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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
12/32

第1章 第12話 話が通じない異形の聖女

本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。

先日、読者様より本作に対する評価と感想をいただけました。

私の趣味を全開にしている本作を楽しんでもらえたなら光栄です。

改めて、ありがとうございました。

今後とも追って読んでいただけると嬉しいです。

 何でかな。

 どうしてだろう。

 僕は偽名を名乗ったのに。

 素性を知られている。

 何だ、この老人。

 気持ち悪いな。


『お前には敵わんがな』


 そうですか。

 ありがとうございます。

 メノア様に褒められて嬉しいです。


『なら、もっと嬉しそうにしろ』


 してますよ。

 見て下さいよ、この笑顔。


『……気色悪いな。お前の顔を創った奴の気が知れん。センスの欠片も無いな』


 どうしたんですか。

 そんな、いきなり自虐しだして。


「『狂笑会(きょうしょうかい)』の首席、ローズ・ヴァレンタイン様より、ノワール様の事情は伺っております。なんでも、かの阿婆擦れ〈聖女〉殿の餌食となり……齢7歳の身でありながら、その貞操を奪われただけに終わらず、その挙句身包みも剥がされてしまった。そんな状況に陥った絶望感と〈聖女〉殿に犯された羞恥心から、家族に合わせる顔もない故に路頭に迷っているので、身を寄せる場所を与えてほしい、と」


 老人が朗々と語る。

 いや、待て――。

 何だよ、その壮絶なストーリーは。

 僕が知らない設定を勝手に追加しないでもらいたい。

 そんな悲惨な過去は持っていない。


「すまないけど、僕は感覚が鈍いんだよ」

『知ってる。お前こそ自虐して、どうした』


 うるさいよ。

 少し黙ってね。


「だから、いまの状況を把握出来ていないんだけど。そのローズさん……? というのは、どなたなのかな? 差し支えなければ教えてもらえるかい?」


 まあ、何となしに予想は出来るけど。

 ローズという人物が『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の責任者だと考えるのが妥当だろう。


「これは失礼を――」


 そう言い、老人はカクテルグラスを拭いている手を止める。

 綺麗に水滴が取れたそれをカウンター下にしまうと、初めて視線を合わせた。

 右手を胸に添え、僅かに頭を下げる。


「申し遅れました。私は宿屋『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の管理を任されています、ヴェノムと申します」


 老人、ヴェノムが名乗る。

 表情を緩めて言った。


「首席、ローズ様は私の上司であり『狂笑会(きょうしょうかい)』の取締役で御座います」


 ヴェノムの説明に耳を傾けながらも、僕は知識を視る。

 『狂笑会(きょうしょうかい)』は、商人の組合だ。

 人との関係や国同士の間に出来た軋轢により、戦争は起こる。

 一度火蓋が切られ開戦すれば、後戻りは難しい。

 元の生活には帰れない。


 争いは数多の命を奪い、文明を破壊する。

 戦場に生まれるのは、死屍累々の惨状だ。

 然れど、そんな災厄を望み誘発に導き、利益を享受する者がいた。

 互いの陣営に武器を売り、その見返りに金銭を貰い受ける、所謂武器商人と言われる一行だ。


 武器商人は極度な肩入れはしない。

 双方、どちらが勝とうが所属する組織が得をする商談を進める。

 戦争の勝敗は、正直武器商人には重要な結果じゃなかった。

 武器商人が主目的とするのは、そこに発生した金銭。

 その資金を使い、また別の戦争の画策を試みる。


 全部、組織の未来のため。

 人の命など、その信念の前には霞み消える。

 露程も価値は感じなかった。

 それが『狂笑会(きょうしょうかい)』である。


「ローズ様から、ノワール或いはメノアと名乗る、薄気味悪い金髪糸目の少年が訪ねてきたら、もてなすように仰せつかっております」


 ――薄気味悪い。

 誰のことだろう。


『お前だろ』


 ――え。

 僕か。


『私と良い勝負だな』


 僕の負けでいいですよ。

 ヴェノムがバーカウンターを出る。

 案内するように歩き出した。

 その先、バーカンターから右手にあるのは二階に上がる階段だ。

 此処『竜脈(りゅうみゃく)の畔』は一階がバー、二階が客室になっているのだろう。


「さあ、どうぞこちらに。阿婆擦れ〈聖女〉の性欲の捌け口になったのでしたら、さぞお疲れでしょう。今日はゆるりとお休み下さい」

『うむ。この私をもてなさせる幸運を光栄に思うがよい』


 ヴェノムが階段を上がる。

 いや、だから違うだろう。

 何か勘違いされている。


『……まさか、お前にそんな辛い過去があったとはな。澄まし顔をした、クール気取りのミネルヴァも仰天の大ニュースだ』


 無意識か、いやわざとだろう。

 メノア様の哄笑が節々から漏れている。

 分かっていて言っていますよね。


『ああ、なかなかに愉快なストーリーだったな』


 クックック、とメノア様。

 僕は全然、愉快ではないですよ。

 知らない間に性加害の被害者にされている。


『いっそのこと、現実にしてみたらどうだ……? 阿婆擦れ〈聖女〉なら、喜んでお前と交わると思うが』


 仮想の物語のままでいい。

 僕が喜ばない。


『お前から言い出しずらいなら、私の方から阿婆擦れ〈聖女〉にアポを取ってやろう』


 おい、話を進めるな。

 それをしたが最後、二度と口を利きませんからね。


『……餓鬼かよ』


 そうですけど。

 見た目は。


『精神もな』


 そうかもしれないですね。

 お互いに。

 ヴェノムに誤解を解こうと口を開いた、そのときだった。


 ――バーン!

 と、凄い勢いで『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の入口、その扉が開けられる。


『……やば』


 メノア様の小さい呟き。

 その音に僕は、反射的に入口を見てしまった。

 扉は完全に開ききっている。

 丁度、逆光で来店客はシルエットしか見えない。

 誰だろう。

 背丈的に大人だと思うけど――。

 他の宿泊客かな。


『……おい、そんな悠長な考察をしていないで、さっさと窓から逃げろ……それか《次元歪曲(ディシス)》を使え!』


 メノア様が焦っている。

 珍しいな。

 演技にも感じない。


『いいから《次元歪曲(ディシス)》で転移しろ! 犯される前に!』


 はいはい。

 分かりましたよ。

 僕は《次元歪曲(ディシス)》の術式を発動させる。

 転移先は、そうだな――。

 うーん。

 どこにしよう。


『……んなもん、どこでもいい! とりあえず、旧ベルザ教会にでもしておけ!』


 了解です。

 《次元歪曲(ディシス)》で転移する事が可能なのは、実際に訪れた場所、それか知識として想像出来る場所に限られる。

 未知の場所には《次元歪曲(ディシス)》は使えない。

 旧ベルザ教会の座標は知っている。

 僕は《次元歪曲(ディシス)》を使用。


「いやああああああああああぁぁぁぁぁ!!! かわいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!」


 する寸前に、何者かに抱き着かれた。

 凄い力だ。

 強引に剝がせそうもない。

 僕は構わず《次元歪曲(ディシス)》を使おうとするが――。

 何故だろう。

 術式が発動しない。


『……無駄だ。その女は周囲の魔力を吸収する。《次元歪曲(ディシス)》は使えん』


 どこか諦めた様子だった。

 それで《次元歪曲(ディシス)》は発動しなかったのか。

 術式の魔力が吸い取られたらしい。


「なになにもう!!! こーんな美味しそうな子だったなんてぇ!!! んもぉ!!!」


 ウヒヒヒヒヒ、と気色の悪い笑い声。

 前から羽交い絞めのように抱かれた状態の僕は顔を上げる。

 そこには陶然とした表情で見下ろす女性の顔があった。

 潤った紅色の唇の端から液体が出る。

 涎だ。

 それは僕がかけていた眼鏡に垂れ頬を伝った。


「《巨人の撃砕(アルベラ)》」


 嫌悪感から僕は《巨人の撃砕(アルベラ)》を発動。

 魔力を吸収する特性を《理を変転させる(フィルア)幻惑の坩堝(イレラ)》で歪めた。

 今度は術式に問題は起きなかった。

 遠慮は無しに女性の顔面を《巨人の撃砕(アルベラ)》で殴る。


 巨人の如き腕力となった僕の殴打により、首から上が水風船のように弾け飛ぶ。

 赤色の液体が僕にかかりそうになるが、それを《魔力障壁(アマリルカ)》で防いだ。

 頭が消し飛んだ女性は、しかし後ろによろめいたが倒れない。

 《巨人の撃砕(アルベラ)》で殴った頭部が、一瞬で再生した。


 男にも女にも見える。

 そんな、容貌。

 男なら美男、女なら美女だろう。

 異形だった。

 浅葱色の長髪は、毛先が電気配線に変貌。

 背の接続部分に繋がる。

 毛先、接合部は試験管に似た、硬質な水晶の管だ。


 顔貌に最も近しいのは《合成魔獣(キメラ)》だろうか。

 〈鬼人族〉の、ような角。

 〈森霊族(エルフ)〉の、ような耳。

 〈竜人族〉の、ような尾。

 ような、と表現せざるを得ないのは、角、耳、尾、全部が人工的だったから。

 現代の技術ではない。

 使われた素材から見るに、文明水準が違った。


 肌は軟らかだが、しかし。

 やはり、どこか人工的さを感じさせた。

 着用するのは唐紅色の浴衣だ。

 胸元ははだけ、起伏の乏しい乳房が覗いていた。

 浴衣には褄下がない。

 晒された肌は、血の気の通らない。

 足には下駄を装い、分厚い台の底の、鼻緒に下げた鈴が響いた。


「――あはっ」


 その異形の女性は嗤う。

 驚異的な再生能力で頭部を治したそれは――。

 ギョロリ、と僕を見る。

 また、抱き着かれるのを警戒したが違った。

 女性の口元が頬まで裂けたかと思えば、酷薄な笑みで言葉を発した。


「初めまして、ノワールさん。私はメノアの親友、星灯録(せいひろく)教会の〈聖女〉でもあるセラス・ヴォルドリフスですわ……以後お見知りおきを」


 そう締め括り、浴衣の裾を持って優雅にお辞儀をする。

 違和感のない手慣れた所作だった。


『誰が誰の親友だって……?』


 さて、と。

 僕はお暇しようかな。


「《次元歪曲(ディシス)》」

「いやああああああああああぁぁぁぁぁ!!! 行かないでええええええええええぇぇぇぇぇ!!!」

「――ッ」


 瞬間、セラスに再び抱き着かれる。

 避ける間もなかった。

 先程も思ったが、どういう身体能力をしているのか。

 移動が目で追えない。

 あと少しのところで転移が出来ない。


「なんで! なんで!? 一人で行かないでよぉ! 私をひとりぼっちにしないでよぉ!」


 二の腕から先が鱗のようなもので覆われたセラスの両腕。

 それが僕の身体を絞める。

 絶対に離さないとばかりに。

 とりあえず――。


「《巨人の撃砕(アルベラ)》」


 再度、僕は《巨人の撃砕(アルベラ)》で顔を殴る。

 さっきと同じように顔を飛ばすつもりだったのだが――。


「私ね! 私ね! 貴方の事がすっごーい好きなの! もう、大好き! 超愛してる!」


 竜の鉤爪をしたセラスの右掌に《巨人の撃砕(アルベラ)》が受け止められた。

 そのままセラスは指を絡ませてきた。


「だからね! だからね! 私たちは結婚する運命にあると思うの! ね!? そう思うでしょ!? 思うよね!」


 セラスの深紅色の瞳は、確かに僕を見ている。

 そこに映る感情は、恋人に向けるような愛情ではない。

 狂気的な執着心だった。


「私ね! 私ね! 貴方の事を一目見たときからずっと、貴方と結婚して子供を作りたいな、って思っていたの! 貴方もそうだよね!?」


 狂った色の瞳。

 まともに目を合わせると、抜け出せないような。

 まるで話が通じそうにない。

 どういう理屈で行動しているのだろう。


『ちなみに……いまの『貴方の事を一目見たときから』云々は、これまでセラスが関係を持った男、全員に同じ台詞を言っている』


 愛の欠片も無いな。

 使いまわしなのかよ。


『この阿婆擦れの行動原理は単純にして明解……』


 ――ほう。

 つまり?


()りたいか、どうかだ』


 嫌過ぎる。

 分かりやすいのが、また不愉快だ。


『結婚、おめでとう。後日、祝儀を送ってやるよ』


 僕とは対照的に、メノア様は愉快そうである。

 他人事のように笑っている。

 良いんですか?

 セラスと結婚しても。

 その場合は僕の創造主であるメノア様も、セラスの家族になりますが。


『……おい。さっさと、その阿婆擦れを処刑しろ』


 メノア様は意見が打って変わる。

 地声が低声なのも相まって、底冷えする声音だった。

 セラスと家族になった光景を想像しただけでも、余程嫌だったのだろう。


「分かりましたよ、お母さん」

『殺すぞ、糞餓鬼』


 あはは、と僕は笑う。

 いやはや――。

 冗談抜きで、女神様は大分不機嫌である。

 これは、セラスを殺さなければ直りそうにない。

 人殺しは気が進まないけど、仕方ないよね。

【次話予告】

ノワールは神都アリオンで『竜脈の畔』という宿屋を訪ねた。

そこは訳ありの宿屋であり、バーテンダーの老人ヴェノムは、ノワールの素性を知っているようで、どうやら首席、ローズの命令によりノワールを『竜脈の畔』に宿泊させるように指示を受けていたらしい。

そんなときに突如『竜脈の畔』に入ってきたのは、ノワールが出会わないよう願っていた人物、星灯録教会の〈聖女〉セラスだった。

話が通じないセラスに、武力での解決を試みようとノワールは考えた。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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