はノワールです」


 セラスは胸の前で両手を絡ませる。

 陶然としたその貌は、どこか病的なものを感じさせる。

 さながら幻覚症状に陥っているような――。

 瞳は確実に此方を見ている。

 しかし、そこに映るのはセラスが妄想した幻の世界の僕だった。


「カイン、子供は何人欲しいですか? 私は娘が二人と息子が一人、いえ双子というのも良いですわね」

「僕はノワールです」


 眼前で展開されるセラスの世界。

 彼女は現実を視ていない。

 それは意図的なものか。

 或いは、無意識のうちに幻を作り出しているのか。

 どちらにしろ、まともな会話が行えそうな人物ではない。

 隙を見て逃げよう。


「それから家は精霊の楽園(ディラネス)に建てたいですわね。あそこは精霊の加護を享受する事が出来ますし、子育てをする環境に最適ですわ。あなたもそう思いますわよね、カイン」

「僕はノワールです」


 知らない間に出産した後の事まで、話が進んでいる。

 精霊の楽園(ディラネス)は〈精霊族〉の住処だったかな。

 たしか場所は――。

 いや、それはいまどうでもいい。


「名前は男の子ならノエル、女の子ならエレンが良いですわ。あなたは何か候補はありますか、カイン」

「僕はノワールです」


 命名など好きにすればいい。

 そもそも、子供以前に結婚する気はさらさらない。

 こんな〈聖女〉と結ばれるなら、メノア様の人体実験の被験者になるのを選ぶ。


「私とカインの間に子供を授かったと知れば……きっとライリーラも管理者の閲覧会(アグレスタ)の生贄にならずに済みますわ」

「僕はノワ……ん? いまなんて言った?」


 壊れた人形のように言葉を繰り返していたが――。

 聞き逃せない人物と組織が混ざっていた。

 ライリーラ、即ち先代の星凱帝(せいがいてい)

 管理者の閲覧会(アグレスタ)は、つい先程聞いたばかり。

 異世界を調整する秩序の番人。


「嗚呼、可哀想なライリーラ……あの野蛮で醜悪な執行者のせいで、あんな悲惨な目に……」


 セラスが歌うような口調で言った。

 両手で顔を覆い、悲痛な雰囲気を漂わせる。

 そういえば、と僕は『竜脈(りゅうみゃく)の畔』に来る前に見た事を思い出す。

 ベルザにより《次元歪曲(ディシス)》で、神都アリオンの路地に転移をした。

 直後、僕は不審な男女を見かけた。

 その片方、女性の魂がライリーラだと教えられる。


 どういう裏事情があるのかは知らないが、きっと面倒事だろう。

 だって、レネイストにある国のうち、ヴァミリド神教国が大国とはいえ、たかだか下界の皇族に管理者の閲覧会(アグレスタ)が首を突っ込むのは、余程の案件なのは間違いない。

 関わり合いにならないようにしよう。


「――ですが、カイン。貴方の力があれば、必ずライリーラを救えますわ……ええ、だってカインは〈勇者〉なのですから」


 セラスが顔を上げる。

 その瞳に光りが宿り、幻の世界から帰ってきた。

 然れど、僕の存在に〈勇者〉の幻影を被せている。

 演技にも思えない。

 彼女は本心から、僕をカインだと認識している。


 どうしますか、女神様。

 話し合いで解決するのは難しい、というか不可能だと思いますが。

 セラスは魔力を吸収するから《次元歪曲(ディシス)》は使えませんし、全力で走って逃げようかと。


『……』


 返事がない。

 どうしたのかな。

 メノア様、聞いてますか。


『……』


 呼びかけても応答がない。

 おかしいな。

 意識は繋がっているんだけど。

 この間みたいに、また途切れたのかな。

 それか、寝落ち。

 メノア様ならありえる。

 まあ、いいや。

 放っておこう。

 忘れた頃に戻って来るだろう。


「――ですから、カイン。貴方の子種を私に渡して下さい。ええ、別に生殖行為を介する以外でも構いませんよ。その場合は……貴方の身体を解剖する事になりますが」


 セラスが白葬剣(びゃくそうけん)フュレネラを向ける。

 その剣先が僕の下半身に定まっていた。

 怖いよ。

 想像しただけで、いまにも泣きそうだ。


「すまないけど、僕はノワールなんだよ。だから、君の要求は呑めない」


 僕は恐怖に震えながら口を動かした。

 人体を解剖されるのは嫌だ。

 痛そうである。

 女神様に改造はされたけど。


「そっちの事情は全然分かんないんだけどさ……うん、とりあえず頑張ってね!」


 と、僕は拳を握り応援を送る。

 僕以外、他の男性なら喜んで差し出す。

 だけれど、自らが犠牲になるのは御免だ。

 どうにか見逃してもらえないかな。


「まあ! ライリーラの為に、その身を捧げて下さるのですわね! 流石は〈勇者〉カイン様ですわ!」

「駄目だ、この女……話が通じない」


 セラスが目を輝かせる。

 白葬剣(びゃくそうけん)フュレネラを横に振り払った。

 数十の〈葬白蝶(そうしちょう)フュラネル〉が飛び立つ。


「……悪いけど、僕は常に自己の利益しか考えていないんだ」


 だから、と続けて言う。

 暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを肩に担いで。


「人助けなんて無益な慈善活動をする暇があるなら、女神様の下痢の後処理でもしてるよ」

「流石、カイン様ですわ!」


 ――何が?

 話聞いてたのかな。

 言葉を理解していない。

 会話が成立していない。


「メノア様より知能が低いかも……」


 期待はしていなかった。

 結局、こうなるのか。

 改めて、僕は対峙をした。

【次話予告】

ノワールは『竜脈の畔』で、星灯録教会の〈聖女〉セラスと対峙をする。

しかしながら、会話を通じて意思の疎通を図ろうとするも、話がまともに行える相手ではなかった。

そんな不毛なやり取りの中に、星凱帝に関する重要な事柄を耳にする。

管理者の閲覧会(アグレスタ)なる秩序の番人を知ったノワールは、再び大太刀の刃先をセラスに向け死闘を繰り広げたのだった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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