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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
11/32

第1章 第11話 竜が休まる宿

本作『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』を、お読みいただきありがとうございます。

読者の皆様にお知らせです。

こちらの都合で作品名のサブタイトルを消して『拝啓、異世界に転生したら邪神になりました』に変更しました。

理由としましては、似たような内容があらすじに記載されているので、わざわざ長いタイトルにする必要もないかな、と考えたからです。

本編に変更はありませんのでご安心下さい。

それと私生活が今週から、少しばかり多忙になる可能性があり、もしかしたら先週までのように毎日投稿は出来ず、不定期となるかもしれませんが、ご了承下さい。

 何かやりたい事があるわけではない。

 異世界に転生したが、特に目的は思い付かなかった。

 この先、どうしようか。

 いや、そもそも女神様の都合で転生をさせられたわけである。

 別に此方が無理に合わせる必要も義理もないだろう。


『物忘れの激しい、愚鈍糞爺に教えてやろう。義理云々を言う以前の問題で、お前の生命活動を担っているのは、他でもない創造主の私だ。()ろうと思えば、お前の魂をいつでも滅ぼせる』


 ――分かったか?

 と、メノア様が学習能力のない生徒に言うように教える。

 無駄に優しい声音なのが薄気味悪い。


「なら……せめて何か目的を示して下さいよ。女神様のお導き的な、あれを」


 それ位はしてほしい。

 〈邪神族〉に転生させるだけさせて、あとは放任とか慈悲の欠片もない。


『……ほう? めでたい奴だな、お前は。そんな親切心を私に期待しているとは』


 ガタガタ、と物音。

 メノア様が異界で物を動かしている。


『慈愛に満ちた愛情で慰めてほしければ、阿婆擦れ〈聖女〉にでも会いに行け。きっと、お導きを頂けるだろうよ』

「それ、卑猥に満ちた性愛では? 悪質な未来に導かれる予感しかしませんよ」


 絶対に御免である。

 会ったこともない〈聖女〉だが、メノア様から話を聞いているうちに、嫌な印象だけが積み重なる。

 できれば、関わり合いにならないよう、祈るばかり。


『安心しろ。阿婆擦れ〈聖女〉は、年がら年中盛った犬だ。あの女の敏感な嗅覚なら、お前のような最高級の童子を見つけるのは、時間の問題だろうな』


 いまの話のどこに、安心する要素があるのやら。

 〈聖女〉とやらは、どれだけ節操のない人物なのか。

 いや、知りたいとは思わないが。

 というか――。


「やっぱり、それを見越して容姿と年齢を設定しましたね、糞女神」

『だから、偶然だと言っているだろうが……ん? いま、最後なんて言った……?』


 嘘つけ。

 〈聖女〉の性質を知った上での意図的な設定だろう。

 憂鬱な気分になりながらも、僕は繁華街を散策する。

 時刻は昼下がり。

 急ぎで探す必要もないだろうが、とりあえず今晩泊まる場所を確保したい。

 神都アリオンほどの大都市ならば、それなりに宿屋の数がある筈。

 どこかしらは、空いていると思いたい。


『――やれやれ。これだけ、私が偶然だと言っているのに、まるで信じないとは。人の主張は素直に聞き入れろ、糞爺』


 わざとらしいメノア様の溜め息が聞こえた。

 それを言い張っている本人は、人ではないので。

 女神の発言は信用するに値しない。

 傾聴するだけ時間の無駄だ。

 特にメノア様の話は半分以上を適当に横に流す位が丁度良い。


『悲ひいほのだな。人に信用はれないとひうのは』


 ――ボリボリ。

 と、メノア様がお菓子を摘まむ。

 それを聞き流すと、僕は大通りに面した脇道の前で足を止めた。

 脇道の先に竜の瞳のような、木彫りの看板が見える。


『あれは安宿だな……どうする? あそこに泊まるのか、無一文爺』


 どうやら、思ったより早い段階で宿が見つかった。

 あとは空き室の有無なのだが――。


『それより、金だよかーね。お前、一銭も持ってないだろうが』


 どうするつもりだ、と聞いてきたメノア様だが、それは心配いらない。

 僕にも考えがある。


『ほう? 〈聖女〉に股開いて、その代わりに金を融通してもらう、と。なるほどな、良い考えだ』


 メノア様が鷹揚に首肯する。

 さりげない口調で、とんでもない提案をしないでもらいたい。


『なら、私にするか?』

「絶対に嫌だ」


 僕は即座に拒否。

 それなら人体実験で失敗して、意思を失った化物になる方がマシである。


『そんなに喜ぶなよ』

「どこがだ」


 クックック、とメノア様が嗤う。

 本気ではないのでは確かだが、それでも気持ち悪い。

 想像しただけで吐き気がする。


『嬉しいよ。お前を不快にさせられて』


 それがメノア様の真意だろう。

 結局、この女神は色々と思惑を並び立ててはいるが。

 その根幹にあるのは、僕を精神的に害すること。


「なんか、興奮する」

『するなよ、気持ち悪い』

「冗談ですよ」


 するわけない。

 女神に揶揄われて快感を覚えるような、そんな特殊過ぎる性癖は持ち合わせていない。

 僕は人の気持ちを考えられない無神経な男だが、そんな変態な思考はしていない。


『空気の読めない異常者だという自覚はあるようでなによりだ』


 それは心外だ。

 僕より周りの人を気遣える者は、なかなかいないだろう。


『一瞬で発言が矛盾したな。数瞬前と言っていることが真逆だ』


 そうだったかな。

 あんまり覚えてないや。


『……お前、やっぱり何も考えてないだろ』

「能無しみたいに言わないで下さいよ」


 僕は乾いた笑みを見せ、脇道に入っていった。


 その脇道に人の姿はない。

 等間隔に設置された微々たる数の街灯が、薄暗い道に明かりを灯す。

 意外にも綺麗に舗装された静謐な道だった。

 鼠色の石畳が敷き詰められている。

 目に見える塵は落ちていない。


『私の目に映る塵は、お前位だよ』

「メノア様も同類ですよ」

『じゃあ、仲間だな』


 ええ、そうですね。

 嬉しいです。

 奥に進むと、木製の突出し看板が見えた。

 それには竜の瞳と寝台が彫り込まれ、防虫剤の匂いが染みついた木造の扉には『OPEN』のプレート。


「安宿かな」

『お前にお似合いのランクのな』


 そうだとありがたい。

 扉を開ければ、アンティークな鉄製のドアベルが鳴った。

 ――『竜脈(りゅうみゃく)の畔』。

 と、そう瞳の下部に同じように文字が彫られていた。


『……ああ、そうだったそうだった。すっかり忘れていたよ』


 メノア様の大仰な前置き。

 続けて言った。


『この『竜脈(りゅうみゃく)の畔』は、世界中に支部を構える大規模な裏ギルド、その総本部に繋がる宿だ』


 そういう情報は、店内に入る前に言ってほしかった。

 入店を知らせる音は、既に鳴った後。

 いまから無言で扉を閉めるのも怪しまれる。


『だから、忘れていたんだよ』


 悪かったな、と微塵も気持ちが籠っていない謝罪をする。

 メノア様は『竜脈(りゅうみゃく)の畔』を簡単に紹介した。


『普段は何の変哲もない小綺麗な宿屋だが、それは表の顔だ。その実、裏ギルドの橋渡し役を担っている』


 ――裏ギルド。

 レネイストには、様々な依頼を遂行する冒険者と呼称される職業があるのだが、そういった冒険者が所属する組合は通常のギルド。

 それとは違い、あまり表沙汰には出来ないような依頼を扱うのが、裏世界のギルド。

 通称、裏ギルドだった。


『……まあ、普段は唯の宿屋でしかない。普通に宿泊客として利用する分には、何の問題もないだろ』


 メノア様が言外に問題行動は起こすなと忠告をする。

 そんなこと分かっていますよ。

 一般の客を演じれば良いんですよね。

 簡単です。


『真昼間に、餓鬼が宿屋に泊まりに来る時点で、既に怪しさしかないがな……どう対応するのか、お前の口上を見せてもらおうか』


 そう言うメノア様に期待の色はなかった。

 半ば無理だと思っている。

 やれやれ、舐められたものである。

 これでも口には自信がある。

 嘘八百を並び立て、相手を言い包めるのは得意だ。


『だろうな、詐欺師』


 何か聞こえたが、知らない。

 僕は扉を閉め『竜脈(りゅうみゃく)の畔』に、宿泊客として入った。


 まだ、昼間だからだろう。

 御客は、一人もいない。

竜脈(りゅうみゃく)の畔』は、シックな色合いに統一されたバーのような宿屋だった。

 入店してまず目に入ったのは、入口から正面にある曲線のバーカウンター。


 その光沢のあるバーカウンターに立ち、カクテルグラスを黙々と拭き取るのは初老の男である。

 穏健そうな雰囲気のある、年相応に皺が刻まれた白髪の平凡な老人だ。

 異国の代物なのだろう。

 スーツらしき衣類の上に来ている紺色の羽織は、不思議な刺繍がされていた。

 どこの街にもいるような、物静かな老人にしか見えない。

 この人が『竜脈(りゅうみゃく)の畔』の責任者、店主なのかな。


『子飼いの窓口だろ。この店の店主は別にいる』


 と、メノア様。

 ――だろうね。

 僕も同意見だ。

 たとえ、表の顔が宿屋だとしても裏がある以上、何かしら対策はしている。

 この『竜脈(りゅうみゃく)の畔』が、裏ギルドの入口なら、この老人の役割は来店客の選別だろう。

 それが通常の宿泊客だったら泊まらせればいい。

 もしかしたら、何か合言葉のような隠語があるのかもしれないが――。


 生憎、それは知らない。

 裏ギルドに用もない。

 なので、僕は宿泊客に分類される。


『迷惑客、の間違いだろ』


 どうかな。

 まだ、店側に対して迷惑な行動は取ってないけど。


『……まだ、ね』


 やめて下さい。

 未来を予測するのは。


 足を前に動かすと、木造の床板が僅かに軋む。

 バーカウンターに向いながら、ざっと店内を見渡す。

 余分な家具が排除された空間だ。

 バーカウンター以外、全て片付けられている。

 机や椅子もない。

 あるのは壁際に立てかけられた箒、錆び付いた剣や盾。

 そういった要素も加味されてか、思ったより広々とした店内に思えた。


 あれは鉱石の類だろうか。

 所謂、魔力が含まれた鉱石、魔鉱石。

 それが角灯(ランタン)の代わりとなっており、藍色の微光を天井から放っている。

 老人が立つバーカウンターだけが明るかった。

 一瞬、入店をした僕に目をやるが言葉は発さない。

 いらっしゃいませ、その一言もなかった。


『女神であるこの私が来てやったというのに、なんだその失礼な態度は……』


 いや、メノア様の存在は見えてないですよ。

 至って普通の反応です。


『まあ、私の実物を拝めるのは選ばれた者だけだからな』


 メノア様は傲岸な態度で告げる。

 選ばれる価値はないし、仮に選ばれても利益が得られない。


『なんだと、おま――』


 僕は意識を切る。

 無作法なバーテンダーの態度に、だが僕は明るい笑みを返した。


「やあ、こんにちは。僕はメノア、この宿に泊まらせてほしいんだけど……いいかな」


 僕はバーカウンターの客席につき話しかける。

 注文はしない。

 目的は飲酒ではない。

 宿泊だ。


『おい……私の名前を偽名のように使うな』


 大丈夫ですよ。

 ぎりぎり男子の名前でも通用します。


『そういう意味で言ったんじゃない』


 他に何か問題でも?

 本名、ノワールを名乗るわけのもいかないでしょう。


『いや、それで良いだろ』


 悪いですよ。

 初対面の人間に本名は明かしたいとは思えません。


『私なら良いと?』


 ――ええ。

 勿論です。

 第二候補にベルザがありましたが。

 僕の判断により、メノアにしました。

 流石に女神ベルザを崇めているヴァミリド神教国で、ベルザを偽名に使うのは危険なので。

 最悪、星灯録(せいひろく)教会に連行されかねない。

 神都アリオンに到着して早々、手錠をかけられる羽目になる。


『その前に私が、お前の魂をあの世に連行してやろう』


 ――コンコン。

 と、音がする。

 異界にいるメノア様が、指先で机でも叩いているのだろう。

 僅かな苛立ちが感じられた。


「申し訳ありませんが、当店は会員制でして……首席の招待が無いと宿泊出来ないのです。大変、心苦しいのですが……」


 老人は表情を変えずに事務的な口調で告げる。

 目線はカクテルグラスを拭いている手に向けられたままだった。

 店から出ることを促される。


 ――首席。

 お偉いさんかな。

 『竜脈(りゅうみゃく)の畔』のオーナーかもしれない。

 つまり、その人の招待客以外の宿泊は認められない。

 金銭の有無は関係なかった。


『お前には何か、常人には考え付かないような奇策があるんじゃなかったのか? ん?』


 結局、僕が無策だったと思ったのだろう。

 メノア様が挑発するように聞いてきた。

 それを聞こえないふり。

 僕は言った。


「分かったよ……なら、仕方ないね。他の宿を探すとするよ」


 席を立ち、その場を後にする。

 しかし店の入り口に向かおうとしたときだった。


「……いいえ、その必要はありませんよ。ノワール様のお部屋は、既にご用意しておりますので」


 僕は表情を変えなかった。

 笑みを張り付けたまま、老人の方を振り向いた。

 老人の態度に変化はない。

 作業のように仕事をこなしていた。

【次話予告】

ノワールは星凱帝(せいがいてい)と神痕術にまつわる話を聞いた後、神都アリオンでの初めての夜を過ごす為、どこかに空いている宿屋が無いか探していた。

脇道で見つけたのは竜の瞳が目印の宿屋『竜脈(りゅうみゃく)の畔』であり、そこは裏ギルドの橋渡し役でもある訳ありの宿屋だった。

偽名を名乗り入店をしたノワールだったが、その宿屋のバーテンダーの老人は、どうやらこちらの素性を知っているようで——。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

良ければ評価を貰えると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気見しました。頭おかしいキャラ好きなので良いですね
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